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AURA Design Vivid (CDプレーヤー) 、 Vita (プリメインアンプ)音質評価
製品の概要
AURA Designは、1989年イギリスに誕生したオーディオメーカーです。最初の製品は筐体の厚みが55mmしかない薄型軽量のインテグレーテッド・アンプVA40でした。現在まで引き継がれている鏡面仕上げのクローム・フィニッシュ・フロントパネルに、ボリュウムとセレクタ、パワースイッチのみを配置した潔さは、オーディオ機器のデザインとして秀逸です。しかし、その頃まだ資金力のなかったAuraの創設者マイケル・トゥはB&Wのロバート・トゥルンツに見出され、Auraの製品は瞬く間に世界のオーディオマーケットを席巻しました。
日本では故山中敬三氏が瑞々しく鮮度感溢れる音を高く評価され、イギリスでの製造が終了する1997年まで日本でリリースされた13のモデルは、現在も多数国内で愛用されています。逸品館では国内代理店の了解の元、VA-80をカスタマイズした「VA-80/KAI」を販売するなど、Auraの音質を当初から高く評価していました。
この一度目の大ヒットの後しばらくはスポットライトを浴びることがなかったのですが、2006年ロンドンのペンタグラムでデザインされたnoteの登場により、Auraの名前は再び注目を浴びることになります。
今回音質テストを行ったVivid(CDプレーヤー)とVita(プリメインアンプ)は、現在も高い評価を受け続けているnoteの最新モデルAura note premierの基本回路をCDプレーヤー部とプリメインアンプ部に分離し、VA Seriesと同じフルサイズの美しい薄型軽量ボディーに納めた製品です。Vividには、noteと同じSANYOのメカニズムとTOSHIBAのコントローラ−、Cirrus LogicのDAC CS4398が搭載され、RCA/XLR各一系統のアナログ出力を備えています。Vitaは、note高音質の要であるHITACHI製のPower MOS-FETとCirrus Logic製の精密ボリュームコントローラー CS3310を搭載し、50W×2(8Ω)の出力を発揮します。そして驚くべき事に、どちらも12万円(税別)という輸入品とは思えないほどリーズナブルなプライスタッグが付けられています。
手の届きやすい価格帯で発売された知的でお洒落なコンポーネント、Auraの最新CDプレーヤー Vividとプリメインアンプ Vitaはどんな音色で音楽を奏でてくれるのでしょう。期待に胸を膨らませながら、音質テストを行いました。
スピーカーには、Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)、PMC PB1i/Signature、Focal 1028Beを使い、スピーカーとの相性を調べてみました。CDプレーヤーVividとはAIRBOW NA7004Special+iPodと音質を比較しています。
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Vienna Acoustics BEETHOVEN-CONCERT-GRAND |
PMC PB1i/Signature |
Focal 1028Be |
iPod Touch(MP3/320bps)AIRBOW NA7004/Special |
Aura Vita メーカー希望小売価格 135,000円(税別) この製品のご購入はこちらからどうぞ |
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<柔らかい> - - - * - - - - - <硬い> | |||||||||||||||||
音質評価
ANA CANAM AMAZONIA JD45/輸入盤CD |
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音にこだわりを持つレーベルとしてオーディオマニアの間で名高いチェスキー(CHESKY)レーベルは、音楽家を中心メンバーとして作られた、音楽的/録音的にも優秀なソフトです。 今回のテストでは、このソフトをiPodにMP3/320bpsで取り込んだファイルをAIRBOW NA7004/Specialで再生しました。 |
Vienna Acoustics BEETHOVEN-CONCERT-GRAND
Vitaの基本的な音色は暖かくて、耳当たりの良い心地よさが感じられます。
コンパクトな外観からは想像できない豊かさで音楽は躍動し、音質には明るく快活な雰囲気があります。
低音の量感もサイズや重量から想像するよりもずっと豊かですが、ユニットの制動がやや弱くやや膨らみがちでふわっとしています。
ギターの音色は色彩感が濃く、ギタリストが表現したい心象がきちんと伝わります。ボーカルは滑らかで暖かく、ニュアンスが豊かです。ウッドベースも音階やリズムがしっかりと決まり、なかなか良い雰囲気です。
全体的に密度感がやや薄い(iPodをソースにしている影響もありますが)事を除けば、12万円という価格からは想像できないほど表現力が豊かで、お洒落な外観に見あう「違いのわかる大人の音」に仕上げられています。この音なら購入を後悔することはないはずです。
PMC PB1i/Signature
スピーカーをPB1i Signatureに変えると、さすがに「Vitaでこのスピーカーを鳴らすのは辛い」と感じられます。
プレーヤーを変えれば解決するのかも知れませんが、PB1i Signatureを鳴らせているという感覚ではなく、スピーカーから十分に音が出きっていない、あるいはアンプの質が悪いと感じられます。
