“TB2i/Signature”
最初、プラスを高域、マイナスを低域とスピーカーケーブルをいつものように「たすき掛け」で音を出したのだが、高音と低音の繋がりが悪く「楽器がばらばらに鳴っている」ように聞こえた。スピーカーケーブルを外し、両方を高域、両方を低域、プラスを低域でマイナスを高域と考えられる4通りの接続を聞き比べると、TB2Signatureでは、「プラスを低域、マイナスを高域、のたすき掛け」で最良のバランスが得られた。
以前から逸品館ではBi-Wire対応スピーカーの場合、スピーカーケーブルを「たすき掛け」に繋ぐように推奨している。たすき掛けには2通りの接続があるが、ほとんどの場合プラスを高域:マイナスを低域に繋ぐ方がバランスの良い音が出る。しかし、今回のように例外もあるから、違和感があれば違う接続も試して欲しい。
今回試聴に使ったノラ・ジョーンズのソフトでは、ボーカルが左右のスピーカーを結ぶ線上の中央かもしくはその少し前方に定位し、伴奏はそれより後方やや下に定位するのが望ましい。しかし、プラスを高域、マイナスを低域に接続するとボーカルが妙に前に出て、シンバルの音がボーカルに被さってしまった。ベースが鳴る(入る)タイミングもやや早すぎてボーカルとの調和が取れず、演奏がばらばらになってしまった。
両方を低域に繋ぐと、高域と低域がばらばらに鳴っている違和感は少なくなったが、高域が伸びたりない。逆に両方を高域に繋ぐと、ベースの厚みが足りなくなった。プラスを低域:マイナスを高域に繋ぐことで、周波数(帯域)のエネルギー・バランスが適正になり、それぞれの音源の位置関係(鳴りはじめのタイミング)の違和感も小さくなり、最も自然な音が出せるようになった。すべてのBi-Wire対応スピーカーは、この要領でケーブルの接続を最適化することができるので是非お試し頂きたい。
第一印象
音を出してしばらく聞いていたが、「高域がドライでやや硬い」印象が強い。テキスタイル・ツィーターを搭載するPMCは、高音が柔らかく透明感が高いのが特徴だ。ツィーターのプレートが改良され、その高域に「芯の強さ」が加わった“iシリーズ”は、まさに鬼に金棒のサウンドに仕上がっている。しかし、TB2i/Signatureの高音はPMC独特の透明感が薄い。TB2が搭載していた金属ツィーターのような音に聞こえた。
中域〜高域にかけての明瞭度はかなり大きく向上しているように感じられる。
楽器の音を聞いてゆくと、たとえばウッドベースの輪郭感などはかなりはっきりしているのが聞き取れる。そのせいか低域が少し前に出る。中域も速度が速く、切れ味が増している。レギューらモデルと比べて「箱鳴り」が少なくなっているようだ。音像がクッキリとし、はっきりと高性能が感じられる仕上がりだ。
しかし、まだエージングが足りないのか?それぞれの音がやや「ばらばらに分解されている感じ」は最後まで抜け切らなかった。この点、同じSignatureモデルでも新品から整った音が出たLB1i/Signatureと印象がかなり違う。原因を考えるとツィーターとウーファー口径の差の違いに気づいた。LB1i/SignatureとTB2i/Signatureのツィーターの口径は同じだが、ウーファーはそれぞれ110mm、170mmで面積にすると約2.4倍もの大きな開きがある。
また、LB1iのウーファーは75mmという大型で強力なコイルと磁気回路を搭載しているからレスポンスが良く、ツィーターと音が繋がりやすい。それと比べると不利は否めないTB2i/Signatureだが、同じPMCの製品だからツィーターとウーファーはもっとうまく繋がるはずだ。
このような繋がりの違和感はエージングで解決することが多い。そこで本格的な音質テストは「スピーカーを十分鳴らし込んでから」行うことにした。
鳴らし込んだTB2i/Signatureの印象は、はじめとはがらりと違った。第一印象では高域が勝ち気味だったが、鳴らし込むと高域はあまり伸びなくなった。それは、中低域が非常に太くなったからだ。特にウッドベースの厚みや押し出しは、このサイズのスピーカーとは考えられないほど強力でボーカルにも厚みがある。ウォーミーな暖かいサウンドに感じられるのは、透明で日本刀のような切れ味を持ったクールなLB1i/Signatureとは全く違う。
冷静になって聞き込むと、ノーマルのTB2iよりも中低域のパワー感が増強されているのが聞き取れる。それとは対照的にPMCらしい切れ味よく、クールに澄み切った高域の印象は後退する。今までのPMCの張り詰めた音を想像すると肩すかしを食らうことになるだろう。TB2i/Signatureで聞くノラ・ジョーンズは、小春日和の縁側のように暖かく穏やかだった。
ノラ・ジョーンズの音質コメントは、スピーカーをやや離れた場所で聞きながら書いた。ディスクを変えるために、TB2i/Signatureの正面に行くと音のバランスが大きく変わることに気づいた。iシリーズから採用された特殊なツィーター・プレートは高音を反射するから、スピーカーの正面では高音の切れ味や解像度が大きく向上するのだ。
試しにスピーカーからどれくらい離れた位置で聞くのがベストか調べると、TB2i/Signatureでは3m以内で聞く方が音のバランスが良かった。もちろん、接続する機器やリスニングルームの音響特性によってその「最適距離」は大きく変わるから、この距離がベストだとは言い切れない。しかし、それでもTB2i/Signatureの音が試聴距離と試聴位置(スピーカーの正面かどうか?)で大きく変わることに間違いはない。
試聴位置をスピーカーの正面2mに変えることで、高音のイメージは一変する。サイズを考えれば望外と言って差し支えないほどの厚みある中低音に、柔らかく繊細な高音が付け加わる。良くできたフルレンジスピーカーに、良くできたツィーターを付け加えた感じだ。
