オーディオの開発やセッティング実験を繰り返せば返すほど、オーディオは「バイブレーション(振動)の正しい伝達が重要」だと実感します。掲示板にも書いたのですが、ハイエンドショウのサブウーファーの実験で「聞こえない音」を誰もが聴き取れることに驚き
ます。このときウファーのユニットはゆらゆらと数ミリしか動いていません。このユニットの動きを大きな部屋の誰もが関知できることは、人間の感覚の神業です。
オーディオで音楽再生する基本は、マイクが電気信号に変換した音を増幅することですが、その過程で発生する「わずかな振動(共振)」による影響も無視できません。例えば、床に置いていた「AIRBOW
NA7004/Specialとipod Touchの組み合わせ」でAIRBOWから最近発売した「Metal
Base」と他のインシュレーターの比較を行ったところ、回転系が皆無なプレーヤー(音源)にも関わらず、CDプレーヤーと同じように「インシュレーターの使用」で音が大きく変わったことに驚きました。このように一見振動していないように見える機器も、中にある電線や増幅素子がわずかな振動の影響を受けているため、「置き方」で音が変わるのです。アンプもインシュレーターで音が変わります。
音楽は「空気の振動」に人間の感情を置き換えて伝えるコミュニケーションです。わずかな顔色の違い、表情の違いから相手に気持ちを読み取れるように、私たちの聴覚は測定器でさえ捉えきれないわずかな空気の振動(音)からも、人の感情の変化を聞き取ります。この優れた音に対する人間の感覚を私は、「人間が言語を持つ前に使っていたうなり声によるコミュニケーションの名残(あるいは進化)」と考えています。
しかし、この音に対する感覚は非常に「利己的」で鋭敏な部分と鈍感な部分がハッキリ分かれています。冒頭に述べたサブウーファーの実験から、私たちの聴覚は「類似する、あるいは一致する音」に対し、ものすごく高い感度を持っていると考えられます。聞こえるはずのないサブウーファーの音を聞くためには、それと関連した「聞こえる音」が必要です。10mも先にあるわずか数ミリのユニットの動きを感じるために、それと関連した聞こえる音が重要なのです。これを逆説的に考えた場合、電子回路がスピーカーから出た音で共振することで発生する、測定できないほどのわずかな音が「聞こえる音」に大きな影響を与えることが想像できます。
もう少し詳しく説明しましょう。私たちの聴覚は、連続する音の間隔が1/100を切ると「断続した二つの音」と認識できなくなります。つまり、一つの「濁った音」に聞こえるわけです。これを「距離」に置き換えると、音波の秒速340mの1/100ですから3.4mになります。これを人間が最も敏感な周波数1kHz(1000)で割ると、3.4mmになります。この距離をスピーカーのセッティングに当てはめると、スピーカーの数ミリの置き場所の違いが「スピーカーの鳴り方(音質)」を大きく変えることが理解できます。
実際にスピーカーのセッティングでは、スピーカーを大きく動かすよりも少しだけ動かす方が「中高音の透明感の改善」には大きな効果があります。このわずかなスピーカーの位置変更による音質調整を完全に習得できれば、環境やスピーカーそのものが変化しても、常にある程度同じ音を出せるようになります。余談ですが逸品館のデモンストレーションがいつも「同じような音」なのは、スピーカーの設置位置の影響が非常に大きいのです(昨年、インターナショナル・オーディオ・ショウでロッキーインターナショナルのブースのセッティングを行いましたが、AIRBOW製品を全く使わなかったにも関わらずいつもと同じAIRBOWサウンドが出せたことに私が一番驚きました)。
音は人なり。同じ装置を使っても、使いこなす人の違いが「出てくる音」に反映します。楽器が演奏者の音を反映するのと同じように、オーディオも使い手三の音を反映します。機器のセッティングは機器の買い換えよりも重要かもしれません。もし、雑誌や人の噂を信じても音が良くならないと感じられるなら、逸品館の推奨するセッティングをお試し下さい。
今の音響学や聴覚の研究では解明できないほど「恐るべき高い感度(鼓膜だけではなく音を皮膚でも感じているはずです)」を私たちは持っています。オーディオの音質を濁らせるのは、元の音に付随して発生するほんのわずかな共振です。再生時に避けられないこの「共振」を打ち消せば、音楽の感動は生に近づきます。もしこの「共振」をブースターとして使うことが出来れば、音楽の感動は生を超えるでしょう。これが私がオーディオが生を超えられると確信する理由なのです。