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DENON DA-10 生産完了(DENON製品へのお問い合わせ)、marantz HD-DAC-1(ご注文お問い合わせ)
NOBLE NOBLE4W (ご注文お問い合わせ) 音質テスト
最近、ヘッドホン関連商品の高級モデルが各社からこぞって新発売されています。オーディオマニアにはなじみ深い、marantzからはハイレゾ/DSD対応のHD-DAC1が発売され、DENONからはポータブルタイプのDA-10が発売されました。
この2モデルの音質をチェックするため、愛用している密閉型の「audio-technica ATH-W10LTD(生産完了モデル)」とカナル型の「ATH-CK90PRO2」の2つのヘッドホンにNOBLEから発売される高級カナル型ヘッドホン「NOBLE 4W」を加えた3つのヘッドホンを使って聞き比べました。
試聴したヘッドホンアンプ
Apple iPod Touch(第5世代) |
DENON DA-10 |
marantz HD-DAC1 |
試聴したヘッドホン
audio-technica ATH-W10LTD 発売時価格 \50,000(税別)生産完了品 (audio-technica製品へのお問い合わせ) |
AKG K500 発売時価格 \50,000(税別) 生産完了品 (AKG製品へのお問い合わせ) |
Noble Audio 4W メーカー希望小売価格 \49,900(税込)〜 |
iPod Touchによるヘッドホン比較試聴
iPod Touch(第5世代) Neumann チェコフィル “新世界 第2楽章”
通常の試聴レポートでは「生産完了モデル」は、基本的に使いませんが、今回はあまり取り組んだことのないヘッドホン関係製品のテストと言うことで、ヘッドホンは長期間愛用し「音質がわかっているもの」を比較に使うことにしました。まず、基準の音を探るためそれぞれのヘッドホンを、愛用している「iPod Touch」に接続して音質をチェックしました。音源はCDをリップし「WAV」で取り込んだファイル「新世界 第二楽章」を使いました。
audio-technica ATH-W10LTD(密閉型)
audio-technicaの高級ヘッドホンシリーズの足掛けとなったATH-W10LTDは、ハウジングに「アサダ桜」が使われ、ヘッドホンとは思えない木質的な響きを持っています。また、密閉型とは思えない自然な音の広がりも特長です。かけ心地も良く、耳が暑く(汗が出る)なる事を除けば、現時点でも最高峰の音質だと感じています。そのATH-W10LTDをiPod Touchに繋ぎました。出力はさすがに限界ぎりぎりですが、なんとか最大音量以下で十分な音量が得られました。これほど巨大なヘッドホンをiPod Touchに繋いで聞くのは抵抗があるかも知れませんが、iPod Touchのヘッドホン出力は、みんなが思っているほど「ヤワ」じゃありません。ただし、大型ヘッドホンを繋ぐと「バッテリーがどんどん減ってしまう」ので、バッテリーを使っての長時間試聴は難しいと思います。
ATH-W10LTDとiPod Touchの組み合わせは10万円を超えるヘッドホンとヘッドホンアンプの組み合わせに匹敵し、そのバランスの良さとナチュラルな優しさではそれを超えるかも知れません。新世界の第2楽章はこれまで何度も「スピーカー」で聞いてきましたが、客席(演奏者)のノイズがこれほどハッキリと聞き取れたのは初めてです。私はコンサートを何度か本格的な機材で録音をしたことがありますが、当時モニターしていた音を思い出しました。それくらい自然で、細かくリアルな音が出ます。
第2楽章の冒頭では、楽器と奏者のすべてが見渡せるほどの細かい音が出ます。フォルテではさすがにアンプが限界で少し音の頭がつぶれる感じがしますが、よほど感覚が鋭くなければまず分からないほど些細な歪みです。バイオリン、チェロ、コントラバスの分離感が素晴らしく、各パート、各奏者の奏でる音が個別に聞き分けられるほどです。弦楽器、管楽器、打楽器、それぞれの音色の描き分けも見事で、下手なスピーカーよりも「繊細」にこの曲を聴くことができました。
能率の低いK500をドライブするのにiPod Touchの出力では、さすがに若干音量が不足します。それでもフォルテで音は割れず、たいしたものです。
密閉型のATH-W10LTDとK500を比べると、K500では「音源(ユニット)」までの距離が遠い感じがします。音は広がりますが、楽器が少し遠くで鳴っている感じです。ヘッドホンそのものの違いもあるでしょうが、ユニットの音が外に漏れない密閉型と解放されているオープンエア型の違いが大きいと思います。
楽器の音色にもATH-W10LTDが持っていた「濃さ」が薄れました。楽音以外のノイズもほとんど聞き取れなくなりました。細かい音の聞こえなくなって全体に音が薄く寂しくなった感じですが、音量が不十分な影響がかなり大きいと思います。全体的には素直な音でバランスも良く新世界が鳴りました。
