TAD−M1 インプレッション
PIONEERの本社にて「TAD−M1」を試聴しました。
TAD−M1とは、PIONEERの最高機種として従来“exclusive”のブランド名で愛されてきた「超高級スピーカー」の最新モデルです。
従来のホーン方式から、より低歪みでトランジェントの良い「どこまでも純粋なサウンドの創造」をめざして、ユニットの設計からエンクロージャーに至るまで完全な「ニューモデル」として生まれ変わりました。
TADというネーミングは、exclusiveに搭載されていた「ユニット」でおなじみの「TECHNICAL AUDIO DEVICES」から由来します。
音質は、非常にピュアでストレート。トランジェント(過渡特性)の良さは、今まで聞いたスピーカーの中で「断トツ」です。
従来のexclusive製品とは一線を画する「プロ好み」のモニターサウンドですが、繊細さと柔らかさがあり「単なるストレートなサウンド」とはまた違う良さがあります。音の細やかさ、再生帯域の広さ、定位の良さなどは、ラウドスピーカーのトップレンジに恥じない高いレベルに達していますが「セッティング」の善し悪しも非常にストレートに出ます。
実は試聴室で聞いた瞬間に「やっぱりPIONEERの音・・・」と落胆したのです。しかし、メーカーの本社に招かれていきなり「ダメですね」と言うこともできず、しばらく聞いていると「問題はスピーカーにある」のではなく「セッティングにあるのでは?」と気づきました。
そこで、弊社HPに掲載しているとおりに「左右のスピーカーの壁からの位置関係」と「周囲に配置されている機器の位置」を調整するだけで「音質はまったく別物」と言って差し支えないほど変わりました。(レーザーセッターは使用していません)
具体的には「大きかったボーカルの口が小さく」なりました。壁と左右のスピーカーの位置関係を「調整/最適化」することで、定位が改善され音源の位置関係と立体感が大きく向上しました。さらに、「やや濁り気味だった低域がすっきり」し、音楽の表情と躍動感にメリハリが感じられるようになりました。
軽いセッティングを行った後、TAD−M1は見違えるように「朗々」と鳴り出し「音質の優れた製品ほど周囲の環境に敏感」と言うことを当たり前のように「再認識」する結果となりました。
音楽の表現力や音色自体には、価格が高いので「この程度で手当たり前」と私には感じられましたが(誉め言葉です)、驚いたのは「全帯域でのトランジェントの良さ」です。トランジェントが良いと言っても、普通の人には何のことか判らないと思いますので少し補足いたします。
それは「音が出るまでのスピード」と「音が消えるまでのスピード」が非常に早いと言うことです。スピーカーから「遅れることなく瞬時に音が出て、無駄な付帯音(エンクロージャーによる響き付け)などをほとんど発生せずに音が消える」のです。まるで「ユニットが素で鳴っている」かのように「エンクロジャー(箱)鳴き」などの影響をほとんど受けません。
つまり、ユニットの慣性質量・駆動する空気の質量や粘性という「負荷抵抗(物理的なインピーダンス)」に打ち勝って「空気を確実かつ迅速に駆動することの出来るスピーカー」だけが実現することの出来る「超絶の世界」です。
小型スピーカーなら「物理的な負荷抵抗」が小さいのでトランジェントの良い製品を作ることは、そんなに難しくありません。しかし、それが大型スピーカーになると・・・とても難しいし、物量も投入しなければならないのです。
こんなふうに考えると「物理的な負荷抵抗の持つ意味」を理解して頂けると思います。卓球の球は「ピンポン球=軽い」ので、簡単にプレーヤーの間を往復することが出来ます。これが小型スピーカーの持つ「物理的な負荷抵抗」です。しかし、もし「ピンポン球」を「野球のボール」に変えたらどうでしょう?「野球のボールを軽々と打ち返す」ためには、プレーヤーの「腕」には「大きな力」が必要になります。
TAD−M1は、このような「大変力の必要な仕事」を軽々とやってのけるのです。それが、このスピーカーのすごさです。
色づけの少ないスピーカーですから、選ぶアンプやCDプレーヤによって「どのような音色」も奏でてくれそうです。同価格帯のライバルとしてはB&Wのノーチラスを思い浮かべます。「2機種を聞き比べてみたい」そういう気にさせる、実力のある製品でした。
最後に、すでにこの製品は「あるオーディオ専門店」では、すでに20%程度の割引率で販売されているようです。しかし、私は本来このような「真のトップレンジの製品」は「値引き」をするべきではないと考えています。なぜならそれは、中途半端な販売店から、20%程度という中途半端な値引率で購入したとしても「この製品の良さを発揮する」ことが「決して出来ない」からです。
「定価で販売」する見返りとして、PIONEERの「認定技術者」が全国どこでも「購入したお客様のご自宅にお伺い」し「責任を持って完全に作動させる(メーカーが保証できる音質になるまでセッティングを行う)」保証を付けることが必要だと思うのです。それが「トップレンジの製品を世に送り出す」メーカーの責任であり、プライドだと思うのです。すでにPIONEER関係者には、この進言を行っています。大きな会社故に、そうそうことは簡単ではないと思いますが、是非「世に先駆け」てそのような「素晴らしいサービス」を実現されることを切に願います。
もちろん、逸品館から「値引き無し」でこのスピーカーをお買いあげの場合には、全国どこにでも(余り離れたところは難しいことがありますが)私(清原)が、自らセッティングに出向き、最高レベルの仕事をさせて頂きます。