テスト環境
テストは1号館新試聴室で行いました。
付属のジャンパープレートは金メッキが施され高級感がありますが、音質的には歪みっぽさが目立ち、あまりお薦めできません。このジャンパープレートを音質の良いスピーカーケーブルに置き換えるだけで、スピーカーのグレードが1ランクアップしたような変化にが得られます。
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端子板形状に合わせた折り曲げた形状
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平たいタイプ
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DM603S3 |
DM601S3、DM602S3、DM602.5S3 |
スピーカーケーブルの結線は試聴時、ジャンパープレートに替えて「AIRBOW 6N14G」を12cmほど切ったケーブルの両端にYラグ「AIRBOW F5.5/8/CR」を圧着したものを使用しました。アンプからの接続は音質的に最も結果が良かったので、プラスのケーブルを高域端子へ、マイナスのケーブルを低域端子へ接続しています。
使用ソフト
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@ヒラリーハーン
J.S.バッハ:
ヴァイオリン協奏曲集
より
ヴァイオリン協奏曲
第2番 ホ長調
[BWV1042] |
このディスクでは非常に調和の取れた美しい表現を癖を感じさせずに伝える事が出来るのか、各スピーカーの素性の良さを確認しようと思います。
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A矢野 顕子
SUPER FORK SONG
より
PRAYER |
この曲に込められた感情がどのぐらい心を打つように聴こえるのか、彼女の切ない歌声がちゃんと切なく聴こえるのかをチェックしようと思い選曲しました。 |
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Bアイク ケベック
BOSA NOVA
SOUL
SAMBA
より
LOIE |
この曲ではテナーサックスの音にのせて伝わってくる何かもの悲しいような雰囲気がどれほど感じられるか、またゆったりと量感豊かに再現されるベースの音で低域の再現性を聴いてみたいと思い選曲しました。
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DM601S3(非防磁)
@ヒラリーハーン
このスピーカーの持つバランスの良さが感じられる。音の粒立ちも良く中高域の明瞭度が高く、立体感もある。音が明るく上品な印象だが、やや潤いが足りないかも知れない。付属のスポンジでバスレフポートを塞いでみると低域の量感は若干減るものの音楽に艶が感じられるようになり、生き生きと聞けるようになった。
A矢野 顕子「PRAYER」
高域の華やかさと少しドライに感じられるこのスピーカーの音色感の影響か、この曲に込められた「願い」や「祈り」といったような感情がやや希薄になってしまうように感じられた。ただ、全体的にはまとまりが良く、こういった所もそれ程気になるという訳ではない。バスレフポートを塞いでみると声に潤いが感じられるようになり、切々とした感情が感じ取れるようになった。
Bアイクケベック「LOIE」
もの悲しい雰囲気はそこそこ伝わってくるのだが、元々やや低域過多に感じられる録音のせいか低域がかぶりぎみとなり、全体がオブラートに包まれたようになってしまう。バスレフポートを塞ぐと低域のかぶりが抑えられ質感の向上が認められるが、若干窮屈さを感じてしまう。
まとめ
DM601S3はトータルとして見れば、この価格帯の小型スピーカーとしては非常にまとまり良く質感も優れているように思う。
Bの再生ではDM601S3に限らず、低域がかぶり気味になる場合が多く、試聴ソフトとして少しばかり厳しいものだったかも知れない。
DM602S3
@ヒラリーハーン
ウーファーサイズが大きくなり、ツィーターとの繋がりが悪くならないか心配していたが、繋がりの悪さは感じられなかった。音質的には華やかさが抑えられ、ウーファーサイズが大きい分音場のスケールが感じられるようになる。ただ、バスレフポートから出る低音が「ボワン」と膨らんでしまいちょっと聴きづらい。バスレフポートを塞ぐと低域の膨らみが抑えられ、演奏に躍動感が加わる。
