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今回は真っ新のSA8005/PM8005を試聴機として用意しました。オーディオ製品は音質が安定しその性能が発揮されるまでにしばらく時間がかかります。この初期馴染みを出すための運転(音出し)をエイジングと呼んでいます。SA8005とPM8005のエイジングは、SA8005にiPod Touchを接続し様々な楽曲をリピートして行いました。電源投入直後からかなり良い音が出て「安心」しましたが、その後時間の経過と共に音質がしっとりと落ち着き深みが増すことを確認できました。音質テストマニで約100時間のエイジングを行いました。
Marantz SA8005 メーカー希望小売価格 ¥129,500(税別) (最新モデルのご購入はこちら) |
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Marantz PM8005 メーカー希望小売価格 ¥129,500(税別) (最新モデルのご購入はこちら) |
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音質テスト
音質テストでは付属の電源ケーブルを使用し、置き台も2千円程度の人造大理石ボードを使いました。インターコネクトケーブルには、この後で比較テストを行う
”audioquestの新型 Red River \14,900/1m・税別"を使いました。
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CDレイヤー
中低音にしっかりとした厚みが感じられるボリュームのある濃いめの音に仕上げられています。高域はスッキリと伸びやかですが滑らで、ディスクの嫌な部分を露呈させません。この「ウェルバランス感」は、SA8005の出来の良さに追うところが大きいと思います。
Marantzが生産するCDプレーヤーの上級モデルには「バーブラウン:DSD1972A」が搭載され、明解でさわやかな現代的なサウンドを発揮します。SA8005以下のモデルには「シーラスロジック
:SC4398」が搭載されますが、この二つのDACの音色の違いについて説明しましょう。デジタルプレーヤー(CDプレーヤー)が発売された当時は各社からDAC
ICが発売されていましたが、その中で評価の高かった製品が「バーブラウン社」と「フィリップス社」が生産するDACでした。特にPhilipsは、DACチップの「TDA1541A」や「DAC7」だけではなく、音の良いオーディオ用ピックアップメカニズムも生産していました。しかし、世界的なコストダウンの影響を受けて半導体生産部門が売却されたことにより、惜しまれながらDAC
ICの生産を完了しました。シーラスロジック社は、MarantzがPhilipsの子会社だった時代に、Marantzと共同でオーディオ用DACを開発しました。その影響からシーラスロジックが生産するDACはPhilipsのサウンドに近く、暖かく滑らかな音質に仕上がっています。細かく精緻なバーブラウンのサウンドと、柔和で艶のあるシーラスロジックのサウンドテイストが、SA8005に上級モデルに勝るとも劣らない「情緒深さ」を与えているのだと思います。
このようにMarantz
CDプレーヤーの上位モデルと下位モデルには明らかな音色の違いが感じられるのに対し、プリメインアンプは基本的な回路構成が統一されているため、CDプレーヤーほど大きな音色の違いはありませんが、SA8005と対に開発されたに違いないPM8005は、SA8005の柔和さに応じたより自然で深みのある音質に仕上がっています。
SA14S1/PM14S1のテストでもこのディスクを同じスピーカー Beethoven Concert Grand(T3G)で聴きましたが、個人的には今回テストしたSA8005/PM8005のサウンドをより魅力的に感じました。
SA8005/PM8005はバイオリンの明るく快活なパートと、もの悲しく愁いを帯びたパートをきちんと対比して再生しますし、弓を切り返したときの音の変化も良く出ます。またコンサートマスターの奏でる音と、伴奏の音の対比もはっきりしています。SA8005/PM8005は国産コンポに不足しがちな楽器の音色変化の再現性に優れ、クラシックを実に楽しく躍動させました。
