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DENON PMA-SX1 (ご注文お問い合わせ)、 DCD-SX1(ご注文お問い合わせ) 音質テスト
DENONから、プリメインアンプのフラッグシップ「PMA-SX1」が発売されました。PMA-SX1は、プリメインアンプと言ってもパワーアンプに音量調整とセレクターが付いただけのもので、出力も増幅素子を一対しか使わない「シングル、プッシュプル」方式を採用するなど、DENONがこだわる「シンプル イズ ベスト」が貫かれています。今回は、このPMA-SX1を3種類のスピーカーで聴いてみました。PMA-SX1の試聴機が届いたときには、DCD-SX1の用意がなかったためCDプレーヤーに「AIRBOW SA14S1 Master」を使いました。数日遅れてDCD-SX1の手配ができたので、SA14S1 Masterの試聴の後に、PMA-SX1にDCD-SX1を組み合わせて聞きました。まずこの特徴的なこだわりのプリメインアンプ、PMA-SX1の主な特長をおさらいしておきましょう。
PMA-SX1の主な特長
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全段バランス回路+BTL出力
PMA-SX1の基本回路は、外来ノイズに強い全段バランス構成にBTL出力回路が組み合わされています。通常のアンプでは、プラス側のみ電圧を制御し、マイナス側の電圧はゼロ(アース)で固定されています。BTL回路は、プラス側に合わせてマイナス側の電圧も制御することで、スピーカーにアンプが振られて音質が変わることのない、高いスピーカードライブ能力が得られます。
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UHC-MOS シングルプッシュプル
PMA-SX1はこの電気的に優れた基本回路に、大電流を制御できるUHC-MOS(Ultra
High Current MOS ) FETをプラスとマイナスの出力回路に各一つ用いたシングルプッシュプル構成となっています。増幅素子を一つしか使わないこの回路は、多数の素子を並列駆動する場合に問題となる複数素子のバラツキがなく、滲みのないピュアな音質が得られます。
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シンプル&ストレートを徹底した回路構成
DENONの考える「シンプルイズベスト」の思想を徹底するため、PMA-SX1にはプリアウト、トーンコントロール、バランスコントロール、ヘッドホン出力が装備されていません。内部配線はOFC(無酸素銅線)を使った、最短経路で設計されます。
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エクストラプリアンプ入力端子
フロントスピーカーの共用など、ホームシアターシステムとの併用に便利なゲイン固定入力「EXT.
PRE」入力端子が装備され、AVアンプ等のプリアウト出力と接続してパワーアンプとしてお使いただけます。
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クリーンで強力な電源回路
PMA-SX1は、オーディオアンプの高音質への要求に応えられる各電源回路専用捲き線を持つ、防振・防磁トランスが搭載されます。大出力パワーアンプに匹敵するサイズを持つ大型トランスには、高音質デノン・カスタムブロック型コンデンサーが組み合わされ、高級アンプの求められるクリーンで強力な電流を実現します。
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ダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクションとフローティング機構
PMA-SX1には振動吸収性と強度に優れる鋳鉄製のフットが採用され、筐体は風穴寸法を微妙に調整し共振周波数を分散したトップパネルを使うなど、細部に至るまで防振、整振が徹底されています。さらに重量級の電源トランス、振動に敏感なブロック電解コンデンサー、整流ダイオードには異種素材を用いたフローティング処理が施し、増幅回路への振動の伝播と外部から流入する振動から電源回路を解き放ちます。
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アナログ式ボリューム
ボリュームには、最近よく使われているIC(チップ)ボリュームではなく、多接点ワイヤブラシを採用した大型のモーター回転式ボリュームを採用しています。このアナログ式ボリュームには、最大15mm厚の堅牢なフロントパネル、削り出しの円筒状アルミカバー、そしてアルミ無垢材の削り出しノブが採用され、音質劣化につながる振動が徹底的に排除されています。さらにボリュームつまみの周囲には琥珀色に輝くイルミネーションが装備され、存在感を一層際立たせるデザインとなっています。
■ 大型スピーカー端子
