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レコードプレーヤー、フォノイコライザーアンプ、ターンテーブルシート音質比較

レコードプレーヤー DENON DP-500M、TEAC TN-570

フォノイコライザーアンプ QUAD QC-24P、Phasemation EA-350

ターンテーブルシート TEAC TA-TS30UN、FunkFirm Acromat SL1200

間違いだらけのアナログブーム

最近、ブームが到来している「アナログ」ですが、再生方法すら知らない若い女性が「ジャケットの雰囲気」で「レコードを衝動買い」することもあると聞きます。けれど、レコードを聞くためには「再生装置」が必要です。その装置は、時計と同じように機械仕掛けで動くので、「精度の高さと音質」は比例します。つまり、価格が高いほど音が良い「可能性が高い」のですが、それは決して正しい答えではありません。

レコードの再生について詳しくは「audio-technica レコードナビ」をご利用下さい。

私は「オーディオの音楽再生」を「絵画」に例えることが良くあります。例えば、ある「人物」を表現するとき、最高性能のカメラで撮影した「写真」よりも、巨匠が鉛筆一本で描く「人物」のほうが、その為人を直感的により正しく強く伝わることがあります。風景画も写真よりも、その時の「雰囲気」をより濃く伝えることがありますが、それは「人間が意図的に情報を取捨選択すること」によって、雰囲気をより強く伝えられるからです。これこそが「芸術」の本質です。

オーディオは、技術と芸術の両面を持ちます。

だから「安価な装置」から「素晴らしい音楽を再現」することが可能です。逆に、高価だから、音質が優れているから、素晴らしい音楽を再現出来るかというと決してそうではありません。

ここから先は、少し話しが難しくなります。

オーディオ機器には「歪み」がつきものです。「歪み」とは、元々そこになかった音、つまり「あってはならない音」です。また、アナログはデジタルよりも遙かに歪みが多い技術で、例えばステレオカートリッジでは、左右チャンネルの音は盛大に混じり合います。こんなに大きな「歪み」は、数千円のデジタルプレーヤーですら発生しません。しかし、人間が聞きながら装置を作り込むことで、この「歪み」を「音楽」として聞かせられるようになります。

人間にとって、どんな音が心地よく音楽を伝えるのか?安い装置から素晴らしい音楽を再現出来るのはなぜなのか?その理屈は、巨匠が鉛筆で素晴らしい「絵画」を描けるのと同じです。

そこで、今回は「17個のカートリッジ」と「2台のレコードプレーヤー」、さらに「トランジスター方式と真空管方式のフォノイコライザーアンプ」を聞き比べることで、「どうすれば納得できる音質を引き出せるのか?」を調べることにしました。

アナログレーコードがデジタルよりも音が良いという説は、ただの「風評」にすぎません。

その前に「アナログ」が「デジタル」よりも「絶対に音が良い」という主張が間違いであることを説明しておこうと思います。

デジタルが登場したとき、先ほど例に挙げた「左右チャンネルの音が混じり合う」点に関して、デジタルレコーディングはレコードよりも「数千倍以上優れている」と主張されました。これ以外にも、ノイズが小さい、大きい音と小さい音の差(ダイナミックレンジ)が大きいなど、物理特性においてデジタルはアナログを圧倒します。つまり、デジタルはアナログよりも圧倒的に「音が良い」のです。

音は「空気の振動」です。一瞬で消えてしまうこの「音」を記録再生する方法を「オーディオ」と呼びます。初期のオーディオでは、音の振動をそのまま記録していましたが、今はマイクから出力される電気信号(記録される音)をそのまま「連続した曲線」として記録する「アナログ記録」と、曲線を「符号化(点に分解)」して記録する「デジタル記録」が使われています。

レコードを聞くためには「レコードプレーヤー」という大型で壊れやすく、消耗する装置が必要です。また、レコードそのものも傷が付いたり剃りが発生することで音質が劣化します。しかし、デジタルは消耗したり劣化する部分が少なく、アナログで潤っていた会社は、デジタルで儲けが少なくなりました。そこで、今一度「アナログを目新しい装置として販売する」ために、情報を操作して「アナログブーム」を再燃させようと目論んでいる彼らは、デジタルは曲線を点に分解して記録するため、情報が「簡略化(間引く)」されるので、アナログよりも「音が悪い」と主張します。

確かに、今でも根強く「アナログファン」がレコードを支持するのは、デジタルに比べて「雰囲気(実在感)が濃い」からでしょう。確かに、音楽の雰囲気を醸し出すために必要な「微小信号」の再現性では、レコードがCDを上回るかも知れません。けれど、ハイレゾやDSDでは、その問題もクリアされています。

