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ベルトドライブ方式レコードプレーヤ-TEAC tn-570 バンデンハル MCカートリッジ 音質 試聴 比較 評価 レビュー 試聴

 van den Hul(バンデンハル) MCカートリッジ

VDH-MC-10S、VDH-FROG、VDH-CRIMSON、VDH-COLIBRI 音質比較テスト

  

すでに輸入が開始されてから久しい、Esoteric扱いのvan den Hul(バンデンハル)製MCカートリッジの全ラインナップの音質テストを行いました。Esotericが扱うvan den Hulの製品は4モデル。価格は、約20万円から80万円超とかなり高価です。

今回の試聴は、TEAC TN-570の試聴に続いて行いましたので、比較試聴に使ったプレーヤーは「TEAC TN-570」とやや力不足の感は否めないのですが、今回は「YouTube 逸品館チェンネル」に録画をアップロードしましたので、実際にそれぞれのカートリッジの音をお聞きいただけます。

van den Hul(バンデンハル) VDH-MC-10S メーカー希望小売 185,000円(税別) (メーカーホームページ

van den Hul(バンデンハル) VDH-FROG メーカー希望小売 330,000円(税別) (メーカーホームページ

van den Hul(バンデンハル) VDH-CRIMSON メーカー希望小売 640,000円(税別) (メーカーホームページ

van den Hul(バンデンハル) COLIBRI メーカー希望小売 820,000円(税別) (メーカーホームページ

van den Hul MCカートリッジの主な仕様比較

型 番

VDH-CRIMSON

VDH-FROG

VDH-MC-10S

VDH-COLIBRI

型 式

ムービングコイル

ムービングコイル

ムービングコイル

ムービングコイル
スタイラス形状

2μm×85μm
(超偏平楕円針)

2μm×85μm
(超偏平楕円針)

3μm×85μm
(超偏平楕円針)

XCP-HO&XCM-HO

XGP&XGM

出力電圧(1kHz5.6cm/s)

0.65mV

0.65mV

0.65mV

0.30mV
0.38mV

針 圧

1.4g〜1.6g

1.35g〜1.6g

1.35g〜1.5g

1.35g〜1.5g

再生周波数帯域

5〜55.000Hz

5〜55.000Hz

5〜55.000Hz

5〜65.000Hz  
チャンネルバランス

0.3dB以内

0.3dB以内

0.5dB以内

0.5dB以内

チャンネル
セパレーション

1kHz

36dB以上

35dB以上

35dB以上

35dB以上 30dB以上
10kHz

30dB以上

33dB以上

30dB以上

2.5kΩ〜47kΩ

推奨負荷インピーダンス

25Ω〜200Ω

200Ω〜500Ω

200Ω〜500Ω

500Ω〜1kΩ

質 量

8.75g

8.2g

8.2g

6g(Pタイプ)
樹脂製ボディ
7.4g(Mタイプ)
 金属製ボディ
コイル線材 (*)

MCゴールド

MCシルバー

MCシルバー

MCカッパー MCゴールド

カンチレバー材

ボロン

ボロン

ボロン

ボロン

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試聴環境

TEAC TN-570 メーカー希望小売 OPEN(税別) (メーカーホームページ

TEAC TA-TS30UN メーカー希望小売 OPEN(税別) (メーカーホームページ

Teac(ティアック)アナログ製品のご購入お問い合わせは、経験豊富な逸品館におまかせください。

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今回の比較試聴は、YouTube 逸品館チャンネルで、ご覧いただけます。

試聴ソフト(アナログ・レコード)

シンセサイザーも伴奏に使われるPOPS系のソフト。アマンダさんの独特な声の太さや甘さ、シンセサイザーの音がどのように再現されるかがポイント。
同タイトルのCDが発売されているので、アナログデジタル比較が可能。

鋭いパイプオルガンと金管楽器の音、柔らかい人間の声、男女混声コーラスの複雑な響き。それぞれの音の分離と広がりをチェックします。SACDハイブリッドソフトのCD層の音声をリッピングして使いました。
現在発売中。

アナログレコードの最盛期に発売されたダイレクトカッティングの優秀録音盤。
名ばかりの優秀録音盤もあるが、このディスクに収録されている楽器の音、人間の声はとても自然で情報量が多く、音質の比較に適している。

