音質比較テストは、次の条件で行いました。
デジタルプレーヤー AIRBOW SA10/Ultimate
アンプ AIRBOW AIRBOW PS8500/Special(7.1chダイレクト入力)
スピーカー Vienna Acoustics T3G
※電源ケーブルは、すべて同じ物を使用(ベルデンの2m/付属品ではありません)。
※RCAケーブルは、AIRBOW MSU−095WE相当品。
※プリアンプを使わない時(ダイレクト接続時)は、ケーブルを直接繋ぎ変えずに
オーディオテクニカのAT517CPでケーブルを繋いでテストしました。
試聴ソフト
GETZ
& GILBERTO / STAN GETZ , JOAO GILBERTO / SACD /UCGU-7006
スタン・ゲッツ & ジョアン・ジルベルト (SACDソフト)
音の重心は、ちょうど声の部分にある。ボーカルの厚みが凄くリアルで演奏者の血潮の暖かさを感じられる音だ。
ギターは、高音の切れ味はさほど鋭くはないのだが、中低音とのバランスや倍音構造のタイミングがとても自然で、少しデッドな部屋で少し離れた場所の生ギターを聞いている感じにそっくりだ。3号館のリビングリスニングルームはややデッドなのだが、反射や残響の多い部屋(音響がコンサート会場に近い部屋)なら、本当に目の前の生演奏を聴いている感じがするに違いない。
サックスも厚みがあり、ボディーが鳴っている感じが伝わる。同時にリードそのものの音も明確に聞き取れる。テナーサックスの厚みのある様が素晴らしい。後でも述べるが、スタンゲッツの使っている楽器と奏法の特徴が如実に感じられるサウンドだ。
思わずギュッと抱きしめたくなるほどのアストラッド・ジルベルトのキュートな声(録音時は23才)とその伴侶のジョアン・ジルベルトの甘い声が絡み合って、そこにテナーサックスの甘い響きが混じる。ピアノはポロポロ鳴って、シンバルを叩くブラシの音が絶妙のアクセントになる。
正にボサノバの真髄を聞ける。部屋の空気の温度が上がって、真冬なのに部屋の中は初夏の香りが漂い始めると、そこはもう南国。
SA10/Ultimateの音は、普通のCDでは感じられない暖かさがある。それでいてレコードでもテープの暖かさとも少し違う独特のサウンドだが、その雰囲気の濃さ、良さは、最高級のアナログに勝るとも劣らない。最近のオーディオ・ショウでよく聞かされる、細かいけど温度感が低かったり、細部まで見通せるけど音楽の雰囲気が薄かったり、とにかく「いい音」だけれど「良い音楽」に聞こえない音とは、真逆の厚いサウンドだ。
滑らかさと厚みと包み込まれるような暖かな雰囲気。本当にそこでセッションが行われているような熱い音。全部の音が素晴らしく「熱い」のだが、このソフトでは特にテナー・サックスの音が素晴らしい。そのテナーならではの圧迫(圧力)感、切れ込みの鋭さ、暴力的なまでに支配的なその独特の音色、そういうすべてが混じり合って音の洪水となって心と身体に押し寄せる。身体の芯熱くなる。
シンバルは奥の方でシンシンとなっているのだが、その芯の強さ、アクセントの入り方が本当に「それらしい」。
絶対的な音質では、UX1SEに及ばないが、それぞれの楽器の音が見事に混ざり合って、熱い音楽を奏でるこの独特の表現力にハマってしまうと、もうSA10/Ultimateの独断場になる。
音楽が好きなら、リズムに乗りたいなら、セッションに参加したいなら、このプレーヤーの熱い音がそれを叶えてくれる。こんなに“熱い音”のデジタルプレーヤーは、そうはめったにお目にはかからない。
ケーブルを繋いでいるジョイントを外して、QUAD
QC24を接続する。AVアンプの入力ボリュームを0dbにセットし、プリアンプのボリュームを音量が変わらないように注意して調整する。
一音が出る。
驚いたことに、音はほとんど変わらない?
そこで何度かプリアンプを付け外しして、ソフトの冒頭を繰り返し聞き直してみたが、やはり音がちょっとマイルドになったかな?と感じるくらいでその差がほとんど感じられない。
差が小さく、コメントが書きにくいのでとにかくそのままCDを聞き続けると、音ではなく雰囲気が変わっていることが段々わかってくる。
最初にも述べたように音は、ほとんど変わったように聞こえないのだが音楽の温度感、場の雰囲気の濃さが少し減退して曲調があっさりする。先ほどの熱さを感じたセッションとは、少し変わったライトな雰囲気になる。これはこれで悪くないのだが、このソフトではプリアンプのないダイレクトな音の方に魅力を感じられた。
過去のテストでは、その持ち味のマイルドさで「音の中から音楽を上手く引き出していた」QC24だが、すでにそう言う特徴を持っているSA10/Ultimateとの組合せでは、その良さを発揮できないようだ。
サックスもパワー感は失われてはいないのだが、やはりややライトでまったりとした方向への変化を感じる。サックスのリードの材質をやや柔らかくしたような変化だと言えば、おわかりいただけるだろうか?