それでも、アナログがデジタルを超える実在感を持つのは、先に書いたように「芸術的な情報の取捨選択」によって生み出されるものだと考えられます。つまり「デジタルよりも多い「アナログ歪み」が、雰囲気の濃さを生み出していると思うのです。

アナログレーコードの再生に欠かせない「レコードプレーヤーシステム」の音質を検証し、納得のお買い物をサポートします。

話を戻します。今回のテストの本題は「デジタルよりも良い音でレコード聞きたい」、あるいは単純に「レコードをもっと良い音で鳴らしたい」というお客様からのご要望に応えるために、「出来るだけ安価により良い音をアナログから出す方法を見つける」ことにあります。つまり「安くて音の良い製品」を見つけることが目的です。

けれどブームで売れているような数万円の装置はいくら何でも粗悪すぎて、低価格のデジタルより良い音は「絶対に」出せません。

そこで今回は、もう少し上級なモデルを使って「デジタルとは異なるレコードの風情をきちんと醸し出す」ことを目標に音質チェックを行います。

ベルトドライブとダイレクトドライブ。方式によってレコードプレーヤーの音質はどのように違うのか?

レコードプレーヤーの「回転方法」は、モーターが直接ターンテーブルを駆動する「ダイレクトドライブ」と、ベルトとプーリーを使って回転を伝える「ベルトドライブ」の2つの方式があります。経験的には「ダイレクトドライブ」は、デジタルサウンドのように明快な音質で、「ベルトドライブ」は、滑らかで立体的な音質が得られます。

それを確認するために手が出せる範囲内の価格と、親しみやすい国産品の中から、「ベルトドライブの代表として、TEAC TN-570」、「ダイレクトドライブの代表として、DENON DP-500M」を選びました。

 TEAC TN-570(ベルトドライブ方式) 販売価格 9万円前後

 DENON DP-500M(ダイレクトドライブ方式) 販売価格 8万円前後

この二つのモデルには「MMカートリッジ」が付属していますが、いずれも「audio-technicaのOEM品」です。2つのカートリッジを見比べても外観がそっくりなので「同じものが付属している」と感じました。しかし、それぞれのスペックを比べると明らかに異なります。そこで念のために「DENON DP-500MにTEAC TN-570のカートリッジを装着して聞いて」みました。確かに、TN-570付属品のほうが音は若干良かったですが、それほど大差がなかったので、それぞれのプレーヤーに付属カートリッジを装着した状態でダイレクトドライブとベルトドライブの音質差を比べても問題ないと判断しました。

フォノイコライザーアンプは、真空管とトランジスター方式によって音質はどのように違うのか?

レコードプレーヤーは決まりました。次はフォノイコライザーアンプです。

現在、アンプは「デジタル」、「アナログ・トランジスター」、「アナログ・真空管」の3つの方式がありますが、レコードの再生に「デジタル・アンプ」を使うのは本末転倒なので、今回の比較試聴には、真空管方式の代表として「QUAD QC24P(36万円)」、トランジスター方式の代表として「Phasemation EA350(39万円)」を使うことにしました。

35万円クラスのフォノイコライザーアンプは、おいそれと手が出せませんし、10万円以下のプレーヤーと組み合わせるには、明らかに「オーバースペック」ですが、フォノイコライザーがいい加減だと「カートリッジとの違い」が出にくいと考え、あえて優れた性能のフォノイコライザーアンプを選びました。
 QUAD QC-24P(真空管アンプ) メーカー希望小売価格 36万円

 Phasemation EA-350(トランジスターアンプ) メーカー希望小売価格 39万円

ターンテーブルシートにも注目しよう

今回の試聴は「カートリッジの比較」がメインですが、その前に「ターンテープルシート」にも注目しましょう。レコードの表面に触れているのが「カートリッジ(針)」で、裏面に触れているのが「ターンテーブルシート」です。

ターンテーブルシートは、オーディオ機器の「インシュレーター」に相当する働きを持っていて、音質を大きく左右します。高価なターンテーブルシートもありますが、経験上「レコードの響きを押さえ込む(ゴムや柔らかい高分子系素材の製品)」は、レコードの伸びやかさを損ない、音を暗くすることが多いので私は「天然素材でレコード本来の響きを損なわないターンテーブルシート」を好みます。最近の製品では、TEACから発売された和紙製の「TA-TS30UN(提案は私から)」やイギリス Funk Firm(ファンクファーム)のAcromat(アクロマット)SL1200が気に入っています。今回、付属品のターンテーブルシートをこの2種類の製品に変えて、音質のチェックも行いました。

