このセットでは昨日からずっといろんな曲を演奏して、音質の大まかな傾向はつかんでいる。その答えを先に言うとTL1N+DA1Nの音はとても良い。特にTL1Nは、TL1Xから大きく進化しているのを感じ取れる。
ジョージ・ルーカスがその音の広がり(立体感)に感心して購入を決めたといわれる、名機「TL1」の最大の長所はそのストレスのない音の広がりと立体感だ。ともすれば平面的で堅くなりがちなCDの中で、アナログ的と評されたその柔らかな音の広がり感はTL1Xに引き継がれ、TL1Nでさらに向上している。
ベルトドライブの欠点とされた「低域の緩さ」はTL1Nで改善され、初期のWADIAやEsotericのようなリジッドな固まり感こそ感じられないものの、前に出てくる柔軟性のある弾む低音は、ベルトドライブにしては・・・という断りを抜きにして心地よい。
中高域の滑らかさ、暖かさもTL1/TL1X譲りだが、そのきめ細やかさと密度感は大きくアップしている。
直接は比べられなかったが、その緻密さは旧モデルTL-0を上回り現行モデルのTL-0Xに近いのではないだろうかと想像するほどだ。
すでにウォーミングアップは24時間以上行っている。準備は万端。ではディスクを選んでTL1N+DA1Nの音質を検証してゆこう。
最初に選んだのはCD/SACDハイブリッドディスクである。初期のベルトドライブCDでは、このようなCD/SACDコンパチ・ディスクの読み取りが芳しくないことが時々あった。ピントのズレが原因なのでメーカーでサーボを微調整すれば解決するのだが、CD-Rにも対応しておらず、ベルトドライブメカはCD以外のディスクが苦手だという印象がある。
私の不安を打ち消すかのように、TL1Nはこのディスクをこともなく読み取った。さらにTL1Nでは、従来のベルトドライブ・プレーヤーの欠点であった「立ち上がりのもたつき(初期のベルトドライブ・プレーヤーは、ディスクをセットしてから演奏が始まるまで時間がかかる)」も解消されている。ダイレクトドライブよりはやや遅いかも知れないが、少なくともVRDSメカよりは格段に短い時間で演奏が始まる。選曲も早く、ダイレクトドライブCDとの差をほとんど感じない。これなら普通のCDと操作性が変わらないと言っても差し支えはないだろう。
演奏が始まる。音が軽く、そして明るい。ここで言う「音が軽い」という表現は、音の密度が低く、音像が希薄と言うことではない。アタックの立ち上がり、立ち下がりに無駄な余韻がつかず、音のエッジが非常にシャープだから、音が固まらずに空間に広がる。密度は高いが、音と音の間にはしっかりとした隙間がある。生演奏のアコースティック楽器のそれと同じである。もの凄く細い繊維状の倍音が空間に満ちる感覚。そう言えばわかってもらえるだろうか?TL1N+DA1Nの音は一つずつの粒子が非常に細かい。粒子が多くなっても音場空間には「隙間」が残る。向こう側が透けて見えるような隙間の存在が音を軽く感じさせる。音が塊になって、その重圧感が魅力的だったEsotericのP-0などと正反対の傾向だ。
これほどまでに「音が軽い」という感覚は、これまでにあまり味わったことがない。近いものはAIRBOW(例えがAIRBOWばかりで恐縮だが)UX1SE・LTDやSA10ULだが、TL1N+DA1Nの音はそれよりも軽く、倍音の構造がシャープだ。少なくとも国内の他メーカーのプレーヤーでは、こういうほぐれた音の鳴り方は経験したことがない。
空間が大きく広がるが、粒子が細かいので楽器の音像はぼやけずコンパクトに定位する。無駄なく、シャープに音が立ち上がり、無駄な余韻なくすっと消える。この一連の流れが流暢かつ細やかに行われる。
音調が明るいので、ボーカルは楽しくチャーミングに聞こえる。ギターの音もさわやかだ。何を聞いてもストレスがない音は心地よい。旧態然としたデジタルチックな音とは、全く無縁の滑らかで静かな音。空気のように軽やかだが、しっかりとした実在感ももっている。アナログ的だが、アナログのような過剰な艶はない。
高域は非常に伸びやかで、SACDのようだ。肩の力が抜けて、心が軽くなる。これはいい音だ。
弓と弦がこすれる音が柔らかい。音のエッジは生演奏よりも、わずかにマイルドだ。
このディスクは、楽器との距離がやや近く聞こえがちだが、TL1N+DA1Nで聞くこのディスクは直接音と間接音が上手くバランスした、いわゆる「S席」で聞く演奏に近いイメージになる。間接音は明らかに多いのだが、直接音とバランスに優れ、エコーが戻る(バイオリンの音がホールの壁から反射して聞こえる)タイミングが絶妙だから、響きがあってもそれがいやな響きや無駄な響きに感じられない。純粋に音楽を心地よく聞かせる方向の味付けだ。
特筆しておきたいのは、TL1N+DA1Nの色彩感の豊富さである。バイオリンの音は間近で聞くと、非常にハードで音色はあまり感じられない。しかし、コンサートホールの最も良い位置でそれを聞くと「ホールの木質的な響き」と相まって、実に心地よい色彩感、音色感が生み出される。もちろん、それは楽器や奏法で大きく変わるが、このセットは「ホールがバイオリンの音を甘くする」ように、見事にCDからバイオリンの美しい音色を醸し出す。
個人的にはバッハを奏でるとき、バイオリンの音があまり情緒的過ぎるのは好ましくないと私は思う。奏者で言うなら、ミルステインよりも晩年のシゲティーの演奏を私は好む。TL1N+DA1Nは、そのどちらともいえない絶妙の中間の音色を出す。甘すぎず、辛すぎない適度のバランス。これもまた心地よい。素晴らしいチューニングだ。
