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magico q1 マジコ q-1 試聴 レビュー 音質 比較 テスト 価格 販売 magico V3
Magico S-1 メーカー希望小売価格 ¥1,800,000(ペア・税別 /M CAST仕上げ) 生産完了 (この製品のご注文はこちらからどうぞ) ・ (S1 Mark2の試聴レポートはこちらからどうぞ) 製品の概要(エレクトリのホームページより抜粋) S1 は既に発表済みのS5の兄弟、弟にあたるモデルです。S1はエントリーモデルですが、MAGICOのパフォーマンスを存分に発揮します。キャビネット設計はMiniとM6モデルの技術を踏襲しています。S1最大の特徴は、世界初のモノコック構造にあります。厚さ3/8 インチ(9.525mm)、口径12 インチ(30.48cm)のアルミニウム引抜材を使用したキャビネットは、垂直方向に継ぎ目を持たないシームレス構造になっ ています。形状は、回折効果・内部共振・ダンピングを低減に最適化されたデザインとなっています。 僅か9 インチ(22.86cm)の奥行きのS1は、どのような環境の部屋にも簡単にフィットして高いパフォーマンスを発揮します。 S1に新しく採用された7インチ口径のデュアルネオジウムアンダーハングモーター、ピュアチタニウムヴォイスコイルウーファー(M390)は、ハイブリッド・ナノカーボン振動板を採用し低歪みで力強く高効率です。キャビネットは密閉構造ですが、この強力なユニットにより低域は32Hzまで伸びています。 ツィーターには上級機と同じベリリウム振動板を使った、口径30mmユニット(MB30)が搭載され50kHzまでフラットな高域周波数特を実現します。 ネットワーク回路は、他のMAGICOドライバーと同要のコンピュータシュミレーションを駆使した磁気回路での動作と熱挙動に対し最適なものが搭載されています。 ユニット写真 スピーカー入力端子(シングルワイヤリング専用) 専用スパイクベース付属
試聴テスト 逸品館が高く評価する、最新技術から生み出された超高性能HiFiスピーカーMagicoから、S5に引き続き最も廉価なエントリーモデル"S1"が発売されました。S5/S1は、すでに発売中のQ Seriesの技術的特徴を踏襲し、なおかつ各部の合理的なコストダウンにより低価格を実現したMagicoの新しいシリーズです。 S1は現在逸品館に展示しているQ1と同じ2Way密閉型で再生周波数帯域も同じ32Hz〜50kHzですがが、Q1がスタンド付き・ブックシェルフ型、S1がトールボーイ型と形状が違います、価格もQ1の350万円(ペア・税別)に対してS1は160万円(ペア・税別)と半額以下となっています。この廉価モデルS1が、圧倒的な解像度・高S/Nで音楽をありのままに描き出し私を心底驚かせたQ1のサウンドにどこまで肉薄できるか?興味津々で試聴機が届くのを、今か今かと待っていました。 願いが叶って輸入代理店のエレクトリより届けられたS1試聴機を開梱し、躍る心を抑えきれずスパイクを付けない状態でカーペットの上に置いて音を出しました。「あれ?」これが第一印象です。始めてQ1を聞いたのも同じ場所で同じ状況でしたが、出てきた音の印象は全然違います。Q1に比べてS1は低音も高音も伸びず、解像度も並程度。これなら同じ場所に展示しているFocal 1028Beの方が絶対音が良いと思い、即座につなぎ替えてみるとやはり1028Beの方が断然音が良いではありませんか。肩すかしを食らった気分のまま、とりあえずその日は一晩中CDをリピートしスピーカーの「暖まり」を待つことにしました。 翌日出勤してS1を聞くと、やはり芳しくありません。2日目の夜にはQ1に感動した知人もやってきて一緒に聴きましたが、まだS1は応えてくれません。ちょっとがっかりしてレポートを書かずに返却しようと思いましたが、カーペットの上に慌てて設置したS1にはまだスパイクすら装着していません。Q1はそれでも良い音を出しましたが、S1はきちんとセッティングしなければ音が出ないのかも知れないと考え、まず人工大理石ボードを敷くと、かなり音が良くなりました。気分を良くして、次に付属の驚くほど立派な付属スパイクを付けて聞きました。出ていなかった低音がかなり低く伸び、高音もスッキリして細かい音も聞こえるようになり、この音質なら価格に恥じないと思いましたが、先入観や期待の大きさから判断を誤ってはいけないので、同じ場所に設置しているVienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)、Focal 1028Beと比較することにしました。