カナル型(イヤホン)の音質は、「プラグ」と耳の密着性で大きく左右されます。プラグと耳の間から音が漏れると、帯域バランスが崩れ、音が悪くなります。また、プラグの硬さも音質に大きく影響します。
NOBLE 4Wは、4種類の材質のプラグが大中小3種類の大きさで付属(合計12セット)しています。
まず低反発ウレタンを使っている「黒いプラグ」を装着し、その後それぞれのプラグを使って音を聞き比べました。
低反発ウレタンプラグ(写真左上)
基本的に素直な音ですが、細かい音が少し聞こえにくい感じです。しかし、外側の音が少し漏れ聞こえることから判断して、このプラグと私の耳の相性が良くないためだと思います。
次にシリコンゴム系だと思われる、しなやかで柔らかい素材を使っている「黒いプラグ」を試すことにしました。
黒プラグ(写真左下)
密着性が向上し細かい音まで聞こえるようになりました。低反発プラグでは中域に少し膨らんだような感じがあったのですが、それが「低反発ウレタンプラグの音だった」ことがプラグを変えると膨らみが消えるのでわかります。プラグを変えると帯域バランスや音の細かさが変わることは知っていましたが、ヘッドホンそのものの音色まで変わるのは初めての経験です。
音の細かさは、ATH-W10LTDに近いですが、ATH-W10LTDは「ハウジングに使われるアサダ桜の響き」が音に加わることで、何とも言えない優しさと美しさが醸し出されていました。NOBLE 4Wは、それと比べて「響き」が少し少ない印象です。音そのものは素直で細かく、質も高い音です。個人的にはもう少し艶のある音が好きですが、変な付帯音が乗らないこの音も良いと思います。
フォルテでは少し音が濁りましたが、アンプを変えてヘッドホンを聞き比べる今後の試聴で、それがNOBLE 4Wの癖なのか、あるいはiPod Touchの限界なのかが分かると思います。
青プラグ(写真右上)
私の耳には黒プラグは「大」がマッチし、青プラグは「中」がマッチしました。黒プラグの表面はしっとりしていたのですが、青プラグの表面はやや乾いています。装着したときの密着性は、黒プラグよりも劣る感じです。密着性が低下したため、イヤホンの外側の音も黒プラグよりも良く聞こえます。
音のない密室で耳を澄まして音楽を聞いているような、静けさと細かさは少し失われました。けれど、それと引き替えに解放的な広がり感が出ます。中低音はしっとりした黒プラグにくらべ、少し乾いた印象がありますが量感は豊かです。黒プラグよりもエネルギーバランスが低域に移行し、広がりが出ました。
黒プラグは少しモニター的で、青プラグはそれよりも明るく開放的な音です。外側の音が聞こえるのが、ちょっと気になりました。
赤プラグ(写真右下)
赤プラグは青プラグよりも「モチッと」しています。装着した時も耳との密着感が一番高い感じです。プラグと耳がピッタリと密着すると、細かい音がより細かい部分まで聞こえるようになります。このプラグが私の耳に一番マッチしているようで、音が漏れることなく細かい音までハッキリと聞き取れました。余談ですが、私が普段愛用しているaudio-technica
ATH-CK90PRO2に付属する専用プラグは素晴らしく、装着する人を選ばず外部の音が完全に聞こえなくなるほどの密着性が保たれます。NOBLE
4Wに付属する赤プラグは、それに匹敵する素晴らしい密着性を実現しました。
audio-technica ATH-CK90PRO2はハウジングが少し響くように設計されているので、適度な響きが乗ってリラックスして楽しく音楽を聞かせてくれます。ヘッドホンで音楽を聞くには、これ以上の音質は不要と思えるほどよくできています。それと比べてNOBLE 4Wの音はより本格的です。無駄な響きや付帯音がほとんどありません。あるべき音、録音された音がキチンと出てくる感じです。
また最初に聞いたATH-W10LTDが「ハウジングの響き」を利用した豊かな響きを感じさせるのに対して、4種類のプラグのどれを使った場合もNOBLE 4Wの音は付帯音の少ないさっぱりした音だとわかります。付帯音の少ないのは気にならないのですが、音楽が少しクール(モニター的)に聞こえます。音色感がもう少し濃いと私の好みにピッタリ来ると思います。このあたりを組み合わせるアンプで、調整できれば面白いと思います。基本的な性能は、相当高いことが確認できました。
DENON DA-10 による、ヘッドホン比較試聴
iPod Touch(第5世代) → USBデジタル接続 → DENON DA-10
次にiPod TouchにDENON DA-10を組み合わせて聞いてみることにしました。接続は、DA-10付属のライトニング-USBケーブルを使いました。
DENON DA-10には、気配りの行き届いた様々な付属品が付いています。
