Esotericから発売されたAZ-1sは、2006年に発売されたAZ-1のマイナーチェンジで、内部にはそれほど大きな変更が加えられていない。しかし、レシーバーとして登場したRZ-1は新製品で、その心臓部であるDACデバイスには、最新のDSDとPCMの両フォーマットに対応する旭化成エレクトロニクス社製の「AK4392」が搭載されている。
この「AK4392」の特徴は、デジタル演算が32bitのきめ細やかさで行われることで、デジタル処理における量子化bit数の向上はそのまま高音質化に繋がる可能性が高い。そこでAZ-1からら約4年を経て、どれくらいしてデジタルアンプが進歩したか?最も重要な比較として締めくくりに、急遽RZ-1を追加テストすることにした。
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付属品の電源ケーブル、AIRBOW
MSU-X TensionをつかってJ-POPを聞く。
音が出た瞬間から、AZ-1sとの違いが感じられる。
まず、AZ-1sに感じたデジタルアンプ特有だと思われる「音の粉っぽさ」がRZ-1では感じられない。高音もかなり綺麗に伸びている。この音質の向上は、デジタル演算が32bitに伸張されたことによる「波形のスムージング」が効いているのだと思われる。
初期のCDプレーヤーにおける「アップサンプリング(オーバーサンプリング)」の説明で、階段状の波形を見たことがあると思う。あるいはワープロなどで文字を大きくすると、文字がモザイク状に鳴ってしまうことを経験した方もいらっしゃるかも知れない。これはデジタル処理のbitすなわち「段階が少ない」ために起きてしまう。しかし、階段の数を増やすとエッジはどんどん滑らかになり、最後には「滑らかな線」になってしまう。これが、デジタル処理におけるbit数増加の効果だ。
音声処理では、デジタル回路から出力される「階段状の波形」を「アナログ信号のような滑らかな波形」に戻すために「ローパスフィルター(ハイカットフィルター)」が使用される。階段が大きいとフィルターが重くなり、高音が鈍ったり音が硬くなってしまう。bit数が増えると階段が細かくなり、フィルターは軽くてすむ。そのため、アナログアンプと変わらない澄みきった高音が出せるようになる。
RZ-1で「高域の曇り」がほとんど感じられないのは、bit数が増えたことでフィルターの悪影響が低減したためだろう。
もはやデジタルだから!という言葉はこのアンプにはふさわしくない。細やかで滑らか、そして表情もAZ-1sよりも豊かだ。
高域〜超高域こそ他の2機種のアナログアンプに比べると、僅かにトゲトゲしく感じられることがあるが、ざらついた感覚ではなく充分に許容範囲だ。すくなくとも、音楽が伸びやかに明るく元気に鳴る心地よさでRZ-1は、POPSをAZ-1sよりも楽しく歌わせる。
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電源ケーブルを付属品から、AIRBOW
KDK-OFCに変える。
高音のざらつきが消え、色彩が濃くなる。ボーカルの滑らかさや表現の細やかさも改善し、一段と冴えた音になる。楽器の分離も良く、低音も弾んで音楽をより楽しく聴ける。
スッキリと音抜けの良い、パワフルで楽しい音だ。
AZ-1sでは、あまり音質に影響しなかった電源ケーブルの交換が、RZ-1では確実に効きKDK-OFCの良さが音に出た。
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電源ケーブルをAIRBOW
KDK-OFCから、AET SIN/AC/EVOに変える。
一段と音が早くなりアタックのエッジが細くなる。中音は厚みが増し、低音のエネルギー感も向上する。エッジがシャープになることで高音のざらつきもほぼ完全に消え、音の木目が細やかになって滑らかさが際立ってくる。
RZ-1はAZ-1より遙かに電源ケーブルの差に敏感だ。
しかし、それでもSIN/EVOとKDK-OFCの差はアナログアンプほど大きくないように感じたので、念のため電源ケーブルを付属品に戻し、もう一度SIN/EVOに変えて聞き比べてみると・・・どうだろう!
