まず最初にバイオリンを中心としたクラシックを聴いたが、そつなく綺麗に鳴りはしたものの“これは!”と感じる部分もなく、価格なりに良くできた「優等生」的なスピーカーだと感じられた。V3の美点は、音量を下げても音が痩せず十分なダイナミックレンジ感と音の広がりが得られるところだ。しばらく聴いていると心地よい眠気をもよおして、気がつくと現実と夢の区別が付かなくなってしまっていた。それは、心地よいクラシックのコンサートを聴いたときと同じだ。
次に、JAZZのコンピーレーション・アルバムを演奏する。音が出た瞬間に驚いた!反応が早い。それも人間の耳が最も敏感な周波数帯のレスポンスが尋常じゃない。小型フルレンジのような切れ味を持ちながら再生周波数レンジは広い。その上、最新スピーカーらしく歪みがほとんど感じられない。3号館のメインスピーカー PMC BB5はややウェットで艶のある音だが、Magico V3はそれとは対照的な乾いた明るい音。音は明るく乾いているが、温度感はそれほど高くないので爽やかな秋の雰囲気がある。
シンバルの切れ味と芯の出方は、350万円という価格にふさわしい。ピアノの硬質な切れ味の良さと艶のあるボーカル、サックスの音が見事に両立する。最初に演奏したバイオリンのソフトでも感じたことだが、このスピーカーは「生の楽器の音」との違和感が非常に少ないにもかかわらず、ソフトの粗を暴くようなことがない。
音のエッジをやや緩くして音調をソフトフォーカスに振り“ちょっとだけよ”とリスナーの想像をかき立てる方向に逃げていない。しっかりと「生音」を目差しながら「ソフトを聞いている」、「音をモニターしている」違和感がまったくない。本当に目の前で生演奏が繰り広げられているようにすら感じられる。
繋いでいるアンプは、AIRBOW SR7002/SpecialでCDプレーヤーが開発中の5連奏モデルCC4001/Special(仮称)という、AIRBOWのラインナップの中でも比較的ローエンドの製品にもかかわらず、全く物足りなさが感じられないばかりか、どんどん演奏に引き込まれてゆくような音で私を引きつける。350万円という価格に最初は試聴を尻込みしていたが、聞き出すとそんなことはどこかに吹っ飛んで迂闊にも聞き惚れている自分を感じる。すごい可能性のあるスピーカーだ。価格が価格だけに、展示して拡販というわけにはなかなか行かないが、この音が気に入ればその価格は決して高くないと感じさせるオーラと存在感を持っている製品だ。
ここで、メーカーから手渡された詳しい“資料”に目を通す。MAGICOは、1996年にAlon Wolf(イスラエル生まれの45才)によって設立される。彼は、有名なCGアーチストであり、工業デザイナーであると同時に熱心なオーディオファイルだと説明されている。MAGICOの製品は、その彼の能力を生かして最新技術によるCGモデリング及び高精度リアルタイム音響分析を利用して設計されている。そのエンクロージャーは、バルチックバーチ材の集成材やアルミニウムを高精度に加工して作られ、MDFで作られたエンクロージャーよりも遙かに強度が高く、ウーファーの運動エネルギーをほとんど損なうことなくユニットの運動へと変換するため、ユニットのスタート・ストップが早い。
ツィーターには、Scan Speakのリングラジエター(Sonusfaberの高級機と同様のモデル)が採用され、ミッドレンジとウーファーにはMAGICOによって特別に開発製造された、カーボン・ナノチューブを振動板に使った世界最初のユニット(マグネットはネオジウム)が採用されている。このユニットは、強度に優れ、軽く、放熱性も高くハイパワーの連続演奏にもビクともしないなどの大きな長所を持っている。などの説明が記されており、同時に設計者のAlon Wolfが毎日4時間以上クラシック・ギターを演奏するプレーヤーであること、彼がV3を開発しそれを聴くとき他社の製品との比較ではなく、自分自身が納得できる音質に高めてゆくことなどが記されていた。その解説書は10ページにも渡る細かいものだが、その内容を逐一納得できた。それは、私がオーディオ機器の音を聞き、感じ、判断してきた指標と全く同じだったからだ。