エネルギー・バランスは、いわゆる「かまぼこ形」でレンジを欲張って聞かせるタイプではない。しかし、その中音の豊かな膨らみにツィーターの音が良質なスパイスの様に作用して、見事な化学反応が起きる。早すぎず、遅すぎない、ぎりぎりのバランスでエリック・クラプトンが鳴る。まるで真空管アンプで音楽を聴いているイメージだ。それでいて細かい音は非常に克明に再現されるから、聞き取れる音情報量は非常に多い。個人的にはもう少しパンチが欲しいと感じたが、中音の表現が非常に濃く、音楽に不思議と引き込まれるようにエリック・クラプトンが鳴ったのに驚かされた。
バイオリンの高音が滑らかで優しい。エリック・クラプトンでも感じたが、まるで真空管アンプでスピーカーを鳴らしているような音が出る。
エンクロージャーの付帯音が少なく、中域の音色や細かい音の再現性に優れているが、やはりこのソフトでも高域の伸びやかさがまた不足して感じられる。まだエージング不足なのかも知れないし、あるいは「ジャンパープレート」の音が悪いのかも知れない。そこで、ジャンパープレートを「AET
HSS/EVDを使った自作品」に変更して聞くことにした。(下写真、上から下に変更)
音の出方ががらりと変わる。高音の伸びやかさ、透明感、切れ味の良さが一気に向上する。TB2i/Signatureに関わらず、FACTを除くPMCの全製品に言えることだが、付属している「金色のジャンパープレート」の音は非常に悪い。このプレートをAIRBOWが発売しているSIN/Jumperなどに変えることで、音質はかるく2倍は良くなる。
今回は、AETのHHS/EVDで作ったジャンパー線を使ったが、それでも音質は大幅に向上した。弦楽器の切れ込みの鮮やかさが増し、リズムに心地よいメリハリが生まれ、バイオリンの消え入るような繊細さが出る。そうこれでこそPMCの音だ。
“FB1i/Signature”
一音が出た瞬間、TB2i/Signatureとのあまりの違いに驚いた。高音の切れ味、透明感、繊細さの再現性がまるで違う。とうてい同じツィーターから出てくる音とは思えない。やはりTB2i/Signatureはエージング不足だったのか?あるいは、失敗作なのだろうか?ではプレートに印字される「Signatureモデルの証としてのサイン」は何だろう?どちらのモデルも「ピーター・トーマス」自身がその音質を保証しているモデルなのだ(現在真相をPMCに確認中)。
FB1i/Signatureは、周波数レンジが圧倒的に広い。旧モデルFB1の導入テストでJBL4344よりも低音が出ると評価した記憶があるが、それはFB1iにも引き継がれ、Signatureモデルでさらにブラッシュアップされている。
サイズを遙かに超える驚くべき量感の低音と、CDに収録された周波数帯域のすべてをきっちり再現していると言い切って差し支えないほどクリアで透明感のある高音が出る。しかも、あの「金色のジャンパープレート」のままで!この音が出るのだから二度驚かされる。
FB1i/Signatureからは、PMCがSignatureモデルの名を与えるにふさわしい、聞いた瞬間に「音の良さ、音楽再現能力の深さ」が伝わる音が出る。
楽器の音色は鮮やに光り輝くし、ボーカルはまるで耳のそばでささやかれているように細やかに再現される。聞いていて文句なしに気持ちがよい。部屋の空気が透けてステージが見えるように思えるほど、晴れ晴れとした音だ!このスピーカーでサラウンドをやったら・・・。すごいことになるのは間違いがない。
一音が出た瞬間から、TB2i/Signatureとの違いが歴然とする。TB2i/Signatureは、どうすればもっとうまくなるだろう?と考えさせられたが、FB1i/Signatureなら誰が購入しても、どんな環境で鳴らしても、その音の良さはすぐに実感できるはずだ。今回の比較試聴では、TB2i/Signatureが地上アナログとするなら、FB1i/Signatureはハイビジョン、それくらい大きな差が感じられた。
試しにFB1i/Signatureを逸品館お薦めのVienna
Acoustics BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)と比べて見たが、レンジ・解像度ではBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に全く遜色は感じられない。さらにPMC独特の高音のメリハリと解像度感は、BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)を明らかに超える。
PMCらしい耳を奪う精緻なHiFiサウンドがFB1i/Signatureからは出る。しかし、音の良さに耳を奪われるので、演奏者が何を表現したかったのか?それが記憶に残らない。素晴らしく音が良く生々しいが、音に興奮して音楽を聴くことを忘れさせる。そういう「危険さ」もFB1i/Signatureは持っている。能力が高い故に、このスピーカーは厳しく使い手を選ぶだろう。
透明で精緻。その言葉がFB1i/Signatureにはふさわしい。恐ろしいほどの解像度の高さと、明瞭さでディスクに収録された音をすべて引き出してくる。
FB1i/Signatureが鳴らす楽器の音なら、製造メーカーがわかる。
熟練の指揮者がこのスピーカーで録音を聴けば「失敗した演奏者」が誰であるか、即座に言い当てられるだろう。
何度も繰り返すが、本当に恐ろしいほどの解像度がある。それでいて高音はきつくない。
今までのFB1とは次元の違う音に仕上がっている。本当に良くできている。
ただやはり、あまりにも音が良すぎて「一度に多くの音が頭に入りすぎて」その音を分析するのに精一杯になって、音楽の全体像が掴みにくい傾向はある。でも、この音を一度でも聞いてしまうと、やっぱり「買う!」しかなくなるだろう。衝撃的なHiFiスピーカーだ!