RZ-1による電源ケーブルの効果は、アナログアンプの様に帯域バランスに変化を与える(例えば低音が良く出るようになる、高音が伸びやかになる)のではなく、音の細やかさが格段に向上することであらわれた。だから、
パッと聞いた感じで変化が分かりにくかっただけなのだ。付属品に比べSIN/EVOでは情報量が大きく増加し、ハイビジョンのように細やかで繊細な音が聞けた。
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RCAケーブルをAIRBOW
X TensionからHIN-LINE-QUAD3に変えて見た。
RZ-1のRCAケーブルによる音の違いは、アナログアンプとほとんど同じように出る。音が滑らかになり、中音の厚みや表現力がアップする。
ケーブルをMSU-X
Tensionに戻すと、低音の力感がアップするが、中音の表現力、高音の色彩の豊富さではHIN-QUAD3が勝り、高音の鮮やかさが若干後退した。
RZ1のRCAケーブルによる変化は、アナログアンプと同じように出た。
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ケーブル類を最初の状態に戻し、補助ツィーターとしてAIRBOW
CLT-3を追加する。
CLT-3を追加すると高音の鮮やかさが一気に向上し、音の立体感や広がりも2〜3倍くらい大きくなる。
MSU-X
TensionとHIN-QUAD3との価格差は約3万円。KDK-OFCとSIN/EVOの価格差は、約10万円。CLT-3の追加は14万円近いが、RZ-1とThe
Musicの組合せでは、CLT-3追加の音質改善効果が最も大きく、分かりやすい。CDとSACDを比べるほどの大きな差が感じられた。
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付属品の電源ケーブル、AIRBOW
MSU-X
TensionをつかってクラシックのSACDレイヤーを聞く。
AZ-1sと比べると、一聴して音が細かいのがわかる。
演奏の温度感も明らかに高く、その音質はHEGEL
H70を超えAIRBOW PM15S2/Masterに近い。
このソフトを聞くとRZ-1の最大の長所は、国産のアンプにありがちな「変な癖」を感じさせないところにあることがわかる。そして、それがデジタルの良さなのだろう。
素直で暖かく、きめ細かいサウンドだ。楽器の音色の変化もよく出て、AZ-1sよりも明らかに有機的だ。
唯一の不満は、H70やPM15S2/Masterに比べると、前後左右方向への音の広がりがやや浅いことだろうか?
いずれにしても、その実力は相当に高いことが確認できた。
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付属品の電源ケーブル、AIRBOW
MSU-X
TensionをつかってクラシックのCDレイヤーを聞く。
AZ-1sに比べるとCD/SACDの差が圧倒的に小さく、CDでも充分に演奏を楽しめる。
確かにSACDに比べるとCDはややさっぱりした感じはするが、SACDを100点としてCDでも80点近い音が出ているように感じられる。
CD/SACDの聞き比べによって、RZ-1のデジタル演算が32bitになりAZ-1sに比べ小音量のリニアリティーが大きく向上していることがハッキリと聞き取れた。
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ケーブル類を最初の状態に戻し、補助ツィーターとしてAIRBOW
CLT-3を追加し、SACDレイヤーを聞く。
CLT-3の追加によって楽音の分離がほぼ完全になり、前後左右方向への音の広がりが一気に大きくなる。
シンフォニーホールのあるべき位置に楽器が立体的に展開し、上下方向への音の広がりもきちんと感じられるようになる。生演奏を聴いているような錯覚を覚えるほど、リニアリティーが高い音だ。
H70は感性に訴える音。PM15S2/Masterは、理性と感性の両方に訴える音。RZ-1は寡黙で、アンプによる色づけを一切感じさせない。面白いか?そうでないかは別として、これはこれで一つの音として"あり"だと思う。音楽へのオーディオ的な着色を好まないなら、このアンプはベストの選択になる。
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入力を同軸デジタルに切り替えて、J-POPを聞く。
アナログ入力との音の差が小さく、一瞬デジタル入力に切り替えたことが分からなかった。音の広がりも十分でボーカルにも説得力がある。
低音は僅かに膨らむが、それがかえってデジタルらしさを消し、アナログらしい暖かさ躍動感を与えてくれる。
しかし、聞き込んでゆくとやはり、アナログに比べると音の細やかさが失われているのが感じられる。高音の切れ味や透明感も減退し、音の良さではアナログ入力に敵わない。それは58万円の単位プレーヤーと比べるからであって、35万円のレシーバーとしては充分に良い音で高く評価できる。
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CLT-3の助けを借りないと、高音の分解能や表現が物足りなく感じられる。
暖かく心地よい音だが、アナログ入力のシャープさが感じられない。
しかし、J-POPで感じたのと同じように、35万円のレシーバーとしては他の類を見ないほど良い音だと高く評価できる。先ほど聞いた音があまりにも良すぎただけだ。
内蔵メカを使ってCDを再生
DV60/Ultimateから同軸デジタルで入力して聞ける音との違いはかなり小さいが、ほんの僅かに音の粒子が粗くなった。
しかし、それでも十分良い音で35万円のCDプレーヤーと35万円のアンプを繋いで聞けるトータル70万円くらいの音が、35万円のレシーバーから出る。
外観も美しく、デジタル入力を備え、これだけの音が出れば、太刀打ちできる製品はそうざらにはないだろう。
出てくる音は暖かく躍動感がある。デジタルと聞いて想像するような「冷たさ」や「平坦さ」は、まったく感じられない。RZ-1をデジタルアンプだと言っても、もはや誰も信じないはずだ。
内蔵メカを使ってSACDを再生
バルトークでCDとSACDを聞き比べたが、アナログ入力で感じたのと同じように「その差」はかなり小さい。
CDの方がややさっぱりとした感じに聞こえるが、演奏は充分に楽しめるし、SACD/CDの切り替えを言わなければ、気づかないくらい小さな違いでしかない。
RZ-1は嬉しいことにCDの音が良いから、あえてSACDを買わなくても充分に納得のサウンドで音楽を楽しめる。