Yラグから極太ケーブルまでをしっかりと締め込むことができる大型端子を横一列に配置することにより、スピーカーケーブルが繋ぎやすくなりました。
■マイコンストップモードとリモコン対応
音質への影響を避けるため、操作中以外はマイコンへの電源が完全にOFFとなるマイコンストップモードが搭載されています。
試聴したアンプとCDプレーヤー
DENON PMA-SX1 メーカー希望小売価格 ¥580,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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AIRBOW SA14S1 Master 販売価格 ¥360,000(税込) (この製品のご購入はこちら) |
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DENON DCD-SX1 メーカー希望小売価格 ¥550,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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試聴に使ったスピーカーシステム
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試聴テスト
アンプのウォーミングアップのため、AIRBOW SA14S1 MasterにiPod Touchを接続し、収録している楽曲をランダム再生し48時間連続演奏しました。電源投入直後の音は、線が細く高域の硬い「DENONの悪い癖」を感じさせるものでした。仕事をしながら数時間、聞いていましたが一向に暖かみや響きが良くならず、これほどのアンプなのに低音もそれほど出てきません。困ったな〜と思いながら、アンプをそのまま鳴らし続け、一晩経つと少し音が変わってきました。念のため、さらに24時間のウォーミングアップを行ってから試聴を開始しました。
CDプレーヤー:AIRBOW SA14S1 Master(お問い合わせはこちら)
Ballad Collection Mellow / DOUBLE "Stranger"
スピーカー:Focal/1028BE (このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
48時間のウォーミングアップを経ても、高域の硬さは完全にとれません。ボーカルは高域が硬くややヒステリックで耳障りです。中低音は高域に比べると、ややパワー不足の印象があります。中音が痩せているので、ボーカルが口先だけで歌っているように聞こえます。低音は響きが少なく、ベースが空振りしているようです。伴奏とボーカルのマッチングも今ひとつ。それぞれの音がバラバラに鳴っているようです。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert Grand (生産完了 Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
イントロのウィンドベルの音が綺麗に伸び切りません。直前に聞いたAVアンプのONKYO RX-NR1030もそうでしたが、超高域に「髭」のような耳障りな響きがまとわりつきます。けれどボーカルの印象は、スピーカーを変えたことでがらりと変わりました。中域がまだ少し物足りないのは変わりませんが、高域の滑らかさとしっとり感が出てきました。伴奏との一体感も改善されました。ただ、まだ音楽と一体になれるほどではありません。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
高域の歪み感は完全に消えました。ボーカルは、表情と艶が出ました。低域もそこそこ出ますが、低域と中域の間が抜け落ちたように寂しいのは変わりません。
演奏で言うところの「ドライブ感」が足りません。音楽に力がなく、こちらに向かってきません。しかし、スピーカーに近づくと音の細かさや雰囲気が出ます。色々な音は出ているのですが、スピーカーから離れるとそれが聞こえなくなる感じです。
ストレンジャーを聞いた感想
PMA-SX1の高域は、あまりにも引き締まりすぎています。低音も引き締まりすぎて低音の広がりとドライブ感がなく、リズムがこちらに「押して」きません。
3種類のスピーカーでこの曲を聴きましたが、ボーカルの低い部分、低音と中音の間、周波数で言うと「100〜200Hz」くらいにディップがあり、そのせいで音楽の広がりとふくよかさが不足しているように感じました。
私は響きを作ってくれるアンプ(例えば真空管アンプのような)のほうが、音楽を楽しく聴けると考えています。、PMA-SX1はその思想とは対極にある音「ストレートな音」です。ゆったりとしたバラードを聴くには合わない感じです。
スピーカーとの相性は、高域がストレートに出る「金属振動板(ハードドーム)」型ツィーターではPMA-SX1の特長が良く再現され、「シルクドーム(ソフトドーム)」型ツィーターでは、その癖が緩和されました。
