パワーアンプ 3モデル、DACコンバーター 2モデル 聞き比べ
First
Watt F8
audiolab 8300XP
AIRBOW AP-505
Special、HD-DAC1 Special、UD-505 Special
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試聴環境
聞き比べは、AIRBOW
ミュージックPC「MBN-N54 LTD2」とそれぞれのDACをUSB接続し、音声可変出力を使ってそれぞれのパワーアンプと直結しました。試聴した音源は、MBN-N54LTD2が搭載する、Signalist
HQ
Player4で最適な音質にアップサンプリングして入力しています。スピーカーは「Focal
Sopra No.2」を使いました。
USB接続 →
AIRBOW
MBN-N54LTD 販売価格 385,000円(税別) (現金で購入 )・ (カードで購入 )
AIRBOW
HD-DAC1 Special 販売価格 150,000円(税別) (現金で購入 )・ (カードで購入 )
AIRBOW
UD-505 Special 販売価格 195,000円(税別) (現金で購入 )・ (カードで購入 )
Sopra
NO.2 メーカー希望小売価格 1,560,000円(ペア・税別)
(詳細はこちらからご覧いただけます )
AIRBOW AP-505
Special 販売価格 185,000円(税別) (現金で購入 )・ (カードで購入 )
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TEAC
AP-505のカスタムモデル「AIRBOW AP-505 Special」は、70W(8Ω)の出力を持つ小型軽量のD級パワーアンプです。
見かけは小さいパワーアンプですが、RCA/XLR
各1系統の入力を備え、背面パネルの切替スイッチでBTL 250W(8Ω)のモノラルパワーアンプとして使うこともできる優れものです。仕上げは、シルバーとブラックから選べます。
小型軽量のボディーから出てくるとは思えないほど充実した低音と、AIRBOWらしい滑らかで艶っぽい中高域が両立する、侮りがたいモデルです。
audiolab
8300XP メーカー希望小売価格 320,000円(税別) (現金で購入 )・ (カードで購入 )
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audiolab
8300XPは、出力
140W(8Ω)のトランジスター方式ステレオパワーアンプです。入力はRCA/XLRが各1系統で、背面パネルの小さなスイッチで入力が切り換えられます。
スピーカー出力端子は、各チャンネルに2個ありますが、パラレル(並列)に接続されているだけですから、どちらに繋いでも音は同じです。仕上げは、シルバーとブラックから選べます。
32万円(税別)の価格では、なかなか満足できる製品が見つからないのが最近のピュアオーディオの世界です。しかし、このアンプは自信を持っておすすめできます。「解像度と分離感」の高さ。中低音の力強さ、大きく広がる立体的な音場空間などは、同価格帯のプリメインアンプでは実現しないレベルだと、一音が出た瞬間に感じられます。
アンプによる色づけも少なく、癖のない音で音楽が生き生きとストレスフリーに再現されるのもこのアンプのおすすめポイントです。
背面パネルの設定スイッチでBTL動作に切替えれば、出力480W(8Ω)のモノラルアンプとしてお使いいただけます。
First
Watt F8 メーカー希望小売価格 520,000円(税別) (現金で購入 )・ (カードで購入 )
First Watt F8 音質チェックをYouTube 逸品館チャンネルで見る
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First
Watt(ファーストワット)」は、トランジスター・アンプ設計の鬼才「ネルソン・パス」が彼の理想を追求するために立ち上げたブランドです。限りなくシンプルな回路で低歪み率を実現するために設計された、First
Wattのパワーアンプは、驚くほど少ない数のトランジスター(半導体)と可能な限りシンプル(段数の少ない)な回路で構成されています。