アンプのゲインは「Hi」にしました。
audio-technica ATH-W10LTD(密閉型)
出力が大きくアンプがしっかりしているDA-10を使うと、好きなだけ音量を上げられます。私は愛用のiPod Touchをヘッドホンだけではなく、USB接続で様々なコンポに接続して聞きますが、その「音楽を聞きやすくする色艶と響きの良さ」と「耳あたりの良い絶妙な帯域バランス」に驚かされます。高域が伸びすぎて中低域が痩せて聞こえる、ハイレゾ対応の国産のポータブル・オーディオプレーヤーとは音楽を聞かせる「上手さ」が違うように思うのです。きっとAppleには、音楽をより良く聞かせる音作りできるマイスターが在社しているに違いありません。
それはともかくDA-10を使うと、iPod Touchの直接出力に比べると音が若干細かくなりましたが、引き替えにATH-W10LTDの魅力的な「艶」や「響き」の美しさは若干スポイルされてしまいました。DA-10を使うと、iPod独特の「旨味」は少し薄れます。けれど、iPod内蔵アンプと比べてヘッドホン駆動力が一気に増大するため、フォルテでのエネルギー感は比べものにならないほど改善します。静かなボーカル曲などを聴くのであれば、iPodタッチの出力で十分だと思います(ただし電池はすごく減ります)が、パンチの効いた曲を聴くのであればDA-10を使った方が良いと思います。
これまで試聴した外部ヘッドホンアンプは、iPodの出力よりも音が悪くなるものが多かったのですが、DA-10はiPodに繋いでも、音質改善が実感できます。良く出来たヘッドホンアンプだと思います。
K-500はかなり能率が低く、DA-10を使ってもボリューム最大付近にしてようやく大音量が出せました。けれど試聴にはそれほどの音量は必要ないので、ボリュームを少し戻して聴いています。開放型らしく、圧迫感が少ないのはK500の美点だと思います。
K500は基本的にATH-W10LTDに比べて響きが少なくさっぱりした音です。ATH-W10LTDではiPodとDA-10に少なからず音色の差を感じましたが、ヘッドホンをK-500に変えると、それがあまり感じられなくなりました。何よりDA-10を使ったことで、音量を適正まで上げられたことの効果が大きいです。
AKGらしいとても素直な音で新世界が鳴りました。
NOBLE NOBLE 4W(4ドライバモデル、カナル型) 赤プラグを装着
ATH-W10LTDとK-500では、iPod出力とそれほど音に大きな変化を感じなかったDA-10ですが、4WではDA-10を使うことで音が細かくなったことがハッキリわかります。また、少し濁りを感じた中低域が綺麗に分離して聞き取れるようになりました。
NOBLE 4Wは能力の高い(音質という意味ではなく電気的にと言う意味で)アンプとそうでないアンプの違いをハッキリ出します。ただ、iPod Touchでも不満だった「色艶」は、DA-10との組み合わせではさらに減りました。
良い音ですが、リラックスして身体を(耳を)預けられるような音ではなく、音楽としっかり対峙して聞くようなモニター的なサウンドで新世界が鳴りました。
marantz HD-DAC1 による、ヘッドホン比較試聴
iPod Touch(第5世代) → USBデジタル接続 → marantz HD-DAC1
Pod
Touchに繋ぐアンプを「DENON DA-10」から「marantz
HD-DAC1」に変えました。
audio-technica ATH-W10LTD(密閉型)
一音が出た瞬間から、DA-10とは雰囲気が違います。ゆったり、まったりした重厚なこの雰囲気は、marantzの高級オーディオ機器に共通する「marantzトーン」です。それもそのはず、HD-DAC1にはmarantz最高級プリアンプのために開発された「フルディスクリート無帰還型出力バッファー HDAM-SA2」が搭載されているのです。
中高音の細やかさや雰囲気感は、iPod直接出力と思ったほど大きくは変わりません。けれど、アンプの駆動力が問われる低音楽器のパワー感、音量感、大音量部での迫力は全く違います。ただ、ATH-W10LTDとの組み合わせでは、中域の響きが少し過剰気味になりました。
けれどここで思わぬ問題が発生しました。愛用のiPod Touch(第5世代)をHD-DAC1にUSB接続すると、音量をゼロにしたとき「ジー」というノイズが発生するのです。このノイズはiPod Touchに触ると音量が変化し、iPod Touchを外すと完全に消えるので、デジタルインターフェイスがiPod Touchのノイズを拾っていると思われます。試しに接続するプレーヤーをiPhone 5Cに変えると、嘘のようにノイズが消えました。この現象は、marantzにフィードバックしましたので、いずれ何らかのインフォメーションがいただけると思います。とりあえず、HD-DAC1を携帯端末とUSB接続して使いたいとお考えの場合には、購入前に一度お試しになられた方が良いと思います。