Seven Steps to Heaven /Miles Davis "Seven Steps to Heaven"
スピーカー:Focal/1028BE (このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
出だしのシンバルの音、ドラムの音、ベースの音がしっかり出ます。低音も良く出ます。ストレンジャーで最後まで納得できなかった「中低音の抜け」もまったく感じられません。
楽器が響きすぎず、ほどよく「枯れた音」でマイルスが鳴ります。トランペットは、唇使い(そんな言葉があるのかどうかは別にして)が伝わるように音がスリリングに変化します。スピード感のある、スリリングな音で「天国への7つの階段」が鳴ります。こういう「さっぱり」したJAZZの鳴り方は、結構好みです。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert
Grand (生産完了
Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
この曲を選んだのは、48時間のウォーミングアップ中に「古い器楽曲のJazz」との相性が最も良いことに気づいたからです。
ストレンジャーは結構さんざんな評価でしたが、「天国への7つの階段」は、結構良い感じで鳴ります。この音であれば、支払った代価を悔やむことはないと思います。また、同門のmarantz
PM11S3と比べても、PMA-SX1の「さっぱりした音」はよりこの時代のJAZZにあっていると思います。
トランペットは派手さはありませんが、しっかりと鳴っています。ベースもしっかりと鳴ります。シンバルはみずみずしく、高域がスッキリと抜けています。すべての楽器の音が自然に分離し、生演奏を聴いている雰囲気でこの曲が聴けます。
伝わるかどうかは難しいのですが、良くできたレコードプレーヤーに「Shure
TYPE-3」あたりを組み合わせてJAZZを聞いている味わいです。DENONの代表的なMCカートリッジ「MC103」にそっくりな音です。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
PMA-SX1で聞くこの曲は、PMCとの相性が良くありません。低音が早く収束しすぎて、JAZZ系の音楽で欲しい「低音の押し出し感(パワー感)」が弱くなるからです。マイルスのトランペットも湿っていて元気がありません。
霧で煙るイギリスで演奏されているJAZZのようなイメージで、ちょっと暗過ぎる印象ですが、内面にぐいぐい引き込まれていくような「暗さ(黒さ)」で鳴る危なさと妖しさを感じさせる「このマイルスの鳴り方」は、それはそれで「あり」だと思います。
決して聞くのが嫌になるような音ではなく、むしろこの曲の「新しい一面」を見つけた気がしました。
Seven
Steps to Heavenを聞いた感想
アナログソースからデジタル化されたこの曲は、マスターの段階から「響き」が多いからでしょうか?PMA-SX1に絶妙にマッチします。
ストレート思想を貫いたPMA-SX1の音には「飾り」がなく、ストレンジャーでは製作に使われた録音機器の限界までPMA-SX1が見せてしまったのかも知れません。「ストレンジャーではアンプではなく、ソフトが悪かった(そんなことはありませんが)」と思えるほど、マイルスでは音ががらりと変わって良い音です。全く違うアンプを聞いているような印象です。
すべてのスピーカーでマイルスがきちんと鳴り、音は微妙に違いますが「演奏そのものに色が付いた感じ」がほとんどありません。マイルスの吹くミュートされたトランペットの音が、実にリアルです。そしてその「枯れた感じ」は、非常に好ましいものです。アンプやスピーカーの存在を忘れて、目の前で演奏が繰り広げられているような音でマイルスが鳴ります。
ストレンジャーではさんざんだった音ですが、マイルスではそれが最高になります。この落差の激しさは、一体どこから来るのでしょう?たぶん、何も足さない、なにも引かないというDENONの思想が生み出した音なのだと思います。日本製品らしい音です。
スピーカー:Focal/1028BE(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
録音の芳しくない、このソフトの音がそのまま出てくる感じです。音が絡み合って広がらず、ごちゃごちゃしています。けれど耳を澄ますと、絡み合う中にもそれぞれの音がきちんと分離してるさまが聞き取れます。空間はこじんまりとしているのですがその中は整然として、いままで聞いた事のないちょっと不思議な音です。
モニター的と言えばいいのでしょうか?演奏を聴いているのではなく、録音された音をそのまま聞いている感じです。各々の楽器の音は「生きて」います。けれどミキシングがまずく、空間が広がりません。それぞれの楽器の音をピックアップして聞き取るには適していますが、全体像を見渡して交響曲の構造を感じ取ることはできません。やはり、何も足さず、なにも引かない印象です。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert
Grand (生産完了
Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
出てくる音の楽しさ、美しさは1028BEと比べものになりませんが、これは、Focal(メタルドーム)とBeethoven Concert Grand(T3G)(ソフトドーム)との相性の違いが非常に大きいからだろうと想像します。
1028BEよりも音がほぐれ、空間が広がります。バイオリンの音には滑らかさと艶が出ます。また色彩が濃くなり、楽器の音色も鮮やかになっています。けれど高域には若干の曇りを感じます。ソフトがSACDだと考えるとこの高域の抜け感の悪さはありえないはずです。けれど、不思議と不満を感じないのは、低域から高域にかけてのバランスが耳あたりの良い「かまぼこ形」になっているからでしょうか。
電気的な増幅を感じさせる音ですが、しばらく聞いているとそれを感じなくなります。好きな音ではありませんが、悪い音でもなく、演奏は十分に楽しめます。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
ストレンジャー、マイルスではPMA-SX1との相性があまり良くなかったPMCですが、この曲では3つのスピーカーの中でTwenty24との相性が最も良く感じられます。
他のスピーカーに比べPMCが優れているのは、楽器の音の分離感です。また、空間も意外にきちんと広がります。すべてのスピーカーで感じた「高域の抜け感の悪さ(曇り)」は、まだ感じられますが、中低域の分解能が大きく向上し、混ざっていた音が綺麗にほぐれました。また、それぞれの奏者の弓使い、音の圧力感も出始めて、生演奏を聴いているのと余り変わらないイメージでこの曲(この録音の悪いソフト)が鳴ることに驚きました。
バッハ・コンチェルトを聴いた感想
PMA-SX1のような「ストレートな音」のアンプと録音は良くないこのソフトの相性は良くないのですが、PMA-SX1はこの難しいソフトを予想より全然良く鳴らしました。
このソフトで感じるPMA-SX1の音作りは、非常にオーソドックスなものです。巌のように動かない低域の上に密度感の高い中域を乗せ、僅かにロールオフした高域を重ねる。いわゆるピラミッド型バランスに仕上げられていることがわかりました。
PMA-SX1をAIRBOW SA14S1 Masterと組み合わせて試聴した印象
今回はストレンジャー、マイルス、そしてバッハと録音も傾向も全く違う曲を聞き比べました。すべての曲、すべてのスピーカーとの組み合わせでPMA-SX1の「高域の抜けの悪さ(高域の曇り)」が少し気になりましたが、高域が余り出過ぎるとスピーカーの個性がより強く出てしまうので、PMA-SX1のこの傾向は、それはそれでよいのだろうと思います。
不思議なのはPMA-SX1の音質予想に、これまでの経験が通用しなかったことです。1曲目のストレンジャーは、PMA-SX1の「短所」を探るために使いましたが、予想以上に鳴りませんでした。
2曲目のマイルスは、PMA-SX1の「長所」見極めるために使いましたが、こちらは予想を超えたよい音で鳴りました。
3曲目のバッハは、響きの少ないPMA-SX1との相性は良くないだろうと予想していました。また、PMCとPMA-SX1で聞くこのソフトは良くないだろうとも予想しましたが、またしてもその予想は裏切られて意外によい音で鳴りました。
最近のアンプ試聴ではウォーミングアップのため、CDプレーヤーに「iPod Touch」を組み合わせて様々な楽曲をランダムに聞いています。試聴レポートを書くときには、iPod TouchをCD/SACD(ディスク)に変えて聞きます。SA14S1 MasterはiPod Touchを組み合わせでも良い音で鳴りますが、試聴時にiPod Touchからディスクにソースを変えると明らかに音が良くなるのを感じます。けれど、不思議なことにPMA-SX1ではiPod Touchとディスクの違いがほとんど感じられなかったのです。また、比較的響きの少ないクールな美しい音を特長とするAIRBOW SA14S1 Masterは、同じ傾向を持つPMA-SX1との組み合わせがあまり良くないと考えていましたが、その予想もはずれ「ツボにはまる」と驚くほど良い音を聞かせてくれたのです。
これほど正体が見えないアンプに出会うことは、そうそうありません。組み合わせるソフトやスピーカーでその表情がコロコロ変わります。購入後、お客様は「良い音」を出すまでに苦労なさるかも知れません。けれど、鳴らないからといって諦めず付き合っていると、突然素晴らしいアンプに変貌するかも知れません。付き合い方、使い方次第で、鉛にも金にもなる、不思議なアンプに感じました。
AIRBOW SA14S1 Masterを聞いた後、DENONからDCD-SX1の試聴機が届けられました。そこでPMA-SX1にDCD-SX1を繋いで、今一度同じスピーカー、同じディスクで聞き比べました。
CDプレーヤー:DENON DCD-SX1 (この製品のご購入はこちら)