試聴と録音

今回は聞き比べるカートリッジの数が多く、試聴が長時間にわたります。こんなに長い時間、多くの音源を「完全に一定したコンディションで比較できる」とは考えづらいので、フォノイコライザーアンプの出力を直接録音し「YouTubeに記録」することにしました(アップロード準備中)。

同時に行う「聞き比べ」は録音に使うUSBインターフェイスからのライン出力をAIRBOW PM12 Masterで増幅し、Focal 1028BE+AIRBOW CLT-5の組み合わせたスピーカーシステムで行いました。

比較に使うレコードは次の3枚です。

1曲目:マイケル・ジャクソン アルバム「Thriller」より、B面の1曲目「Beat It」。このレコードは、EPIC SONYの国内プレス。大学時代に買ったものです。一般的に「ダイレクトドライブレコードプレーヤー」は、音がハッキリしている(比較的デジタルサウンドに近い)と言われています。この曲では、音の鋭さや低音のハッキリした感じなど「明瞭度」や「音の広がり」を聞き比べて下さい。

2曲目:アン・バートン アルバム「サム・アザー・スプリング」より、A面1曲目の「Dream a Little Dream of Me」。パイオニアが技術供与してロブスター企画が作ったこのレコードは、究極のアナログ録音「ダイレクトカッティング」で録音されています。編集装置を使わない「ピュアなアコースティック楽器やボーカル」の滑らかさや、表情変化(ニュアンス)の細やかさを聞き比べて下さい。

3曲目:ヨゼフ・シゲティー アルバム「ヨーゼフ・シゲティーの芸術、Bach:無伴奏バイオリン・ソナタ全集」から、「Bach Violin ソナタ第一番」。最盛期のキングレコードから発売されたこのレコードは「モノラル録音盤」です。ステレオカートリッジでモノラルレコードを聞いたとき「左右チャンネル」の特性がきちんと揃っていないと、楽器が中央に定位せず左右にぶれます。バイオリンという再生の難し楽器の音の比較だけではなく、カートリッジの音響特性(左右の歪みの違いやバランス)もチェックできます。

最初にレコードプレーヤーとフォノイコライザーアンプの音質を比較

ではまず、この3曲をそれぞれのプレーヤー(付属カートリッジ)、真空管・トランジスターの2種類のフォノイコライザーアンプで聞き比べましょう。

比較する製品の主な仕様

DENON(デノン) DP-500M メーカー希望小売価格 \93,500(税別)

DENON(デノン)レコード製品のご購入お問い合わせは、経験豊富な逸品館におまかせください。

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TEAC(ティアック) TN-570 メーカー希望小売価格 OPEN  実売10万円前後

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QUAD(クオード) QC-24P メーカー希望小売価格 \350,000(税別)

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Phasemation(フェイズメイション) EA-350 メーカー希望小売価格 \390,000(税別) 

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TEAC(ティアック) TA-TS30UN メーカー希望小売価格 OPEN  実売4千円前後

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Funk Firm(ファンクファーム) Acromat SL1200 メーカー希望小売価格 15,000円(税別)

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試聴テスト

  付属ターンテーブルシート

イントロの鐘の音?は、立ち上がりが早く響きも深い。電子ドラムは乾いたサウンドで切れ味が良い。

ベースの音階やリズムもぶれない。ボーカルは少し乾いている雰囲気だが、クッキリと明快なサウンドで低音から高音までしっかり出ている。ギターの音もドライな雰囲気でややデジタルチックに聞こえる。

音の細やかさは、まずまずと言ったところだが、レコードに付きものの揺らぎ感(回転している物体から音が出ているような感覚)がなく、デジタルでこの曲を聴いている揺るぎないイメージに近い音で聞けた。

グランドピアノらしい重量感が上手く醸し出されている。ウッドベースも低く明快に鳴る。

ボーカルは子音が少し荒れていて、ニュアンスも少し浅いように感じられる。ピアノとベース、ボーカルのバランスと分離感はなかなかよい。無音部の「間」の置き方に、ダイレクトカッティングらしい雰囲気の濃さが感じられる。