ノイズが乗っていると「音質評価」に差し支えるので、iPod TouchをHD-DAC1にアナログ接続して追加試聴しました(ちなみに、HD-DAC1に備わるミニステレオジャックのアナログ入力は、携帯端末用に感度が高く設定され{0.2V}通常のオーディオ機器{1.5V}を接続すると音が歪みますので注意してください)。
当たり前ですが、アナログ接続だとノイズは発生しません。デジタル接続に比べ、アナログ接続は音の細やかさがスポイルされます。音の分離感も低下し、音質は明らかに低下しました。音質悪化の引き替えに、iPod Touchらしい艶と響きが出ますが、それでも音質の低下を補えるほどではありません。今回のテストでは、アナログ接続に「audioquest Mini-1/2m」を使いましたが、もっと良いケーブルを使えば結果が違っていたかも知れません。
接続を再びUSBデジタルに戻し、K-500で試聴します。感度の高いATH-W10LTDに比べK500は感度が低く、ATH-W10LTDで気になっていたノイズはまったく聞こえなくなりました。
iPod直接出力に比べ音に芯が出て、明瞭度が増加します。音の細やかさ、広がり感も明らかに改善しました。音量が上げられるので「遠くで鳴っていた」楽器の音が「適正な位置」から聞こえるようになります。また、ATH-W10LTDで聞こえてK-500で聞き取れなかった観客の咳払いもハッキリと聞き取れるようになりました。
音量を上げられたことも幸いして、HD-DAC1による音質改善効果はATH-W10LTDよりもK-500でより顕著に発揮されました。HD-DAC1で聞くATH-W10LTDは細かい音までハッキリ聞こえるMCカートリッジのような音質で、K-500はそれよりもさっぱりしたMMカートリッジの音のように感じます。ヘッドホンに艶のあるATH-W10LTDとアンプに艶があるHD-DAC1の組み合わせは、少し艶が乗りすぎます。HD-DAC1との組み合わせでは、ATH-W10LTDよりもさっぱりした音質のK-500が好みの音を発揮しました。
NOBLE NOBLE 4W(4ドライバモデル、カナル型) 赤プラグを装着
カナル型は感度が非常に高いのでノイズの影響が大きく、常時細かい音がマスキングされてしまいます。けれどノイズの向こうに細かい音がハッキリ聞こえます。
艶の少ないNOBLE 4Wは艶のあるHD-DAC1とのマッチングに優れ、iPod Touch直接出力、DA-10と比べて音の広がりや艶やかさに優れ、響きが豊かで音楽がより深く心に浸透してきます。しばしイヤホンで聴いていることを忘れてしまうほど自然でゆったりと音楽が流れました。HD-DAC1との相性では4Wが最も優れています。ドラマチックな聴き応えのある音で新世界を聴くことができました。
DENON DA-10 試聴テスト
一通りの音質チェックを終えたので、楽曲を増やしてDENON DA-10とmarantz HD-DAC1をさらに細かく聞き比べることにしました。音源はすべてCDからリップしたWAVファイルです。
iPod Touch(第5世代) → USBデジタル接続 → DENON DA-10
NOBLE NOBLE 4W(4ドライバモデル、カナル型) 赤プラグを装着
B'z Pleasure “ZERO”
アンプのゲインをHiにしていると、感度の高い4Wでは、音量を絞ろうとするとDA-10ボリュームのギャングエラー(左右の音量差)が発生し、左右の音量がかなり違ってきます。そこでゲインをLoに切り替えて試聴しました。
RockではDA-10の「パワフルさ」が生きてきます。iPod直接出力とは比べものにならない、音の立ち上がりの早さ、切れ味の良さ!に驚きました。新世界を聞いた感触では、ZEROのDA-10追加でこれほど大きな差が出るとは思っていなかったからです。
この曲をDA-10で聴くと、4Wの良さが際立ってきます。これまでの試聴でNOBLE 4Wの良さは確認できたものの、その音は普段使っているaudio-technica ATH-CK90PROとそれほど大きく違わないと感じていました。けれど、この曲での4Wのパンチ力、音の立ち上がりと立ち下がりの早さを知ってしまうと、4Wの価格が高いとはまったく思えなくなります(外観が違う標準モデルのNOBLE 4なら、\49,900/税込)。
これほど気持ちよい切れ味のイヤホンを聞いたのは初めてです。そして4Wの高性能を生かすためには、iPod Touchの出力では役立たずで、4Wの能力を引き出すためのは、音の良い外部アンプが絶対に必要だと感じました。
音の洪水に身体ごと流されてしまうように、頭の中に音が溢れています。
Grace Mahya Last Live at DUG “Mona Lisa”
イントロのギターの切れ味が気持ちよく、スピーカーで聴くのとはひと味違う新鮮さ、鮮やかさを感じます。