A矢野 顕子「PRAYER」
@のヒラリーハーンと同様、落ち着きのある音質だが、高音域に伸びがなく、潤い感が希薄になるため、矢野 顕子の醸し出す切なさがあまり感じられない。バスレフポートを塞いでみると様子は一変し、声に潤いと艶が乗り、表情も生き生きとしてくる。
Bアイクケベック「LOIE」
アイクケベックのテナーサックスの質感はDM601S3に比べて、より自然に感じられる。量感もある。しかし、ベースの低音がバスレフポートより締まりなく、遅れて聴こえてくるため、トータルとして演奏がだらしなく感じられてしまう。バスレフポートを塞ぐと低域に締まりが出て「LOIE」のもの悲しい雰囲気が再現されるようになる。
まとめ
質感自体はなかなかのものだが、バスレフポートから出る低音がブーミーで全体の質感を低下させてしまう。このスピーカーは付属のスポンジでバスレフポートを塞いで使う方が本来持つ質感の良さを発揮できるようだ。
DM602.5S3
@ヒラリーハーン
これは再生を始めてすぐに「良い」と感じた。色々な要素のバランスが取れていて、ヒラリーハーンの演奏に透明感、伸びやかさが感じられ、彼女の精緻な演奏が眼前に浮かんでくるようだった。バスレフポートを塞ぐと演奏に伸びやかさがなくなり、窮屈さを感じる。このスピーカーはバスレフポートは塞がずに使う方が音質が良いようだ。
A矢野 顕子「PRAYER」
歌声に抑揚が感じられ、彼女が非常にデリケートに感情を込めて歌っている事がわかる。ニュアンスも良く再現されこの歌に込めた「切なさ」がひしひしと伝わってくるようだ。バスレフポートを塞ぐと声の線が細くなり、なんだか苦しげな歌に聴こえてしまう。
Bアイクケベック「LOIE」
@、A同様、これも自然な印象である。アイクケベックが「夜更けの印象」と言ったそうだが、確かにそういった雰囲気が感じられる。「夜更けに一人、もの悲しい気持ちで居る」そんな気にさせられてしまった。バスレフポートを塞ぐと音楽から生気が失われつまらない印象となった。
まとめ
DM602.5S3はどの場合もバスレフポートは開けたままで聴いた方が良い結果が得られた。DM601S3,DM602S3でやや希薄に感じていた音楽の艶もきちんと再現されるようになり完成度の高さが感じられた。
DM603S3
@ヒラリーハーン
DM602.5S3と似ていて音楽のニュアンスが良く伝わり躍動感もある。更に彫りの深さがありステージが立体的でより克明な再現となる。音楽表現としてもヒラリーハーンのまるで計算され尽くされたような(いや、されているのか)調和の取れた美しさが非常によく伝わってくる。
A矢野 顕子「PRAYER」
この歌に込められた「願い」や「祈り」といった感情が非常に良く伝わってくる。陳腐な表現かもしれないが「喉の濡れ具合」がわかるというか、「目を潤ませながら」歌っているかのように聴こえてくる。こちらまで涙が浮かんできそうだ。
Bアイクケベック「LOIE」
アイクケベックでも彫りが深く、音楽の表情がよく感じ取れる。甘いムードの中に一抹の寂しさが同居するような、そんな気分になった。
まとめ
@、A、Bと通して微かに上品なイメージを感じるものの、癖の少ない非常にバランスの取れた再生音には好感が持てた。ただ、このスピーカーの場合、アンプによっては一番下に付いている銀色のウーファーが膨らんでしまい、音楽の表情をマスクしてしまう事がある。低域に関しては穏やかな音質のアンプより少し引き締まった低音の出るアンプの方が向いているようだ。DM603S3は前と後ろの両方にバスレフポートが付いているが、@〜Bまで通して前のポートを塞ぐとスッキリとするが、高音域がやや抑えられる傾向となる。後のポートを塞ぐと伸びやかさや艶やかさが感じられるが、前後解放の時とは好みの差だと思う。両方のポートを塞ぐと音が詰まってしまい、躍動感が感じられなくなってしまった。
B&W DM600シリーズを一通り試聴してDM602S3の低音域の膨らみが気になった以外は、バランスの取れた非常に良く出来たスピーカーだと感じました。各機種共通のハードドームツィーターもほんの少し華やかに感じられるものの、金属的な嫌な癖は殆ど感じさせずナチュラルな質感に仕上げられていました。音の分離も良く空間が立体的に表現されるのも特徴です。生産が完了となったため数量限定ですが、このスピーカーがお値打ち価格で手に入る最後のチャンスです。
2007年9月 仲嶋 直彦