JAZZを聞きながらこのレポートを書いているが、ここで2種類のアンプを試すことにする。アンプによる違いを聴くためCDは役不足かも知れないが、CC4001/Special(仮称)を変えないでそのまま使う。
SST.inc Ampzilla 2000で聴くMAGICO V3
ローエンドの音がより低く伸び、パーカッションの弾けるようなリズム感が増すが、その変化の差は想像していたよりも遙かに小さく肩すかしを食らう。どうやらこのスピーカーは、アンプに対してあまり負荷をかけないようだ。同じ方向性を持つイギリスの名器B&Wとは、どうやらかなり性格が違っているようだ。V3の方が、音が素直で鳴らしやすい。セッティングを簡単にしても、定位や広がりは抜群だ。あまり神経質な性格ではないのに、音は驚くほど正確だ。しばらくそのまま聞き続けていたが、AIRBOW SR7002/Specialと大きな差が感じられない。それは、音のエッジをソフトフォーカスにして「色気」をだすAmpzillaとV3の考え方が正反対だから、それぞれの良さが相殺されてしまうせいだろう。
AIRBOW TERAで聴くMAGICO V3
そこでアンプをこのスピーカーと同じ方向で作られたAIRBOW TERAに変えてみる。するとどうだろう!V3は、より一層生き生きと元気に鳴り出すではないか!上手くハマった!シンバルは空中を飛び、パーカーションは弾けぶつかり合い、ピアノは打楽器のように抜群の切れ味が出る。TERAの出力は僅かに20Wだが、V3との組合せでは、明瞭度が高く音が小さくてもハッキリと聞こえるから、それほど音量を上げなくてもパワフルでエネルギッシュな音が得られる。これは、あまり大きな音を出せないけれど高級なシステムが欲しいと考えている方には、完璧にマッチするだろう。この組合せで聞く音は、TERAを開発しているときにPMCに波動ツィーターを付けて聴いた音にかなり近いが、V3の方が明瞭度が高く音の引きずり感(音が止まるとき)がさらに少ない。ただし、音調はそれよりも明らかにドライなのでその点では、やや好みが分かれるかも知れない。
この組合せの良さをさらに引き出すために、サーロジックのサブウーファーを追加して低音を補ってみる。音の出方がグンと太くなり、硬さが取れて音質がより自然になる。その効果は驚くほど高い。密閉型であるV3の場合は、低音がスパッと切れていることでサブウーファーが非常に繋がりやすいことと、低音の絶対量と周波数特性が不足していることがサーロジックのサブウーファーで見事に補われたのだろう!V3に関してサーロジックのサブウーファーの効果は、まさに絶大だ!
生演奏を彷彿とさせるというのは、こういう音のことを言うのだろう。美音に流れることなく、脳内での補完をあまり必要としない絶対的な質を持つ音。もちろん、完全な生音とは違うから、普段生音を聞き慣れている私が聴いた感じと、それを聞いたことがない人との差はあるだろう。でも、V3では他のスピーカーに比べるとその差の絶対量はずっと少ないはずだ。
最後の締めくくりにもう一度五嶋みどりを聴く。最初の組合せではやや物足りなかった「楽器のアタック」の部分がしっかりと再現されるため「当たり障りがなく癖のない音」という印象が「生音に非常に近い自然な音」に変わる。柔らかくもなく、堅すぎることもない。アンプの信号をただ寡黙に音に変換するイメージはPMCにかなり近いが、それよりは音の芯がしっかりとして、音調が明らかに明るい。価格帯が近いBB5と比べると、正確さではV3が勝るのだろうが、BB5の圧倒的な量感のある低音を聞いてしまうと、やはり少し寂しい感じがしないでもない。質を取るか?量を取るか?相当高いレベルでの判断になるが、スピーカーを設置する部屋が大きくないときはサイズの小さなV3を取るしかないだろう。案外、こういった物理的な要素でこの2機種は、簡単に選択されるのかも知れない。