この曲はライブ録音なのですが、スピーカーでは聞き取ることのできない観客席のかすかなノイズがハッキリ聞こえます。スピーカーとも違う、ヘッドホンとも違う、この鮮やかでクリアな音は耳とユニット(振動板)が一体となる、イヤホンならではの音です。
イヤホンを通して消防車の「鐘の音」が聞こえますが、その音はイヤホンから出ているのか、イヤホンの外側からなのか、わからなくなるほど自然で超リアルなサウンドです。ボーカルも非常に繊細で表情も豊か。素晴らしい音ですが、スピーカーのように身体全体でで音楽を感じるのとは違っています。スピーカーでは聞き取れない細かい音まで、全部頭の内側で鳴っています。
この曲はスピーカーで聴くよりも4Wで聞く方が「録音の悪さ」が気になりません。それはたぶんスピーカーだと聴き取れない小さな音までが聞こえるからだと思います。また、スピーカーのように「部屋に音を広げる」必要がなく、録音されている音だけが耳に入るから、録音の悪さが気にならないのかも知れません。
バイオリンは1〜4弦がフラットなエネルギーバランスで再現されますが、チェロは少し中音の膨らみが足りません。コントラバスはもっと低音に膨らみが欲しいと感じます。けれどスピーカーだと聞き取りにくい、弦楽器に隠れた「チェンバロ」の音は、すごくハッキリ聞こえます。中低音が不足するのではありませんが、やはりすこし高音が勝ち気味です。
ホールの座席で音楽を聞いている雰囲気ではなく、ステージの上で演奏を聴いている感じです。イヤホンの音は指揮者が聞いている音に近いのかも知れません。
Ballad Collection Mellow / DOUBLE ”Stranger”
この曲は録音が良いと思います。イベントでもよく使いますし、普段から良く聞いています。
けれどDA-10+4Wの音は、この曲を聴くには少し行き過ぎた感じです。ベースの音、エレクトリックピアノの音、ウインドベルの音、ボーカル、それぞれの音は驚くほど細かく聞こえ、スピーカーでは到底聞き取れない細かさに驚きます。けれど、ボーカルは耳のすぐ側で歌っているように聞こえ、ベースは響きが少なくマイクから出力される音をそのまま増幅して聞いているようです。
多くの音楽は「スピーカー」でマスタリングされますが、それを「部屋の響きのないイヤホンで聴いている違和感」なのでしょう。絵画を適度な距離を置いてみるのではなく至近距離から観察する感じで、音楽の全体を見渡すような楽しみではなく、細かいパーツを鑑賞するようにストレンジャーが聞こえます。善し悪しではなく、スピーカーによる音楽鑑賞とイヤホンのそれは「異なる文化」に感じます。
そういう雰囲気や楽しみ方の違いを抜きにすれば、DA-10+4Wから聞こえてくる音は「最高峰のスピーカー」よりも細かく、これほど細かい音なのに「違和感」を感じないのは4Wの音作りが良くできているからだと思います。
audio-technica ATH-W10LTD(密閉型)
B'z Pleasure “ZERO”
ハウジングの響きがあるATH-W10LTDできく「ゼロ」は、4Wよりも普段スピーカーで聴いている音に近くなります。音源が少し遠くなり、低音の膨らみとタメが出ます。ボーカルも人間が歌っている豊かさと暖かさが加わりますが、音そのものの「ピュアさ」は薄れました。けれど、基本的にユニットと鼓膜の距離が近いヘッドホンの音はスピーカーよりも細かく聞こえるので不満はありません。
高級オーディオ機器で「ノイズがない」、「交流から切り離せる」という理由で「バッテリーの音が良い」とする考え方があります。けれど、私は反応が遅く、音の頭が丸くなるバッテリーの音が嫌いです。けれどDA-10はバッテリーでアンプを鳴らしているにもかかわらず、驚くほどの切れ味、弾けるような低音のパワー感が実現します。バッテリーの音は交流よりも「鈍い」と考えていた私には、この音は驚きです。進化したリチウム電池だから、この音が出るのでしょう。
NOBLE 4Wの頭の中に音が突き刺さる様な鋭さも、刺激的で魅力がありました。けれど、ATH-W10LTDで聞く響きの豊かなZEROは、4Wよりも「生演奏を聴いている雰囲気」に近い味わいです。音が完全に分離しきれずに混ざり合う。その「混ざり」が魅力的なのだと、超高解像度の4Wを聞いて今更気がつきました。
Grace Mahya Last Live at DUG “Mona Lisa”
イントロのギターの音に「甘さ」と「響き」が出ました。4Wはギターが自動演奏で鳴っているように聞こえましたが、ATH-W10LTDでは「人間がギターを弾いている」感覚が伝わります。グレース・マーヤさんとギターリストの掛け合いの「間」も出ました。音を出して、響きをためて、音を止める。4Wでは気づかなかった世界がATH-W10LTDで見えてきます。ATH-W10LTDの音は、聞き慣れたスピーカーの音に近づいています。
しかし、それにしてもこのDA-10の音は素晴らしい!