通常スピーカーの試聴では、「1曲」を真剣に聞いて評価を書くことが多いのですが、スパイクを付けたS1は鳴らしている間中どんどん音が良くなり、その変化を追っているとディスクが終わってしまいました。スパイクを付け鳴らし始め(スパイクなしで48時間以上鳴らしっぱなしにした後でスパイクを装着)た時は、中低音が勝ち気味で高音があまり出ない大型フルレンジスピーカーのような音質に感じました。しかし、10分もすると霧が晴れるように高域の見通しが改善し、細かい音も聞こえるようになりました。S1は5曲目のモナリザから最後までを聞いて評価しています。 ボーカルは付帯音が少なく、スッキリとして肉声に近い音質で再現されます。密閉箱から低音を出せる良さでレスポンスに優れ、バスドラムの音は非常に力強くリアルでドライです。高剛性の金属キャビネットを使い共振を抑えた効果で、音の出始めもそうですが音が消える部分に余計な響きが付かないことがリアルな心地よさを生み出しています。 金属箱にベリリウムツィーターを組み合わせているにもかかわらず、出てくる音は非常に「有機的」です。ピアノの音色は美しく、初期のB&Wやその他の高性能スピーカーに見られがちな「モノトーン」のイメージはまったくありません。この暖かさは、上級モデルQ Seriesとまったく同じ、Magicoのテイストです。 S1はスパイクを付けたことで全体的な音質・性能の高さは、価格を十分に納得させられる水準に達しました。しかし、音の細やかさだけは、もう少し欲しい気がします。S1の音は細かいのか、水準なのか?確認のためスピーカーを1028Beに変えました。 1028Beツィーターの振動板は、S1と同じ「ベリリウム」が使われています。形状はS1の凸型ドームに対し、1028Beは凹型の逆ドーム型です。能率の影響でボリュームがそのままだと、1028Beの音が大きいのでアンプの音量を少し絞り大体同じ音の大きさで試聴を開始しました。 気になっていた音の細かさですが、1028Beでは余韻・エコー部分の音の細やかさが増加しました。ギターの高域も伸びやかですし、ボーカルの高域も天井に向かってすっと圧迫感なしに広がります。グレースマーヤさんの声も、より女性らしい色っぽさが出てきました。エンクロージャーの付帯音もS1に比べるとバスレフの1028Beは随分と多いはずなのですが、それは意外に気になりません。 しかし「音の密度感」は、S1を100とすると1028Beは80-90くらいに低下して感じます。ギターも弦の金属的な感じが強まって、S1の滑らかで有機的な響きとは少しイメージが変わります。バスドラムの音も密度感とエネルギー感が少し低く感じます。 S1は演奏を等身大の大きさと高い密度で再現しました。1028Beは演奏の躍動感を少し拡大したため、密度感がわずかに低下するイメージです。音の精度・精緻さでもS1は1028Beを明らかに上回り、イギリス製のスタジオモニターPMCに近い雰囲気です。 S1で聞くと奏者が迷いなく楽器を一発で鳴らし、無駄な音を出さす音を止めているように聞こえますが、1028Beは音の出始めに揺らぎが感じられ、音が消える部分も少し曖昧です。演奏者の雰囲気や表情はどちらもシッカリ再現されますが、1028Beはフレンドリーでアマチュア的な感じ、S1はシビアでプロっぽい雰囲気になります。S1に比べ1028Beの音は少しラフに聞こえますが、そのラフさがJAZZをより躍動させることがあります。 音楽を楽しませるという能力では1028BeとS1はほぼ同等、音質や精度ではS1が1028Beを上回るように感じました。 その差は、S1の音の立ち上がり、立ち下がりの早さが1028Beよりも勝っているためだと思います。 Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G) Focal 1028Beに比べ価格が約半分のBeethoven Concert Grand(T3G)ですが、音が出た瞬間から驚かされます。ボーカルの艶やかさや色っぽさ、ギターの余韻の美しさで1028Beを凌ぐほどの音が出たからです。音楽を聞いているときの「自然さ(抵抗なく音楽に引き込まれる感覚)」は、1028Beを越えS1すら凌いでいるとさえ感じます。 確かにS1はDUGというJAZZライブステージを見事なまでに等身大で再現しました。1028Beは、その演奏の熱さを躍動的に拡大して解釈しました。