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audio-technica MCカートリッジ全モデル
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Phasemation PP-300/500 音質比較
MCカートリッジは、MM(VM)カートリッジよりも音が良いのか? 登場から今まで、MCカートリッジはMM(VM)型を超える「高音質カートリッジ」として認知されてきました。 確かに、振動系の構造や動的質量の小ささなどから、レコードの溝に刻まれた振動を電気振動に変換する能力には優れているのは間違いないでしょう。けれど問題は、MM(VM)カートリッジの出力電圧は「数mV」ですが、MCカートリッジの出力はその「1/10」程度でしかないことです。レコードのダイナミックレンジ(最も大きな音と小さな音の差)は約60dbですから、カートリッジが出力する最も小さな音の電圧は、さらにその「1/1000」でしかありません。 プリアンプやフォノイコライザーアンプには、この僅か「0.00000001V単位」の信号を「正しく増幅」する能力が求めらますが、この電圧を増幅するのは「真空管」ではかなり難しく、そのため真空管を使わずにMCカートリッジの出力電圧を増幅する方法として「昇圧トランス(トランスで電圧を上昇させる)」が考案されました。 その後、感度の高いトランジスターが発明されたことで、昇圧トランスは使われなくなりましたが、トランジスターアンプでもPhasemation EA-350のように「昇圧トランス」を使う製品もあります。 なので、音が良いかどうかはやはり「聞いてみること」が大切です。 VM型の試聴に続けてMC型を比較 レコードプレーヤー、フォノイコライザーアンプ、ターンテーブルシート、audio-technica VM全モデルの聞き比べをが終わったのは日付が変わろうかという深夜になっていました。さすがに、ここからMC型の聞き比べを行うのは体力的にも集中力的にも厳しく、MC型の聞き比べは翌日に行うことにしました。 翌日、まずシステムのウォーミングアップを兼ねて、DP-500Mの付属カートリッジで「シゲティーのバッハ」のA面を全曲聞きました。VM型の聞き比べでは、結局「付属品」や、最も安い「VM510CB」が最も良いと判断しました。曲が始まると、シゲティーの演奏が「生きた音楽」となって体に流れ込んできます。バイオリンが歌っている!この感覚こそ「音楽を味わうために不可欠」なものです。演奏には深みが感じられますし、何よりもシゲティーの情感がひしひしと伝わってきます。VM型の高級品に欠けていた感覚です。これがなかったから、昨日の最後の試聴では、音楽を聞くことが苦痛になり、筆が進まなくなったのでした。 再試聴の結果、やはり付属カートリッジがシゲティーのバッハ再生にとてもマッチしていることが確認できました。
本来ならサブウエイトをつけて対応すべきですが、DP-500M専用サブウェイとが手元になかったので、針圧計を使いウエイトをアーム後端ぎりぎりのところに取り付けることで対処しました。 ともかくどうにかこうにか、AT-33EVは装着が完了し、QC-24Pの入力をMCに切り替えて音が出た瞬間、笑みがこぼれました。 「アン・バートン」のアルバムを再生しましたが、求めていた「高音質」のど真ん中のサウンドだったからです。とりあえず、A面を全部聞き再生系の準備が整ったところで、MCカートリッジ比較試聴を開始しました。 カートリッジ聞き比べに使う製品の主な仕様 DENON(デノン) DP-500M メーカー希望小売価格 \93,500(税別)
QUAD(クオード) QC-24P メーカー希望小売価格 \350,000(税別)