この価格、しかも充電式の小型ヘッドホンアンプでこれほどの音が出せるとは!
今まで試聴してきた大型で高価なUSB対応ヘッドホンアンプは何だったのでしょうか?
低価格・小型充電式ヘッドホンアンプの常識を覆すほど、DA-10は素晴らしい音のアンプだと思います。
この曲をATH-W10LTDで聞くと、その音は「スピーカーで聴いている悪い印象」に近づきます。
響きの良さや、暖かさは増え、バイオリン、チェロ、コントラバスの違いは生に近づきましたが、楽器の音が空間で分離せず、狭い範囲に詰め込まれて鳴っています。4Wでこの曲を聞いたときの新鮮さが失われてしまいました。
この曲に関しては、4WとATH-W10LTDのどちらで聞くかは、少し迷ってしまいます。
Ballad
Collection Mellow / DOUBLE ”Stranger”
この曲でもATH-W10LTDは適度なハウジングの響きが加わることで、より人間的な音に聞こえます。
4Wの音は善し悪しではなく「実験室(モニタールーム)」で聞くような圧倒的なピュアさを持っていましたが、ATH-W10LTDの音は人間的な柔らかさと豊かさが加わり、スピーカーで聞く音に近づきます。4Wではボーカルが頭の中に直接入りました。ATH-W10LTDでは、音と耳の間に「空気」が介在し、ボーカルの「息吹」が感じられます。どちらが魅力的かと問われれば、私はATH-W10LTDを取るでしょう。実にしっとりと、感動的な音でストレンジャーが鳴りました。
もちろんこの点は好みが分かれると思いますし、聴く楽曲によっても違いがあると思いますが、4Wは音の良さが新鮮な驚きで、ATH-W10LTDは雰囲気の濃さに心が震えました。
marantz HD-DAC1 試聴テスト
iPod Touch(第5世代) → USBデジタル接続 → marantz HD-DAC1
audio-technica ATH-W10LTD(密閉型)
B'z Pleasure “ZERO”
音の立ち上がり、立ち下がり、解像度感は驚いたことにDA-10がHD-DAC1を超えていました。
DA-10と比べるとHD-DAC1の音は良くできた真空管アンプを聞いているように穏やかで、響きが豊かです。この曲はHD-DAC1とATH-W10LTDの組み合わせでは、響きが多すぎて低音が少し膨らみすぎて遅れる感じです。
この曲に関しては、DA-10+4Wがトップで、DA-10+ATH-W10LTDがそれに続きHD-DAC1+ATH-W10LTDは、ちょっと緩すぎる感じが気になりました。
ただ今回の試聴は、音源としてiPod Touchを使っているので、PCを接続して聞けば印象が好転するはずです。
Grace Mahya Last Live at DUG “Mona Lisa”
この曲で比べても、音の鮮度はDA-10の方が高く感じました。けれど人間がギターを奏でている感じ、グレース・マーヤさんの声の艶はHD-DAC1が魅力的です。
HD-DAC1の音は、「スピーカーで聴く音楽」、「marantz高級オーディオの音」を模して作られているのでしょう。その味わいをきちんと引き出すためには高級オーディオと同じような「使いこなし」が必要なのかも知れません。
心地よく耳に優しい音ですが、今聞いている音はこれまでに聞いたヘッドホンアンプと比較できる範囲にあり、別格に優れているという印象を受けません。
基本的にはDA-10でこの曲を聴いたのと同じイメージですが、弦楽器の音に艶が加わりました。また、コンサートホールらしい広がりが出ます。さらに、楽器感の掛け合いの様子が生演奏を聴いている雰囲気に近づきます。疲れたときにこの音で交響曲を聴くと、きっと眠ってしまうでしょう。滑らかさと適度な厚み、ゆったりとした響きの良さが実現しました。
Ballad Collection Mellow / DOUBLE ”Stranger”
イントロのウインドベルの音、指打ちの音に「色彩感」と「暖かさ」が出ました。ボーカルはさらに肉付きが良くなり、ピアノの音も響きが長く美しくなりました。DA-10+4Wとは対極にある音です。もう少し音が細かい方が好みなのですが、長時間音楽を聞くにはこれくらいの緩めの解像度が「適度」なのかも知れません。
