Focal (フォーカル) stella utopia EM スピーカー 音質 試聴 |
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Stella Utopia EMの特徴 |
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使用機材と試聴ソフト |
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全力で臨んだ、ハイエンドショウ2010秋が終わってほっとしたのもつかの間、間髪入れず続々と新製品の発表会が開催されている。その中でも今年最大のエポックメイキングな製品がFocal Stella Utopia EMだ。1000万円というその価格だけではなく、ウーファーを電磁石で駆動する「EM」と名付けられたその特殊な方式が注目されている。 スピーカーユニットのマグネットを「電磁石」に置き換える方法は「励磁型」と呼ばれ、すでにいくつかの製品が発売されている。しかし、そのほとんどは小さなメーカーから発売され、Focalのような国際的なスピーカーメーカーから「励磁型」のユニットを使う製品が発売されることは非常に少ない。少なくとも私の知る限りではFocalだけだ。 ここで「EM(励磁型ユニット)」について少し説明しよう。スピーカーのユニットは、ユニットに巻かれたコイルに電流を流し「磁気」を発生することで動かしていることは、皆様もご存じだと思う。しかし、コイルに発生した「磁気」から駆動力を得るためには、反発あるいは吸着させるための「磁力」が必要になる。磁石の同極(S/S、N/N)を近づければ反発するが、異極(S/N)を近づければ引きつけられる。この原理を応用するためには、ユニットのコイルを取り囲むような形状で「マグネット」を配置しなければならない。 ユニットのコイルとそれを取り囲むマグネットによってスピーカーの磁気回路は構成されるが、普通のスピーカでは、このマグネットに「永久磁石」を使っている。使われる永久磁石には、いくつかの種類があって「フェライト、「アアルニコ」、「ネオジウム」などが有名だ。この3つの永久磁石は、その順に発生する磁気が強い。つまりフェライトよりもアルニコが、アルニコよりもネオジウムの磁気が強い。最近のスピーカーでは、ネオジウムが使われることが多くなったが、それは磁力がずば抜けて強いからだ。スピーカーに強力な磁石が求められるのは、磁力が強ければ強いほど(正確には磁力線密度が高ければ高いほど)音質に有利だからだ。 近年、スピーカーのマグネットにネオジウムが多く使われるようになったのは、ネオジウムが強力なことに加え、EVカーのモーターなどに強力な磁石が必要なため、そういう用途でネオジウムの生産が活発になったことも影響していると考えられる。蛇足になるが、ネオジウムには「希土類」の金属が使われ、その産出のほとんどを現在は中国に頼っている。 もし、中国が「希土類」の輸出を大幅に規制すれば、ネオジウムマグネットはすべて中国製になってしまうかもしれない。 国産ネオジウムマグネットと、中国製ネオジウムマグネットに音の差はあるか?聞き比べなければわからないが、それは確実にあると考えるのが自然だろう。 それはさておき、ネオジウムを超える磁力を取り出せる「究極の方法」が一つある。それが「電磁石」を使う方法だ。電磁石の場合、コイルに流せる電流値を大きくすればするほど磁力は大きくなる。電線に流せる電力が無限であれば、無限パワーの電磁石ができる。それを実現するには、常温超伝導を実現しなければならないが、そこまでの究極を追求しなくても、電磁石ならネオジウムを大きく超える磁力が生み出せる。永久磁石を電磁石に置き換えることで、スピーカーの磁気回路の磁束線密度は大幅に向上する。 磁束線密度を向上できれば、小さな磁力で大きな駆動力が得られるようになるからボイスコイルを小さくできる。駆動系を含めたユニットは軽くなり、レスポンスは向上し、インピーダンスは低下する。つまり、大量の空気を小さな磁気回路で駆動できるようになるのだ。 この理想を目指して生まれたのが「EM」方式だ。EM方式のメリットは、ユニットが大口径になればなるほど大きくなる。逆にツィーターなどでは、構造が複雑になる割にメリットが小さい。そこでFocalは、Stella Utopia EMのウーファーにのみこの「EM」を採用している。 本来であればしっかりと音を確かめるために、Stella Utopia EMを3号館に持ち込んで試聴したい。しかし、サイズが大きく重量が重い(165Kg/1本)ため、東京大阪の往復輸送費が20万円を超えてしまう。そこで今回は、私自身が東京のロッキーインターナショナルの試聴室まで出向いてその音を聞くことにした。 