こういっては申し訳ないが、これまでのCECの製品とは一線を画すと断言して差し支えないほど、このセットの音質はレベルが高い。きっと、海外でも高く評価されるに違いない。
落ち着いた深みのある音でヒラリーを堪能することができた。
こういう種類のディスクがTL1N+DA1Nのような、本格的オーディオセットにふさわしいかどうかは別にして、とにかく良く聴かれているディスクとして、POPS(歌謡曲)の代表として聴くことにする。
低音は軽やかに広がる。体をぐっと押すような音ではなく、体を包み込むような低音だ。低音の量感と実在感は十分だが、その表現はまろやかでやや緩い。固まって体を押すような低音を望むなら、この低音はきっと気に入らないだろう。しかし、クラシックやバラード系の音楽には、この広がりのあるたっぷりした低音がより良くマッチするはずだ。
中音は滑らかで細やか。そして厚みも十分にある。フルレンジ・スピーカーのそれのように魅力的な中音部だ。シンセの音は柔らかい。
高音は、ベルトドライブというイメージを覆し、非常にシャープ。シンバルやギターの金属音も、切れ味良く表現される。芯はあまり強くないが、あくまでもその軽やかさが魅力的だ。ちょっと音のエッジが弱く押し出しに欠けるようにも感じるが、驚くほど色彩感が豊富でいろんな音がきらきらとカラフルで美しい。それがTL1N+DA1Nの独特の魅力だ。
驚くのは、ラップ調の早いボーカルの歌詞がきちんと聞き取れることだ。最近のJ-POPは歌手が何を言っているのか?その聴き取りが非常に難しいのだが、このセットではそれがきちんと聞き取れる。言葉の意味が分かるというのは、言葉(歌詞)で音楽を伝える「歌謡曲」では、何よりも重要なのだがTL1N+DA1Nはそれを完璧にクリアする。
歌詞の意味がハッキリと伝わるから、全体のリズムに浅く流されるのではなく、ボーカルを中心とした音楽の構成をきちんと感じ取り、演奏の内容を理解しながらそれに心地よく身を委ねている自分を感じる。
パーカッションの音もシンセサイザーの音も、アナログチックで色彩感に冨み柔らかく、そして軽い。まるでアナログ音源のソースを聞いているように。こんな風に最新録音のJ-POPが聴けるなんて、想像できるだろうか?
今まではTL1N+DA1Nのセットで音質を評価したが、それぞれの能力を見極めるためにまずトランスポーターをAIRBOW
UX1/SE/LTDに変えて同じディスクを聞いてみる。
高音には芯が出て音の輪郭はやや太く堅くなるが、TL1N+DA1Nが持っていた「軽さ」が後退して重みのある音に変わる。高域の明瞭度が向上し音がハッキリするのだが、音場空間に少し濁りが生じ、声はハスキーになり、ボーカルの歌詞は聞き取りにくくなった。しかし、低音の押し出しがグンと強くなり、低音にパワー感と圧力が出る。
同じ曲をトランスポーターを変えて比較したことで、ベルトドライブとVRDSの音の違いが見事に出た。
TL1N+DA1Nで感じた「軽さ」という魅力は後退したが、UX1SE/LTDではそれにない「厚み」と言う魅力が出る。この曲にはUX1SE/LTDの音がよりマッチすると思うが、ベルトドライブの綺麗に分離した軽い音を選ぶか?VRDSの適度に混ざった厚みと力のある音を選ぶか?どちらが良いというのではなく、純粋に好みの問題であると思う。
私は、これまでUX1SE/LTDに搭載されているVRDS-NEOが現在最高のCDメカだと思っていた。しかし、それとは対照的な「軽さ」という魅力を持つTL1Nは、また別の意味でそれに匹敵する性能を持っていることは間違いがない。素晴らしいトランスポーターである。
DA1Nの能力を確認するためにDACを使わず、CDをUX1SE/LTDでそのまま聞く。
パワーが違う。高域の伸びやかさ、中域の厚み、音の量感・・・、あらゆるものが圧倒的に「濃く」なる。外部DACと内蔵DACで音がこんなに違うとは意外だった。
実はTL1Nのセットの音があまりにも良かったので、UX1/SE/LTDとの比較に怖じ気づいたほどなのだ。しかし、やっぱり違った!価格も違うから当然なのだが、音の厚みや濃さ、エネルギー感、分離感、あらゆる部分でプラスアルファーが出て実在感が大きくアップする。体が自然に弾み、音楽に飲み込まれてゆく。
やっぱりこの音はすごい。
今回のテストは、「サンプリングレート=UP5」、「フィルター=FLAT」で行った。それは事前にその音が最も良いと確認しているからであるが、DA1Nの音は「サンプリングレート」を変えると明らかに変わる。そこでそれぞれの音質の特徴を簡単に紹介しよう。
「UP5」
高域の広がりと方向感を感じる。楽器の音も力強く、説得力がある。ボーカルの表情が細かくなって分離感も向上する。広がる部分と固まる部分がクッキリ分かれる。このモードがおすすめ。
「128」
音の細やかさが減少して、解像度が下がる。高域はよりシャープになり、低域も押し出しも出てくるが、中域が単調になる。音質は、明らかに悪くなったと感じる。
「64」
高域の空気感が増しS/Nが向上したように感じる。低域楽器の変化もよりよく出るが、ボーカルは「128」よりも後退し、中域が引っ込む。全体的な情報量もわずかに減少したようだ。
「32」
高域の歪み感は「128」・「64」に比べてさらに減少する。S/Nが向上し、全体的なバランスが改善するようだが、「UP5」に比べると、明瞭度感と解像度感がやや減退する。