プリアンプのP2A/P4Aの外観は同じ。なぜこんなことから書き始めたかというと、H2AにP2Aを繋ぐところを誤ってP4Aを繋いで聞き始めてしまったからだ。
P4AとH2Aの組合せ
いつも通り、価格表を見る前にJAZZから聞いてみる。組み合わせたスピーカーは、VIENNA
ACOUSTICSのT3G。第一印象「低域が甘い」。T3Gは、元々低域の引き締まったスピーカーではなく、どちらかというと低域がやや甘い。セパレートアンプなら、この低域を何とかして欲しいと期待するのだが・・・。とりあえず「がまん」しながら、CD一枚を聴き終える。ディスクを換えて2枚目。さすがにスピーカーの前でずっと音だけを聴いていられるほど、時間の余裕はないので仕事をしながら聞き続けることにする。
2時間ほど経過した頃だろうか?気付かない間に、気持ちいい音に変わっている。気になっていた低域の甘さも感じられない。静かな山間をゆったりと流れる清流のような音。きめ細やかで、滑らか。艶のある透明感。色彩感覚が少し薄めだが、それは繋いでいるAIRBOW
DV15BLACK/SPECIALの影響もあるはずだ。期待以上のナチュラルで滑らかな音。この音なら、同じ価格帯の国産製品と比較しても十分なアドバンテージが期待できる。
P2AとH2Aの組合せ
ここで、プリアンプをP2Aに変える。その時にプリアンプの価格を調べてみると、P4Aが50万円でP2Aが30万円。20万円分のグレードダウンになる。ウォームアップなしでP2Aから音を出す。「えっ!」と思うほどP4Aとの差を感じない。外観が同じだからP4Aと間違えていないか?もう一度確認する。間違いなくP2Aが繋がっている。耳を凝らして聴いてみると、確かにP4Aよりもやや情報量が希薄(音が少ない)だ。しかし、音作りが巧みなためかありがたいことに音質のグレードダウンがそのまま音楽のグレードダウンにはなっていないのはさすがと褒めるべきだろう。
P4Aで聴くJAZZと同じように、ややクールでウェットなサウンド。チェリビダッケが振るブルックナーが似合いそうなサウンドだ。ディスクをヒラリー・ハーンの「J.S.BACH バイオリン協奏曲」に変える。木陰を抜ける一陣の涼風のような爽やかなサウンド。楽器の音を派手なコントラスト感で演出するのではなく、上質な薄絹のように自然な風合いで柔らかくきめ細やかに再現する。低音もオーケストラの量感を再現するには十分だ。
生産地が比較的近いためか?T3Gと音の傾向は、とてもマッチしているように感じられる。北欧系のJAZZやPOPSを聴いたことがあるなら、その録音を思い起こせばHEGELの音の方向は理解できるだろう。清々しく瑞々しい音だ。澄み切った空気の中に佇む針葉樹林を思わせるような、深く静かなサウンド。ウィーンという言葉から連想される「水気のある透明感」、「静けさ」を強く感じさせるサウンドは、「明るく艶やか」で「躍動感」の固まりのようなAMPZILLAとは好対照だ。
再びP4AとH2Aの組合せ
P2AとP4Aの音質確認のため、もう一度プリアンプをP4Aに換えてみる。
印象はまったく変わらないが、きめ細やかさと艶やかさが向上する。各楽器の分離感も若干上がっている。確実に音は良くなっている。じっくり聞き続けているとじわじわと違いが伝わってくる。元に戻すのは躊躇われるほどの差は、十分に感じられるが、その差を理解できるのはかなりの「音楽好き」に限られるだろう。だから、P2AとP4Aの差は、音質を向上させるというよりも、高い機種を使っている安心感のウェイトの方が高いと言うべきだ。それぞれの音をデジカメにたとえるならP2Aが100-150万画素ならP4Aは、200万画素に相当する。価格や製品のグレードから想像するよりも、差はやはり小さい。電源ケーブルの交換でもこれ以上の音質差が出ることがあるだろう。プレゼントとして受け取るならP4A、自分で買うならP2Aを選びたい。
機械的なことでアンプを判断したくないから、普段は絶対にやらないのだが、あまりにも音が似ているし、外観からは差異が一切分からないので、本当に違いがあるのかどうか?確認のため中を開けてみた。驚いたことに、電源回路や増幅回路はまったく同じ。上級機では、増幅回路のICに高級なモデルが使われているようだが(P2Aでは、オペアンプの種類は読み取れたが、P4Aでは文字は削り取られていた)確認はできない。説明書通り、P2AとP4Aの機械的な違いはほんの僅かのようだ。
P2Aに搭載されているオペアンプは、高級オーディオ機器によく使われている「バーブラウン」だ。形式の公表は避けるが、「バーブラウン」の特徴をよくご存じの方なら、HEGELのプリアンプの音もおおよそ想像できるのではないだろうか?