今回試聴する、First
Watt"F8"は、シングルの出力素子に「NOS東芝2SJ74 Pチャンネル」、2段のドライバーに「JFET・SemiSouth
R100 SiCパワーJFET」を使うチェンネルあたり「たった3石」で構成されるシングルエンドA級トランジスターパワーアンプです。
F8は、回路をシンプルにできること、伝達特性が滑らかであること、測定上の性能が良いことなどの利点から、CFA(電流帰還型アンプ)回路を採用します。
一般的なトランジスターアンプは、出力段のプラスとマイナスにトランジスターを使い、直流成分が発生しない設計になっています。そのため直流分を遮断する「トランス(アウトプットトランス)」が不要です(Mcintosh/マッキントッシュは、アンプの高級機に安全性と音作りのためあえてアウトプット・トランスを使うのが伝統ですが)。
しかし、プッシュプルと呼ばれるこの方法では、プラス側とマイナス側で異なるトランジスター(PNP/NPN)を使わなければならず、またプラス側とマイナス側の回路が切り替わる「中点(ゼロボルト)」を信号が横切るときに「ゼロクロス」と呼ばれる歪みの発生が避けられません。F8はそれらの歪みを嫌いあえて「1つのトランジスター」でアンプを動作させています(シングル駆動)。
シングル駆動の場合、出力に発生する「直流」を遮断しなければなりません。それには「アプトプットトランス」もしくは「大型のコンデンサー」を使う2つの方法がありますが、F8は最終段にロールオフ周波数1Hzの大型電解コンデンサとポリプロピレンコンデンサーを組み合わせて使っています。音楽信号をコンデンサーに通すと(コンデンサーカップリングすると)音が悪くなりそうですが、2Wayや3WayなどのマルチWayスピーカーも帯域分割(ネットワーク)にコンデンサーカップリングを使っていますから、ご心配には及びません。
F8は、信号の入力にもコンデンサーカップリング(カップリングコンデンサー)を1つ使いますから、入力と出力に1ずつの「合計2つ」のコンデンサーが信号経路に入ることになります。
F8のシンプルな回路は、シングル駆動の真空管アンプによく似ています。違うのは、動作電圧の高い真空管アンプでは、出力にはコンデンサーではなく、トランスが使われるところです(耐電圧の高いコンデンサーを使うと、アンプがすごく大きくなります)。
シングル駆動の真空管アンプのように繊細で透明な音質を発揮するF8は、ピュアな音を実現するだけではなく、トランジスターアンプならではの高い「ダンピングファクター」と優れた高域特性を実現し、さらにネルソン・パスがこだわる「歪み値」も真空管アンプよりずっと優秀です。優れた特性を実現するためにF8は回路のオープンループゲインを10dB減らし、フィードバックを5dB減らしていますが、それによってゲイン(増幅率/感度)が「通常のアンプよりもかなり低く」なっています。
今まで使っていたパワーアンプをF8に変えると、プリアンプのボリュームを「2倍くらい大きく」しないと同じ音量になりません。普通はこんなにプリアンプのボリュームを上げることはなく、なんだか精神衛生上よくないのですが、プリアンプは「音量を上げる(ボリュームをより大きく開ける)」方が音質に良い影響を与えますから、音質的にはパワーアンプの増幅率が低いのは悪いことではありません。
また、各チャンネル25W(8Ω)をA級回路から引き出すF8は、筐体温度がかなり高く(実測で約50度程度、熱くて長時間触っていられないくらいの温度)なりますので、この点にも注意が必要です。
このように相当「特殊」な構成を持つF8ですが、先に書いたようにシングル駆動の真空管アンプと同じように魅力的な、「繊細で滑らか」な中高域が実現しています。低域も25Wという出力から想像するよりも遙かに豊かです。First
Wattには、さらに出力の大きなモデルもありますが、あえて出力を欲張らず「トランジスターの数を減らした」このF8にこそ、その真価を感じます。
25Wというご家庭で音楽を聞くためには十分名出力を持つF8は、数倍以上高価なパワーアンプが顔色を失うほどの素晴らしいサウンドをあなたのスピーカーから引き出してくれるでしょう。
2021年8月 逸品館代表 清原
裕介