Sonus
Faberから、彼らがエントリーモデルと称する"Toy"が発売された。この製品は今年の春にSonus
Faber社を訪問したときに最終の開発を行っていたモデルだ。その時、名称を尋ねると"Toy"にする予定だ」と聞いたので、日本では"Toy(トーイ)」は、オモチャのイメージで余り良いと思わない。"T"を"J"に変えて"Joy"にした方が、この製品にはふさわしいのではないか?とかなり強い要望を出しておいたのだが、それはあえなく却下されたようだ。とにかく、日本に入荷したときの名称は"Toy"である。
"Toy"の外観はスピーカーとしては、かなり風変わりなものだ。今まで前面のバッフルだけを本革で覆っていた彼らだが"Toy"は何と全面が合成皮革張りになっていて、木部は全く見えない。
両側には「Sonus
Faber」の刻印がある直径1センチほどの真鍮製の鋲が埋め込まれている。この鋲は、構造上必要なものかどうかは分からないが、お洒落だ。サランネットには「Sonus
Faber」の文字が、縦方向に印刷されているが、これは金色との塗料を使っているとはいえ質感はあまりよろしくない。あえて文字を縦方向としたこともアンバランスで、私には失敗のように思える。サランネットはつけない方が、遥かにお洒落で格好が良いのではないだろうか?
スピーカー端子は上級機とデザインは同じに見えるが、ほんの少しだけコストダウンしたものが採用されている。適切で上手な差別化だと思える。
"Toy"の形状は、前後左右・奥行き方向のバランスと、傾斜角度のバランスが非常に上手く取れていて、表面を覆う皮革の質感も相まって「彫刻」あるいは「置物」のような高級感が感じられる。かなり高級な調度品と並べておいても、決して見劣りすることはないだろう。
"Toy"の「もの」としての価値や存在感は十分に高く、誰もが納得できると思う。この隙のない外観と仕上げにエントリーモデルと称しながらも、高級スピーカーメーカーという位置づけにこだわるSonus
Faberのブランドとしての姿勢を強く感じさせられる。
"Toy"のツィーターにはMinima
Vintageとは異なる、上級機と同じリングラジエター型が採用されている。ウーファーはMinima
Vintageと似ているが、価格の安いものが使われているようだ。このあたりの「ユニットの違い」が音にどのように現れるか?それも興味深い。
Bladelius Syn 、 Tyr の組合せで聞く Toy
Bladelius
“Syn(シュン)” CD/SACDプレーヤー
Bladelius
“Tyr(チュール)” プリメインアンプ
Minima Vintageとの組合せが良好だった、BladeliusのSynとTyrでToyを鳴らしてみました。
このスピーカーが届いた時、即座に3号館に展示しているMinima
Vintageと入れ替え、聞いてみた。CDプレーヤーとアンプにはMinima
Vintageと抜群に相性の良いBLADELIUSのSynとTyrをそのまま使ったが、音が出た瞬間、ちょっとがっかりした。Minma
Vintegeが「本革の質感」だとすれば、Toyは「紙」のように感じられたからだ。
しかし、注意深く聞くとどうやらその音は、Toy本来の音ではなさそうだ。試聴機を送ってきた輸入代理店に電話して確認してみると、やはり!送ってきたToyは、ほとんど新品だった。
ほっと胸をなで下ろして、そのまま鳴らし込んで行くことにする。
“Toy”は鳴らし始めて数時間くらいから変化が始まり、24時間が経過する頃には最初とはまるで違う音に変化した。最初はパサパサとしていた音に潤いが出て、軽くて不足しているように感じた低音にも柔らかさや厚みと広がりが出て来た。
それから約1週間鳴らし続けて音質テストを開始したから、今からレポートする音質は、間違いなく"Toy"本来の音のはずだ。
Stan
Getz / Joan Gilberto : Getz / Gilberto 314 589 595-2
この曲はハイエンドショウトウキョウでもMinima
