EAR V12 音質評価 

EAR V12 \1,200,000(税別) (製品のお求めはこちらからどうぞ

製品の概要

EAR V12はV20の後継モデルとして開発された製品です。メンテナンスに問題があった(故障が多かった)V20の反省から、入力は2本のECC88(12AX7)で増幅され、次に3本(出力管1本につき一つの専用エレメントが割り振られます)のECC88(12AX7)で出力段用の反転出力が作られた後に、V20から変更された出力段の各チャンネル6本(トリプルプッシュ)のEL84が駆動されます。比強度の高い小型の真空管を使うことでEARらしい低歪みと広帯域(特に高域が良く伸びます)を損なわず、大出力(最大出力の1/2:25Wで12Hz-60KHz-3db)を得ることに成功しています。この特殊な回路を実現するため、出力トランスにはEARオリジナルの高音質スペシャル品が使われます。入力は、PH/CD/TUNE/AUX/TAPEの5系統、出力はTAPE-OUTが1系統設けられています。入力感度は400mVで増幅率もそれほど高くありませんから通常のトランジスターアンプと同じ感覚でボリュームが使え、小音量時の音量調整も難しくありません。仕上げは他のEAR製品と共通でクロムメッキの美しいフロントパネルと金メッキされたつまみが配置されます。トランスにもクロムメッキが施されています。

発熱はそれほど多くありません。また無信号時の消費電力も165Wと真空管アンプとしては少なめです。リモコンは付属しません。

形式 真空管式プリメインアンプ
入力数 LINE×5
出力数 TAPE OUT×1
使用真空管 ECC88×10、EL84×12
最大出力(Ω) 55W(4/8Ω)
周波数特性 5Hz-22KHz
12Hz-60KHz(Half Power)
消費電力(無信号時) 165W(逸品館にて計測)
サイズ/重量 420×440×135(mm)/22kg
付属品 電源ケーブル

<明るい> - - - * - - - - - <暗い>

<柔らかい> - - - * - - - - - <硬い>

<総評>

834はスピーカーをスピーカーのメーカーが意図する音で鳴らしました。濁りがなく透明感が高く、モニター的でややストイックな音でした。これに対し、V12はスピーカーをEARが意図する音で鳴らします。

V12は音楽の雰囲気を拡大(増幅)し、生演奏よりも楽しく躍動的に音楽を鳴らします。その音は暖かく情緒に溢れ、熱い血が通っています。スピーカーやジャンルを選ばず、音楽のエッセンスだけを見事に引き出すV12はEARのフラッグシップとしてだけではなく、King of Tube Integrated Amplifireの称号を授けても良いと思いました。

オーディオの最終目的が音楽を楽しく、情緒深く聞くことであればV12はその目的に最も近い選択の一つになれるはずです。興味深かったのは、音質を評価するとき「音量を上げた方がイメージが出しやすい(論評を書きやすい)」にもかかわらず、V12は他のアンプの「半分の音量でそれらよりも豊富なイメージが脳裏に浮かんだ」ということです。

EAR V12の表現力は音量を絞ってもほとんど変わることがなかったのです。これは、驚くべき事です。

音質テスト結果 PMC PB1i/Signatureと組み合わせて

PMC PB1i/Signature
\1,100,000(ペア・税別)

V12でPB1i/Signatureを鳴らすとStingrayで1028Beを鳴らしたイメージが蘇ります。中低音が驚くほど分厚く、色彩が鮮やかでエネルギー感が抜群です。ややストイックに聞こえた834十はがらりと変わって、情熱的なサウンドでオレンジペコが鳴ります。音調も暖かくなって、演奏に熱い血が通います。PB1i/Signatureにサブウーファーを付けたかのように低音の厚みが増し、エネルギー感も大きくなります。ボーカルはデリケートさに優しさと深さが加わって「ものすごく上手」に聞こえます。843で実現していた音楽としての精緻さに、命の温かさが加わった音。それがV12の音です。Stingrayと1028Beの組み合わせも素晴らしいと思いましたが、PB1i/SignatureとV12に組み合わせは、それを超えて最高でした。