最上級のアナログサウンドではないが、レコードを聞いて「やっぱりデジタルより良かった」と感じられる音は十分に出る。

バイオリンの音の「粘り」にアナログ独特の味わいがある。左右のバランスは安定していて、十分にモノラルレコードを楽しめる。

高域方向へのレンジは良く伸びているが、完全ではない。また、音の細やかさや滑らかさも、まだ物足りない。ただ、演奏はヨゼフ・シゲティーそのものとして聞こえるし、ガルネリらしい厳しい音もきちんと再現されるし、バイオリンの表面から出る音と裏側から出る音の違いもハッキリと聞き録ることが出来る。

この演奏を理解するのに十分な音質が実現している。

 

低音がしっかりしてきた。音の細やかさも向上している。

しかし、全体にリズムが重く、音楽が弾まない。元気のない、やや鉛色の空を見ているようなくすんだ音だ。QC-24Pで聞くマイケルの声のような「命の輝き」が失われている。「ウ〜」という合いの手も、なんだか首を絞められた苦しい超えに聞こえる。楽音相互の分離も後退し、音の広がりも少し小さくなっている。ギターの音も細く、苦しい音だ。

しばらく聞いていると、慣れてきて違和感が小さくなるが、「音楽の躍動感・表現力」は、QC-24Pの方が変化が大きかった。

マイケルの曲での低音はQC-24Pより良く出たように感じたが、イントロのピアノノ重厚感は後退した。

ウッドベースは太くなっているが、音がややぼやけている。ボーカルは子音の荒れがなくなって、滑らかで細やかになった。この曲では、EA-350の「音の細やかさ(音質の良さ)」が、演奏をより引き立ててくれる。

レコードを変えると、フォノイコライザーアンプの評価が逆転した。この曲では、EA-350が良かったように思える。

高音の伸びやかさやは、QC-24PがEA-350を上回っていたが、音のきめ細やかさや滑らかさはEA-350がQC-24Pを上回る。

QC-24Pの元気の良さは、高音に少し「おまけ」があったからかも知れない。フォノイコライザーアンプをEA-350に変えると、演奏の印象がより「CD」に近づいてくる。深みが出て、静けさも増す。QC-24Pは雰囲気の良さを、EA-350は音の良さを、それぞれ評価できる。どちらを選ぶかだが、音質が不十分な「PopsやRock」では、QC-24Pを選び、音質の優れるディスクではEA-350を選ぶのが良さそうに思える。

それぞれに異なる良い持ち味があり、結論は出せない。

 

直前に聞いたフォノイコライザーの印象が薄れないように、試聴するフォノイコライザーの順序を入れ替えてEA-350を先に聞く。

音量は「1KHz正弦波」で同じに合わせているが、少し音が大きくなったように感じられる。

DP-500MとEA-350の組み合わせでは、リズムが重く生命力が弱く感じられたが、プレーヤーをTN-570にすることでそれがやや改善する。低音の量感や力感はDP-500Mが一枚上手だったが、ボーカルが滑らかになり高音が伸びてきた。ギターのソロパートの音は印象が様変わりし、まるでギターアンプを変えてしまったように感じられるほど、ギターの透明感やオーバドライブ感が心地よく醸し出されるようになった。

音の細やかさ、分離感、空間の透明感、響きの良さなどは、TN-570がDP-500Mを上回り、全体としてよりレコードらしい色彩が鮮やかで、滑らかな音になった。

ピアノの打鍵感は、ややもやっとしているが、響きの複雑さや色彩感はぐっと魅力的になった。ボーカルも艶が出て、デジタルとは明らかに異なる味わいが醸し出される。

ウッドベース、ピアノから、ボーカルがスッと抜け出てくる。まるで、歌手にスポットライトが当たったように。

空間も広がり、生演奏を聞いている雰囲気。TN-570の明瞭度と低音の力感は、DP-500Mに及ばないが、レコードらしい滑らかさと色彩の鮮やかさ、混じりっけの無い透明感の高さ(濁りのない音の分離感)では、DP-500Mを大きく上回っている。

晩年のシゲティーが演奏したこの曲らしい「もの哀しい雰囲気」がより明確に再現される。心なしか、バイオリンの音も力強い。

複数の弦を同時に奏でたときの、音の複雑さや倍音構造が明確に聞き取れる。結果として、バイオリンの音がより上質になり、演奏の深みが増す。

DP-500MではCDと比較するような聞き方だったが、TN-570では演奏そのものを聞いている。バイオリンの音程やロングトーンの響きでは、DP-500Mには無かった「揺らぎ」のようなものが感じられる。けれど、それは不快ではなく不思議な安心感を覚える。