今聞いている音はmarantzのプリメインアンプやCDプレーヤーのヘッドホン出力に「高級プリアンプ」を繋いだ感じによく似ています。オーディオを知らない人には何のことか分からないと思いますが、要するに「聞き慣れた高級機の音で安心して音楽が聞ける」ということです。
ただHD-DAC1でもボリュームを絞ると左右の音量差(ギャングエラー)が生じるので、プリメインアンプやプリアンプだけではなく、ヘッドホンアンプにこそ「ICボリューム」を使って欲しいと思いました。今やICボリュームの音は、決してアナログボリュームに劣る事はないのですから。
DENON DA-10 アナログ出力 試聴テスト
HD-DAC1の試聴の締めくくりは、ヘッドホンではなく「USB-DAC」としてのHD-DAC1の能力を探ることにしました。USB-DACを内蔵するAIRBOWの新製品 PM7005 Applauseを使い、PCを直接PM7005 ApplauseのUSB入力に繋ぐ場合と、HD-DAC1をUSB-DACとして使ってアナログ入力した場合の音質を比較しました。
「iCAT Ink. MSHD/Linux」をインストールしたAIRBOW MSS-i3/MsHDを接続しました。
スピーカーには、高域の明瞭度が高いヘッドホンに合わせて、高音の切れ味に優れるFocal 1028BEを使いました。
試聴に使ったスピーカーシステム
やっぱりスピーカーから出る音は格別です。特にロックでは「体感」が違います。135万円という高価なスピーカーを使っても、音の細やかさはヘッドホンに敵いませんが、それはスピーカーユニット(振動板)と鼓膜の間に介在する「空気」がそのバネ性と粘性によって「音」を減衰させるからです。空気中を音が伝わるときは低音より高音の減衰が大きく、ユニットから距離が離れれれば離れるほど高音の切れ味と明瞭度感が失われるので、ユニットから鼓膜までが最短で結ばれるヘッドホンとスピーカーでは高音の質感に大きな差が出るのは当然です。
けれど身体を包む込むような音の広がり、腹に響く低音の力強さはヘッドホンでは得られません。また、ハイパーソニック・エフェクトという研究から、人間は耳以外でも音を聞いている(感じている)ことがわかっていますから、ヘッドホンとスピーカーを同列で比較するのは間違いだと断言できます。
けれどそれがわかっていても試聴リポートを、スピーカー用とヘッドホン用に書き分けることは難題です。なぜなら、聞いているのは同じ”音楽”だからです。
AIRBOW PM-7005 Applause 販売価格 ¥175,000(税別) (ご注文お問い合わせ) |
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B'z Pleasure “ZERO”
PM7005とその内蔵USB-DACはカスタマイズしなくてもかなり性能が高く、価格を大きく超える細かく表情豊かな音を聞かせてくれました。ここからどれくらい音質を改善できるか不安でしたが、それは杞憂に終わり徹底的な改良によりPM7005
Applauseは、USB-DACを含めトータルの音質を「飛躍的」に向上させることができました。カスタマイズ前後を聞き比べれば、その前後の違いは驚くほど大きいことがすぐにお分かりいただけると思います。
それはともかくAIRBOW MSS-i3/MSHDをPM7005 Applauseに繋ぎ、スピーカーから出る音は、最前列が「メインボーカル」その後が「コーラス」そして最後尾が「伴奏」と立体的に展開します。高音はスピーカーからまっすぐこちらに飛び、低音は身体を通過して背後にも回り込みます。この身体を包み込む濃密な音場感こそ、スピーカーで音楽を聞く醍醐味です。高音の細やかさはヘッドホンには及ばないのですが、その響きの良さと「ドライブ感」はスピーカーならではです。また、音像が頭の中央ではなく、前方に定位するのもありがたい事です。
ピアノは切れ味良く、ベースやドラムは腹にずしんと響きます。音の切れ味に優れ、リズムが弾けます。低音は収束が若干遅いですが、このクラスのアンプとしてはそれでも望外に早いと思います。
PM7005 Applauseが一番魅力的に感じるのは、それぞれの音が綺麗に分離して聞き取れることです。複雑な音も、一切交じることなく聞き分けられます。
marantz HD-DAC1 アナログ接続 → PM7005 Applause