美しい。それがV12でヒラリー・ハーンのバッハコンチェルトを聴いた第一印象です。一音が出た冒頭から、すでに心を鷲づかみにされてしまいました。これ以上はないほどの完璧なハーモニーの構成と、実に生き生きと躍動するメロディーライン。まるで弦楽器がバッハを歌っているように聞こえます。細かく滑らかで柔らかな弦の音は、最上級の真空管アンプらしい魅力に溢れ、ベースラインのリズム感や押し出し感も実に適切で演奏を芸術的に再現します。

ヒラリー・ハーンらしい精緻さと女性らしい優しさ、そして生命の躍動感が極められたこの音で彼女の演奏を是非聴いて欲しいと思います。絶対にファンになれます。

透明感や緻密な感じは834がV12よりも優れていたかも知れません。しかし、音が出た瞬間の「雰囲気の濃さ」はV12ならではのものです。ぐんぐん押してくるベースラインのパワー感、花火のように鮮やかに弾けては消えるシンセサイザーの伴奏。驚くほどのエネルギー感を伴って、中央からぐいぐい押してくるガガのボーカル。どのパートも生命エネルギーに溢れ、どちらかと言えば“ストイック”なPB1i/Signatureからこんな音を出すなんて、V12のパワー感はすさまじいの一言に尽きます。834ではPB1i/Signatureがアンプを支配しているような鳴り方でしたが、V12ではアンプがPB1i/Signatureを完全に支配してしまいました。さすがフラッグシップは次元が違います。音量を絞っても音楽のスケール感やエネルギー感が、ほとんど変わらないのも見事です。

音質テスト結果 Focal 1028Beと組み合わせて

Focal 1028Be
\1,200,000(ペア・税別)

スピーカーを変えても出てくる音が大きく変わらないことでから、V12の高いスピーカー駆動能力に驚かされますが、それでもPB1i/Signatureに比べて中低音の量感と厚みはグッと増しました。細身のトールボーイ型スピーカーではなくフルサイズのフロア型スピーカーから出ていると錯覚するほど、量感のある暖かい低音が1028Beから出てきます。

シンバルの音はスティックの「当たり加減」が分かるほどリアルに変化し、ボーカルは暖かくデリケートでビブラートが深く長く感じられます。バック・コーラスの分離も素晴らしく、メインボーカルを透かしてコーラスが聞こえます。ギターは厚みがあって柔らかく、心地よい響きを奏でます。

Stingrayと1028Beの組み合わせはそれぞれの良さが最大に引き出された感じでしたが、V12との組合せは1028Beがほぼ完全に支配されパラビチーニの思い描く音楽像が展開されます。しかし嫌みなどは欠片もなく、心と体をずっとゆだねていたいと感じさせる心地よさでした。

やはりV12が1028Beを支配しています。1028Beの癖である中低域の膨らみと高域の金属的な硬さが完全に消えてしまいました。どうしたらこんな完璧なアンプが作れるのでしょう?

同じパラビチーニが作る真空管アンプ834との違いは、834がスピーカーの素の音を聞かせてくれるのに対しV12はパラビチーニの音を聞かせてくれることに尽きます。今回は2種類のスピーカーでしかテストしていませんが、V12は他のアンプとは全く比較にならない支配力でそれぞれのスピーカーを手なずけました。別室でV12とTannoy Kingdom Royalを組み合わせて鳴らしたときも、大型スピーカーを全く苦にせずそれを鳴らし切った実力からも、V12は「組み合わせるスピーカーを選ばない」と考えてよさそうです。

とはいえ、V12は1028Beと組み合わせるとEARの持ち味である精緻さが少し失われたように感じられたので、このソフトでは組み合わせの相性はPB1i/Signatureが良かったと思います。

1028Beの音に耳が慣れてくると、PB1i/Signatureよりも中低音に「濁り」が感じられるようになります。隅々まで透き通って「完璧に濁りのない世界」を見せてくれたPB1i/Signatureに比べると1028Beの音にはわずかに余計な響きが付きまとい、空間が濁ります。そのわずかな濁りを除けは、V12が鳴らすガガはほぼ完璧で文句の付けようがないものです。

V12は組み合わせるスピーカーやジャンルを全く問わない完成度がずば抜けて高いアンプ(あえて真空管アンプとは書きません)だと感じました。

2011年 8月 逸品館代表 清原裕介

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