SACDレイヤー
最近、CDとSACDを聞き比べる度に「SACDよりもCDの方が音が良い」と感じます。今回もそれに漏れず、音は細かく高域は伸びやかになりましたが、低域が改善しないため楽器の音質バランスがハイ上がりになりました。バイオリンの音が細くなり、パートの骨格が弱く、低音がやせ、音楽のエネルギー感、生命感が弱くなりました。
CDを情緒的でエネルギッシュだとすれば、SACDは綺麗だけれど力がありません。 データーチャートやスペックだけを見れば、この意見は信じられないと思います。特に最近はメディアが再び「DSD(SACD)はCDを遙かに超える高音質」というデマを流していますからなおさらだと思います。そこでCDがSACDよりも音が良いと感じる根拠を少し上げてみます。
ほとんどの場合、録音現場では「DSD録音」ではなく「PCM録音」が使われます。なぜならば、DSDはデジタル編集が非常にやりにくいフォーマットだからです。編集操作利便性の高いPCM録音が使われ、PCM編集されて出来上がったマスターから「DSDディスク/SACD」が作られます。デジタルと言えどもフォーマットが変換されると音が変わりますから、録音されたままのPCMで記録されているCDレイヤー方がより原音に近いことは十分考えられます。また、デジタル再生技術の進歩により、CDの再生可能高域の周波数限界がより高められていることも最近CDの音が良くなってきた原因だと思います。
ここでDSDで録音された音の良いディスクをご紹介しましょう。
ラスト・ライブ・アット・ダグ グレース・マーヤ(ジャケットをクリックするとアマゾンの該当ページへジャンプします)
このディスクはDSDで録音され、複雑な編集が行われていません。音が細かく、透明感が高く、明らかにCDを超えるDSD/SACDの能力を感じます。フォーマットが優れているから「DSD/SACD」がCDよりも「絶対に音が良い」とはかぎりません。ハイブリッドディスクを購入しておけば、CD/SACDの両方が聞けるので、システムとの相性や好みに応じて使い分けれられ便利です。また経験上、ハイブリッドディスクのCDレイヤーは、CDを聞くよりも音が良い場合が多いようです。間違いなく言えるのは、SACD(DSD)だから「無条件に音が良い」という主張が間違っていることです。重要なのはDSDで「聞く」ことではなく、DSDで「録音する」ことです。
Madonna “The Immaculate Collectiono” から Like a Virgin
スコーカー/ウーファー・ユニットを3つ採用するBeethoven Concert Grand(T3G)は、低域が膨らみやすいのですが、PM8005はこのクラスのアンプとは思えないほどスピーカー駆動力が高く、Beethoven Concert Grand(T3G)の低域を引き締めて力強く弾ませます。
ボーカルはスピーカーから一歩前に出て、理想的に定位します。マドンナの声がややハスキーに感じた(記憶ではこのCDのマドンナの声にはもっと張りがあってキュートに聞こえたと思った)ので、CDプレーヤーをAIRBOW CD3N AnalogueにアンプをAIRBOW PM14S1 Masterに変えてこのディスクを聞き比べましたがマドンナの声のイメージは変わりません。そこでさらにCDプレーヤーをAIRBOW SA14S1 Masterに変えてみました。マドンナ声に張りが出て記憶のキュートなイメージに近づきましたが、やはり記憶とは違っています。この比較でSA8005/PM8005の音が「ハスキー」なのではなく、記憶していたマドンナの声が「必要以上に美化されていた」ことがわかりました。考えるに同じディスクの違う曲で感じた「最も魅力的なマドンナ声のイメージ」を知らぬ間にこの曲に被せていたのでしょう。
SA8005/PM8005は、色々な録音が混ざって作られている「ベストアルバムの曲による音の違い」をきちんと再現しますが神経質でなく、あくまでも音楽を楽しませる範囲で音が変化します。クッキリと明快なリズムを刻むベースラインが魅力で音楽を楽しく弾ませるSA8005/PM8005のセットは、歴代マランツコンポの中でもベストのバランスに仕上がっていると思います。
orange pekoe ”10th Anniversary Best Album SUN&MOON “ から やわらかな午後
