ポーカロラインが輸入業務を行い日本に入ってきた「タンジェント」は、ヨーロッパらしい「賢いコンポ」だ。スペックを追わず、低価格で高品質を実現できるように工夫が見られる。今回輸入が開始されたEXEOシリーズは、CDプレーヤーで4万円、アンプで6万円という比較的「廉価」な製品だが、フロントパネルには厚みのあるアルミ一枚板が使われている。また仕上げも悪くない。さすがに天板や、入出力端子は価格なりだが、この製品の持ち味は「音」だから、見た目を求めるのならば「国産」を買えばいいと言うことになる。
Luxmanの試聴を追えた後、CDとアンプをTANGENTの新製品にかえて同じディスクで試聴を行うことにした。ただし、吉田美和はあまり強く印象に残らなかったので、それは飛ばしてjazzから聞き始めた。
価格が一気に1/5以下になるので、“質”の低下はある程度仕方がない。しかし、それでも30分ほど聞き続けていると、それもさほど気にならなくなった。
Luxmanと比べて聞き劣るのは、楽器の厚みや緻密さだ。Luxmanでは、ぎゅっと中身が詰まっていた音がEXEOでは希薄になる。ピアノの音も、すこし安くなる。質は、比べれば劣化しているのがはっきりわかる。
しかし、jazzの躍動感、ピアノとベース、ドラムの絡みのリズム感、そういう音楽の本質の再現性では、Luxmanに一歩も引けをとらない。ベースは弾み、シンバルは空気を切り裂き、ピアノは走る。音楽がライブ的に躍動するイメージは、EXEOの音が少し粗い分Luxmanを超えていると感じるほどだ。
じっくりと音と演奏を聞き込んでいたイメージのLuxmanで聞くjazzは、ステージでスーツを着て聞いていたイメージだった。TANGENTで聞くjazzは、日差しの降り注ぐオープンカフェでビールやコーヒーを飲みながら、聞き流している感じだ。耳あたりが良く、それでいて心にはすっと入ってくるおしゃれな音だ。毎日聞き続けて飽きない、音楽の勘所をしっかりと押さえた音作りがされている。方向的にはAIRBOWと似ているが、TANGENTはさらにPOPで軽やかなイメージ。同価格のAIRBOW Little
COSMOSは、より本格的な音が鳴る。
AIRBOWは音が良いからオーディオ的な満足度も高い。TANGENTはオーディオとかけ離れたイメージで音楽を鳴らす。毎日を楽しくさせてくれるような鳴り方をするから、おしゃれなお店や、明るい洋室に似合うだろう。
細部の音質を聞き出せば不満はある。しかし、音楽全体像の描き方は見事だ。いささかの誇張や揺らぎなく、音楽の美味しい部分をうまく引き出す。安く小さなセットだが、その中にはヨーロッパの音楽文化の香りがぎゅっと詰まっている。
出だしのバイオリンのソロではS/NがLuxmanほど高くない。しかし、それはTANGENTを責めるべきではなく、Luxmanをほめるべきだ。第一、価格が全然違うから、これくらいの音の差がなければLuxmanは立つ瀬がない。
ソロを奏でるヒラリーハーンと伴奏のオーケストラの対比は、細かい音が聞こえない分Luxmanよりもコントラストが際立ってわかりやすい。楽器の強弱やメロディーの緩急の差が、Luxmanよりも明確に描かれる。この躍動的な傾向は、jazzのみならずClassicでも十二分に生きている。
レコードにたとえるなら。音が悪いはずの「SP」が「LP」よりも躍動的であると言われるが、LuxmanとTANGENTの違いはそれに近いイメージだ。音の粒子を細かくすると、躍動よりも静止の部分がより強調されるようになり、粒子が粗いとその逆になる。音質はLuxmanが生演奏に近いが、雰囲気はTANGENTのほうが演奏者をダイレクトに感じさせる要素が強い。LuxmanとTANGENTの対比から、そういう「音楽の描き方の違い」がまざまざと感じ取れて興味深い。
EXEOの音はとにかく聞いていて楽しい。EXEOで音楽を聞くとコンサートへ足を運びたくなる。コンサートで生演奏に触れる機会が多いヨーロッパではぐくまれた、ライブ感覚たっぷりのサウンド。それがEXEOの音だ。だからこの製品は、オーディオマニアより音楽ファンにお勧めしたい。
まとめ
最近ポーカロラインが輸入したTANGENTの製品は、発注台数の関係で「日本仕様のトランス」を積んでいなかった。そのため「電圧変換トランスを付属する」という苦肉の策が取られていた。日本向けに製品を作るためには、「日本向け特注トランスを積んだモデル」をある程度の台数で発注しなければならないが、規模が縮小しつつある輸入オーディオ市場は、その要求を受け入れられなかったからだ。
この点でEXEOは「インバーター電源/スイッチング電源」を搭載しているので、入力電圧がフリーとなり「日本製特別仕様を用意しなければならない心配がない。インバーター電源なら、入力電源電圧を広く取りユニバーサルで使うことができるからだ。しかし、これまでインバーター電源は、「音が悪い」とされてきた。逸品館はオーディオ業界としては真っ先にAIRBOWで高音質インバーター電源を実用化したから、それが間違いだと知っている。
AIRBOWの製品へインバータ電源を採用してから10年、市場にもやっと「まともなインバーター電源」を搭載する製品が登場し始めた。今回テストしたEXEOもその良い例に漏れない。EXEOはインバーター電源でありがちだった、高音がざらつく低音がぼやけるといった、高周波ノイズによる悪影響はほとんど感じられない。逆にインバーター電源の良さである、トランジェントの高さや低音の重量感が低価格、軽量な製品で得られている。
良質なインバーター電源を搭載したEXEOのサイズは小さく、筐体は軽く、価格も安い。しかし、音楽を躍動させる力に長けている。安くて音が良いというEXEOのイメージは、昔のDENONの小型プリメインアンプ「PMA-390」に近い。音もどこか似ている。そういえば、PMA-390もヨーロッパで設計されたと聞いたことがある。
今も昔もヨーロッパのコンポは、音楽を上手く鳴らす。安い製品であればあるほど、その「良さ」が際立ってくる。EXEOを聞いて、それを強く感じた。