聞き比べるレコード 「聞き比べ」は、YouTubeアップロードのための録音に使うUSBインターフェイスのライン出力をAIRBOW PM12 Masterで増幅し、Focal 1028BE+AIRBOW CLT-5の組み合わせたスピーカーシステムで行いました。 聞き比べるレコードは次の3枚です。 1曲目:マイケル・ジャクソン アルバム「Thriller」より、B面の1曲目「Beat It」。このレコードは、EPIC SONYの国内プレス。大学時代に買ったものです。一般的に「ダイレクトドライブレコードプレーヤー」は、音がハッキリしている(比較的デジタルサウンドに近い)と言われています。この曲では、音の鋭さや低音のハッキリした感じなど「明瞭度」や「音の広がり」を聞き比べて下さい。 2曲目:アン・バートン アルバム「サム・アザー・スプリング」より、A面1曲目の「Dream a Little Dream of Me」。パイオニアが技術供与してロブスター企画が作ったこのレコードは、究極のアナログ録音「ダイレクトカッティング」で録音されています。編集装置を使わない「ピュアなアコースティック楽器やボーカル」の滑らかさや、表情変化(ニュアンス)の細やかさを聞き比べて下さい。 3曲目:ヨゼフ・シゲティー アルバム「ヨーゼフ・シゲティーの芸術、Bach:無伴奏バイオリン・ソナタ全集」から、「Bach Violin ソナタ第一番」。最盛期のキングレコードから発売されたこのレコードは「モノラル録音盤」です。ステレオカートリッジでモノラルレコードを聞いたとき「左右チャンネル」の特性がきちんと揃っていないと、楽器が中央に定位せず左右にぶれます。バイオリンという再生の難し楽器の音の比較だけではなく、カートリッジの音響特性(左右の歪みの違いやバランス)もチェックできます。 試聴テスト VM760SLC、AT33シリーズ比較 AT-33SA、ARTシリーズ比較 AT-33SA、Phasemation PP-300/PP-500比較 ここから先の聞き比べでは、時間と共に正確性を欠くかも知れない「音質コメント」に加え、より正確な相対的評価を下しやすい「低音/中音/高音」の物理的バランス、「細やかさ、滑らかさ、色彩感」のイメージの6項目について、付属品を基準の10点として評価数をつけることにしました。 それぞれのカートリッジの詳細は、audio-technicaのホームページ、ならびにPhasemationのホームページから御覧いただけます。 audio-technica AT33シリーズ audio-technica MCカートリッジの定番モデル「AT33シリーズ」は、1981年に発売された「AT-33E」が原型で、それから40年近く改良を重ねながら作り続けられてきた、audio-technicaのMC定番モデルです。 AT-33EV メーカー希望小売価格 68,000円(税別) イントロの鐘の音の質感がVM型とは全く違っている。細やかで密度が高く深みがあり、響きも長い。 伴奏もとても細かい音まで聞こえるが、このレコードの録音の限界なのか、ウォーミングアップで聞いた「アン・バートン」ほどはVMとの違いが大きくない。 昨日の試聴でもこの曲が、思うような「良い感じ」で鳴らなかったので、帰り道にカーステレオで聞いてみると、やはりもっと弾ける感じがあって楽しく聞けた。それと比べて、AT33EVがならすこの曲は、ややおとなしい。 また、VM型の比較でギターソロのパートを一つの指標としたが、AT-33EVでは「オーバドライブ感(力強さ)」がやはり不足した。
ピアノは一音目が繊細で静かに、次の音は一気に大きくなった。その音量変化がVMよりも大きく、またピアニストのタッチの違いもより鮮やかに再現される。ボーカルも、表情がきめ細やかで滑らかだ。 高域は細やかで良く伸びているが、子音の荒れは全く気にならない。輪郭もきちっと立っているが、あくまでも滑らかで適度な湿り気も感じられる。いわゆる「唇のぬれた感じ」まで良く出ている。曲間の静けさの再現も素晴らしい。 ”Beat