ボーカルは暖かく情緒的で表情がとても豊かに感じられます。イントロ部の高域の伸びにやや物足りなさを感じましたが、高域が無駄に伸びないことがソフトフォーカスで描かれた写真のように音楽のムードを深めることに一役買っているようです。
ここまでの試聴は、Direct
スイッチをOFF(トーンコントロール回路をフラットで経由)で行いました。そこで伸びたりないと感じたで高域を伸ばすため、Direct
スイッチをONにして無駄な回路をバイパスさせました。高域が伸びて解像度も伸びましたが、音像がクッキリしすぎて雰囲気感が薄れ、演奏者までの「距離」がやや遠くなったように感じました。
「柔らかな午後」に続いて、大好きな「Selene」を続けて聞きました。やはりギターやボーカルの高域にやや物足りなさは感じられますが、限られた帯域の中で演奏が実にかわいらしく再現されます。愛着を感じられる等身大の実に楽しい音で、オレンジペコが鳴りました。
試聴後感想
MarantzからSA8004の後継モデルとして発売されたSA8005は、メカニズムがシールド構造の新型オリジナルモデルに変更され、USB入力がDSDに対応するなど、大がかりな回路変更が行われています。
それに比べPM8005はPM8004の回路構造をほぼそのまま踏襲し、ケミコンなどの種類やグレードが変更されるに留まるように見えます。
しかし、それぞれの価格は8004のメーカー希望小売価格約9万5千円(税別)から、一気に13万円(税別)と大幅な値上がりが実施されています。
今回の試聴は、その従来モデル比で135%に達する大幅な値上げに性能が追いついているのか?あるいは、価格を超える音質向上が実現しているのか?その確認が重要な課題でした。最近、Marantzの音決めマイスター「澤田さん」は音決めチェックに「アニメソング」を加えたと聞きます。機器の音決めに録音の良いディスクばかりではなく一般的に良く聞かれるディスクを加えることで、コンポーネントに「普通のディスクの音楽を楽しく再現できる性能」が与えられます。
その目的を実に高いレベルで達成しているSA8005/PM8005は、歴代Marantzコンポの中でも最も高い完成度に仕上がっていると感じました。手の中に入る高性能。抱きしめられる音。そんな風に表現すればよいのでしょうか?SA8005/PM8005は、高級コンポーネントのエントリーモデルとして、家庭用コンポーネントの理想型として、相応しい音質に仕上げられています。
audioquestから新型インターコネクト・ケーブル、Red River ・ Mackenzie ・ Yukonが発売されました。この3モデルには「トリプルバランス構造」が共通して採用されます。導体は、Red Reverが LGC(Long Grain Copper/長粒結晶無酸素銅)、MackenzieとYukonには PSC+(Perfect Surface Copper+/表面平滑導体)が使われています。MackenzieとYukonはプラグとプラグの接続方法などが異なります。
最も低価格のRed Riverは、このページの先頭にあるSA8005/PM8005の試聴に用いましたので改めてリポートを書かず、同様の環境で上級モデル「Mackenzie」、「Yukon」の試聴を行いレポートを記載しますので参考になさってください。
Mackenzie Red
ReverとMackenzieの価格差はそれほど大きくありませんが、音質は確実に違います。 Red ReverとMackenzieの価格差は僅かですが、クラシックの聞き比べでは「雰囲気の濃さ」がかなり大きく向上し、音質差は価格よりもかなり大きく感じられました。 |
Yukon
切り替えた瞬間は、Mackenzieよりも音が細かく、表現も深いことが聞き取れました。しかし、しばらく聞いているとMackenzieとの違いがよくわからなくなりました。 MackenzieとYukonの音調はよく似ています。双方のプラグは同じ銀色なのは、表面に同じ素材が使われているためでしょう。しかし、カタログに記述されているように素材や構造が異なためか、Mackenzieの音を100とすると、Yukonのそれは120程度にアップします。音調は劇的に変わりませんが、深みは確実に増しています。 |
Madonna “The Immaculate Collectiono” から Like a Virgin