音質評価

TEAC TN-570に付属するカートリッジとは、価格が大きく違うので当然ですが、音の細やかさ、クッキリ感、細やかさが比べものにならないくらい向上しました。
シンセサイザーは高低音の両端がしっかりと伸びきって、スッキリした分離の良い音で鳴ります。ボーカルは中域の濁りや膨らみが消えて、ガラスを想像させる密度が高くクリアな音で鳴ります。

ただ、音の良さには満足するのですが、TN-570の性質もあるのでしょう。レコードにしては艶や響きが少なめで、CDを聞いているような雰囲気の鳴り方を物足りなく感じます。
カートリッジの交換で音質が大きく向上することは予想していましたが、それを大きく上回る音質の向上に驚きました。付属のカートリッジと音色や音のバランスがほとんど変わらないことには、驚かされました。どちらも良くチューニングされているのでしょう。

よどみなくスッキリと立ち上がり、すっと消えて行くだけだったシンセサイザーの音に、わずかな「揺らぎ」が感じられるようになりました。ボーカルも、ビブラートがより細かく聞き取れ、デリケートさが増しています。MC-10Sでは、やや平坦だったボーカルの表情に変化が出て、ボーカリストの力量が一段と上がりました。
弱音のデリケート表情の再現が格段に向上し、それまでは伝わらなかった細やかな表情の変化がハッキリと伝わります。
ボーカルと伴奏の分離感も向上し、MC-10Sでは音が混ざって「聞き取れなかった(伝わらなかった)」音の端っこの部分まで、ハッキリと聞き分けられるようになりました。

全体のバランスは変わりませんが、動画の「画素」を4倍程度にアップしたような、質感の向上が実現しました。

VDH-FROGでも相当良いと思えた音ですが、滑らかさ、色彩感がさらに向上しました。低音や高音もよりしっかりと出てきます。けれど、TN-570がボトルネックとなっているのか、価格ほどの差は感じられません。
それでも同じ部分をリピートで聞き続けていると、FROGでは「熱く」感じなかった音楽の温度感が向上し、演奏が体のより深い部分に浸透し、情感が動かされるようになりました。
音よりも「伝わり方」が、変わっています。それに気づくと、FROGには戻りたくなくなりました。

COLIBRI(ortofon製ヘッドシェル)

メーカーから拝借した試聴機には「ortofon」の同じヘッドシェルが装着されていましたが、最上級モデルのCOLIBRIには、さらに上質なヘッドシェル(生産完了品)が組み合わされていました。ヘッドシェルが違うと、音質評価に影響が出るので、まず他の3モデルと同じヘッドシェルに付け替えて試聴を行いました。そして、その後でヘッドシェルを元に戻してもう一度試聴を行いました。
CRIMSONと比べて、やはり「出てくる音=聞こえる音」は、それほど大きく変化しないようです。64万円もするCRIMSONでは当然ですが、最も廉価なMC-10Sでさえ「音の立ち上がりが遅い(レスポンスに問題がある)」とは、全く感じられませんでしたが、カートリッジをCOLIBRIに変えると、音の出方がさらに「軽く」なりました。COLIBRIの音は、質量がほとんどゼロの「羽毛」を想像させるほど、あるいはそのわずかな重量さえ”ない”と感じさせるほど、音が「軽く」出てきます。カートリッジの駆動系質量が消えてしまったかのようです。

音の裏側に隠れていた音が全部聞こえるように思えるほど、解像度は高く、音場は澄み切っています。左右の音の分離や周波数レンジ、ダイナミックレンジに優れるのはもちろんですが、質感の異なる楽器やボーカルの分離感がとても高いことに驚かされました。この音なら、相当高価なCDプレーヤーでCDを聞くよりも「質感」「表現力」共に高いでしょう。
けれど、私がレコードで聞きたいのはそういう「音質の高さ」ではなく、「レコードらしい暖かさ」です。van den Hulの音作りは、レコードの溝に刻まれた「音」をそのまま取り出す方向です。カートリッジが響きを付加することがありません。現代的な高性能サウンドに仕上げられています。

COLIBRI(生産完了ヘッドシェル)

カートリッジはそのままに、ヘッドシェルをCOLIBRIの試聴機に付いていた「高そうなヘッドシェル」に変更しました。カートリッジとシェルを繋ぐ「リード線」も、さらに良さそうなものが付いています。
クリアで歪みが少なく、音の純度の高さが伝わってきた音に「わずかな響き」が付加されます。特に感じるのは、曲中で鳴っている「パーカッション」の音が、明らかに木質的になることです。
けれど、今回聞き比べたヘッドシェルによる音の違いは、そういうわずかな部分だけで、音の本質にはほとんど影響を与えないように感じました。