オペアンプが使われていると聞いて、顔をしかめるオーディオファンの為にひと言付け加えたい。確かに一部のオーディオメーカーでは、未だにオーディオ機器へのオペアンプの使用を頑なに拒否しているメーカーがある。しかし、よほど良くできた回路でない限り「ディスクリート回路」が「オペアンプ」の音質を越えることはない。それほど、最近のオペアンプの性能は向上している。もちろん安定した音質の製品を供給するためには、アンプの回路にディスクリートよりもオペアンプを採用する方が遙かに優れている。修理も容易い。高級プリアンプにオペアンプを搭載したHEGELの見識と合理性を高く評価したい。
P4AとH4Aの組合せ
プリアンプは、P4AのままでパワーアンプをH4Aに変える。
音を出した直後は、ウォーミングアップが終わっていないのでH2Aの聞き始めの時と同じように低域がやや甘く、全体的にベールが掛かっているような感触だ。それでも中低域の厚みの向上から、パワーアンプのサイズや重量の違いを如実に感じさせられる。H4Aの真の実力を引き出すため、CDを連続演奏してアンプを十分ウォーミングアップする。
ウォーニングアップが終わったところでヒラリー・ハーンから聴いてみる。弦の厚みやオーケストラの編成が確実に大きくなる。バックのバイオリンの数が増えたようだ。コンサートマスターの音は一段と冴えを増し、切れ込みが鋭くなりバックとのコントラストも鮮やかだ。全体的に数割〜5割程度の音質の向上を感じるが、価格さほど音質差があるか?と問われれば、少し疑問を感じなくもない。
ソフトをJAZZに変える。ベースの弾力や管楽器の切れ味、ピアノの打鍵感は、大きく向上しそれぞれの音の「芯」がしっかりとする。リズムセクションの骨格がしっかりと骨太になるので、JAZZの「ノリ」や「躍動」がパワフルなエネルギー感を伴うようになる。音の厚みが増し、音楽が一段と生々しくなったイメージだ。
プリアンプとパワーアンプの全体的な印象
HEGELセパレートアンプの音質と価格とを照らし合わせて考えてみる。
P2A+H2Aは、80万円。プリメインアンプの価格帯を超えるが、音質もプリメインアンプを確実に凌駕するレベルにある。この価格帯で購入できる内外のセパレートアンプと比べたとしても、その価格を正当化できるだけの実力が十分にあるはずだ。
P4A+H4Aは、140万円。この価格帯のセパレートアンプとしては、標準的かあるいはそれをやや上回る音質に感じられる。しかし、セット180万円に予算を上げられるなら、私のお気に入りAMBROSIA+AMPZILLA2000が手に入る。
それぞれのアンプの印象を女性にたとえるなら、AMPZILLAは、色っぽく饒舌で活発な女性。HEGELは、淑やかで品のある物静かな女性に感じられた。正反対と言って差し支えないほど、それぞれの音質の傾向はまったく違うが、私に価格差を納得させるのはAMPZILLA+AMBROSIAの組合せだ。
HEGELセパレートアンプ4機種の試聴では、上級モデルと比べても引けを取らないほどの性能があり、同価格帯のアンプの中ではトップクラスの実力を持つ、P2A+H2Aがベストチョイスに感じられた。