Mackenzie 骨格の強さという部分では、Red ReverがMackenzieを超えていたかも知れません。がっしりした骨格を持つRed Reverに対し、Mackenzieの音は流麗で高域が伸びかで響きがより豊かです。 Red
Reverでやや物足りなく感じたマドンナの声の「キラキラ感」や「セクシー感(艶やかさ)」が俄然改善されました。 |
Yukon ヒラリー・ハーンで聞き比べると、MackenzieとYukonの差は、それほど感じられませんでした。しかし、マドンナではその差がきく感じられます。Mackenzieで実現した中高域の艶やかさや細やかさ響きの豊かさに加え、Yukonは低域の力感やエネルギー感を向上させます。Mackenzieではやや高域寄りに感じたエネルギーバランスがフラットになり、低音がしっかり出るので音楽が力強く聞こえるようになりました。 やや流麗に過ぎ、ROCKな感じが薄くなったMackenzieに比べ、Yukonは音の切れ味が向上しリズムが再び弾むようになります。Mackenzieの流麗さとRed Reverの骨格の強さ、双方の長所がミックスしている感じです。 |
orange pekoe ”10th Anniversary Best Album SUN&MOON “ から やわらかな午後
Mackenzie マドンナでは低域がやや足りないと感じたMackenzieですが、この曲では低域が良く出ます。理由はよくわかりませんが、再生する音楽によってMackenzieは印象がかなり変わるのでちょっと戸惑います。 確実なのは、Mackenzieの高域がRed Reverよりも繊細で、かつ倍音が上まで伸びることです。この曲ではシンバルの「キラキラ感」がかなり違って聞こえます。ビブラフォンの音も良く聞こえます。ボーカルはRed Reverに比べ少し線が細く、力が弱く感じます。 この曲では、Red Reverのざっくりした感じがより良くマッチするように思いました。 |
Yukon Mackenzieと比べ、一つ一つの音がクッキリします。低域にも力が出ます。ビブラフォンの音にも厚みが出ますし、ギターの音も心持ち太くなりました。Yukonの持つ ボーカルの説得力の向上が、POPS系のソフトでは最も有効なポイントになるはずです。 MackenzieからYukonに変えると中低域に厚みが出て、音楽のエネルギーバランスが改善するのはマドンナの試聴と同じです。 音楽のジャンルや組み合わせるシステムによりその評価が変わりそうなMackenzieに比べ、Yukonは完成度が高くMackenzieの持つ良さをどのような状況でも発揮します。 |
試聴後感想
今回テストしたケーブルは、Red Reverが新品から100時間のエイジングを行えたのに対し、MackenzieとYukonはエイジングの時間が無くほとんど新品のまま試聴しました。それが原因で、エネルギー感や音の分離感がまだ本調子でなかった可能性があります。
確実なのは、Red ReverとMackenzie/Yukonが材質の違いにより音調が異なること、Mackenzie/Yukonは材質が共通するため、音調が似ていること。YukonとMackenzieは音調は似ていますが、YukonはMackenzieよりも中低音に力があり、音も細かく情報量がMackenzieより確実に数割多いようです。
メーカー希望小売価格が意外に近いので選択には頭を悩ましそうですが、バランスの取れたエントリーモデルとしてはRed Rever、高級モデルの香りを味わいたいなら、思い切って間違いのないYukonを選ぶのが良さそうに思います。Mackenzieはクラシックを聞くのなら悪くないですが、Pops/Rock/Jazzなどのリズミカルな曲ではややベース欄が弱くなる傾向を感じました。ただ、最初に書きましたようにMackenzieの弱点は、「エイジング」で改善する可能性があります。
3モデルともaudioquestの中堅クラスらしく、神経質になら過ぎず音楽を楽しませる能力に長けています。実用的なオーディオ用音質改善ケーブルとして、確実な性能を発揮すると思います。
2014年3月 逸品館代表 清原 裕介
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