デジタル的な音が多用される「Dreaming」と違って、すべての楽器がアコースティックで「アナログマスタ−(オープンリール・テープレコーダー)」で録音されたこの曲では、どのように違いが反映されるでしょう。
10万円強というカートリッジよりも安いプレーヤーと組み合わせているにもかかわらず、付帯音のない安定した音が出てくることに驚きます。ACモーターでなく、あえてDCモーターを使った精密な回転の制御、人造大理石と高密度MDFを組み合わせた共振しにくい強固なキャビネットに加えて、付属するS字型アームの工作精度も高いのでしょう。揺らぎやがたつきによる、濁った響きや音の揺らぎが全く感じられません。パイプオルガンの低音が、しっかりと最低域から再現されることが、TN-570のポテンシャルの高さを証明しています。
それに対して、Dreamingでも感じた「響きと艶の少なさ」は、レコードを変えても不満が残ります。それぞれの音は細かく、分離にも優れ、空間も見通しが良いのですが、「演奏会場の空気感」や「人間の気配」が伝わってきません。自動演奏されている曲を聴いているような雰囲気です。

カートリッジをVDH-MC-10SからFROGに変えると、パイプオルガンの音質が改善し、低域の量感や高域の伸びやかさが向上します。けれど「どこか硬い感覚」は、そのまま残っています。
コーラスが入ってきたところでの「立体的な音の広がり」にも不満を感じます。
録音が優れたこの曲は上手く鳴らすと、CD/SACDでさえ「ホールの中央で聞いている」ような、体が包み込まれるような立体的音の広がりが実現します。今出ている音は、左右には広がりますが、前後方向の広がりが不足して、モノラルを聞いているようなイメージです。
Dreamingでは、MC-10Sに戻りたくないと感じさせてくれたFROGですが、この曲ではMC-10Sとの差がそれほど大きくないように感じました。

MS-10S 185,000円(税別)、FROG 330,000円(税別)、CRIMSON 640,000円(税別)と聞き比べていますが、このレコードでは、価格ほどの差が感じられません。普段の比較試聴では、DreamingよりもCantate Dominoの方が「音の違い」が大きく反映されるだけに、この結果は意外です。
もちろん、音は良くなっているのですが「体が包み込まれるような立体感が再現されない」という、最も大きな問題が解決しないのです。
レコードに求めるのは、艶やかさと響きの豊かさ。今聞いている音には、それが欠けています。

820,000円(税別)のCOLIBRIにカートリッジを変えても結果は同じです。
音場空間が拡大しないので、カートリッジの交換で音が細かくなり、音の密度が高まっても、それが「音楽表現の大きさ」に変換されません。
音楽が躍動するために重要なのは、「運動」の大きさです。
空間サイズが固定されたままでは、音がどれだけ細かくなっても、それが「運動」の大きさに変換されません。それどころか下手をすると、狭いところに音がぎゅうぎゅうに押し込まれる感じがして逆にうるさく不愉快な音になってしまいます。それでは、下手なデジタルと何ら変わりがありません。

COLIBRI(生産完了ヘッドシェル)

Dreamingでも感じたのですが、こちらのシェルの方が「音の立ち上がりが甘く(やや遅く)」なるようです。その結果、音の輪郭が甘く(緩く)なって、響きが増えたように感じられますが、良く聞いてみると明瞭度の低下によって、パイプオルガンの細かい音が聞こえなくなっています。切れ込みの鮮やかさが後退するので、楽器などの力強さも少し減退しているように思います。
けれど、ハーモニーの分離感、特に男性と女性の声の違いは、このシェルの方がハッキリと分離します。

けれど、それほど大きな差ではありません。

今回のレポートは、リアルタイムで書いているのではありません。すでにデジタル化して取り込んだ、それぞれのカートリッジの違いを比較しています。そのせいで「音の違いが分かるにくいのでは?」と思い、念のため試聴に使っているDACを変えました。

ここまでの試聴は、TASCAM US144という2万円程度のUSBインターフェイスにAIRBOW Reveal 402 Specialを直接繋いで聞いていました。ここからは、AIRBOW HD-DAC1 SpecialにReveal 402 Specialを繋いで行います。

