逸品館メルマガ バックナンバー 045

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逸品館ショッピングカートメルマガ 2007.07.01
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皆様こんにちは、ここ一ヶ月ほど、ダイレクトメールやホームページの更新に力を使いすぎたため、メルマガがお留守になり申し訳ございませんでした。今回は、「共振から共鳴へ」と題するコラムをお届けいたします。

「AMPZILLA 2000」を聞き「新レコード演奏家論」を読み、そして「Unison Research SINFONIA」などの音楽性豊かな真空管アンプに触れて「私の音作りに対する考え方」は確実に進歩を遂げました。さらに、それらの機器で音楽を聴き続けながら、そしてAIRBOW製品の音決めを行いながら、生演奏とオーディオによる再演奏の違いについても従来よりもより深いレベルの様々な考え方が頭を巡りました。ここ約一月の間は、メルマガでのお話を中断していましたが、多忙のせいばかりではなく、お伝えすべき考えがしっかりとまとまっていなかった事も大きな理由でした。しかし、ようやく考え方が一つの方向へと収束してまいりました。再生音楽の音質向上には「振動を共振から共鳴へ転換することが重要」という説明方法(考え方)です。

いわゆるVintageと呼ばれるようなオーディオ製品は、そのどれもが「盛大に振動(鳴いて)」います。つまり、録音時には存在しなかった「響き」がシステムによって発生しているのです。一例としてレコードプレーヤーに注目してください。レコードは、一本の溝に刻まれた2chの信号を一つの針で拾い、それを2chに分離します。この分離過程は、CDに比べると実に不完全なもので、左右の信号(響き)は、盛大に混じり合っています。左右の溝に刻まれた2chの信号を一つの針、カンチレバーで取り出す時に右chの音は左chに混じり、左は右に混じってしまいます。当然、この信号をスピーカーで再現すると右スピーカーから左chの音が、左からは右chの音が再生されることになります。実際には録音されていない音がスピーカーから出ているのです。これをオーディオ的に考えると信号を損ねる「歪み」ということになります。「歪み」は、徹底的に排除する(チャンネルセパレーションは、できるだけ向上させる)というのが、現代オーディオの音質向上の考え方ですが、果たしてそれは正しいのでしょうか?

私は、違う考え方をしています。レコードプレーヤーによって生まれた「歪み」が音楽をより楽しく聞かせる方向に働いているという考え方です。右chの音が左から、左からは右chの音が漏れ出るということを音響的に考えると、疑似的に「センタースピーカー」を設置した場合と同じような働きをすると言うことが分かります。つまり、レコードによるクロストーク(左右の信号の混じり合い)が仮想センタースピーカーの働きをして、リスニングポジションでの「中央の定位」が強化されると考えるのです。(音響理論的にも正しい考え方です)


結果として、2chを完全に分離して再生できるCDよりもレコードの方が中央の定位の実在感が濃く(スピーカーの中央に実在感のあるボーカルや楽器が出現する)、さらに前後方向の奥行きも深くなるのです。また、このクロストークにより左右への音広がり(立体感)も大きくなることも考えられます。つまり、レコードから左右の信号を取り出すときに避けられずに生じる「余分な響き(クロストーク=オーディオ的には歪み)」が、音場の定位を明確にしたり、音を広げるような「プラスの方向」へと作用すると考えるのです。

この考え方を少し違う方向から展開します。音は、響きの複雑さによって深みや表現力を増すため、楽器には響きを増加させそれを複雑化するための「共鳴部」が存在します。例えばグランドピアノの低弦は、1本でなく太さや構造の異なる3本の弦で構成されています。これは、一本の弦では音量が小さいという理由だけではなく、複数の弦を使わないとグランドピアノらしい重厚な響きを伴う楽音が生み出せないからでもあります。ピアノの調律では、これらの弦を個別に調整し(実際には微妙にそれぞれの音をずらしている)「プレーヤーや演奏曲目に合わせた独自の響き」を生み出すように調整します。

また特定の鍵盤を弾いたとしても「弾いていない弦」は、その音に共鳴して音を出します。この「共鳴」がきちんとコントロールされた時にピアノは、初めて「美しい響き」を生み出せるのです。ピアノの調律(チューニング)とは、単純に「音の高さ」だけを調整するのではなく、ピアノ全体の「響きの調和」を整えることが真の目的なのです(私が市販製品の改造を“改造”ではなく“チューニング/調律”と呼ぶのは、そういう意味を込めています)。