Ballad Collection Mellow / DOUBLE "Stranger"
スピーカー:Focal/1028BE(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
DCD-SX1とPMA-SX1には、アンバランスとバランスが搭載されます。
お客様から寄せられるお問い合わせの中でも「バランスにすると音が良くなるのか?」という質問です。
雑誌や知ったかマニアが勝手な主張を繰り広げるから気になるのだと思いますが、頭で考えても答えなど出るわけがありません。「聞いてみないとわからない」というのが正解なのです。そこでまず、アンバランス接続、バランス接続の音質を「ストレンジャー」で聞き比べました。
アンバランス接続
高域はやはり少し硬く、色彩感が薄い(モノクロっぽい)のですが、芯が強くなりました。ボーカルは密度が向上し、柔らかさと暖かさが出ました。低音はSA14S1
Masterでは聞こえなかった「低く深い音」が出ます。1028BEの低域ユニットがしっかりと駆動制動され、その振動が部屋の空気に伝わり、肌で感じられます。これはかなり深い低音です。音調はニュートラルからやや暗い目で、この曲を聴くにはもう少し色艶が欲しいと思いました。
バランス接続
アンバランス接続で不足していた「色艶」が少し濃くなります。楽器とボーカルの分離感が向上し、音の広がりが増しています。低音は少し拡散してしまうのか、アンバランス接続よりも塊感(密度感)が薄く感じられます。また、レンジが上下に拡大した分、中域が薄くなったのでしょうか?HiFiな感じは強くなりますが、アンバランス接続で感じたPMA-SX1らしい「押し出し」がバランス接続では少し弱くなったようです。
もしかするとアンバランス/バランス音質の違いは、接続しているケーブル(アンバランス:AIRBOW
MSU-X Tension、バランス:Acrotec 6N-A2030 )が影響しているのかも知れません。とりあえず今回の試聴は、SA14S1
Masterの試聴でも使い、またよりSX1
シリーズらしい高密度な音を聞かせてくれた、アンバランス接続に統一することにしました。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert
Grand (生産完了
Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
Beethoven Concert Grand(T3G)を聞く度に、このスピーカーの優しさに心引かれます。Focal 1028Beで不足して感じられた「艶」と「響き」が少し増えました。ボーカルは高域の強さが減じられ、人間の声に近づきます。低音は、1028BEほどはしっかり出ませんが量感は十分で、緩やかに部屋の中に広がる雰囲気です。ただ、marantz系のコンポやAIRBOWで聞くほどの「艶やかさ」はなく、少し客観的なムードで、高域もキラキラするのではなく、少しくすんだ雰囲気に感じられます。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
1028BE、Beethoven Concert Grand(T3G)に比べて、高域の伸びやかさと透明感が優れています。イントロの指打ちの音が入るタイミングが正確です。
ボーカルはしっとりして、この曲にマッチした少しアンニュイな雰囲気が良く出ます。低音は収束が若干早過ぎて、ドライブ感が弱く量が少なめに感じます。
中高域は魅力ですが、1028BE、Beethoven Concert Grand(T3G)に比べるて低域が少し不足し、それが原因で音楽が弱々しく聞こえました。
ストレンジャーを聞いた感想
DENON DCD-SX1とAIRBOW SA14S1 Masterを比べるとSA14S1 Masterは艶っぽく、DCD-SX1は押し出しが強く音が太い印象です。DCD-SX1は中低音の明瞭度に優れ、力強く音を出します。SA14S1 Masterでは「空振り」しているように感じた低音部が、DCD-SX1ではしっかりと「押し出されて」ハッキリと聞き取れるようになり、この曲ではパワー感が大きく高まりました。
Seven Steps to Heaven /Miles Davis "Seven Steps to Heaven"
スピーカー:Focal/1028BE(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
シンバルの音がクッキリと心地よく鳴ります。各々の楽器の分離感も上々ですが、SA14S1 MasterにくらべるとDCD-SX1の音は「穏やか」です。
低音は量感と塊感は素晴らしいのですが、高音のキラキラした感じが少なくすこしもこもこしています。音楽再生に高音の鮮やかさを求められるならば、DCD-SX1は余り向かないかも知れません。
SA14S1 Masterと比べてDCD-SX1が明らかに優れているのは「低音」です。特にドラムの実在感がリアルで、バスドラムの音がこのクラスのCDプレーヤーとプリメインアンプでここまで明瞭に再現されるのは他に類がないと思います。
