第一印象
仕上げの素晴らしさに反比例するようにあまりにも価格が安いこのモデルに個人的には、一番興味をひかれた。そのコストパフォーマンスの高さに合わせCDプレーヤーとアンプには、AIRBOWの最新エントリーモデル(気合いいっぱいの!)LITTLE COSMOS2を組み合わせることにした。テストに際し、前日の朝にセッティング、数人のお客様にも聞いていただくことが出来たが、開封直後にもかかわらずかなり良い反応が得られた。そのまま一晩、エージング用CDソフトを演奏し続け昼下がりにテストを開始する。
接続について
FI−EXは、Bi−Wire接続に対応しているので、いつものように4種類の接続を試してみる。+−共に低域に入れると、低域のタイミングが早くなりすぎて音がやや濁る。+−共に高域に入れると、ハイ上がりになって低域が足りない。+を低域、−を高域に入れると、低域のタイミングが微妙にずれて、音楽のバランスが崩れる。結局、+を高域、−を低域に接続するという方法が一番しっくりしたので、この接続で試聴することにした。
音質全般
すでに前日の視聴からも判明していたことだが、このスピーカーは聴感上150〜200Hz付近にディップ(音の谷間)が感じられる。前日聞いていただいたお客様は、説明しなければ気付かれなかったので普通の人には、わかりにくいかも知れないが、あきらかに「楽器の基音」や「ボーカルのお腹から出る音」が弱い。150〜200Hz付近にディップと断ったのは、150Hz以下の帯域では音圧は通常のバランスに戻るからだ。
いきなり「癖」の部分から評価を始めたが、それは他の部分が良くできている反動だと考えて欲しい。500Hz以上の帯域の音質は、クラスを遙かに超えた透明度、明瞭度、質感を持っている。
スピーカーにうんと近づいて聞いてみる。正面のバーチカルツイン部分から出ている音が、硬質でクリアなのにもかかわらず荒れたところがなく、とても高いクォリティーを感じさせる。この音質は、少なくともペア60万円程度のスピーカーのレベルではないだろうか?好印象のFI−EXの高域は、ウィーンアコースティックやPMCのような「ソフトドームらしい滑らかで優しい音色」ではない。ソフトドーム型ツィーターを使っているにもかかわらず、ハードドーム型のような「芯のある明瞭度のたかい高音」を再生する。シンバルやトランペット、ピアノなどの「金属系の音質の再現」は、得意分野だ。だからといって「声がキンキンしない」のはすごい。採用されている小型のウーファー×2のコーン紙が、非常に硬質なことと、中高域の明瞭度が非常に高いことは無関係ではないだろう。ちょっと「行き過ぎ(サービスしすぎ)」の感はあるが、この中高域の切れ味の良さ、透明感の心地よさは、かなりのものだ。
FI−EXには、スピーカー側面下部に口径20cmのウーファーが一つついている。耳を近づけると、控えめな低音が出ている。再生されるのは、150Hz以下のサブーウーファーの帯域に近い。後ろ側に回ると、バスレフのポートが二つある。ポートからは、200Hz以上の前面のウーファーの最低域成分が出ているようだ。最初に指摘した「150〜200Hz付近のディップ」は、まさにこの側面ウーファーと背面バスレフポートの音が「重なる部分」である(後で調べた仕様からもこの周波数に間違いがないことが確認できた/低域のクロスオーバーが220Hz)。今回、壁からかなり離れた場所にFI−EXを設置したために、背面バスレフポートの音が後ろ側に拡散してしまい、それが原因でバスレフポート〜側面ウーファーの音の繋がりが上手く行かず、結果として150〜200Hz付近にディップを生じさせたようだ。スピーカーがもっと壁に近くなる通常のセッティングでは、今回感じたディップは消える可能性が大きい。
カーペンターズを聞いてみる
まず、フロント部のサランネットを外した状態で試聴した。中高域の透明度、繊細さ、明瞭度のレベルが高く耳に突き刺さるように高音が飛んでくるのはそれはそれで心地よいのだが、中域が不足しているためにカレンカーペンターの声が「10才若すぎる」ように聞こえる。LITTLE COSMOS2のトーンコントロールを使って、適正なバランスを探すと[BASSのつまみを3時付近]まで回したところで低域のバランスが取れた。高域は、心地よいがやはり「過多」なので、[TREBLEを10時付近]まで絞ると、高域のバランスが適正となった。しかし、最初からトーンコントロールでごまかさなければならないとすれば、スピーカーとして明らかに問題なので、高域を落とす目的でサランネットを付けてみるとどうだろう!出てこなかったはずの、中低域が出てくるではないか!サランネットを付けると、バランスにはほぼ問題はなくなった。サランネット一つでここまで変わるスピーカーも珍しい。不思議なこともあるものだ。
