ME25はすでに2時間以上のウォーミングアップを行っているから準備は万端。最初にカンターテドミノを聞いた。このソフトは再生周波数帯域が広く、また様々な楽器の音が収録されているためスピーカーの音色の再現性が厳しく問われる。それに加えマイクの設置がシンプルなため、スピーカーの音の広がりの歪みのなさもチェックできる。録音がムジークの本社に比較的近いスエーデンで行われていることもソフトを選ぶ上でのポイントとした。
このソフトを鳴らすのはなかなか難しいのだが、1曲目でまず驚いたのはサイズを遙かに超える低域の再現性だ。さらに金管楽器の切れ味や高域の伸びやかさ、ボーカルの質感やコーラスでの一人一人の声の分離感も素晴らしい。さすがに各国の放送局がこぞってムジークの小型モニターを採用しただけのことはある。
サイズが小さいのに、サイズが小さいスピーカーを聞いている感じが全く感じられない。同じ特徴を持つスピーカーとしてStirling
Broadcast LS-3/5aがある。LS-3/5aもサイズの小ささ、密閉型という不利な条件を感じさせずに「聴感上十分な低域」を再現する。ME25はLS-3/aよりもサイズが大きいこと、設計が新しいことなどが奏功し、LS-3/5aよりも低音は遙かに豊かな低音を再現する。またそれに応じて再現される音場空間も格段に大きく、まるで中型〜大型スピーカーでカンターテドミノを聞いているかのような「本格的」な鳴り方だ。
楽器の音の出方や消え方、音色の分離感、あらゆる部分が非常に自然だ。試聴に使ったAIRBOW製品のサウンドも同じ方向性を持つから相性も良いのだろう。まるで生演奏をその場で聴いているような「ストレス(違和感)を全く感じさせない高い実在感」で音楽を再現する。ボーカルは柔らかく、温かく、有機的な情感がある。オルガンは時に厳しく、時に優しくコーラスの後方で鳴っている。金管楽器はちりばめられたアクセントのように演奏を引き締め、輝かせる。オーディオ機器が全く介在しないかのような自然な鳴り方が素晴らしい。逸品館が薦めるモニタースピーカーとしてはPMCがある。ムジークは、PMCと同じようにサイズを感じさせない鳴りっぷりと特徴とするが、有機的な感じ情緒的な感じはムジークがPMCを上回る。
素晴らしい音質で音楽を再現するME25だが欠点もある。それは「特性が悪く感じられる」ことだ。始めてRL906を聞いたとき、このスピーカーは「位相(音のタイミング)」が正しくないと感じた。そこで確認のためPMCのパワードモニター「TB2S-A2」と聞き比べてみたのだが、PMCは見事に位相が揃って聞こえた。それぞれのスピーカーを測定してみると、PMCは周波数特性だけではなく、動的な特性(位相)もぴたりと揃っているのに対し、RL906は周波数特性動的な特性ともPMCに全く及ばず、聴感と全く同じ結果が得られた。しかし、それは測定上の話で実際に音楽を再現してみると「TB2S-A2」が正確無比な「緻密で分析な音」でソフトを鳴らすのに対し、RL906は「現場の雰囲気」をよりそれらしく伝えてきた。NHKエンタープライズが正確無比なPMCではなく、現場の雰囲気を正確に再現するRL906をモニターに選んで、ブルーレイ・ソフト「小澤征爾+ベルリンフィル、悲愴」を録音したことは興味深い。
小型モニター同士の比較では、明らかにPMCよりもムジークの音が温かく「生」に近いイメージで音楽を鳴らすが、PMCもフラッグシップのBB5は現場の雰囲気を非常に色濃く伝えるから、PMCとムジークの違いは能力の差ではなく「スピーカーの音作りの思想の違い」と取るべきだろう。
この文章を書いている間にカンターテドミノ一枚を完全に聞き終わってしまった。聞き終わっての感想も、聞いていたときと全く同じで「自然」。ただそれだけだが、この「自然な感じ」は今まで私が経験したことがないほど高いレベルであることを付け加えておきたい。録音再生という時間や場所の違いを超えて「録音現場がそこに現れた」ような錯覚さえ覚えた。
Minima Vintage
サイズや価格が近い製品と比べてみたくなったので、スピーカーを逸品館お薦めのSonus
Faber Minima Vintageに変えてみた。高域がわずかに刺激的になり、中低域の膨らみが少し減る。低音のボリューム感も少なくなって、エネルギーバランスが高域にシフトする。
全体の音のバランスやユニットの繋がりは、ME25がMinima
Vintageを明らかに上回るが、高域にライトを当てたようMinima
