組み合わせたスピーカー
        

        Vienna Acoustics T3G
        
         +
 + 
        CARAT C57          
        + A57
         
        
        MARI 中本マリ TBM-XR-3005 (XRCD)
        録音の良さで定評のある[XRCD]から日本の女性ジャズボーカル“中本マリ” [MARI]を聞く。リマスタリングは、1996年で少し古いが念入りなリマスタリングで、CDとして音質はベストの部類に入る。
        同じフランスのスピーカー「focal」に通じる、厚みとニュアンスがあって女性らしい色気を感じる音質。中域のニュアンスが濃く、やや痩せぎす系の声で乾いた感じの中本マリのボーカルに潤いが出た。厚みのある生々しい声だ。
        中域に少し曇りを感じるが、高域はきらりとした輝きがある。スネアドラムのパワー感、皮をはじく音、シンバルのシンシン音も耳に心地よく響く。ギターの音色は、少しくすんだ感じに聞こえるが、          
        響きがリッチで耳当たりが心地よい。サックスの音はやや軽い。
        少しボリュームを上げると中域の切れ味と透明感が増し、音抜けが良くなる。
        ボーカルと伴奏の空間的な位置関係は良好。不思議な独特のバランスをもっているが、音楽のニュアンスや感情をとても濃厚かつ繊細に再現する。
        矛盾するはずの、唇の動きが読めるようにクッキリしているところと、音のないため息のような音にならないニュアンスの曖昧さが上手く両立する。時には、切れ味良く、時にはそれを裏切って柔らかく、堅くもあり柔らかくもある。ベースの厚みやドラムのパンチも申し分はない。
        音楽がストーリーを帯びた映像として展開する様は、focalとまったく同じ。それがフランスで生まれる音なのだろう。
        高価な製品と比べると音の密度がやや薄く、中身が詰まっていない感じがする。それだけが唯一、価格を感じる部分で仕上がりは素晴らしいと思う。
        
        ELGER          
        VIOLIN CONCERTO / HILARY HAHN , LONDON SYMPHONY ORCHESTRA 
         
        00289          
        474 8732 (CD/SACD)
         
        CD/SACDコンパチディスクでクラシックを聞く。リリースは2004年でレーベルもグラムフォンなので平均的な最新録音のクラシックと考えて良いだろう。
        全体の音色がセピアにややくすんだ感じはあるが、それが何ともいえない柔らかさになる。
        弦の刺激的な音は消えるが、金管の音は切れ味良く抜けてくる。
        同価格のUnison          
        ResearchのUNICO CDP UNICO Pの組合せと比べると、繊細さではCARATが勝るが、中音〜低音への厚みと力感ではUNICOが勝るだろう。
         
        ジャズと同じに音楽にストーリー性が出て、演奏がスペクタクルに展開するのが見事だ。エルガーが映画音楽に聞こえる。映像が見ているような感覚。フランスの作曲家、ラベルやドビュッシーに通じる感覚だろうか?
        チェロの音色は、厚み・質感・音色のすべてが素晴らしいが、高級機と比べるとやはりやや希薄な感じで音が軽い。バイオリンも音色は素晴らしいが、チェロ同様やや希薄な感じがする。音の向こう側が透けて見えるようなイメージ。とはいえ繰り返しになるが、その音楽的な構成や音色の表現は見事だ。
        空間は大きく広がる。しかし、コンサートマスターの音はやや散漫でもう少しコンパクトにまとまって欲しいと感じる。音量を少し上げると音色の鮮やかさが増し、音抜けが改善するのはジャズと同じだ。
        音量を上げるとコンサートマスターの定位が改善するが、伴奏のスケールはもう少し欲しい。
        クラシックを聞くには、説得力のある音だ。これで音の厚み・複雑さ・濃さがもうちょっと加われば、完全に文句はない。
        
