ノラ・ジョーンズを聴く
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)
柔らかい音。ボーカルは優しく滑らかで色っぽい。ギターの音は響きが美しく、胴がよく鳴って聞こえる。ドラムは、少し緩やかだがその微妙な遅れ感は悪くなく、ゆったりとリズムを刻む。
ピアノはギター同様響きが美しく、ころころと転がるようなイメージで鳴る。ベースも緩やかだが、膨らみすぎることはなく、たっぷりとした音で鳴る。カジュアルなナイトクラブで生演奏を聴いているような雰囲気の音だ。
826E
中低音はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)によく似て、厚みがあって柔らかい。高域は切れ味が鋭く、ボーカルは子音がはっきりしてサシスセソが強くなる。ギターの音もシャープさを増し、金属的で澄んだ響きに変わる。ベースは一番低い部分の量感がBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)よりも少なくなるが、しっかりと前に出てくる。ピアノはアタックが強くなり、響きは少し少なくなる。
それぞれの音の分離感はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)を上回る。
中音の透明感はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)が勝るが、826Eもエージングやセッティングを詰めることでさらに良くなることが予想される。中低音に厚みがあり、それにツィーターの音がスパイスのようにちりばめられる。部分を比較すればBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)とは少なからず違っているが、演奏を聴いたイメージはそれほどかけ離れているわけではない。ウォーミーで暖かいサウンド。BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に比べると、一歩ステージに近づいたイメージでノラ・ジョーンズが鳴った。
1028BE
音が出た瞬間に「鳴りのバランスが良い」のと「周波数レンジが広い」事が聞き取れる。ドラムスのブラシワークや、ギターの弦の音数が一気に増える。ハイビジョンを見ているように解像度が一気に向上することに驚かされる。
当たり前だが価格なりの差は十分に感じられる。とはいえ音のバランスや音楽の表現の方向性は826Eと見事に一致している。1028BEは826Eの「組み立て精度」をワンランク以上、上げたような音だ。ステージのすぐ近くで生演奏を聴いている場面を、彷彿とさせるような音でノラ・ジョーンズを見事に鳴らした。
エリック・クラプトンを聴く
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)
1028BEと比べても高域の鮮度感、繊細さや透明感は十分に魅力的だ。低域はFocalに比べると少し遅いが、決して不愉快ではない。大輪の花火のように、ぱっと大きく光った後、きらきらと小さな星が煌めきながら空中を舞い落ちる。そんなイメージの音の出方をする。S/N感・透明感が高く、音色が鮮やかで美しい。ただ、クラプトンを聞くにはもう少しだけ「輪郭の明確感(アタックの鮮明さ)」が欲しいと思った。
826E
音の輪郭はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)よりもハッキリとしている。ボーカルは子音が少し強く、ちょっとざらついた感じになるが、エネルギー感は強くなる。
ギターは透明感が高くウエットに長く響いたBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)と比べると、アタックが強くなり響きが乾いてくる。
低音の量感は変わらない。音色の色彩感はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)からは少し後退し、少し曇った感じになる。ノラ・ジョーンズでも感じたが、もう少しだけ高域の透明感と解像度が向上するとさらに魅力的な音になるが、エージングでの解決が期待できそうだ。
1028BE
826Eでやや物足りないと感じた、高域の透明感、分解能が一気に向上する。低音の量感や厚みはさほど変わらないが、中高音の改善によって低音の抜けや引き締まり感が改善する。
ボーカルもざらつきが消えて、表現が滑らかになる。エネルギー感や躍動感が向上し、音楽がホットになる。クラプトンを聞くには、このスピーカーが最も似合っている。高性能と情緒をうまく融合させ、演奏を見事にそして豊かに聴かせる。
ヒラリー・ハーンを聴く
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)
Vienna
Acousticの製品特に大型のBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)には、シンフォニーがよく似合う。たっぷりとしたその音でシンフォニーを聴いていると、知らず知らずに聞き惚れて時間の経つのを忘れてしまうほどだ。
消え入るようなか細いバイオリンの音色、柔らかいチェロの音色、厚みあるコントラバスの音色、それぞれの弦楽器の音色を見事に描き分け、透明感が高く厚みのあるハーモニーを再現する。この複雑だけれど、さっぱりとして脂っこくない弦楽器のハーモニーは、Vienna
Acousticでしか聞けない種類の音だ。
この音を聞けるだけでも、BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)は存在価値がある。
826E
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)が奏でる素晴らしいシンフォニーを聴いた直後に826Eを聞くのは少しためらわれた。たぶん、かなり落胆するのではないかと思ったからだ。しかし、音が出た瞬間?1028BEと繋ぎ間違えたのでは?と思うほどの素晴らしい音が出て驚いた。
バイオリンの音色はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)よりもさらに繊細で、チェロの暖かさや、コントラバスの厚みも見事に再現される。それぞれの音が分離しながら絡み合って、複雑なハーモニーを形成する様子、その精度、解像度の高さはBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に勝るとも劣らない。ノラ・ジョーンズやクラプトンで感じた、高域の透明感、繊細感不足は全く感じられない。まるで違うスピーカーを聞いているようだ。
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)との違いは、ホールのサイズの違い。826Eだとホールが少し小さく感じられる。
1028BE
このソフトで比較すると、826Eとの差がグッと小さくなる。それは1028BEのせいではなく、826Eで鳴らすシンフォニーが素晴らしいからだ。
とはいえ細部の再現性の高さや、ホールサイズの大きさには当然違いが感じられる。826Eで聞くシンフォニーはやや小さめのホールで聴く演奏をイメージさせたが、1028BEでは1000人規模の収容が可能な大きなホール、それも「音の良いホールのベストの客席」で聴いている演奏をイメージさせる。同じコンサートを聞いたとしても、購入したチケットの「価格の違い」が感じられる。
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)との比較では、響きがややドライで理知的な演奏に感じられた。
丁度このテストを行ったとき、同時にNA7004(ノーマル機)の音質をテストしていた。音源はiPodに収録したJ-POP(MP3/320Fbps)だ。このソースをそれぞれのスピーカーで聞いてみるとCD/SACDでの試聴とは少なからず異なる印象が得られたので追記する。
1028BE
順序を逆にして1028BEから聞いたのだが、下手なCDを超えるほどの音質とパワー感でJ-POPが鳴ることに驚かされた。この音でJ-POPを聴かされたら、ほとんどの人は感心するだろう。
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)
次にスピーカーをBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に変えると、レンジが上下に広がりすぎて中域が薄くなった。音楽の表情や表現力が希薄になり、ソースの悪さを露呈する形になり、あまり楽しく聞けなかった。
826E
スピーカーを826Eに切り替えると、音楽は再びエネルギーを取り戻し、楽しく鳴り始めた。1028BEと比べると解像度が少し低下する。しかし、それでも鳴りっぷりは良く、ボーカルも表情豊かで説得力がある。聞いていて楽しい。
音調は1028BEと見事に統一されているが、1028BEがお姉さんのようにしっとりと細やかに感じられるのに対し、826Eはまるで妹のようにより快活で明るく楽しい音でJ-POPを鳴らした。