逸品館メルマガ バックナンバー 286

「拝啓、レコード会社様」


昨年はやや盛り返しましたが年々CDの売上が下落し、我々同様ご苦労なさっていることだと思います。それは、音源のデジタル化により「高音質コピー」が容易になったことが最も大きな原因だと思いますが、他にも思い当たることはないでしょうか?

高級オーディオを持つ我々オーディオファイルは、同じCDでも高級な装置で聞けば「よりよい音が出る」と信じています。しかし、ほとんどのJ-POPは高級オーディオで聞くとヘッドホンステレオで聞くよりも悲惨な音になってしまいます。それには「レコーディング(マスタリング)」が関係します。ご存じの方がいらっしゃるかも知れませんが、最近のCDは小さい音を大きく、大きな音を小さくして録音し、平均音圧レベルを上げています。それは、同じボリューム位置で再生したときに「大きな音の方がハッキリ聞こえる(良い音に聞こえる)」からです。しかし、平均音量を上げることにより、「それぞれの音の音量差が小さくなって音の分離が悪くなる」という問題が生じます。映像に例えるなら、画面全体の明るさが上がりすぎている状態です。画面全体が明るくなると、まぶしくてそれぞれの画像の区別が付きにくくなります。

この問題を解決するための「ヒント」は色彩にあります。モノクロ映像で識別できない「同じ明るさの画像」でも、色彩を加えてカラー映像にすれば識別できるからです。音声の場合は、「色彩」が「音色」に変わりますが、識別のイメージはとてもよく似ています。例えば、男女混声合唱団で男性と女性が「同じ音の高さ」で歌っていても私達は男女の声の「質の違い」でそれを識別し、ハーモニーを感じます。つまり、平均音圧レベルを上げるためにダイナミックレンジ(小さ
な音と大きな音の差)を圧縮(コンプレッション)しても、それぞれの「音の個性(質感の違い)」がきちんと反映されていれば、高級オーディオで聞いた時に音の分離が悪くならないのです。逆に言えば、高級オーディオ機器はパブリック・オーディオ機器では再現できない「音の個性」をきちんと再現するからこそ、録音の優れたディスクなら「聞き取れなかった音」が聞こえるようになるのです。

マイケル・ジャクソンやレディー・ガガのような世界的に著名なトップミュージシャン、あるいはK-POPでもトップミュージシャンのCDは、高級オーディオで聞いても納得できる「質の違いが反映されたサウンド」に仕上げられています。しかし、J-POPは桑田佳祐(サザンオールスターズ)やミスチルのようなトップミュージシャンのCDですら質感の違いが十分に反映されておらず、高級オーディオでは音がごちゃごちゃになり聞くに堪えない音になってしまいます。逆に余り売れることのない「夏川りみ」や「元ちとせ」のような実力派歌手のCDは余り弄らずに録音されていて、高級オーディオで聞くとその声の素晴らしさに感動します。「新譜の音が悪い」というこの現象は、残念なことにPOPSのみならずClassicsやJazzなどにも蔓延しています。平均音量を上げる、マスターのノイズを消す、など様々な「余計な処理」により、最近買ったリマスタリング盤が昔のものより音が悪かったという信じられないことが起きています。

1990年代になってスタジオの編集機器が、プロツールスのようなPC+HDDのタイプに変わってから、ガクンと「質」が落ちたように感じます。では、CDを超えるというハイレゾやDSDには期待できるのでしょうか?残念ですが、これらもお薦めできません。いくらお皿(フォーマット)を大きくしても、乗せる素材がお粗末ではよい音が出ないからです。私の経験では、アナログマスターから作られた80年代CDの音が自然で良く聞こえます。

話は変わりますが、Esotericが発売するクラシックのSACDソフトをご存じでしょうか?Esotericの高級機を使って前社長の大間知氏がリマスタリングして作る高音質SACDソフトです。このシリーズは、発売するタイトルすべてが完売するという快挙を続けています。プレスする絶対数も少ないのですが、オーディオをよく知る人間がレコーディングに携わり一定水準以上の高音質が保証されることが、その快挙に結びついているに違いありません。

何を表現し(演奏し)、どのように録音し、どのように再生するか。すべてのプロセスでその品質が保持されたとき、高級オーディオはCDですらあなたがまだまだ知らない驚くべき音質を発揮します。逸品館以外の場所で、そういうソフトとそれを現実にお聴かせする機会が少なくなっていることをとても残念に思います。

敬具。

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