ブラックコーヒーやストレートティーに、ほんの僅かミルクを入れたようなそんなイメージ。今の音がややキツい固いと感じられるならQC24を組み合わせると、それが緩和して広がりや柔らかさを醸し出されるだろう。
音の傾向のマッチ、ミスマッチはとにかく、今回のテストで驚かされたのはこんなに安い価格のプリアンプを間に挟んだにもかかわらず「音がぜんぜん悪くならない」ことだ。プリアンプの中には、沢山の抵抗や配線、接点、増幅素子が入っている。ここ価格帯のプリアンプでそれらを通過した事による「悪影響」がほとんど感じられないのは、舌を巻かされる。こんなプリアンプは、この価格で多分他にはないはずだ。
Phase
Tech CA3
QC24同様やはりこのプリアンプを繋いでも、音の細やかさや音質のバランスには大きな変化が感じられない。しかし、CDを聞き続けるとQC24との違いはすぐに明確になった。
音のエッジをマイルドにする方向のQC24に対してCA3は、エッジをより明確にする方向への変化をする。
ダイレクトの時は生ライブを聴いている感じだったが、CA3を使うことによってそれが「スタジオ演奏」に聞こえるようになる。
個々の音がより明確になり、音の芯がシッカリする。エネルギー感は、損なわれない。
低音はしっかりと締まり、ベースの圧力が増
す。ギターとボーカルの分離が良くなって、それぞれの位置関係もハッキリするようになる。
このプリアンプと前後して、PHASE-TECHはMCカートリッジの上級モデルP-3Gを発売したがCA3の音質傾向は、P-3→P-3Gへの変化とよく似ている。
シンバルの音が若干、薄くなったように感じるが、ピアノの中高音の輝きは増している。全体的なまとまりは、とても良い。
昨日、一日中全く同じシステムでいろんなソフトをかけ比べて聞いていたが、ダイレクト接続には感じられないCA3の素晴らしさを強く感じていただけに、今日のテストの結果は少し意外な感じがした。昨日の私の評価では、CA3を使うとダイレクトよりも明瞭度が上がり、その結果プリアンプを使わないときよりも細かい音まで聞こえる。低音が伸びる。低音の膨らみが緩和されて音が締まる。楽器の切れ味が増して、エネルギー感が増強されるなど、良いことばかりだったのだ。やはり、このソフトとこの環境では、ダイレクトの音が「ハマり」過ぎているから、プリアンプを使うことによるメリットが出にくかったのだろう。
Luxman c600f
私は、c600f/m600fの組合せの音質を高く評価している。しかし、ラックスのようにセパレートアンプがほぼコンプリート(セットになる)の状態で販売されているメーカーのプリアンプは単体で評価されることが少なく、Luxmanのプリアンプを単体でテストするのは初めてだ。
早速、これまでのテストと同じようにCDとAMPの間にC600Fを繋いで音を出す。QC24とCA3で感じたのと同じように、このアンプも「音を悪く(音質を劣化)」しない。
C600Fは、CA3で感じたのと同じように音のエッジを明確にし、それぞれの音の違いをハッキリと描き出す方向に音質を変化させるが、CA3との違いは、その雰囲気の出方にある。
周波数帯域がほぼフラットに感じられるCA3に対して、C600Fは中央がほんの少しだけ盛り上がったかまぼこ形に感じられる。あるいは、低音がしっかりと地について頂点がほんの少しだけ丸い正三角形型の音響バランスを実現する。ラックスらしく中域にウェイトがあって、艶と厚みを感じる音だ。
結果として、ダイレクト入力よりも空気感がスッキリとするが、雰囲気の濃さは損なわれない。弾けるような熱いセッションが、落ち着きを取り戻したように聞こえる。
C600Fのメーカー標準価格は50万円だが、リモコンの機能、本体の質感の高さ、スイッチのタッチの良さ・・・。音質はもちろんだが、それ以外の部分も含めて、これだけのクォリティーに達しているのは、恐れ入る。LUXMANのホームページでは機器のメーカー標準価格が、新製品リリースのページにしか掲載されていないが、それは「海外に対する配慮」だとご存じだろうか?ドイツなどではLUXMANの価格は、日本の3〜5倍でと聞く。つまり、C600Fはドイツでは150万円以上で売られているらしい。
海外ではそれくらい高く評価されているLuxmanの製品だが、C600Fを国内で入手可能な150万円クラスの海外製プリアンプと比べてみればどうだろう?音質はもちろん仕上げや機能に関しても決して、それらに引けを取らないはずだ。このアンプは良くできている。これで満足できなければ・・・、相当額の出費を覚悟しなければならないだろう。