対するVienna Acousitics Beethoven Concert Grand(T3G)はまるで「コンサートホール」で演奏されているように音をふわりと広げて聞かせます。 音の味わいは三者三様で全く違います。しかし、今回の比較試聴ではBeethoven Concert Grand(T3G)の肌に馴染む感じ、違和感なく音が心に入ってくる感覚は、価格の差を超えて優秀に感じられます。評価文を書いていても、S1や1028Beでは「音」を文字に変換することが割と簡単にできたのですが、Beethoven Concert Grand(T3G)ではそれが困難になります。それは、Beethoven Concert Grand(T3G)の音が「生を聞いている雰囲気」により近いからです。 それでも冷静に聞いてみると、高音の芯の強さ、低音の伸びやかさ密度感でBeethoven Concert Grand(T3G)は上級2機種に劣ることが聞き取れます。音が重なった部分での、それぞれの音の分離感も劣ります。しかし、生演奏は意外にそういう「いい加減な音」で聞こえるのです。シビアな録音ソースが適度にデフォルメされ、響きを加えられたこの音のバランスは、このソフトではBeethoven Concert Grand(T3G)が最も「生」に近い雰囲気で楽しめます。 音ではなく、音の向こう側に演奏者がハッキリと見えるからこそ、音の評価が難しくなるのです。それは、音ではなく演奏を聴いている証拠です。 組み合わせたSACDプレーヤーやアンプ、そして何よりも「スピーカーの設置状況(最適なルームアコースティック)」の影響も大きいとは思いますが、今回Beethoven Concert Grand(T3G)は上級2機種にまったく引けを取らない素晴らしい音質でLast Time at DUGを鳴らしてくれました。もちろん、音の好みには個人差がありますから、まったく同じ条件で3種のスピーカーを聞き比べても、優劣順位は人それぞれになると思います。しかし、必ずしも最も音の悪いスピーカー(最も安いBeethoven Concert Grand(T3G))が音楽を鳴らして、それらに劣ることはないと確信しました。 価格ではない魅力を持つ。あるいは、価格を超える魅力が出せる。それがオーディオの面白いところであり、難しいところだと思います。 人間は無意識に音を記憶するので同じ演奏を繰り返し聞くと、後になればなるほど「よく聞こえる」と言うことがあります。 そこでこの曲では、スピーカーを聞く順序を逆転しました。 Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G) このソフトを聞いて思うのは、Beethoven Concert Grand(T3G)がすごく頑張っているということです。 楽曲をJAZZライブから交響曲に変えても、その自然さはそのまま完全に引き継がれます。驚くべき自然さ、生々しさでシェーラザードが鳴っています。音が出た瞬間から演奏にぐいぐい引き込まれ、やはり音をうまく文字に変換できなくなります。完全に音楽に飲み込まれました。 もちろん過去には、これよりも細かい音、レンジの広い音、ハイクォリティーな音は何度となく聞いています。しかし、「生に近い完成された音」を基準にするのであれば、今聞いている音はその最高峰に位置すると評しても過言ではありません。 では、なぜクオリティーと音楽を聞いたときの自然さは、イコールではないのでしょう?常識的に考えれば、音が良くなればそれだけ「生々しく=原音に近く」鳴るはずです。その答えは、人間の持つ「相対的な感覚」にあります。 人間の感覚は、測定器のように「絶対」ではありません。例えば、糖度が同じ(同じだけの砂糖が入っている)お汁粉に「塩」を入れたときを想像して下さい。塩によって甘みが引き立つように、演奏もバックの音を「柔らかく」すれば、コンサートマスターの音は「キリリと引き立ち」ます。つまり良い演奏とは、絶対的な音が良いのではなく、各楽音の「対比バランス」が優れているのです。オーディオ機器がその「対比バランス」をそのまま比率で再現できると、「生演奏を聴いている雰囲気」が非常に強く伝わるようになります。今聞いている音は、まさにそういう音です。 バイオリンとチェロコントラバス、ビオラ、フルートとピッコロ、クラリネットとファゴット、大きさの異なる同じ楽器が交響曲では、なぜあれほどの数用いられるのか。あるいは弦楽器、金管楽器、木管楽器、打楽器・・・、あれほどの多種多様な音を出す楽器がどうして必要なのか。楽譜はなぜあれほど細かいパートで書かれているのか。