        BEST          
        FICTION / 安室奈美恵 / AVCD-23650/B
        リリースは2008年。最新録音のJ-POP
        空気感はあり、空間は大きく広がるが密度が薄い。打ち込みのサウンドの密度や重量感が不足する。音が軽いので演奏全体がやや軽薄に感じる。          
        音のエッジの切れ込みはあるが、そこからさらに切れ込んでこない。安室も口だけで歌っている感じ。          
        声もやや曇って聞こえる。
        アコースティックな音楽やアコースティック楽器のニュアンスの再現性は抜群だが、電子楽器のエネルギー感が物足りない印象がある。
        とはいえジャズとクラシック同様、その説得力やニュアンスの再現性は抜群で楽しい音という印象に変わりはない。これでもうほんの少し重量感が出れば抜群なのにそれが口惜しい。
        中低音の密度感や厚みの不足は、サブウーファーを使うか?インシュレーターやボードを使うか?
        電源ケーブルを変えるか?          
        使いこなしの技や腕の見せ所になる。
        総合結果
        音が軽いので、打ち込みが中心に構成されるROCKやフュージョンにはあまり向かない。どちらかといえば、アコースティック楽器中心のライトな大人の音楽に向く。音の広がりはよい。          
        引き語りのような、構成の少ない音楽には抜群だろう。          
        声の滑らかさとニュアンスの豊富さは素晴らしい。
        もう少し重量感や腹に響くパンチ力が欲しくなるが、価格を考えれば十分に納得できる。
        五つ星のフレンチ・レストランの良くできた、そしてややさっぱりとしたランチという感じ。中本マリとヒラリー・ハーンは、ニュアンスの再現が非常に優れ、音楽として聞き応えがあって大変良かった。
        
        
        CARAT I57          
        (CD内蔵・レシーバー)
        MARI 中本マリ
        C57          
        + A57 とほとんど変わらない音色だが、低音はさらに少し軽い。
        声のニュアンスは豊富で色っぽい。ギターの音色も色彩が感じられて心地よい。C57+A57とすり替えられたら、まず気がつかないほどの僅かな差しか感じられない。形式が違うにもかかわらず、この音色の統一感は驚くほどだ。
        前後方向への奥行きがやや浅い感じがするが、気のせいかも知れない。
        価格差を考えると、特にCDとアンプを分けて使う必要がなければ、レシーバで十分だと思う。
        ELGER          
        VIOLIN CONCERTO / HILARY HAHN
         
        弦の分離がやや甘く、渾然となった感じがするが、ホールトーンや音の広がりはきちんと再現されるので音楽を聴いているかぎり全く問題はなく、とても心地よい感じがする。
        細かい音は出るのだが、音のエッジが柔らかくアタックが弱い。そのために分離感が乏しく、楽音がやや渾然となる感じがする。
        楽器の音色の変化はカラフルでドラマティックだ。低音はやや控えめ。T3Gが一回り小振りになった感じがする。しかし、もともとT3Gはやや低音過多なので相性としては悪くはない。
        弦のもつ愁いを帯びた音、アンニュイな感じが良く出る。翳りの表現に深さがある。このあたりの表現の味わいは、focalやHILAND-AUDIOなど、他のフランス製品と似ている。
        BEST          
        FICTION / 安室奈美恵
        重低音の部分まで再現されるが、押し出し感や固まり感が弱く、音がふわっと広がって行く感じ。空気感はあるが、腹を響かすパンチ力はない。ベースの圧力もやや弱い。
        しかし、ボーカルの表現力やハーモニーの織りなす複雑な感じは良く出る。          
        微妙なニュアンスの表現は、抜群に細やかだ。
        総合結果
        レシーバーの音は、CD+AMPとほとんど変わらない。内容は違うのに音を同じにできる技術は素晴らしい。          
        全般的に、細やかで繊細なニュアンスは良くでる。
        明るく楽しい音だが、対照的に翳りの表現も深い。          
        ただ、低音の圧力が弱いのと、それが原因になるのか?空気の密度が薄い感じがする
        。          
        聞き疲れはしないし、聞き飽きることもない。いい音だけれど、これが最高ではない。          
        ある種のテーマをもって、正確にまとめ上げられた音という印象だ。
        