DACの変更によって音の細やかさや色彩感は向上しましたが、求めていたアナログ・レコードらしい「豊かな広がり」・「デジタルを超える立体感」は再現されません。伴奏のピアノと峰純子さんの声が、左右のスピーカーを繋ぐ横の線上に並んでいます。
どうしても「空間が広がらない」ことが、音楽を心地よく再現することを阻んでいます。
それぞれの音は細かく、明らかにCDよりも質感が高いだけに、残念です。

このレポートは、Mac BookとDACをUSB接続して、HQ Playerで同じトラックをリピート再生し、それを聞きながら書いています。DACをTASCAMからAIRBOW変えたときに、「一曲リピート」から設定が「順次再生」に切り替わり、同じトラックがリピートされている思っていたのに、実は知らない間に次のトラック(次のカートリッジ)へと曲が進んでいました。だから、違うカートリッジの音を聞いているのに、レポートを書きながらそれに気づきませんでした。

つまり、「レポートを書きながら」聞いていると、18.5万円も33万円も64万円も「同じ音」に聞こえたのです。試聴環境と耳には自信があるだけに、違いが分からなかったことにには、ちょっとショックを受けました。

そこで設定を「一曲リピート」にセット戻し、今一度それぞれのカートリッジの音を真剣に聞き比べました。

「Here's That Rainyday / 峰純子」のレコードの再生で、カートリッジをMC-10SからFROGに変えると、ピアノ伴奏の左手の音(低音)がより厚みを持って重量感が出ます。ボーカルも間近で聞いているように近づき、細かいブレスまで聞機とれるようになります。けれど、そういう音の違いはあるものの「情感の深さの伝わり方」は、ほとんど変化がありませんでした。

本当に良い音でレコード(音楽)が鳴り出すと、思わず仕事を忘れて「演奏にぐいぐい引きつけ」られ」す。けれど、van den HulとTEAC TN-570の組み合わせには、そういう「魅力」がないから、トラックが変わった(試聴しているカートリッジが変わった)ことに気がつかなかったのです。

こういう音では、探せば違いは見つかりますが、探さなければ違いは見つかりません。

つまり、オーディオマニアでなければ、音の違いは分からないと言うことです。

デジタルの音とは違いますが、アナログ・レコードと聞いて想像するほど甘い音でもありません。

同じように聞こえる無機質な音から、わずかな違いを探す作業にいささか疲れてきました。

カートリッジをVDH-FROGから、CRIMSONに変えると、低音の量感、音の細やかさに違いはあります。
けれど「伝わり方」、情感の深い再現が苦手な部分は、まったく変化がありません。
同じ話を何度も聞かされている気分です。

変化がない音を、延々と聞き続けるのは、本当に疲れることです。

又、その些細な変化を乏しいボキャブラリーからひねり出してレポートを書こうとするので、さらに疲れてしまいます。

本当にカートリッジを間違えずに録音したのか、疑いたくなるほど、このレコードでは音がほとんど変わりません。
もちろん、耳を澄ますとボーカルの細やかさと抑揚の大きさに違いが感じられますが、このわずかな違いでは、価格差を肯定できません。

ヘッドシェルを交換すると、音が潤ってしっとりとします。ピアノとボーカルにも立体感が出てきました。
この音なら!と思ったのですが、聞き続けていると「高音の鈍さ」が気になり始めました。

ortofonのヘッドシェルは、スッキリと切れ味の良い高音です。このヘッドシェルに変えると、立ち上がりが遅くなって音は柔らかくなりますが、倍音の最高域が伸びなくなって、音の端っこが丸くなってしまいます。それが、気持ち悪いのです。

VDH-COLIBRIには、82万円という高価格を肯定できるほどの「音の良さ」は、感じられます。けれど、82万円にしては「味わいがあまりにも薄い」のです。
少し前に行った、Thorensによる「カートリッジの比較」や、Project X Perience JPNによる「カートリッジの比較」も同じフォノイコライザーと録音環境を使いましたが、それぞれの音の違いはしっかり出たので、カートリッジに問題がないのだとすれば、プレーヤーが原因ということになります。けれど、TEAC TN-570と付属品カートリッジでは、音があっさりしているとは感じたものの、これほど強い不満を感じなかったのも事実です。ちょっと混乱してきました。

100万円に近いカートリッジを聞いているのに、音楽がちっとも楽しめない。

なんだかスッキリしない終わり方ですが、それが感じたことです。

2017年9月 逸品館代表 清原裕介

 

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