低域がしっかりと駆動され、膨らまずに収束します。低音を重視なさるのであれば、PMA/DCD-SX1のコンビネーションはお薦めです。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert Grand (生産完了 Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
SA14S1 Masterとの組み合わせでは、「ベスト・マッチ」に感じたこの曲ですが、DCD-SX1と組み合わせると、ピアノとトランペットに何か「ぬるぬるした?」ような響きが付きまといます。楽器をビニールの様なものでマスキングして鳴らしているような感じです。ただ、それはほんのわずかな感覚なのでほとんどの人にはまったく分からないと思います。
シンバルは綺麗に立ち上がるのですが、ピアノとトランペットの立ち上がり(アタック)がほんの僅かに丸まっています。それが「ある種の柔らかいもので楽器が覆われている感覚」を生んでいるのでしょう。
この僅かな立ち上がりの時間的遅れが、JAZZの命であるリズムに影響を与えています。AIRBOW SA14S1 Masterでは「走っていたリズム」が、DCD-SX1だと「落ち着いて」感じられました。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
PMC Twenty24は、1028BEやBeethoven Concert Grand(T3G)よりも小型ですが、低音はしっかり出るスピーカーです。けれど、PMA-SX1/DCD-SX1のセットで鳴らすと、まるで二回り小さいスピーカーを鳴らしているかのように低音が出ず、弱々しい音に聞こえます。
PMCのスピーカーは「トランスミッションライン」というある種の音響迷路効果で低音を出します。これが上手く働いていないように聞こえます。Twenty24で聞くマイルスのJAZZは低音が少なく、押し出しも弱いので元気がなくなってしまいました。余り面白くない音です。
Seven Steps to Heavenを聞いた感想
AIRBOW SA14S1 Masterで聞くこの曲は、アナログソースを聞いているような印象でした。DCD-SX1を組み合わせるとそれが「デジタルソース」に変わります。CDプレーヤーの変更で響きがさらに少なくなったことと、音の輪郭がクッキリしすぎたことが原因かも知れません。
PMA-SX1/DCD-SX1のセットから出る音は、中低音の密度感が非常に高く、高音は少し控え目な印象です。Accuphaseにも似た、日本製コンポらしい落ち着いた音質でマイルスが鳴りました。
スピーカー:Focal/1028BE(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
弦楽器は全般的に高音の伸びやかさが弱く、鮮やかさが不足して感じられます。また、それが原因でバイオリン、チェロ、コントラバスの倍音の分離が綺麗に出ません。SX1のセットが得意とするのはあくまでも低音域です。低音がリッチで密度が高く、みっちりと中身の詰まったしっかりした低音が出ます。
バイオリン、チェロ、コントラバスの高音はやや分離が甘く聞こえますが、逆に低音は実にクッキリと分離して聞こえます。低音が充実しているので、このソフトの粗が目立ちにくく、それなりの雰囲気で聞けます。オーディオ的な音ですが、不愉快に感じる部分の少ない音です。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert Grand (生産完了 Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
SX1同士の組み合わせだと、どうしても高音部が気になります。日本人はあまり生演奏を聴く機会がなく、日本語という言語にも高音が含まれていないので生演奏を聞かない(楽器を弾かない)平均的な日本人は、高音があまり聞けていないように思うことがあります。けれど生のバイオリン知っている私は、スピーカーから出る弦楽器にも「生と同じような高音の鮮やかさ」を求めます。
中音〜低音は申し分ありませんが、私の求める「弦楽器の高次倍音」が再現されません。まとまりや品質は素晴らしく「オーディオ的」には申し分のない音でしょう。けれど、私にとって「この音」は生とはかけ離れて感じられます。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
この曲では、Twenty24の「箱の音」が妙に気になります。低音ユニットの動きと、トランスミッションラインの響きが完全に分離して低音がスピーカーの中で分離しているように聞こえるからです。今までPMCがこのような鳴り方をしたことはありません。
SX1とTwenty24はどうやら「仲良し」になれないようです。もしかすると、SX1はTannoyとも仲良くなれないかも知れません。
バッハ・コンチェルトを聴いた感想