         +
 + 
        
        Marantz CD5003          
        + PM5003
         
        
        MARI 中本マリ
        音色は良い。ボーカルと伴奏の分離感もなかなかよい。          
        色合いはほんの少しくすんでいるが、十分にカラフルだ。低音は軽く、ベースやドラムのパンチは弱いが、価格を考えれば納得すべきだろう。
        それでも音楽としてのまとまりは決して悪くなく、耳の肥えた私でも十分に楽しめる音だ。
        CARAT同様に希薄さ、軽さ、細かい音の弱さを否めないのは、やはり価格の限界なのだろうが、安物の音というイメージは、それほどしない。
        雰囲気も贅沢を言うなら深みが足りない。          
        ビブラホンも音色は美しいが、金属を叩いている「堅さ」や「重さ」が十分に再現されない。いつもいい音を聞いていると、ついついそういう部分に不満が出る。
        
        ELGER          
        VIOLIN CONCERTO / HILARY HAHN 
         
        交響曲の全体像の再現としては決して悪くはないが、分解能が足りないために音にベールがかかったように聞こえてしまう。          
        そのベールも薄いものではなく、やや厚めの毛布越しにコンサートを聴いているような感じがする。
        とはいえやはりそのバランス感覚は素晴らしく、音に変な癖がないのがありがたい。なぜなら、この音では演奏の深みこそ再現されないが、聞こえる音からそれがどんな演奏であったかは、容易に想像ができるからだ。おいしいといえるほどの音は出ないが、演奏の美味しさは十分に理解できる。
        こういうコストダウンの方向は、大歓迎だ。
        できるなら、このベールだけを外す方向で高級機を作ってもらいたい。
        音質の評価は辛口に聞こえるかも知れないが、それは絶対的な音質としてこのセットを評価しているからであって、価格を考慮すると望外の出来だと言って良い。          
        少なくとも、十分鑑賞に堪える「大人の音」が聞ける。
        高いコンポがばかばかしいと感じたら、このセットを一度聞くと良い。          
        今の高級オーディオ製品に足りないものが見えてくるかも知れないから。
        