このように楽音は、調和した複雑な響きの集まりです。美しい音楽は、楽音の美しい調和によって引き出されますから、演奏では複雑な楽音を更に高度に調和させなければなりません。それが成功した美しい演奏は、私たちの心を感動へと導きます。演奏の目的は「調和」です。それは、クラシックのみならずPOPSやROCKでさえも例外ではありません。あらゆる音楽は、完成に近づくにつれて「美しい調和」を見せるようになります。そして濁りのない感動を伝えてくれるのです。

先ほどレコードを例にあげて説明しましたが、デジタルシステムであったとしても録音−再生というプロセスでオーディオは、必ずなんらかの「響き」を生じます。この響きを「調和/チューニング」して、再生音楽に再び美しい響きと生演奏に迫る、あるいはそれを凌駕するほどの高い音楽性を与えようというのが私の今の考え方なのです。つまり、オーディオ機器の演奏では、「歪み」=「悪い」と短絡せずに、音楽を助けてくれる「プラス方向に作用する響き」は、積極的に利用するほうが理にかなっていると考えています。


しかし、この考えを国産家電メーカー程度の説明レベル(機械重視、音楽不在のまったくもって低いレベルだと思いますが)いわゆるオーディオ的な見地からだけで考えるなら、元々無かった響きはすべて「歪み」だから、それはすべて取り去るのが正しいということになってしまいます。特にデジタルがオーディオの主流になってから「歪み=悪い」という短絡した考え方によって、オーディオシステムからは「響き」が徹底的に取り除かれています。その結果再生される音楽は「複雑さ」、「深み」、「生気」を失い、純粋だけれど心を打たない「つまらないもの」になってしまったのではないでしょうか?

測定器によって「歪み=響き」を徹底的に取り除かれた最新オーディ機器と、制作時に人間が徹底的に聞くことで「歪み=響き」をより「音楽的に有効もの」へと調律されたVintageオーディオ製品で音楽を聞き比べれば、どちらが「人間にとって楽しいものであるか?」その答えは明らかです。過去にも説明しましたが「純粋なデジタル」の音が「歪みの多いアナログ」に敵わないのは、アナログシステムが「響き」によって再生される音楽をより「豊かなもの」へと変化(改善)させた結果なのです。楽器にとって「響き」が必要不可欠であるように、オーディオにとっても「響き」は必要欠かさざるべきものなのです。オーディオ機器が発生する「響き」が、録音−再生で失われる「音楽の響き」を補い、あるいは元々の演奏よりも再生演奏をより深く感動的に聞かせるために必要だったのです。

今回のコラムの主旨をまとめましょう。オーディオシステムやその環境(部屋や電源)などによって避けられない響きが発生します。コントロールされず(音楽に変換されず)垂れ流される有害な響きを「共振(コントロールされずに発生している響きという意味)」と呼ぶ事にします。「共振」を消さずに(どうしても全部は消すことはできないことは明らかですが)コントロールして音楽に変えることを「共振を共鳴(調和させた響き)に変える」と呼ぶことにしましょう。まあ言葉などどうでも良いのですが、これが私の言う今回のコラムの主題「共振から共鳴へ」なのです。

次回のメルマガからは、オーディオ機器とその周辺で発生している「共振」を「共鳴」に変えるための具体的な方法論を展開したいと思います。

ここからは余談になります。

音楽を演奏する時、演奏者は自分の感覚にあった「楽器の響きを選択」します。つまり、演奏者は自分の好む音を選ぶことを通じて「自分の心情を音に変換」しているのです。オーディオ機器をセッティング(チューニング)する時、オーディオ演奏者は「オーディオの響きを選択」します。それは、演奏者が心情を音に換えるのとまったく同じなのです。つまり、オーディオ演奏家が自分のステレオの音を良くしようとする時には、意図するしないに関わらず、また意識するしないにかかわらず、その人の心の個性が音に変換されることになるのです。つまり、演奏が演奏者の人となり(心情)を伝えるように、こだわってセットアップされたオーディオの音は、そのオーディオの持ち主(オーディオ演奏者)の人となり(心情)を正確に伝えてしまうのです。人の音を聞くと言うことは、その人を知
ると言うことです。人に音を聞かせるということは、自分の心を人前にさらけ出すということなのです。

職業とはいえ、自分の音を人様にお聞きかせするのは、とても恥ずかしいですし、それほど僭越なことはないと思います。私の出したいと願う音が、できれば一人でも多くの人に認められ、愛されるように、自分の心とアイデンティティーを磨いてゆきたいと思います。そして私がオーディオを職業に選んだのは、「音楽/オーディオによる再演奏」という交流の輪を通じ、時空を越えて多くの人々と知り合え、共感できることこそ私の一番の喜びだからなのです。

いつも稚拙なメルマガをご愛読いただき、心から感謝しております。今後とも少しでも皆様のお役に立てるように、頑張りたいと思います。

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