Beethoven Concert Grand(T3G)に比べ音の輪郭の明瞭度(鋭さ)は向上するのですが中身は薄くなり、向こう側が透けて見えるような希薄な音像になってしまいます。楽器の音は細かくなったのですが、力が抜けてしまいました。また、Beethoven Concert Grand(T3G)とPB1i Signatureの基本的な音色の違いで音色が少し暗くなり、ボサノバらしい楽しさや躍動感が削がれます。ボーカルもちょっと元気がありません。
PMCを鳴らすにはVitaではさすがに役不足の感が強く、各ユニットをもっときちんと駆動できるしっかりとしたアンプが欲しくなります。このテストからPMCと同じ方向性(ATCやDynaudioなど)を持つスピーカーとVitaはあまり相性が良くないだろうと想像できます。
Focal 1028Be
スピーカーをFocal 1028Beに変えると世界が一変しました。
スピーカーだけを変えただけにも関わらず、スピーカーと同時にアンプを大幅にグレードアップしたと感られじるほど一気に音が良くなりました。
Beethoven Concert Grand(T3G)で聞いた時と音色は似ていますが、1028Beでは音の輪郭がよりクッキリしています。高音がクッキリすることで、気になっていた低音の膨らみがなくなります。ギターの切れ味や、ドラム・ベースのクリアさもまるで別物です。
PB1i SignatureやBeethoven Concert Grand(T3G)で気になっていた「希薄さ」も完全に解消し、音と空間の密度が大幅に向上しました。ソースがiPod(MP3/320bps)だと言うことも全く気になりません。まるでSACDを聞いているようです。
今までスピーカーを変えることで音が大きく変わることは経験していますが、スピーカーとアンプが見事にマッチして素晴らしい音楽を奏でるこれほどまでに劇的な変化は滅多に経験するものではありません。Vitaと1028Beの組み合わせから再現される音は、素晴らしいの一語に尽きます。最初は難しいかな?と思ったVitaと1028Beの組み合わせは、想像を遙かに超えて良い音で応えてくれました。
通常これほど高額なスピーカーとVITAを組み合わせることはまずないと思いますが、今回のテストでそれが必ずしも不可能でないとわかりました。1028Beが上手く鳴るならば、VitaはFocalの限定モデル826Eとの組み合わせも良好なはずです。Focal(フランス)とAURA(イギリス)のセットは音質のみならず、外観もお洒落にマッチするベストなセットでした。
五嶋みどり MIDORI ENCORE! SRCR-9055/CD |
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世界的に名声の高い、のほんの女流バイオリニスト「Midori(五嶋みどり)」とベストパートナーのピアニスト「ローバーと・マクドナルド」による小品集「Encore!」は、本格的なホー-ルで演奏されている高音質クラシックソースとしては、演奏時間が非常に短く、試聴テストやイベントでのデモンストレーションに適しています。 |
Vienna Acoustics BEETHOVEN-CONCERT-GRAND
Vitaと同時発売のCDプレーヤーVividをテストする前にスピーカーをBeethoven Concert Grand(T3G)に戻して、(1028Beでは美化されすぎてテストにならない)五嶋みどりのバイオリンを聞いてみることにしました。
スピーカーをBeethoven Concert Grand(T3G)に変えてもバイオリンの音色、ピアノの響きは抜群です。弦の上を滑る弓が奏でる、激しい音色から消え入るような繊細な音色まで、その変化は素晴らしくリニアに再現され、生演奏を聴いている雰囲気です。ピアノは低音の重厚感が不足しますが、音色の変化と響きの美しさは十分に再現されます。
確かに全体的に音の輪郭がやや緩く、コンサートホールの直接音の少ない座席(中央よりも後方)で演奏を聴いている雰囲気になるのですが、音のバランスが良いためにその欠点(輪郭の甘さ、緩さ)はクラシックを聴く限り、ほとんど問題になりません。逆にトランジスターアンプで聞くバイオリンは時として、エッジが立ち過ぎて音がハードになりすぎるのですが、Vitaはそれを暖かく柔らかい音色で再現出来る美点を持っています。消費電力(無信号時:18W)からVitaの動作が純A級でないとわかりますが、まるで純A級アンプの様に暖かく滑らかな音が出ます。HITACHIのMOS-FETにこだわる理由はこの音を出すためなのでしょう。
12万円という価格を考えれば、Vitaの音質は非常に高く評価できます。過去に大ヒットしたAURA-50やAURA-100などと比べると、「鋭さ」では劣るかも知れませんが、、雰囲気の良さならVitaはそれらを確実に上回ります。最新モデルのVitaには、過去になかったUSB入力やFMチューナーが備わることを考えれば、そのコストパフォーマンス(お買い得感)は旧モデルを確実に超えています。
Aura Vivid メーカー希望小売価格 135,000円(税別) この製品のご購入はこちらからどうぞ |
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<柔らかい> - - - - * - - - - <硬い> | |||||||||||||||||
音質評価
五嶋みどり MIDORI ENCORE! SRCR-9055/CD |