ロッキーインターナショナルの試聴室に着くと、すでにStellaは鳴っていた。CDプレーヤーには私が推薦した、TAD D600がつながれている。しかし、それは耳を疑うような音だった。まるでラジカセ・・・。こんなはずはないと思い、アンプを変えるとこにして、すぐに手配できそうなアンプを持ち込んでもらうことにして、とりあえず昼食をとった。 戻ってみると、QUADの真空管プリメインアンプ 2 Classic IntegratedとAccuphaseの最新型セパレートアンプ、C3800、M6000が届いていた。さすがに東京なら小回りがきく。まず、繋がっていたパワーアンプ(プリパワーのセットでほぼStellaと同じくらい高価なもの)を外してM6000につなぎ替えた。世界は一変した。ラジカセから、ハイエンドの音へと!さらにプリアンプをC3800に変えるとさらによくなった。 ここでいったんAccuphaseを外し、2 Classic Integratedをつないで音を出す。1000万円級のスピーカーに85万円の真空プリメインのセット。恐々ボリュームを上げたが、音が出た瞬間にほほが緩んだ。最初に繋がっていたセパレートアンプは、きっと壊れていたに違いない。 使用機材 CD/SACDプレーヤー プリアンプ ・ パワーアンプ Accuphase C3800 ・ Accuphase M6000 プリメインアンプ QUAD 2 Classic Integrated \950,000(税別) この日は大阪へとんぼ返りの予定なので、10分ほどのウォーミングアップの後、慌ただしく試聴を開始した。今回、ロッキーインターナショナルの試聴室に持ち込んだディスクは3枚。カーペンターズとノラジョーンズ、そしてヒラリーハーンのバッハコンチェルトだ。この3枚を選んだのは、それぞれに聞き所があり、また逸品館のお客様の多くが聞き慣れていらっしゃると考えたからだ。
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Stella Utopia EM 音質テスト |
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プリメインアンプ QUAD 2 Classic Integrated \950,000(税別) 1000万円のスピーカーを鳴らすのに85万円の真空プリメインアンプでは、やや頼りないとも感じたがとりあえずスピーカーの素性を探る意味も含め、カーペンターズの7曲目から本格的な試聴を開始した。 冒頭部分のチャイムの音が軽やかにひずみなくきれいに広がる。透明感、繊細館は抜群でエコーも長く美しい。その上、真空管アンプでならしているにもかかわらず、高域の芯が非常にしっかりしていることに驚かされた。アンプがいいのだろうか?しかし、この音はそれだけでは説明がつかないほどの良さがある。外側は透明で柔らかいのに、中には揺るがない芯がある。最高の状態でゆであがった、アルデンテ・スパゲッティーのようなおいしい音だ。 低域は、このスピーカー最大の特徴はその低域にあるのだが、はっきりと軽い。こんなに小さな真空管アンプでならしているのに、大口径で重そうなウーファーが軽々と動く。まるで高能率スピーカーの軽い紙コーンウーファーのようなさわやかな音。現代的な高強度ウーファーとは思えない、音離れのよい圧迫感のない音。ユニットが軽くスムースに動き出し、そしてすっと止まり、余計な響きが後を引かない。本当にこんな小さな真空管アンプで鳴らしているのだろうか?疑問を感じずにはいられない音が、目の前の巨大なスピーカーから出ている。これは、今までにない経験だ。 曲を10曲目に変える。 出だしのドラムは、まるで小型スピーカー鳴らしているかのように軽やかだが、再生周波数帯域の低さは大型スピーカーのものだ。小型スピーカーに良質なサブウーファーを加えて構成する、よくできた3Dすぴーカーシステムのような良さを感じるが、それよりもさらに音は軽く、余計な圧迫感はない。それでいながら、体に空気の震えが伝わってくる。こんな低域を聞くのは、マッキントッシュの大型スピーカーを300Bシングルアンプで鳴らして以来かもしれない。いや、きっとそれ以上だろう。 中高域は、やはりやや硬質な感じだが決していやな音ではない。カレンの声は暖かく力強く、伴奏よりも一歩前に出て心地よい。 基本的な中高域の音は、Utopia Scalaのそれと同じだが、繊細さひずみ感の少なさ、つながりの良さでそれを大きくしのぐようだ。このあたりは、EMウーファーにあわせてチューニングし直された「ネットワークの改良」が効いているのだろう。こんなに華奢なアンプで、200KG近い大型アンプがここまでストレスなく慣らせるとは、効いてみなければ信じられないだろう。 