内蔵USB-DACに比べて「音が濃く」なりました。分離感や鋭さはPM7005 Applauseの内蔵DACが有利ですが、HD-DAC1は低音の量感、リードギターのドライブ感により強い説得力、訴える力を持っています。
ヘッドホンで感じたのと同じようにHD-DAC1の高音は若干マイルドで、中音にはmarantz独特の厚みと艶が感じられます。けれどそれは悪いことではなく、音楽をより積極的に躍動させる方向に働きます。ボーカルが主役、伴奏は脇役ときちんと描き分けられる音でゼロが楽しく鳴りました。
Grace Mahya Last Live at DUG “Mona Lisa”
イントロのギターが優しく切なく響きます。ボーカルは滑らかで艶があります。音の広がりはそれほど大きくありませんが、S/N感が高く空間が透明に感じられます。再生周波数帯域は、このクラスとしては高域が伸びています。また、高域の質感の高さもかなり高級な製品に匹敵します。中低音はもう少し出て欲しい気がしますが、不足しているわけではありません。電源ケーブル(純正で試聴)や脚などを変えれば、秘められた実力をさらに引き出せそうです。
marantz HD-DAC1 アナログ接続 → PM7005 Applause
イントロのギターの音が太く、甘さが出ました。ボーカルも艶が増えて、説得力が増します。この高級感溢れる音は、HD-DAC1が搭載する「HDAM-SA2」の効果だと思います。帯域は狭くなったように感じませんが、人間が最も敏感なボーカル帯域がぐっと充実しました。聴き応え、説得力のある良い音です。
Ballad Collection Mellow / DOUBLE ”Stranger”
イントロのベルの音が鮮やかで綺麗です。指打ちの音は、ベルの後に綺麗に分離して定位します。ベースの音は押し出しがあり、量感も豊かです。ZEROでも感じましたが、それぞれの音がまったく混じり合うことなく、音の向こう側が透けるように聞こえます。HD-DAC1と比べると音の密度感が少し不足していますが、クリアでフレッシュ、楽しくわかりやすい音です。
marantz HD-DAC1 アナログ接続 → PM7005 Applause
イントロのベルの音がまろやかになって、厚みと立体感が出ました。指打ちの音は僅かに湿り、人間の皮膚の感じが出ます。ボーカルは一段とハスキーで、Takakoさんらしい魅力が出ます。HD-DAC1は、音の密度、温度、表現が豊かで、高級コンポの音質が味わえます。
このソフトでは、PM7005 Applauseの分離感と広がり感が生かされます。録音の悪さをまったく感じさせない自然で開放的な鳴り方です。特にこのソフトで難しい、バイオリン、チェロ、コントラバスの前後位置関係は抜群です。コンサートマスターは指揮台のすぐ横、チェロはその後に横方向に並び、コントラバスはさらにその後に定位し、その音がホールから観客先に回り込んできます。左右への音の広がり、前後への奥行きに優れ、若干高域がマイルドに聞こえますが、録音の悪さをものともせず、生演奏に近い雰囲気でこのソフトが美しく楽しく鳴りました。
marantz HD-DAC1 アナログ接続 → PM7005 Applause
音階が少し下がります。また弦楽器の数が増えて艶が出ました。PM7005 Applauseが持っている味わいの良さはそのままに、空間を満たす音の数が増えています。また、弦楽器の音色はより滑らかで暖かくなっています。弦楽器を奏でる「弓」の材質が、少し柔らかくなった雰囲気です。PM7005 Applauseが持っていた「クリアな立体感」は若干失われ、音の広がりも少し小さくなりましたが、空間内での密度が向上し、音楽表現が濃くなりました。功罪ありますが、私はこちらの音が好みです。
HD-DAC1 試聴後感想
HD-DAC1は、marantzの高級機らしいコクのある芳醇な音質に仕上げられています。
高域の伸びやかさがもうすこし欲しいと感じる事がありますが、中域の充実感、低域の量感に優れ、ソフトの録音に左右されずあらゆるジャンルの音楽をドラマティックでムードたっぷりに再現します。音楽がわかる、大人の音です。
2014年11月 逸品館代表 清原裕介
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