デジタルでは薄い「有機的なイメージ」、「生演奏により近いイメージ」がレコードの味わいとして伝わってきた。

 

イントロの鐘の響きが長く、音の揺らぎ(うなり)も大きい。マイケルの声は少し細くなるがハッキリとしている。

TN-570で二つのフォノイコライザーアンプを比べると、DP-500Mで聞くよりも音の差が小さくなった。また、DP-500Mとの組み合わせで感じられた、QC-24Pが「明確により良かったという印象」も薄くなっている。音は細やかで分離も優れているが、なぜか少し「べたっ」とした感じで音楽の弾みが小さい。

ギターのソロパートでは、ギターの音の良さよりも「ギタリストのテクニック」にフォーカスするような鳴り方をする。

音は違うし、こちらの方が質も高いが、イメージとしてはDP-500MにEA-350を組み合わせたときの雰囲気に近い。この曲は、DP-500MとQC-24Pの組み合わせもしくは、TN-570とEA-350の組み合わせが良かったように感じられる。

イントロのピアノの音が不明瞭に濁り始めた。ボーカルも伴奏から抜け出さず、他の音と重なっている。ウッドベースの音も

「べたっ」としてきた。

TN-570で聞くと、音の分離感はEA-350がQC24Pを上回るが、この印象はDP-500Mでそれぞれを比較したときと正反対だ。

これから「audio-technica」のカートリッジを比較しようとしているが、どのシステムを選びか迷ってしまう。それくらい「安定した結果」が出ない。音質の優劣はともかく、アナログはデジタルとは比べものにならないほど繊細で難しいことに間違いはない。

EA-350と比較して解像度が低下し、響きにも濁りが発生する。

シゲティーの演奏が、もの哀しい雰囲気ではなく、息苦しいような雰囲気に変わる。バイオリンを演奏する「精度」も低下した。

複数の弦を奏でたときの複雑さや倍音構造の精度も低下しているし、バイオリンの音そのものや演奏も魅力も後退している。TN-570との組み合わせでは、EA-350の方が明らかに良かった。

プレーヤーとフォノイコライザーアンプの聞き比べを終えて
DP-500M(ダイレクトドライブ)にはQC-24P(真空管アンプ)、TN-570(ベルトドライブ)にはEA-350(トランジスターアンプ)の組み合わせが良いと思いました。しかし、同じベルトドライブ方式のプレーヤーでも、普段聞いている「Nottingham」では、EA-350よりもQC-24Pがより好ましい音質を発揮します。
今までは、フォノイコライザーはトランジスターアンプに比べ真空管アンプが「レコードの再生」では、明らかに優位だと思っていましたが、今回の聞き比べで必ずしもそれが「方程式」になるのではなく、評価が「プレーヤーとの相性」で変わることを経験しました。
販売店として、信頼できるアドバイザーとして、こういう「結果」は好ましくありません。なぜならば、お客様からの問い合わせに「明確な返答」が出来にくくなるからです。しかし、結果は結果として粛々と受け止めます。

アナログは、「とても難しい」と言うことを再認識させられました。

ここまでの比較試聴では、機種の選択は必要ありませんでした。しかし、17個ものカートリッジを同じ条件で比較するのは、時間的に不可能です。そこで、比較に使うレコードプレーヤーとフォノイコライザーアンプの組み合わせを一つ選ばなければなりません。

その前に「ターンテーブルシート」を聞き比べることにしました。

TEAC TN-570での「ターンテーブルシート音質比較」は、すでに行ったことがありますから、今回は、DENON DP-500Mに相性の良かったQUAD QC-24Pを組み合わせで比較することにしました。QC-24PはTN-570によるターンテーブルシート音質比較でも使ったフォノイコライザーなので、Phasemation EA-350を聞き比べ使うよりも比較の整合性の点でも良いでしょう。

  

延々と試聴を続けてきて、正確な比較が出来るがやや自信が持てなくなってきた。

マイケルの声は少し細く乾いているし、ドラムも音が薄く感じられる。ギターソロの部分は、ギターのボディーの音の良さや、エフェクターの良さが引き出し切れていないように思える。けれど、イントロの鐘の音の正確で深いイメージ、それに続く楽曲の躍動感は、今まででベストに感じられる。

