せせらぎ(ストレート・スイッチ ON)
上級モデルで感じられる「薄いシルクのようなベール越しに音を聞いている」ような、高域の曇りがなく、せせらぎの音はとてもリアルで、鳥の声は生で聞いているよう。
従来の、そして現在までに発売されているLuxmanアンプ(セパレートアンプ含む)は、いわゆる「ラックストーン」として親しまれている、ウォームな響きの柔らかさと適度な濁り感を持っていた。しかし、L-550AX Mark2の高音域は、これまでになく澄み切って鋭く伸びている。鋭いにもかかわらず鋭すぎることがなく、純A級らしい滑らかさと品の良さは残されている。
また、その高域の穏やかさが原因となって、楽器の音色の鮮やかさがマスキングされる場合もあったが、L-550AX
Mark2が再現する音色はせせらぎの水音、自然な鳥の声をストレートに連想させるほど「電気的な違和感」がない。
この価格でこのクォリティーはすごい。
せせらぎ(ストレート・スイッチ OFF)
トーン・コントロールをフラットにした状態で、ストレート・スイッチをオフにすると、解像度が落ちて、音の広がりが阻害される。また、水の流れる音と、鳥の声の距離感が小さくなり、「電気的に増幅している」という違和感を生じた。
ストレート・スイッチをOFFにすると、この価格帯の他のアンプとそれほど変わらないか、あるいはそれよりも少し落ちる程度の印象しかない。けれど、ストレート・スイッチをONにすると、価格を2倍くらい上げたほど一気に音が良くなる。つまり、ストレート
ONの状態のL-550AX2 Mark2は、Luxmanの上位モデルを脅かすほど音が良くなる。
通常、他のアンプではこれほど大きな差は生じないが、このアンプでのストレートスイッチの意義は非常に大きい。
あまりにも音質差が大きいので、これから後の試聴はすべてストレート
ONで行うことにした。
セレナード
L-550AX Mark2は、Luxmanの上級プリメインアンプと比較できるほど「音が細かい」。だから楽器の数がとても多く感じられる。さらに、音の広がりが大きく、広がりが自然で、楽器の位置関係も正しい。
純A級20Wというスペックからは想像できないほど豊かな低音が出るし、エネルギー感も半端じゃない。コントラバス奏者の「弓使い」が見えるようだ。チェロは「裏の音」が聞こえてくる。
スピーカーから怒濤のように音が溢れだしてくると言えば、ちょっと言い過ぎかも知れないが、音量をさほど上げなくても弦楽器の圧力を身体で体感できる音圧が感じられる。
弦楽器が、本当に弦楽器らしい味わいで、セレナードを奏でている。
モナリザ
イントロのギターのアタックがほんのり「甘く」、ボーカルも、ほんの少しだけ「ねちっこい」。この独特な響きと艶感の演出が「今聞いているアンプはLuxmanの製品なのだな」と感じさせる。
けれど、それは「良い味わい」であって、生音を過度に変えてしまったり、音楽を改変するようなことがない。逆にその僅かな甘さと、響きの収束の遅さが、音楽をより芳醇に聞かせてくれる。試聴テストで同じ曲を何度も聞いていると、文字通り「聞き飽きてくる」のだけれど、L-550AX
Mark2では一つ一つの音が新鮮に聞こえる。
ギタリストの身体の動き、ボーカリストの胸の動き、唇の動きが伝わってくる。この「伝わってくる」というのはとても大切なことで、「再生装置の違和感」が完全に消えなければそういう音にはならない。
私が信頼する、Vienna Acousticsのスピーカーと、AIRBOWのCDプレーヤーと同じレベルの「自然さ」をL-550AX
Mark2は持っている。こういう日本製のオーディオ機器は、希有な存在だ。
500Miles
ボーカルはきめ細やかで唇の濡れた感じもとても良く出る。
ピアノのアタックはそれほど鋭くなく低音も僅かに膨らむが、秀逸なのは、ピアノとボーカルの位置関係だ。小さなステージの上にグランドピアノが置かれて、ボーカルはその前にスッと立っている。目を閉じると、目の前のステージで演奏が行われているようなリアルなイメージが浮かび上がってくる。このソフトの実際の録音状況とは少し違っているが、それを上手く咀嚼し、より生々しく展開してくれる。
音の密度感など、100万円を超えるようなハイエンド機器と比べなければ、少なくともペア100-200万円くらいまでのスピーカーをほどほどの音量で、自室で聞くためなら、この音で十分だろう。
すくなくとも、
新世界
このソフトでは「静寂感」と「重厚感」が求められる。「それ」を再現するためには、アンプの音量を絞った時でも数多くの楽器が鳴っている(使われている)ことが伝わらないといけない。
けれど、残念ながら世の中にある大出力パワーアンプの多くは、そういう表現があまり得意ではない。大音量ではあふれ出すような音を出しながら、小音量ではいきなり音の数が減って、寂しい音になってしまうようでは、せっかくのシンフォニーが台無しになってしまう。それを嫌ってか、海外のアンプは、高級機でも「シンプルな回路」を持つ製品が多い。しかし、多くの国産アンプは、正直に作りすぎているのか高価なモデルほど複雑な回路が採用される。
回路が複雑になる(部品点数が多くなる)と、個々の部品により良いもの(音質劣化の少ないもの)を使わなければ、回路の複雑さに比例して微小信号の再現性が低下(小さな音が回路で消えてしまう)する。しかし、この価格帯の製品にはそれほど高価なパーツを奢れない。だから、同じLuxmanのアンプ同士を比べたとき、回路がよりシンプルなL-550AX
Mark2の音の細やかさが上位モデルを超えたとしても不思議ではない。
L-550AX Mark2は、出力を欲張らなかったことで回路がシンプルになり、そのために上級モデルよりも「デリケートな音の表現性」が高まっているのだろう。そう考えるなら、ラインストレート・スイッチをOFFにしたときに、細かい音が出なくなり、このアンプらしい魅力が失われることの説明もつく。
もちろん、すべてのオーディオ機器が「シンプルな方が音が良い」とは思わないが、現在のLuxman
プリメインアンプのラインナップには、この傾向は当てはまるのかも知れない。