ディスクをノラジョーンズに変える。 ベースは生音のように柔らかいのに切れがあり、軽いのに太い。ピアノはアタックが軽く立ち上がるのに、厚みがある。直接音(打鍵音)と間接音(ピアノの響き)のバランスに優れ、ころころと転がるようなイメージでピアノの音が鳴る。 ボーカルは伴奏と見事に分離するが、少し硬質でもう少し色気がほしくなる。響きな少ないため、付帯音が整理されすぎたイメージがこの曲では少しマイナスだ。Stellaをもっと鳴らし込み、エージングでキャビネットがユニットと呼応して心地よく響くようになったとき、このディスクをもう一度聞いてみたい。いったいどれほどの音が出るのだろう? そのまま曲は4曲目に進み、試聴を続ける アンプがそろそろ暖まってきたのか、カーペンターズを聞いていたときよりもボーカルの表情が豊かに感じられる。 カーペンターズ、ノラジョーンズのディスクを聞いた感じから、バイオリンの高域がもっとハードでクリアに再現されると想像していたが、その予想は完全に外れてしまった。高域は全く暴れずに、おとなしく鳴る。刺激が不足して、やや物足りないほどだ。 このソフトはマルチマイク録音とミキシングのせいで空間情報がかなり乱れている。普通のスピーカーでは、その異なる響きが渾然一体となり「空間が濁っている」と感じられるのだが、Stellaはちょっと違う。複数のマイクがとらえた楽器そのものの音と、マイクが設置された位置の空間情報(マイクが拾ったホールの響き)が分離して聞き取れるほどの高い解像度でコンチェルトが鳴る。 まるでOTLの真空管アンプでスピーカーを鳴らしているような音だ。もちろん、OTLの真空管がどれほどの音でスピーカーを鳴らすか?それは、その音を聞いた人にしかわからないのだけれど、とにかく凄い音が出る。 バイオリン、チェロ、コントラバス。ピッコロとフルート。クラリネットとファゴット。例を挙げればきりがないが、構造が同じでサイズの違う楽器が交響曲には多用される。それはハーモニーに厚みを与えるためだ。しかし、それぞれの楽器の倍音構造が完全に分離して再現されないと、音が団子になりフォルテで楽音がヒステリック聞こえてしまう。Stellaは、それをきちんと描き分けハーモニーでの音の重なりを見事に美しく再現する。 また不要な響きが少ないので、休符部分でピタリと音が止まり、聴感上の静けさに優れS/N感が非常に高い。まるでエンクロージャーを持たないQUAD ESLを聞いているようだ。 QUAD 2 Classic Integratedで3枚のディスクを聴き終えて感じるのは、Stellaが通常のダイナミック型スピーカーとは一線を画する特殊なほど凄いスピーカーと言えることだ。 Accuphase C3800 ・ Accuphase M6000 アンプをAccuphaseに変えて試聴を続ける。 最初にお断りしておかなければならないが、私はAccuphaseの音があまり好きではない。スペックやデーターには優れるのかもしれないが、だいたいのモデルにおいて音が堅く音楽表現が苦手に思えるからだ。この意見には、生演奏をよく聴く多くの友人も同じ意見だ。そして彼らのほとんどは、過去にAccuphaseを使い、今は使っていない。もちろん、例外はオーディオにはつきものだから、この意見は絶対ではない。 Accuphaseが嫌いな私を唸らせる音をStellaは出す。本当にこれがAccuphaseのアンプから出る音なのか? 確かに高域の金属的な堅さと、アタックの立ち上がり部分に付帯音がつき、そのため広域に独特の色がついて感じられるのは、まさにAccuphaseの音そのものの持ち味だ。ボーカルの高域に付帯音が感じられるのも、やはりAccuphaseの特徴に違いないが、Accuphaseで鳴らすStellaの音を聞いていると、そんな「些細なこと(普段はそれが我慢ならないのだが)」は、どうでもよくなってくるから不思議だ。 7曲目を聞いているが、高域の驚くべき分解能の高さ、左右への広がり感、きめ細やかな心地よさは、最上級のHi-Endオーディオでしか到達し得ない世界のそれだ。 QUADでは聞こえなかった、テープヒスのノイズ、カレンの唇から出るリップノイズまでもが、まるで目に見えるように細かくはっきりと再現される。しかも、それが分析的にならずきちんとした音楽表現にさえ感じられる。 8曲目に進む。 バックコーラスの子供たちの一人一人が見えるように錯覚するほど解像度が高い。もちろんTAD D600のすごさもあるのだろうが、Accuphaseで音楽を聴くのが、こんなに楽しいと感じたのはこれが初めての経験だ。 QUAD 2 Classicに比べて、ベースの音に太さと厚みが出る。ふわふわのあんこが、ぎゅーっと詰まったイメージへの変化が聞き取れる。しかし、QUADに比べると前後方向への音場の広さが浅く、左右への広がりも小さい。