        BEST          
        FICTION / 安室奈美恵
        低音の軽さと音のエッジの丸さは、仕方がないが、押し出し感には驚かされた。CARATよりも音が前に出てきて、このソフトが心地よく聞けたからだ。ちょっと全体を虫眼鏡で大きくしたような感覚があるが、この鳴り方は悪くない。
        アコースティックな音楽では、コストの限界によるチープさを露呈したが、J-POPとの相性は良い。          
        というよりも、最新のJ-POPがこのクラスのオーディオに合わせた音作りがされているからなのだろう。このソフトとの相性は抜群だ。
        声は明るくチャーミングでぐんぐん前に出てくる。ベースは中音にパンチがあってリズム感が出る。          
        ハーモニーも裏側の音がきちんと感じられ、ハーモニーの厚みが出る。
        総合結果
        このセットの音は、耳に心地よいが、肌に音楽を触れさせるほどではない。          
        しかし音色の自然さは格別だ。オーディオに関しては「国産品」という言葉を私は決してほめ言葉として使わないが、この価格でこれだけの音を出すことができるのは、「国産品」にしかなし得ないこともまた事実である。
        やはり物量を投入できないコストの限界か、ある程度以上の大きな音は聞こえるが、弱音がそれに隠れて消えてしまうのが残念だ。音楽を聴くには悪くないが、音の質が物足りない。          
        しかし、その価格を考えればこの音の良さは、驚くべきものだ。          
        このセットで音楽を聴けば、またさらに深みのあるオーディオに興味を持つだろう。良くできた音だ。
        例えば、最良・最高のコンポーネントというものはフォルテの陰に隠れたピアニッシモも再現する。          
        このセットと高級機の価格の差はそこにある。Marantzの製品をチューンナップして生み出しているAIRBOW製品との違いもそこにある。パーツをおごり、微少信号の分解能を向上させ、瞬時電源供給能力を改善し、フォルテのパワー感を増す。          
        結果として、弱音と強い音が同時に入っても、どちらも揺らぐことなく再現できるようになる。          
        そうすると大きな音の陰に隠された小さな音が聞こえたり、感じ取れるようになる。          
        それがさらに進むと、聞こえない音まで肌で感じ取れるようになる。空気感や、その場の雰囲気、気配といったものまで再現され、生々しさを全身で感じられるようになる。さらに高級機になると音が皮膚に遮られることなく、心に直接飛び込んでくるようになる。演奏者の心が直接リスナーの心に触れるのだ。
        大きなうねりの中の小さな波、まだそれよりも小さなさざ波、もっと小さくなって水の一分子の動きまで再現できれば・・・。そういうようにオーディオを考えて作ってはいないけれど、結果としてそういう方向に向かってゆくのは、そこがゴールだからだろう。それが完璧なオーディオなのだろう。
        多くのメーカーが誤解していると思うのは、聞こえる音ばかりに注目することだ。          
        聞こえないような微少な音をカットすれば、聞こえるぎりぎりの音は聞こえるようになる。ノイズの埋もれた音が浮かび上がるように。          
        しかし、彼らがノイズだと思って消し去った音が、実は音楽の深みを表現する最も大切な隠された音=隠し味だったりする。          
        砂糖だけの甘みは、飽きてしまう。そこに塩やミネラルが入って、初めて複雑な味になる。          
        塩はともかく、味にならないミネラルを取り去ってしまうのは良くない。データーにかからない音、耳には聞こえない音。          
        そういう音の中の「ミネラル分」をどれだけ再現できるか?そこがオーディオのセットアップにおいて最も重要な部分なのだ。          
        音楽にとって音は媒介にしかすぎない。小説の文字のようなものだとも言えるが、小説の文字よりも音は遥かに大切だ。
        はなしをCD5003+PM5003に戻すが,このセットには音質改善のために「ダイレクトスイッチ」が装備されている。それをONにすると音の切れ味が向上するが、音の端々にコストの限界がより明確に感じられるようになる。音の分離が改善して、各々の音がハッキリすると悪い部分が余計に露呈するからだ。それよりも音質を若干落として、全部が混ざった状態で音を聞く方が、音楽的にはまとまりが出るようだ。
        もちろん「どちらがベスト」というものではないから、ソフトの状態や曲に合わせて、切り替えて使うのがよい。元々プリメインアンプとは、トーンコントロールを含めそういう「積極的に音を作る」使い方がふさわしい。足りない音があるからこそ、調整が必要になるのだ。特にこのクラスでは、調整機構は必須項目だ。
        アンプによる音の調整を否定するのは、ミキシングによる音作りを否定することにも繋がる。原音を破壊するのではなく、それにより近づくためのコントロールは積極的に行ってかまわないと私は考える。トーンコントロールを使うと、位相が回転するとか、音が濁るとか、そういう雑誌に書いているような「オーディオ的思想」に汚染されない心で音楽を聴いて欲しい。
        アコースティック楽器から音が出るのは、必ず物理法則に従う。そのために音には、発生の順序がある。その順序が「正しく耳に届く」のが重要なのだ。その順序とタイミングをずらしてはならない。それが何より重要だ。          
        位相というのは、その一部の概念にすぎない。位相を精密に揃えても、楽器の音が正確に聞こえるとは限らない。多くの高級コンポ、特にデジタルに頼りすぎる製品は、耳が感じる「位相=耳に届く音の順序」と測定できる「位相」が必ずしも一致していないことが、わかっていないように思える。だから、音が冷たかったり、広がりがなかったり、機械的・電気的な音になってしまいがちなのだ。
        この安いコンポーネントは、その問題をクリアしている。だから、音楽が歪まずに楽しく聞ける。          
        オーディオ専門メーカーの名に恥じない、入門コンポだ。仕上げの良さも素晴らしく、だいたい2倍くらいの価格に感じられるのもうれしい。
        私が唯一うれしくないのは、その価値がわからないカメラ店などの家電量販店で、価格だけで売られることだ。          
        良いものが安く出回るのはよいことだが、その「良さ」を一緒に伝える努力(もののわかった販売員)がなければ、お客様に「良いものだということ」が伝わらないからだ。さらに高いものに買い換えて、お客様をがっかりさせないためにそれは、なによりも重要なことなのだ。