It”よりも録音の良いこのレコードでは、33EVの良さがグッと引き出された。 バイオリンの音に暖かみがある。血の通った音で鳴る。 輪郭がやや滑らか過ぎて、引っかかりが弱くガルネリらしい「硬質な感じ」は少し薄い。けれど、楽器からどれくらい離れているかでバイオリンの音質はかなり違ってくる。演奏者は10mとは離れていない感じだが、そうだとするともっと高域が強く聞こえるはずだ。マイケルでメリハリが足りないと感じたのも同じだが、これだけ細やかな音が聞こえるならば、もっと衝撃的な強い音が聞こえて良いはずだ。音の輪郭が滑らかすぎるから、相対的にメリハリが弱く感じられるのだ。 AT-PTG/U メーカー希望小売価格 72,000円(税別) 基本的な音調は、AT-33EVと変わらないが、音の重心が下がりメリハリが出てきた。 AT-33EVで聞くこの曲はやや茹で過ぎたスパゲティーの雰囲気だったが、33PTG2で聞くとほどよいアルデンテまでもう一歩という音で鳴る。ここまで来たら、後のプラスアルファーはカートリッジではなく「使いこなし次第」だろう。 MC型らしいきめ細やかさと滑らかさ、MM/VM型らしい輪郭とメリハリの強さが、上手く両立している。 ギターのソロパートでは、もう少しオーバドライブ感が強い方が「好み」だが、スタジオ録音と考えるとこれでも悪くはない。また、33EVでは「録音が悪い」と感じたこのレコードが、良い録音に感じられたから、トレース能力自体EVよりPTG2が優れているのだろう。 33EVではやや甘かったピアノの音に「芯の強さ」がでてきた。ウッドベースの量感も増え、ボーカルはさらに魅力的に鳴る。 ピアノの鍵盤の上をピアニストの指が踊り、体をくねらすようにしてベースを奏でる奏者の様子、マイクに顔を向けながら踊るように歌うボーカル。「現場の楽しさ」、「ノリノ良さ」が伝わってくる。同時に「適度な緊張感」も伝わってくる。 こういう音ならば、ペンは一気に進む。楽しい良い音だ。 33PTG2は、33EVよりも色彩がかなり濃い。だから、雰囲気がより濃く、情緒的な音が出る。 DP-500M付属カートリッジで聞くこの曲と同じ雰囲気がやっと味わえるようになってきた。もちろん、音質はそれとは比べものにならないくらい向上している。 良い音でマイケルを聞くと、自然に体が動き出す。良い音でアン・バートンを聞くと、一緒に歌いたくなる。良い音でシゲティーを聞くと、演奏に引き込まれて心が空っぽになる。AT-33PTG2は、そういう完璧な音を出してくれる。 私は音がさらに鮮烈でこれ以上はないというほど細やかな音を出すカートリッジを知っているが、そういうカートリッジはPTG2の2倍以上お値段が高い。 良いMC型カートリッジの入門モデルとして、MM/VM型からのグレードアップとして、AT-33PTG2は自信を持っておすすめできる。いつから、33シリーズはこんなに暖かく情熱的な音になっていたのだろう。 AT-33SA メーカー希望小売価格 112,500円(税別) 音調やバランスは、33EV/33PTG2と変わらないが、レコードの録音が良くなったかのように、音質がよりクリアになる。メリハリも強いが、音質バランスがやや高域に偏り始めた。 AT-33SAは少し「行き過ぎ感」が出てきて、VM型の上級モデルで感じたような「音質優先、情感軽視」の方向になってきた。 この33SAのような響きの少ない細めの音が、私のイメージするテクニカのMCカートリッジなのだが、良い意味で裏切られたPTG2と比べて強い拒否反応が出るかと言えばそうでもない。 「情に棹させば流される」というが、AT-33SAはそのぎりぎりのところでとどまっている。だから、やはり「使い方」や「相性」がばっちり決まれば、良い音で音楽を楽しませてくれるだろう。