それは、その時々に主役となるべきパートにしっかりとスポットライトが当たっているためであり、演奏をそれらしく再現するために重要なバランスが優れているからだろう。

ピアノストの「タッチ」が実に人間的に伝わってくる。アン・バートンのボーカルも良い。ウッドベースもボーカルとピアノに実に上手くバランスしている。

どこと言って大きな特徴はないし、それぞれの「音だけを聞いている」と本物の音と僅かな乖離が感じられるが、演奏全体としてのバランスが優れているためか、そういう細部は全く気にならない。

絶対的な音質はともかく、雰囲気は生演奏を彷彿とさせる。

音の良さでは、TN-570とEA-350の組合せには敵わないが、雰囲気の生々しさではそれを上回っているように感じられる。少なくとも「シゲティーの体の動き」は、一番明確に伝わってくる。

弓を引く速度、弦との角度、体を揺らす様などが、シゲティーが目の前でバイオリンが奏でる雰囲気を伴ってしっかりと感じられる。特に弓と弦の関係が精密に再現される所は素晴らしい。この生命感と真実味にあふれたこの雰囲気の濃さは、デジタルサウンドとは一線を画していることは間違いがない。

DENON DP-500M、QUAD QC-24P(これは少し高い)、TEAC 和紙シートTA-TS30UNの組み合わせは、アナログシステムとしてデジタルにはない味わいをハッキリと感じさせてくれる良質さを持つ。

また、レコードを再生しているときの「ノイズ」が他の組み合わせよりも、明らかに小さかったことも印象的に残った。

  

低音に濁りがなく、音が澄み切っているが、少し音が重い。

音は細かくなり、レンジも広がっているが、ややがさつな感じで高音が荒れてきた。

付属のターンテーブルシートは5mm以上の厚みがあり、和紙は1mmほどの厚みしかなく、アクロマットは5mmの厚みがある。この厚みの違いが「アームの角度」に変化を与え、レコードとスタイラス(カートリッジの針)の角度が変わったことが、音質変化の一番大きな原因のように思える。

ターンテーブルマットそのものの音は、過去の比較でそうであったように、Acromat絵 SL1200が優れているように感じられる。情報量が圧倒的に多いのがその証拠だ。

ピアノの音に「コク」がでて、ボーカルも太くなるが、ウッドベースは、少しイメージが合わないところがある。

一音が出た瞬間に「音が重い」と感じられたのは、Beat Itを聞いた時と同じイメージだ。

音質は明らかに向上し、分離感も良くなっている。ウッドベースのより低い部分までハッキリと聞き取れるが、雰囲気は重くやや暗くなっている。

このディスクでも音質は明らかに向上しているが、バイオリンの倍音構造の「精密さ」が低下した。たぶん、中低音に比べ高音の明瞭度が僅かに強くなったためだろう。

「和紙」では、音の向こう側にあるものがハッキリと伝わってきたのに対し、アクロマットでは「音が出ている部分(弓と元が当たる部分)」がクローズアップされて感じられる。音源(すなわち楽器)により近づいて聞いている感じだ。音が良くなって直接音が間接音よりもバランスが強くなっているからだろう。

音質を求めるならこれで良いが、演奏をより深く味合わせてくれるのは「和紙」との組み合わせだ。

ターンテーブルシート聞き比べを終えて

DENON DP-500Mには「アームの高さを調整する機能」が備わっていません。そのため、5mm以上の厚みのある付属のターンテーブルシートを厚さ1oに満たない「和紙 TA-TS30UN」に置き換えるのは、針先が後ろ上がりになるため本来は「おすすめできない使い方」です。紙製のターンテーブルシートは、重量も付属品に比べると遙かに軽く、回転ムラが大きくなることも考えられます。

しかし、結果としては、ターンテーブルシートそのものの音質改善に加え、ターンテーブルの回転質量が軽くなったためか、あるいは針先の角度が変化したためかは分かりませんが、実にバランス良い素晴らしい音質が得られました。たった「4千円」の投資でここまで音が良くなるアクセサリーは他にはないでしょうし、ターンテーブルシートとして絶対的にも高く評価できると思います。少なくとも、このターンテーブルシートよりも「悪い音の高級品(10倍くらいの価格帯)」を複数知っています。

問題は、今回私が聞き取れたような繊細な音の変化は、一般的なオーディオマニアは「どれが正解か」が、まず断定できないことです。だから、「価格に騙されて」しまうのです。さらに、「組み合わせでの相性」がデジタルに比べ、圧倒的に大きく選択が難しいのも事実です。無責任なようですが、自分でやってみて結果を出すしか良い方法がなさそうです。

(カートリッジ比較試聴に続く〜

2019年5月 逸品館代表 清原裕介 

 

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