塊感、中身の詰まった感じはAccuphaseがQUADを大きく上回るが、ストレスのない音の広がりではQUADがAccuphaseを上回る。 真空管とトランジスターという方式の違い、プリメインアンプとセパレートアンプという構造の違いが音に出る。回路を複雑にしすぎると、どうしても細かい部分で位相が整わず、その結果音の広がりが阻害されることが多い。再生系は、あまり複雑でない方が良い。つまり、回路的にはセパレートよりもプリメインアンプの方が自然な音を出しやすいのだ。しかし、プリメインアンプでクォリティーを上げるのは容易ではない。その点でセパレートアンプやマルチアンプシステムのように複雑ではなく、簡単なプリメインアンプで鳴らしても十二分な情報量を再現するStellaはすばらしいと思う。 Accuphaseで鳴らすStellaは、音のぎゅっと詰まった感じ、低音の太さと厚み、パワー感に優れている。弾力的で暖かい音。有機的なこの感じは、どちらかといえば冷たく堅いという私のAccuphaseのイメージと異なっている。 音場の透明感の高さ、ストレスのない自然な広がり感では、QUADがAccuphaseを上回ったが、全体的な密度の高さが生きてトータルのイメージではAccuphaseがQUADを数段上回る。もちろん、価格差はかなりあるのだが、それを納得させられるだけの差が音に出た。 4曲目 ここまでAccuphaseをずいぶんと褒めたが、やはり気になる点はある。国産のオーディオ製品にありがちだが、音場の前後が浅く音が横一列に並んでしまう。この曲では、ボーカルとドラムは空間の同じ位置から出てくるように聞こえるし、ギターとベースも同じ位置に立っているように聞こえてしまう。一つ一つの音は凝縮されて濃く、聴き応え十分だがそれぞれの空間が分離しない。だから、生演奏と比較するとどうしても違和感が生じてしまう。これがAccuphaseの特徴であり、好みが分かれるところだと思う。 しかし、Stellaとの組み合わせでは、音数の多さや情報量補豊富さがすばらしく、前にも書いたがそういうネガティブな部分よりもポジティブな部分が上回る。オーディオの良さが、わかりやすい音だ。オーディオ的な快楽、HIFI的な快楽に満ちた音だが、生演奏とは違う世界なのも間違いない。 QUADよりも個々の音ははっきりするが、音の広がりが横一列でホールで演奏している感じが出ない。 もともと音の広がりに欠けているソフトだが、Accuphaseで鳴らすとその悪い部分が増長されてあまりおもしろくない鳴り方になってしまう。 さらにアタック部分の付帯音の影響で細かい音がきちんと分離せず、ハーモニーが団子になってしまうから、ちょっと始末に悪い。 悪い座席位置でコンサートを聴いている感じ。音は悪くないが、他の2枚のほどは感動しなかった。 |
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総合評価 |
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最近発売された高額スピーカーの多くは、「過去の栄光」にすがるばかりで、新しい技術に挑戦せず「売れれば儲かる」的な企画物で、私は少々辟易していた。そんな中で登場したFocalのStellaは励磁型ユニットを搭載し、スピーカーの未来を感じさせる、久しぶりに興味を引かれるスピーカだった。 試聴を終えて感じるのは、Scalaと比べEMウーファーを使ったことで低域が劇的に良くなっているのはもちろん、中高域も大きくリファインされていることだ。 Stellaは励磁型の特徴でアンプに優しい。だから一台のアンプで鳴らしているにもかかわらず、まるでマルチアンプ駆動のスピーカーのような音が出る。Bi-Wireに対応するStellaを2台のアンプで鳴らしたらと想像すると、ちょっと想像が及ばないほど一台のアンプで鳴らしても凄い音が出る。 スピーカーからネットワークを取り払い、ユニットの質量をゼロにしたように軽々と大型スピーカーが鳴る。あるべき音、ソフトに収録された音だけが再現される。あるいは、アンプが出力した信号だけが音波に変換される。それはものすごく新鮮で、今までに聞いたことがないような感動を覚える音だ。 大型にもかかわらず、雑なセッティングでも音はきれいに広がる。しっかりとFocalらしい独特の厚みと、色気も失われていない。最新技術の粋と、フレンチテイストの融合から生まれた、新生代の高性能スピーカー。「新しい風は、いつもフランスから」その広告コピーに恥じない新製品、それがStellaだ。 |
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2010年 10月 逸品館代表取締役 清原 裕介 |