指揮者は台の上で何をしているのか。名作と呼ばれる交響曲ではそれらにすべて深い意味があり、名演奏と呼ばれるコンサートでは、それぞれの音にその深い意味が託されています。 数百年以上の長い年月をかけて作り上げられた音の芸術作品。その素晴らしい芸術作品が、まさに目の前で繰り広げられます。素晴らしい。これ以上を何をオーディオに望むことがあるのでしょう。 次々と新しいものにばかり飛びついていては、決して実現しない「完成形」がここにあります。これは作ろうとしてできるのではなく、努力を続けたとき奇蹟のように実現する世界です。時には諦め、時には切り捨て、それでも付き合っていると、オーディオは化けることがあります。設置から10年を経てもBeethoven Concert Grand(T3G)は、まだまだその底地を秘めているのです。求めても得られるとは限らない。それもまたオーディオの面白さであり、難しさだと思います。 低音はよく出ます。高音も細かく、芯があります。良い音です。しかし、Beethoven Concert Grand(T3G)を聞いた後では、音が出た瞬間、主役の後に登場した2流役者の演技を見ているような気がしたのも事実です。 1028Beが奏でる楽器個々の音は明らかにBeethoven Concert Grand(T3G)の質感を上回ります。また、バイオリンソロのパートの細やかな再現性、表現力、音の美しさも明らかにBeethoven Concert Grand(T3G)を大きく上回ります。密度感も質感も高い。しかし、今日だけは奇蹟のように実現したBeethoven Concert Grand(T3G)のベストバランスに1028Beは及びません。バックのバイオリンやチェロの音が入ると、音場がわずかに濁ります。また、それぞれのパートもばらついています。最上級の演奏が、上級の演奏になったイメージです。 しかし、バランスに関しては「スピーカーだけの責任(アンプなどの機器とのマッチング、スピーカーの設置環境などの影響が大きい)」ではないので、冷静になって音を比べることにします。 金管楽器はBeethoven Concert Grand(T3G)よりも、響きが多めでウォームです。金管楽器、弦楽器の高次倍音は、高性能なベリリウムツィーターの能力で細かく、シッカリした芯のある音で再現されます。クラリネットやファゴットは、リードとキイの開閉する音がハッキリと聞き取れます。スピーカーの性能が高いので、Beethoven Concert Grand(T3G)では聞き取れなかった楽器の発生するノイズまで克明に聞き取れますが、それは決して音楽鑑賞のじゃまになるようなものではありません。コントラバスの響きは太く、量感も十分です。エンクロージャーの鳴きが多くホールの響きがわずかに濁りますが、これはセッティングで解決すべき問題だと思います。 全体的には、Beethoven Concert Grand(T3G)を上回る価格を納得させるだけの「質の高い音」でシェラザードが再現されました。 スピーカーはセッティング次第で音質が大きく変わります。それは、リスナーが聞く音の「半分以上がスピーカーの音が壁や天井、床に反射して届く音」だからです。ルームチューンを行わず、セッティングもしない状況では、スピーカーはその能力をまったく発揮できません。今回届いたS1をスパイクを付けない状態でカーペットの上に置いて出した音は、まさしくそういう「悲惨」な音でした。しかし、ボードを入れ、スパイクを装着したことでその音質は別物と言って良いほど向上しました。 これまでの試聴テストでは、セッティングに最良の状態に近づけて音を聞くために「ウェルフロートボード」をスピーカー・ベースに使っていました。S1でそれを使わなかったのは、S5の試聴会でウェルフロートボードの上に置いたS5の音質があまり芳しくなかったことからの反省です。もちろん2回だけの簡単な試聴や、同じMagicoでもQ Seriesはウェルフロートボードとの相性が抜群だっただけに、S Seriesとウェルフロートボードの相性がほんとに悪いのかどうかは分かりません。しかし、今回はS1に付属している立派なスパイクを付けて音がどのように変わるかも知りたかったので、一般的な人工大理石ボード+付属スパイクのセッティングで聞いてみました。 音の広がりや立体的なイメージはBeethoven Concert Grand(T3G)や1028Beに敵いませんが、これはS1の問題ではなくS1だけが簡易なセッティングで鳴らされているためでしょう。