PCオーディオの初期に「CDプレーヤーはCDを再生する時にエラーを起こしている、PCはエラーしないから音が良い」といわれましたが、それも明らかな間違いです。CDディスクに記録される音楽データーファイルの形式は、PC用のソフトやデーターとは違っています。しかし、16bitのデーターが「そのまま記録」されているのではありません。
CDは、ご存じのようにディスクに刻まれた「ピット(穴)」にレーザーを照射して記録されたデジタルデーターを読み取ります。間違った使いなので誤解されやすいのですが、CDのピットは「一つずつの穴が独立している」のではありません。ピット間(穴と穴の間)には、区切りや仕切りがなく「デジタールデーターが変化しない場合ピットは連続して(結合して)」刻まれます。そのため無音部のように「ゼロデーターが連続する/0000000・・・」デジタルデータをそのまま記録すると、ピットは穴ではなく「連続した細い凹み」もしくは「穴のない平坦部」になってしまいます。
CDディスクが回転してもピットのあるなしによってレーザー光が変化しなければ、メカニズムはピットをトラッキングできなません(どこがピットで、どこがピットでないのか分からなくなります)。そこで、CDにデジタルデーターを記録するときには、ピットが必ず変化するように(0もしくは1が連続しないように)EFMという方法でデジタルデーターの間に、定期的に0もしくは1を填め込んでいます。EFMという符号化の方法により、PCMの16bitデーターは半分の8bitが14bitに伸長されて記録されます。EFM符号化により、ピットは14bitよりも小さい範囲で必ず変化し、メカニズムによるピットのトラッキングが可能になります。
さらにデーターを時間軸上で連続して並べると「傷」により「連続するデーター」がごっそり抜け落ちてしまうため、CDに記録されるデジタルデーターはは単純に時系列的に並べるられるのでは
なく、ある範囲にばら撒いて記憶されています。CDは、ある程度の分散したデーターを読み込んでから、それらを正しい順序に並べて再現します。その時間軸の復元情報(同期データー)や楽曲情報を記録するためのヘッダ、さらにCIRS(サース、Cross-Interleaved
Reed Solomon)
と呼ばれる誤り訂正に必要なデーターなどが1枚のCDに記録されています。
これらの複雑かつ論理的なデータ記録によって、CDがかなり傷ついても「元のデジタルデーターが完全に復元」できるようになっています。また、読み取りエラーを起こすのはCDだけではなく、CDと同じようにディスクにデジタル信号を記録するHDDや電気的にデジタルデーターを記録するRAMメモリーでも、読み取りミスやエラーが起き場合にも(実際かなりの割合でエラーは発生する)完全なデジタルデーターを復元できるように「デジタルデーターと共にエラー訂正信号が記録」されています。「エラー訂正」と聞くと、エラーが起きてデジタルデーターが損なわれているように聞こえるかも知れませんが、エラー訂正は普通に使われ、エラーが発生してもデジタルデーターは元通り復元されます。CDだから「デジタルデーターを正確に復元できない」というのは明らかな誤りです。PCでもエラー訂正は頻繁に起きています。
ここでさらに勘違いを防ぐために、使われる用語を明確にしましょう。
デジタルデーターの復調(再生)でつかわれる「訂正」と言う言葉は、読み取れなかったデジタルデータの一部を演算により「元と同じデータに復元した」事を示します。つまり「訂正」が発生しても、デジタルデーターは完全に復元されます。他方、大幅なデジタルデーターの欠損により「元々のデーターが復元できない」場合には、前後のデーターを比較するなどの方法で「新たにデーターを作り出し」ます。これを「補間」と言います。補完が行われたデジタルデーターは、元のデーターとは変わっています。
CDが読み取りエラーをするのは事実です。しかし、CDに記録されているデジタルデーターは、先にご説明したように「読み取りエラー」を見越して、かなり複雑な方法で記録されています。決してPCM
44.1kHz/16bitのデジタル音声、2進数/16桁を1秒に44100回記録しているのではありません。また、30年以上も前のCDメカニズムがエラーせず読み取れるように工夫を凝らされた「CD」という方式を、現在の遙かに優れたメカニズムで読み取ったとき、さらに高速かつ高精度に読み取れるのは明かです。たとえ、それが数千円のCDメカニズムだとしても、CDの再生、あるいは読み取り時に「デジタルデーター」が損なわれることはありません。