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世界的に名声の高い、のほんの女流バイオリニスト「Midori(五嶋みどり)」とベストパートナーのピアニスト「ローバーと・マクドナルド」による小品集「Encore!」は、本格的なホー-ルで演奏されている高音質クラシックソースとしては、演奏時間が非常に短く、試聴テストやイベントでのデモンストレーションに適しています。 |
Vienna Acoustics BEETHOVEN-CONCERT-GRAND
AIRBOW MSU-Mighty (RCA接続)
ソースをiPod(MP3/320bps)+AIRBOW NA7004 SpecialからVivid(CD)に変えると高音が伸びやかになり、音がハッキリします。細部の表現力も向上し、より本格的な音になりました。よく言われるベールが1枚剥がれたようなイメージです。もしくは座席がA席から、S席に変わったようなイメージです。
iPodで聞いていたときは、五嶋みどりがチャーミングな女性に感じました。ソースをVIVIDに変えるとそこに厳しさと繊細さが加わって、五嶋みどりの演奏から巨匠の雰囲気が感じられるようになります。気になるのは高音の改善に比べ低音の厚みや量感の増加が伴わないため、スケール感としては逆に少しダウンし全体のバランスも崩れたように感じました。悪い音ではありませんが、ちょっと無理をしている感じに聞こえました。
接続をXLRに変えると中低音に厚みが出て、やや上寄りだった演奏のエネルギーバランスが改善します。さらに高音の密度も上昇し、プレーヤーのグレードを一つあげたように聞こえます。
ピアノの重厚感はまだ少し物足りませんがピアノのタッチがより繊細に再現されることで、上質なグランドピアノを操っている雰囲気が出てきます。
バイオリンは中音(2-3弦)の音が厚みを増して太くなり、バランスが改善し響きがグッと豊かになります。
演奏に重厚感(タメ)が加わり、深みが出てきました。
iPodで感じたカジュアルなムードとRCA接続で感じた緊張感の高いムード、XLR接続はその両方の良さを兼ね備えています。クラシックを聴くときには、VividとVitaの接続にXLR(バランス)をお試しください。
最後にVividとVitaをXLR(バランス)接続して、アナカナンを聞き直してみました。
低音はかなり低いところまで出ているのですが、やはり密度が低く希薄です。
ボーカルも悪くないのですが、iPod+NA7004 SpecialからVividに変えるとちょっと元気がなくなる感じです。ギターも切れ味が落ちています。
VividとVitaで聞くアナ・カナンは、ハッキリ言ってiPod+NA7004 Specialの雰囲気の良さに及びません。
そこで接続をRCAに変えてみました。
高音の透明感がわずかに落ちましたが楽器の響きにまとまりが出て、XLRだと少しバラバラに聞こえた演奏に統一感が感じられるようになります。
しかし、それでもギターの透明感はiPod+NA7004 Specialよりも劣っているように感じます。
Vitaが入力される情報量(Vividとの接続によって増加した情報)を処理しきれず、スピーカーを鳴らし切れていない感じです。
悪い音ではないのですが、アナ・カナンを聞く限りではVividよりもiPod-NA7004 Specialの方が音楽を楽しめました。
総評
Vita
Vitaは12万円という価格が到底信じられないほど豊かに音楽を再現します。トランジスターアンプとは思えないほど音が滑らかで暖かく、真空管アンプのようにスピーカーを鳴らします。しかし、音が良いからと言ってCDプレーヤーのグレードを上げすぎると、途端に低音の軽さ(緩さ)や密度が希薄という欠点が露呈するようです。使いこなしには音質を欲張らず、あくまでもVitaの実力の範囲を超えない注意が必要です。
スピーカーの組み合わせではFocalとのマッチングに優れ、ペア100万円クラスの1028Beを見事に鳴らしました。逆にPMCのようなモニター系のスピーカーとはマッチングが悪く、Vitaの良さは発揮されません。
VitaはAuraの製品らしく、適切な音質と良好なバランスで知的に音楽を楽しみたいとお考えの「大人の音楽ファン」にお薦め出来る、お洒落なプリメインアンプでした。
Vivid
Vividはこの価格帯のCDプレーヤーには珍しく、バランス出力が備わっています。しかし、搭載されるDACは最新の32bitではなく、24bitです。
最近は低価格の製品でも32bit DACを搭載し、高スペックを売り物にする製品が増えています。しかし、CDプレーヤーに搭載されるDACは24bitでも全く問題はありません。Vividに搭載されるDACチップとDIRは共に192KHz/24bitのCirrus Logicです。「シーラスロジック/cirrus logic」社のICはMarantzも好んで使っていますが、音が滑らかで暖かく音楽的な表現力に優れるという長所を持っています。バランス良く音楽的な表現力に富むVividの音色は、このシーラスロジックICの長所を上手く引き出し、価格を超える良さを持っていると思います。
しかし、残念なことにVitaとの組合せでは、少しCDプレーヤーの性能が高すぎてVitaの弱点を露呈させてしまうことがあります。スピーカーとの組合せ、あるいはケーブルなどのチューニングを工夫することで、VividとVitaのセットは価格を遙かに超える高音質で音楽を情緒豊かに再現してくれるはずです。
Auraは音楽を聞くことだけではなく、オーディオの知的な楽しみも私たちに教えてくれそうです。
2011年 12月 逸品館代表 清原裕介
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