VintageとSyn+Tyrの組合せで演奏した。なぜなら、もっともMinima
Vintageに「ハマる」曲だからだ。
それをいきなり1/3の価格の"Toy"と比較するのは無理がある。Minima
Vintageと比べると低音はやはり軽く、中高音の粘り付くような艶も足りない。全体的に軽快な感じになる。
しかしそれでもToy"の音には、明らかに他メーカーのこのクラス音スピーカーには感じられない、"Sonus
Faber"の血筋を感じさせる滑らかさと艶やかさ、そして情緒深い厚みが感じられる。
"Sonus
Faber"の上級モデルと比べると、深みや重みこそ少し不足気味だけれど、ボーカルの質感の高さと柔らかさ、シンバルの心地よい切れ味、サックスの木質的な響きの良さそういった部分には、このスピーカーの良さが聞き取れる。特に声は、「肉声」の潤いと柔らかさが伴った、耳にとても心地よいものだ。
ギターは低音が不足するので、少しウクレレ?のように楽器のサイズが小さく感じられるが、弦の乾いた音と胴の美しい木質的な響きは上手く再現されている。
パーカッションはリングラジエターの効果で、芯があって切れ味も良い。ここにMinima
Vintageが採用しているソフトドーム型ツィーターとの鳴り方の違いがハッキリと感じられる。
ピアノは、アップライトピアノ的にやや重みが不足するが、木質的な柔らかさと独特の音色は上手く再現されている。
サックスは、リードを咥える口の動きが感じ取れるほど、音色が饒舌に変化した。
Minima
Vintageがその名の通りの「実りきった音」を聞かせる“Vintage”モデルなら、"Toy"は、それよりも軽いライトボディーな音だ。どちらも最高の葡萄畑から作られた「出来の良いワイン」の"かをり"を感じさせるのは、同じだが、Minima
Vintageの方が熟成の年月が長くふくよかだ。Toyは取れたてのワインのように新鮮でフレッシュな味わいを持っていた。
AIRBOW SA15S1/Master
AIRBOW PM15S1/Master
ここでアンプをMinima
VintageよりもCremona Auditor Mと相性の良かったAIRBOWに変えてみる。
Minima
Vintage と Auditor M の比較試聴ではリングラジエター型ツィーターの音は、BLADELIUSよりもAIRBOWとの相性が良いと感じられたからだ。
CD+AMPをAIRBOWに変えるとボーカルや伴奏がぐっと前に出てくる。Syn+Tyrではスピーカー後方に展開したステージが、"Toy"が挟む空間(2本のスピーカーの間)に定位するようになる。
明瞭度が増して、言葉の端々や子音の細やかさがハッキリと再現されるようになる。
音質はハッキリと現代的になるが、それが悪い方向に行くのではなく、解像度の大幅な増加、明瞭度の大幅な改善によって、目の前で演奏が繰り広げられているような錯覚に陥るほど生々しい音になる。
中音の厚みが増し、また低音方向への周波数レンジも拡大するため「小型スピーカーだから低音が切れている(あるところを境に低音がなくなっているように感じる)のは仕方がない」という感覚が消えて、低音が自然にローエンドまで伸びているように感じられる。
サックスはアルトからテナーになったように音に余裕が出て、楽器のサイズが大きく感じられるようになる。
パーカッションの金属を叩く音が、よりそれらしくなる。
ピアノも演奏会で良く聞く「それらしさ」が、より強く感じられるようになる。
情に流されながら聞いていた「甘めの演奏」が、プロっぽい正確さを感じさせる「芸術性」を帯びたものへと変化する。
Minima
Vintageでは、AIRBOWの持つ「モニター的な=正確さが高まる」方向(Syn+Tyrが特別に甘すぎるのだけれど)への変化はスピーカーの持ち味を殺ぐことになり、あまり面白くなかったのだが、Cremona
Auditor Mと"Toy"に搭載されているイングラジエター型ツィーターの「現代的な味」には、AIRBOWの音がより良くマッチし、その良さが引き出された結果となった。