そこで今回のリポートは、各パートの音を聞きながら完全に鳴りきったS1の音を想像して書くことにします。 強固な金属で作られた密閉型エンクロージャーを採用するS1は、付帯音が最も小さく仕上がっています。余計な響きが付かないので「空間の透明感の高さ/濁りの少なさ」は、他の2機種を大きく引き離します。Magico Q1を始めて聞いた時、ユニットが空中で鳴っているようなイメージを抱きましたが、今聞いているS1もそういうイメージです。 付帯音が楽器の響きやホールトーンを増強する2つのスピーカーの比べ、それがないS1の音は「スリムでストイック」に感じられます。そのイメージは先に書いたようにイギリス製モニタースピーカーPMCに非常によく似ています。この部屋ではOB1i Signatureを鳴らしたことがありますが、S1はそれをさらに高性能にしたように聞こえます。 バイオリンの音は高域がスムースに伸びて芯があります。しかし、少し細身です。クラリネットやファゴットは楽器のサイズが少し小さくなったように感じますが、それはエネルギーバランスが僅かに高域に偏っているためです。 低音はかなり低い周波数までよく伸びていますから、中低音が少し痩せて感じられるのは付帯音が少ないのと、先に付帯音の大きな(サービスしてくれている)スピーカーを聞いたからだと思います。また、S1は正面で聞くと低音がしっかり聞こえて、センターを外すと低音が少なくなる傾向がありますが、これも余計な音を出さない密閉型を採用していることと関係があります。サイズの限られた部屋で鳴らすなら、低域が膨らみにくいS1は良い選択だと思います。 すべての音に僅かな「硬さ」と「金属的な質感」を感じることがありますが、その量はごく僅かなので、エイジングや鳴らし込み、セッティングで容易に解決できると思います。 JAZZでは高いと感じたS1の音の密度感は、交響曲では3種のスピーカーであまり大きな差を感じられませんでした。これは、直接音を聞くJAZZと間接音を聞く交響曲の違いによるものでしょう。その理由を少し説明します。楽器の近くで聞く音は密度が高いですが広がり感(立体感)は希薄です。響きのあるホールで楽器から離れて聞くと音は、密度が低くなりますが体を包み込むように立体的に広がります。それは、光と同じように音が距離に応じて広がり密度が小さくなるからです。 近接して聞く「密度が高い音」と離れて聞く「密度が低い音」、そのソースの違いが、S1と他の2機種の「密度感の差」を生むのでしょう。つまり、付帯音が小さくユニットの性能が高いS1だけが、JAZZの高密度な音を混じらせず(濁らせずに完全に分解して)に再現できたからこそ、S1で聞くJAZZの密度を高く感じたのです。 交響曲では、そのS1のクォリティーの高さは「密度」ではなく「精緻」というイメージを生み出しました。何も足さず、何も引かない。それがMagico S1で聞く、交響曲のイメージです。 電子的に音が作られ高音質な編集機器を使って作り上げられた、このようなソフトがS1の"凄さ"を最も端的に表してくれます。 低域は早く、圧倒的な密度感で再現されます。中高域は低域に一切引きずられることなく、まるで別のスピーカーで鳴らしているかのように完全に分離します。 ボーカルは緻密。高域は伸びやかでしっかりとした芯があります。低域は完全に分離し、独立したパートを奏でます。ベースが唸る鳴り方はS1でなければ出せないと感じさせるすごさです。そんな凄さが随序に感じられる一方で、今日のガガ様はちょっと元気が足りないように感じます。それは低域に僅かな重さを感じるためであり、音が全体的に重く暗いためでもあります。 今日はちょっと真面目なガガ様。イタリア人らしい「弾けた感じ」がありません。音は良いのですが、乗りがちょっと足りません。 人工大理石ボードと付属スパイクを加えたときの音の変化から推察すると、S1は「しっかりした土台」が必要なようです。今回設置している「厚手のカーペット」では、S1の固定が不足して美味しいところがうまく引き出せないのかもしれません。S1は「金属のように強固な床」の上に置くと、その真価を発揮するはずです。また、組み合わせているアンプAIRBOW SA11S3 Ultimateとの音が、ちょっと「柔らかめ」なのもS1の脚を引っ張ったかも知れません。そういう意味では、超高性能デジタルアンプ TAD M2500のような物理特性に優れるアンプがMagico S1にはよく似合うのかもしれません。 1028Beが生み出す「響き」が音を立体的に大きく広げます。ガガ様との距離がグッと縮まり、伴奏がその後に大きく展開します。