33EV/33PTG2/33SAと価格が上がる度に、「音源(楽器)」が近くに感じられる。この曲では、33EVは少し曖昧で、33PTG2がベストポジション、33SAは楽器に近すぎる感覚だ。 ピアノの中をのぞき込み、ピアノに張られたゲージ一本一本の音を聞き分けているようなイメージの音が鳴る。ベースは奏者が弦をリリースする瞬間から響きが止まるまでが完全に再現される。ボーカルは、表情筋の動きがすべて見えてくるほど細やかだ。けれど、それぞれがクローズアップされすぎて、音楽の全体像が少し散漫になる印象がある。「木を見て森を見ず」とまでは行かないが、少し音源までの距離が近すぎる。言い換えるなら、あなたが「音源までの距離をさらに詰めたい」と思うなら、AT-33SAを選べば良い。音質は33シリーズ中最も良い。 33シリーズの音質は、価格に比例する。後はどれを選び、どう使いこなすかがポイントになる。 今回選んだ3曲は試聴を開始する前に、かなり吟味している。 1曲目”Beat It”は、一般的な歌謡曲、電気的な加工が施されたボーカルと電子楽器の代表として選んだ。 2曲目”Some Other Spring”は、アコースティック楽器の音質チェックの代表として優秀録音盤を選んだ。 3曲目”バッハ
無伴奏バイオリンソナタ”は、古いレコード(モノラル)から音楽性をどのように引き出せるかどうかをチェックするための代表として選んだ。ここまでかなりの数のカートリッジを聞き比べて、そのもくろみはほぼ正解だと感じている。 AT-33PTG2で聞くシゲティーは情感が豊かに感じられた。AT-33SAで聞くシゲティーは、バッハらしい論理的で精緻な演奏に聞こえる。どちらが良いかは甲乙つけがたいが、音質はAT-33SAが間違いなく一歩抜き出ている。 VM型ではどれもが、弱々しく苦しい音に聞こえたシゲティーA面2曲目が、これほど生き生きと鳴ることに改めて驚かされた。やはり、高価なだけあって、性能はずば抜けていることは間違いない。 ARTシリーズ AT-ARTシリーズは、新世代のMC型カートリッジとして設計されています。 MCカートリッジコイル部分をさらに軽くするため「空芯コイル」が採用されて、それに合わせてネオジウムを使う磁気回路を2倍の強さにするなど、最新の技術を駆使して音質改善が行われています。 AT-ART7 メーカー希望小売価格 115,000円(税別) AT-33シリーズの上級モデルとして期待しながらART7の針を落としたが、出てくる音は33EV程度にグレードダウンした。鮮烈さ、細やかさで、ART7は33SAに明らかに及ばない。 けれど、中低音の量感やパワフルな音質には、好感が持てる。過去にNottinghamでART9を聞いた時は、かなり印象が良かった。それと比べると、DP-500Mで聞くART7はまだるっこしい。服の上から背中を掻かれているようなイメージだ。けれど、それはART7の責任ではなく、DP-500Mの問題だろう。このカートリッジは、もう少し上級のレコードプレーヤーと組み合わせれば真価を発揮するはずだ。
録音モニターで見ると、波形がAT-33SAとは明らかに異なっているのがわかる。 波形がすぱっと立ち上がり、角がナイフで切ったように鋭い33SAに比べ、ART7は立ち上がりのカーブが穏やかで頂点も低い。それがマイケルで感じた「穏やかな雰囲気」を感じさせる原因だろう。 この曲でも、ART7はAT-33SAと比べるとリラックスしたイメージが強い。AT-33SAでは厳格なスタジオ録音に感じられたこの曲を普段着のライブのように鳴らす。 AT-33SAの音はモニター的。AT-ART7の音は、その名の通り芸術的なのかも知れない。33シリーズように理ではなく、ARTシリーズは情に訴える力が強い。 シゲティーのバイオリンから情感が伝わるのは良いが、音の角が明らかに丸すぎて、この曲に必要な「厳しさ」が伝わらない。 名器ガルネリが普通のバイオリンのような音で鳴る。これはちょっといただけない。この点、理詰めな音ではあったが、AT-33SAはガルネリらしい「厳しさ」を見事に醸し出していた。 しかし、人間というのは実に良く出来たもので、しばらく聞いているとAT-ART7の音に慣れてきて、大きな不満は消える。