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アンプの名門ブランド「スレッショルド」のチーフデザイナーとして数々の名作アンプを設計した、マイケル・ブラデリウスが2003年母国のスウェーデンに設立した彼自身のブランドが"Bladelius"です。Bladeliusの特徴は、シンプルな回路と高級なパーツの組み合わせによりきめ細かな音質が実現することです。
Tyr Mark2とThor Mark3にはDCカップリング設計のフルバランス回路と、シンプルな2パラレルプッシュプルの出力回路が採用されます。電源には大型のトロイダルトランスと大容量のフィルターコンデンサーが使われ、シンプルな回路と強力な電源が組み合わされたアンプに仕上げられています。
逸品館がお薦めしてきたTyr初代モデルの音の滑らかさや暖かさはスレッショルドの純A級モデルを彷彿とさせ、柔らかく上質な雰囲気で音楽を再現してくれました。特にSonusFaber Minima Vintageとの組合せが素晴らしく、何とも言えない甘い雰囲気で音楽を聞かせてくれましたが、1年すこし前に生産が完了しました。それから少し間が空いて2012年末にようやく後継モデル"Tyr Mark2"が発売されると同時に、兄貴分のThorがMark3にモデルチェンジしました。
今回、その"Tyr Mark2"と"Thor Mark3"の両機を一堂に会し、聞き比べを行いました。
音質テスト
今回のテストには、アンプを比較するとき基準に使っているVienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)に加え、旧Tyrと抜群のマッチングを聞かせてくれたSonusFaber Minima Vintageを追加して、聞き比べを行いました。
最初プレーヤーにAIRBOW SA15S2 Masterを組み合わせたのですが、Tyr Mark2とのマッチングが思わしくなかったため、今回はより音の癖が少ないAIRBOW K07 Ultimateを使いました。
JAZZ/ Come and Away with me | クラシック/新世界 | ジャズ/ Getz/Gilberto |
ノラ・ジョーンズ | 第一楽章〜 | The Girl From Ipanema |
試聴会や音質テストで良く用いますが、このソフトはあまり録音が良くありません。理想的ではない標準的なソフトに収録されたボーカルや楽器がどのように再現されるか?このソフトが楽しめるならば、ほとんどのJAZZ系の音楽は問題なく聴けることになります。 | 大編成の交響曲が自然な空間と共に納められて、音が多くなったときのシステムの処理能力(音を混濁させずにどこまで細やかに再現できるか?)や楽器の音色(色彩感)のコントラストの再現性をチェックしました。このソフトが満足に鳴れば、AVアンプでも本格的なクラシックを楽しめます。 | 明瞭な音で収録されたスタジオ録音のボサノバ。シングルレイヤーのSACDで発売されたソフトで、楽器やボーカルが非常に生々しく収録されています。 アナログ時代のリッチで厚みのあるサックスとボーカルがどのような雰囲気で再現されるか?を聞くことでアンプの持つ艶や色気を判断できます。 |
Bladelius Tyr Mark2 総合評価
CDプレーヤーSyn(生産完了品)とTyr Mark1(生産完了品)の組み合わせで音楽を聞いた時、なんと優しく芳醇なサウンドなのだろうと思いました。その音にふと思いついて同じ音色を持つMinima Vintageを組み合わせると、私が理想とする「機械(電気)の存在感が完全に消えた暖かく芳醇なサウンド」が目の前に現れました。その音の印象は非常に強く、今も耳の奥に残っています。
モデルチェンジしたTyr
Mark2はその印象からはほど遠く、外観こそ同じですがまったく方向性の違うアンプに仕上げられていました。HiFi基調の強い癖のないストレートなサウンドで、その薄い色の中にデリケートな情緒が秘められています。こってりとした大トロのような味わいを持っていたTyr
Mark1とは全く違う、繊細であっさりした白身の味わいがMark2の持ち味です。この2機種を同列に比べることは出来ませんし、大トロを求めていた私が白身を食べて満足できるはずもありません。
Tyr Mark2は、Esoteric I Seriesにも似たHiFi基調の音質です。今回のテスト環境はそれを生かすことが出来ず芳しくないものとなりましたが、決してTyr
Mark2の音が悪いと言うことではありません。その癖のない表現力や、薄型のボディーから繰り出されるとは思えない充実した低音に魅力を感じる方も少なくないと思います。
Thor Mark3 | ||||||||||||||||||||
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Bladelius Thor Mark3 総合評価
音楽を再現すると言うことは、良い音を鳴らすと同時に「演奏や音楽のバリエーション」をきちんと描き分けられなくてはなりません。Aという歌手とBという歌手がまったく同じ歌を同じ節回しで歌ったとしても、それぞれから伝わるイメージが明らかに異なるのが理想です。時々、聞き慣れた曲を大幅にアレンジして演奏したり、歌ったりしているミュージシャンを見かけますが、残念ながら彼らは「実力不足」なのかも知れません。なぜなら、本当に個性的な実力があれば、スタンダード・ナンバーを真正面から古典的に演奏し、あるいは歌ったとしても、その演奏者ならではの感動が伝わるはずだからです。
オーディオ機器もそれと同じです。新しい素子や、新しい回路、特別な内容でなくても、素晴らしい音質の製品を作ることができます。逆に回路やパーツ、方式などを自慢する製品こそ、その実力を疑うべきです。しかし、残念なことにどこの世界にも「うたい文句」に騙される人が多くいて、そういう声に紛らわされて本物を見付けられないことが多いようです。
Thor Mark3は、技術・外観・機能面ではありふれた地味なアンプかも知れませんが、3世代(Mark3)に渡って磨き上げられた音楽再生機としての高い実力を持っています。接続されるプレーヤーや組み合わせるスピーカーに左右されず、しっかりとした表現力で音楽を奏でるこういう音のアンプを作るのはなかなか難しく、作ろうと思ってもできないことのほうが多いのです。
Thor Mark3の高い完成度に触れた後では、Tyr Mark2とThor Mark3が同じ設計者から作られたアンプだとは思えません。Tyr Mark2が悪いとは言いませんが、Thor Mark3は、それとは比べられないほど大変良く出来た、素晴らしいアンプに違いありません。
2012年12月 逸品館代表 清原 裕介
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