強いエネルギー感、躍動感を感じさせるこの音は、S1と全く違う曲を聴いているようです。 それぞれの音を完全に分離したS1に比べると1028Beの音は適度に混じり、音場は濁っています。しかし、ライブの音はこんな感じです。ドスンドスンと重くやや膨らむ過剰な低域、スッキリと高音が抜け切らないもどかしさは感じても、突き抜けるようなエネルギー感を持つ表情豊かなボーカル。会場をぐるぐると飛び回る高域の鋭い音。今聞いている音は、ライブで聞く音に非常に近いと思います。交響曲ではBeethoven Concert Grand(T3G)の奏でる演奏に心を奪われ音を文字に変換できなくなりましたが、1028Beで聞くガガ様はまさしくそういう感じです。 非常にリアルな生演奏を聴いているイメージ。音がどんどん体の中に流れ込んで、複雑なイメージが伝わる。英語が理解できなくても、ボーカルの表情の変化でガガ様の意図することが伝わってくる。 非常に冷静かつ正確無比に、自分のパートを演じ見事な歌唱力でROCKを歌いきるガガ様。彼女の才能が、現在のPOP/ROCKシンガーの中でも群を抜く存在であることが、ひしひしと伝わります。声、そして音楽の精度のレベルが桁外れに高い。高級なオーディオ装置で聞けば聞くほど、底の深さが見えてくる。それがガガの凄さです。それを弾き出した1028Beもまた、並のスピーカーではありません。 Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G) Beethoven Concert Grand(T3G)の高音の広がりは1028Beよりも滑らかで、色彩が豊富です。中低音の厚みや力感は1028Beに譲りますが、それでもかなりよく出ています。ガガ様の声は抜けが良く綺麗ですが、ちょっと綺麗すぎて線が細く聞こえます。音が明るくさわやかですが、ROCKらしい「汚れ」や「凄み」が足りません。ちょっと綺麗すぎる印象です。それぞれの音の分離も1028Be程ではなく、全体的な音の密度感も1028Beに敵いません。 悪くない音ですが、ガガ様に関しては1028Beが一頭頭抜けていました。まあ、交響曲があれだけの音で鳴り、JAZZも十分に楽しめ、ROCKがこれだけ鳴ればまったく問題はないでしょう。まして、このスピーカーが最も安いのですから、文句を言えば叱られます。 Magico S-1 総合評価 今回の試聴ではJAZZはS1が良く、交響曲はBeethoven Concert Grand(T3G)、POPS/ROCKは1028Beとそれぞれベストが分かれましたが、こんなに明確にそれぞれの持ち味が出たテストも過去あまり例がないと思います。それだけそれぞれの製品の水準が高かったと考えます。 S1は上級モデルQ1とまったく同じく鳴かない金属のキャビネットと高性能なユニットを組み合わた、Magicoの理論で組み上げられています。しかし、Qの半額以下というSの価格差はその音に表れます。 Q1は他に並ぶもののない孤高の音で、音楽を聞かせてくれます。体験したことのない未知の世界に踏み込むために、Q1では400万円(ペア・税別)という大きな代価を要求されますが、それは「宇宙旅行」を買うようなものなので決して法外な価格だとは感じられません。ましてスピーカーを交換するだけで、他の機器を変更しなくてもその「凄さ」は体験できるのでその価格は「あり」だと納得します。 しかし、スピーカーを買っただけでは「宇宙旅行」に飛び立てないように感じるのがS1です。完成したロケットがQ1なら、S1はさしずめ組み立てロケットです。使い手が、組み立て方や搭載するエンジン、発射のタイミング、そういった要素を完璧に揃えられたとき、S1はこれまでのスピーカーでは聴けない世界にリスナーを運んでくれるでしょう。Q1と違ってS1は、他のスピーカーと同じように「鳴らす努力」が必要です。 Magico Q Seriesの凄さは、その「努力」すら必要がないことです。見方を変えるなら、今回のBeethoven Concert Grand(T3G)や1028Beのように条件が揃えば、信じられないほど良い音を出せる「他のスピーカー」と同じ世界、同じ土俵の上にS1はあると言えます。 そういう理解でS1を見れば、180万円(ペア・税別)生産完了という価格は「妥当」だと思われます。 Magico Q Seriesにライバルはいませんが、Magico S Seriesにはライバルが存在します。これが二つのシリーズの違いだと思いました。
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