この曲をDCD-SX1/PMA-SX1の組み合わせで聞いて感じるのは、超高域の再現性の不足と、中低域の驚くほどの実力の高さです。聞きやすいかまぼこ形のバランスに仕上がっていますが頂点が僅かに丸く、それが原因で弦楽器の鮮やかさと色彩の美しさがスポイルされています。ただ、Accphaseもほとんど同じ傾向を持ちますが、国内オーディオ市場で広く受け入れられていることを思えば、SX1も問題なく受け入れられると思います。
Neumann チェコフィル "新世界 第2楽章"
最後に理想的な音質のCDとして「新世界」を聞いてみました。このCDは「DENON」からリリースされていますから、ある意味では純正の組み合わせとも考えられます。
スピーカー:Focal/1028BE(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
不思議なことにこれまでずっと不満を感じた「高域不足」が、このソフトではまったく感じられません。
けれどそれは「感覚」で、しっかり聞くと高域は伸びておらず、弦楽器の高次倍音は不足していることが聞き取れます。けれど低域から高域にかけてのバランスが絶妙で、「高域がややドロップして聞こえる座席位置で生演奏を聴いている」雰囲気なので「高域不足」を意識しないのです。
今までさんざんオーディオ的で生っぽくないと論評してきたSX-1ですが、この曲は実に生々しく鳴らします。また、音質も明るく、引き締まったその音とこの曲調が実に良くマッチして、厳かな雰囲気で時間が流れます。フォルテでの音のわき出し感、エネルギーの爆発感は、最高でした。
スピーカー:Vienna Acoustics/Beethoven Concert Grand (生産完了 Viennaスピーカーへのお問い合わせはこちら)
時間がゆっくりと流れます。すべての音に説得力があり、本当に自然で生演奏を聴いているような音です。今まだ様々な装置でこのソフトを聞いてきましたが、今聞いている音が「正解」のような気がします。クラリネットやファゴットの音の太さとまろやかさ。弦楽器群の充実した押し出し感。金管楽器の鮮やかな輝き。それらが見事に渾然一体となって、新世界というテーマを描き出します。また、他のソフトで不満があった楽器の鮮やかさや色彩感も、このソフトでは問題ありません。
スピーカー:PMC/Twenty24(このスピーカーへのお問い合わせはこちら)
新世界でもTwenty24との組み合わせでは、低域の一番低い部分が「抜け押しているよう」に感じられます。けれど、他のソフトと比べると低音は随分良く出るようになりました。
「普通」の場合、1028BEとBeethoven Concert Grand(T3G)、Twenty24を比べるともっとも「細かく明瞭度に優れている」のがTwenty24です。その理由は、Twenty24が「2Way」方式で音の濁りが少ないからです。けれど、SX1で聞くとなぜかTwenty24が最も音の分離が悪く、透明感も低いように聞こえます。それはTwenty24本来の音ではありませんが、なぜSX1には「普通」が通用しないのか不思議です。
新世界 第2楽章を聴いた感想
密度が高く、空間表現に優れ、実に静かな音でこのソフトが見事に鳴りました。まるで生演奏を聴いているようでした。
PMA-SX1をDCD-SX1と組み合わせて試聴した印象
AIRBOW SA14S1 Masterとの組み合わせで聞くPMA-SX1は、スピーカーとソフトに応じて音がコロコロと変わりました。DCD-SX1との組み合わせでは、割合安定した音質ですべてのソフトとPMCを除く2機種のスピーカーを鳴らしました。
多くの場合、コンポはそれぞれ「個性的な音色」を持っていて、音が良くわかっているAIRBOWのCDプレーヤーを使い、いくつかのスピーカーを使って比較試聴するとその「個性」はほぼ見抜けます。けれど、SX1のセットの個性はなかなか見抜けませんでした。また、ソフトでこれほどコンポの「音楽性」が大きく変わる経験は初めてかもしれません。
DCD-SX1/PMA-SX1は、極めて狭い範囲で「良い音」が出るように作られているようです。初期のAIRBOWもそうだったのですが「音質」をあまりにも厳しく追及し、「録音されていない音は一切出さない=可能な限り歪みを減らす」音作りを行うと、このような結果になることがあります。
世の中に存在する「録音」がすべて「理想的」であれば、何も問題はありません。けれど実際には「不完全」な物が多く、海外製品を聞くと何とかしてそれらも良い音で鳴らそうとして音が作られています。けれど国産品の多くはあまりにも実直で、録音やスピーカーの欠点を暴きます。SX1のセットはまさしくそのような音に感じました。
良いコンポですが、スピーカーとの組合せ、演奏するソフトには、気を配る必要がありそうです。ただ、その狭いストライクゾーンに入ると、価格を遙かに超える音を聞かせてくれることも事実です。
2014年11月 逸品館代表 清原裕介
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