Vintage独特の癖がボーカルをクッキリと際立たせ、「歌手一人一人の口元が見えるよう」なオーディオ的な快楽が得られるようになる。
全体のバランスとしてはME25のまとまりが素晴らしいが、一つ一つの部品(音)の再現性ではMinima
VinategがME25を上回るようだ。ME25はウェルバランスな音楽モニターで、Minima
Vintageは良い意味でオーディ的な味わいを持つ。性能的には全く甲乙付けがたいと感じた。
次に「録音が悪いソフト」の代表として、J-POPを聞く。ME25でカンターテドミノを聞いた感じから予想した以上にME25とこのソフトは相性が悪い。高音の切れ味は落ち、中域は曇る。低音は膨らんで遅く、ぼこぼこと鳴っている。とてもじゃないけれど、こんな30万円を超えるスピーカーから出てくる音だとは思えない。良くてTannoyの10万円ペア程度のブックシェルフ型スピーカーの音しか出てこない。
今までいろんなスピーカーを聞き比べてきたが、これほどソフトで評価が変わるスピーカーも珍しい。ソフトから見れば、スピーカーの評価が下がるし、スピーカーから見ればソフトの評価が下がる。とにかく、これ以上はないと言うほどME25とJ-POPとの相性は悪い。
音が気に入らないのはひとまずとして、冷静にスピーカーの評価をすると、低域も高域も「過渡特性」が悪いことが聴き取れる。音の立ち上がりは悪くはないが、立ち下がりが悪く音が止まらない。そのため、次の音の立ち上がりがマスキングされ音がもやもやと曇ってしまう。原因はエンクロージャーの鳴きが過大なことだ。まるでアマチュアが作った、チューニングの悪いバスレス型スピーカーのような遅れて膨らんだ低域が出る。ハッキリ言って、私はこんな音でJ-POPを聞きたくない。
アンプを変えCDプレーヤーを変えてみたが、ME25で聞くカンターテドミノを100点とするとJ-POPは20-30点程度にしか感じられなかった。
Minima Vintage
スピーカーをMinima
Vinategに変えると遅れて膨らんでいた低域が改善し(それでもまだ少し遅いが)、リズムセクションが前に出て弾むようになる。メロディーにテンポ感が出て、音楽が走りだす。ボーカルも曇りが取れ、表情が豊かに再現される。
ME25と比べると見違えるような音でJ-POPが聞けたが、やはり小型スピーカーで電気楽器が多用されるPOPSを納得できる音で聴こうとすると低音が絶対的に不足する。組み合わせるアンプやアクセサリーでチューニングで無理して低音をチューニングするよりも、サブウーファーを導入するほうが解決が早い。
すでに試聴した二つのソフトから、ME25の性能をほぼ100%把握することができた。音質テストとしては、これ以上違うソフトを聞く必要はないのだが、皆様にME25の長所をお伝えしたくて、あえて古いモノラル録音のJAZZを選び聞いてみた。
予想を超えて、このソフトとME25の相性は抜群によい。まるでレコード+真空管アンプ+ビンテッジスピーカーで往年のJAZZを聞いているような、滑らかで心地よい音が出る。しかし、解像度は驚くほど高く、古いソフトを聞いているとは信じられないほど現代的で分離感、透明感の高い音が見事に両立する。モノラル録音にもかかわらず、まるでステレオ録音のように大きく音場が展開することにも驚かされる。
ビリーホリデイがそこで歌っているかのような、全くストレスのない音で演奏が再現される。情感も非常に細やかに表現され、音楽にぐいぐい引きつけられる。リポートを書く手を止めたくなほど。素晴らしい!オーディオが音楽を再現する装置だと、素晴らしい音楽の記録を蘇らせる唯一の手段だと確信させてくれる音だ。ME25は、今までこのソフトを最高の音で鳴らしたスピーカーを完全に圧倒し、信じられない生々しさで1955年録音のJAZZを鳴らした。この音を聞くためにだけでもME25の存在価値はある。
ME25が奏でるビリーホリデイを聞いていると、このスピーカーでアコースティック楽器以降の音楽を聞く必要性が全く感じられなくなる。どんな詭弁を使っても芸術性という意味で、表現の深さという意味で電気楽器がアコースティック楽器に敵うことはない。この素晴らしいこのサウンドを、この素晴らしい音楽を「一人でも多くの人に知って欲しい」。そう心から願わずにいられない。ME25一本ですべてをまかなうことはできないかも知れないけれど、ソフトとマッチさせればこれほど素晴らしい音を出すスピーカーは、絶対に他にないと確信できるほどの音が出た。すごいなぁこのスピーカーは!