しかし、それは「基本性能」がきちんと仕上げられているからだろう。 今回の聞き比べでは、このクラスのカートリッジの比較にはふさわしくない廉価なレコードプレーヤー「DENON DP-500M」を使っているので、思うような比較試聴は出来ていないかも知れないし、評価に自分でも確信が持てない。 だから、今回の評価は「絶対的」なものではなく、それぞれのカートリッジの「相対的」な違いだととらえていただければ幸いだ。 AT-ART9 メーカー希望小売価格 140,000円(税別) AT-ART9の音は、AT-ART7と同じ傾向だ。中低音にウエイトがあり、33シリーズのように高音がクリアに伸びて行かない所も似ている。 重量感のある高密度なサウンドだが、DP-500Mとの組み合わせではやはり「メリハリ」が若干不足するためか、リズムがしっかり弾みきらない。ギターソロの高音も明らかに伸び足りない。ベースとドラムの重量感は素晴らしいだけに、高域の切れ味と輝きが増せば素晴らしいサウンドになるだろう。 例えば今回の比較の中から選ぶとすれば、DP-500Mに和紙のターンテーブルシートを使えば一気に良くなりそうだ。 AT-ART7とAT-ART9の「聞いた感じ」はそれほど違わないのに、波形はかなり違っていた。AT-ART7が穏やかな波形を描くのに対し、AT-ART9の波形はAT-33SAのように鋭い。けれど、聞こえてくる音はAT-33SAよりも滑らかで優しいタッチだ。 この曲を普段着のライブのように鳴らした、AT-ART7とは、明らかに異なるテイストだ。 AT-ART9は、AT-ART7とAT-33SAの中間的なサウンドテイストに仕上がっている。 この曲では、もう少し「フレンドリー」な感じがふさわしい。 高域の鋭さは出てきたが、中域に何か付帯音のようなものが感じられ、少し音が濁ってきた。 この曲はCDで聞くととてもクリアで、シゲティーが「音と音の精密な関係性」に重きを置いて演奏しているように聞こえるが、AT-ART9で聞くとその巌のような演奏がやや曖昧なものになる。それはAT-ART7でも同様の傾向が感じられた。対してAT-33SAは見事に精緻なサウンドを奏でた。 現状の音が厳しすぎる。情緒的な味わいが不足すると感じられた場合には、ARTシリーズがマッチするだろう。逆に、曖昧さを廃して、純粋なモニター傾向の音質を求めるなら、33SAを選ぶと良い。価格は近いが、テイストは明確に異なっている。 Phasemation MCカートリッジ PhasemationのMCカートリッジは、Victor Laboratory シリーズの流れを汲む高性能が自慢の製品です。折れそうなほど細い無垢ボロンのカンチレバー、DLC加工が施された高剛性のボディー、6N導体を採用したコイル、純鉄の芯、サマリウムコバルトマグネットの採用など、高性能素材を挙げれば枚挙に暇がありません。今回は、比較したaudio-technicaの製品に合わせて、シリーズ中最も廉価な「PP-300」と一つ上の「PP-500」を選びました。 Phasemation PP-300 メーカー希望小売価格 135,000円(税別) PP-300の解像度感は、AT-33SAとほぼ同等か若干下回る感じ。中低音の量感はやや上回っている。色彩感は、やや薄め。高域に少しぱさぱさしたノイズのようなものが付いている。 低音の押し出し、ギターソロの力強さなどは、AT-33SAを上回るイメージだ。エフェクターを使うギターの「歪み感」はとても良く出る。 元々、このクラスのカートリッジをDP-500Mに装着すること自体無茶な話しなのでそれは仕方ないのだが、今回は「DP-500M」の能力の限界で、なかなか正しい評価を下しにくいように思われる。 PP-300の音質イメージは、中低音がAT-ART7/9のように出て、解像度がAT-33SAのように高い。 価格差で比較すると、「ややコストパフォーマンスが高い」と感じられる。音調は、モニター系だ。 ”Beat It”でも高域の「ヒリヒリ」したノイズ感が気になったが、この曲でもテクニカのカートリッジでは聞こえなかった、チリチリという小さなノイズが聞こえてくる。たぶん、針先とレコードのコンタクトの問題だろう。 低音はAT-33SAやARTシリーズよりも良く出て、ウッドベースの低音限界が3度〜半オクターブくらい下がっている。ウッドベースの音階もハッキリと分かる。ピアノはきめ細かくなった。ボーカルはより滑らかで艶もある。 音調はニュートラルからやや暗め。何も足さず、なにも引かない。あるがままの音が出てくるように感じられる。性能は高いが、レコードの状態は選ぶようだ。 PP-300の持ち味である、精緻な再現能力、色づけのなさが、この曲には実に良くマッチする。 シゲティーが情感を抑えつつ、音の関係の精緻さを厳しく聞き分けながら、一音一音をきちんと「置いている」ようすが伝わる。 アルバムタイトルに書かれている「シゲティーの芸術を聞く」という語句にふさわしい音が出る。 マイケルとアン・バートンで気になったノイズ感も、このレコードでは全く気にならない。たぶん、バイオリンの音そのものがノイズ的な音質だから、紛れてしまったのだろう。 PP-300で聞くこの演奏では、シゲティーと私の間に「明確な壁」がある。演奏者と聴衆が一体となるのではなく、リスナーは極上の芸術を鑑賞することに終始する。そういうイメージの音だ。だから、POPSやROCKなどのように情感の埋もれたい音楽にはPP-300は不向きだろう。クラシック、それもバッハやバロックのような音楽に向いているのではないだろうか。 Phasemation PP-500 メーカー希望小売価格 220,000円(税別) Phasemationのカートリッジの出力波形は左右の混じりが少なく、チェンネル・セパレーションがテクニカの製品と比べて大幅に高いのが「見え」る。PP-500もPP-300同様にテクニカのどれよりも、音の広がりが大きい。音質の純度も高く、より明確な立体感(音の広がりや定位)を実現する。 PP-500はPP-300よりも明らかに低音の量感が増えて、力強い。ギターソロのパートで聞き比べればそれが明確に分かる。低音のリズム、むせび泣くようなギターの叫び声。録音された音が、そのままの状態で再現されている。体が動くような熱さはないが、クールな中に熱情が秘められている。 PP-300/PP-500をモニター的なサウンドだと表現しているが、それは「無機質で冷たい音」というのとは少し違う。確かに温度感は高くないが、いい意味で「癖がほとんどない」実にスッキリとした、細やかな音だ。 例えば「塩だけで味付けする潮汁」のように「僅かな塩味の中に複雑な味わいが感じられる」というイメージの音だ。 カートリッジの存在を忘れて、音楽に没頭することが出来るが、プラスアルファーを求めても期待には応えてくれない。もしそれが欲しいのなら、何か別の手段を講じるべきだ。 PP-500は、今回聞いたすべてのカートリッジの中でこの曲にベストマッチしている。 精緻と言う言葉がピタリと当てはまる、ある種「禅」のような静けさと、無色の向こうに感じられる色彩があるように、静かな中にも強い情感が秘められていることが伝わる。あるいは表面的な感情を殺したからこそ見えてくる「本質」のようなものが演奏から伝わってくる。これが、シゲティーが極めようとした、彼が目指したバッハの世界観なのだろう。 PP-500は、その「無色=何も足さずなにも引かない」という工業技術的な理想を現実にしている。「味わい」という方向に逃げる製品が多い中で直球勝負を挑み、それを確実にものにしている。良い意味で、いかにも日本的なサウンドだ。 (audio-technica Phasemation VMカートリッジ聞き比べはこちらから御覧いただけます) 2019年5月 逸品館代表 清原 裕介 |
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