この状態できくカーペンターズは、クッキリとしてはつらつとした印象だ。ギターの音色やピアノの音色の再現性は、特筆ものである。フュージョン系のソフトをかけると、その切れ味の鋭さ、濁りの無さにハマルこと間違いないだろう。声も高域の透明度が素晴らしく、ボーカルの口元が見えるようだ。細かい表現力も抜群。でも、やっぱりちょっと「ウ・ル・サ・イ」感じは残っている。とはいえ、最近の間違った「口先だけの音しか聞こえない高級オーディオ」よりは遙かにまともだから安心して欲しい。
個人的には、ちょっとうるさいと聞こえるときもあるけれど、「メリハリが利いて気持ちよい!」と言い換えれば、大きな長所になる。傾向的にはタンノイなどとはまったく逆のややドンシャリ系スッキリサウンドと思ってもらえばほぼ間違いはない。繰り返しになるが、電気屋さんの店頭で流れているような「耳を塞ぎたくなるようなドンシャリ」の音とは違う。私の耳は、職業柄不自然な音に非常に過敏だから、その耳でややうるさいくらいなら、普通の人にはまったく問題ないと断言して良いだろう。
使いこなしのポイント
FI−EXは、基本的に中高域よりのバランスだ。スピーカーケーブルを選ぶときには、中低域にしっかりとウェイトの載った製品を探して欲しい。高額ケーブルにありがちな、エネルギーバランスが高域よりのケーブルを選ぶとその部分が強調されてしまいかねない。特に、中域〜低域にかけて音が薄く感じることがあるので、ケーブルは「太い音」がする製品を意識して選ぶと良い結果を生むはずだ。付属品のケーブルは、今回テストしなかったが、見た感じでは「太い音」が出そうなので、とりあえずこのケーブルを使うと良いだろう。ただし、両端がバナナプラグになっているので、アンプの端子がバナナプラグに対応していない場合は、バナナプラグを切り取らないと使えないのでご注意を。
スピーカーケーブルの接続だが、付属のジャンパープレートは、あまり音が良くないから交換して欲しい。この場合も「太めの音」がするケーブルをジャンパー線に使うと良いはずだ。Bi−Wireの接続方法にスピーカーが明確に反応するから、+を高域、−を低域に接続されることをお薦めする。
セッティングは、壁からの距離と角度に注意することが重要だ。3号館のテストでは、100〜150Hz付近付近にディップが生じたが、壁に近づけるとこのディップが解消する可能性が高い。スピーカーが細く、指向性が緩やかなので、レーザーセッターを使うようなピンポイントの設置をしなくても、かなり良好な音の広がりが得られるのは、大きな美点だ。誰が使っても「良好な音の広がり」が比較的簡単に得られるはずだ。スパイクは付属していないので、床にそのまま置いても良いし、専用のオーディオボードを奢ってやるとさらに本領を発揮するだろう。
サランネットは外しても良いが(横についているウーファーのネットは外れるようになっていないので注意)低域が足りないと感じるときは、サランネットを付けると改善する。サランネットを付けた状態でも、中高域は十分な透明度と明瞭度を失わない。音の広がりも改善されるし、良いことの方が多い。
まとめ
このスピーカーの「売り」は、なんと言ってもその外観!驚くべき美しい仕上げの良さに尽きる。音質も外観に似合わず「高いクォリティー」を感じさせるが、中華人民の個性(京劇などを見ると彼らは、金属的な音を好むように感じる)が大きく反映されているのか?高域が「かなりキラキラ輝いて」感じられる。決して不愉快ではないが、トーンコントロール回路のないアンプを使い、さらに小音量で聞く場合には、ハイ上がりのバランスはかなり辛いのではないだろうか?このスピーカーは、McintoshやLUXMANのような、中低音が豊かで穏やかな性質のアンプと組み合わせるのがよいだろう。接続するアンプには、トーンコントロール回路が必須である。
今流行の「デジタルアンプ」と繋ぐと、方向性が重なりあって「それが好き」な人には良いかもしれないけれど、音ばかり細かくてニュアンスの感じられない、長時間聞くには辛い音になる恐れが強い。
海外製高級スピーカーと同等の外観。同等の音質。やや足りないのは「深み」と言う歴史が培うプラスアルファだろうか?あるいは、今回のテストではエージングが足りなかったのかも知れない。基本的な性能は高いが、癖もある。それを承知で使いこなせれば、こんなに安い買い物はない!どう考えたって、この仕上げで、この音なら、最低でも倍(ペア40万円)は、するほどの製品に見えるはずだから!