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Musica(ムジカ)という日本製造にこだわる小さなオーディオメーカーが岐阜県あります。それは、オーディオ用電源関係アクセサリーでおなじみのCSE社長のご子息がご自身で立ち上げられたオーディオブランドです。
古くからのCSEの活動も通じ岐阜県でオーディオを作り続けているMusicaは、オーディオ機器の販売だけでなく地元で音楽文化の発展にも寄与しています(オフィシャルHPに詳しく掲載されています)。音楽との密接な付き合いから生まれるMusicaの製品は、無機質の回路ではなくヒューマンなオーディオ機器に仕上がっています。
無印良品のように真面目でよいものを作り続けているMusicaですが、国内での知名度やブランドイメージは高くありません。それは、なぜでしょう?メディアからの情報発信が少ないからです。
国内のオーディオ関連メディアの多くは、「広告をしないメーカーの製品は取り上げない」という方針を持っています。営業なのである程度は理解できても、読者からもお金を受け取って雑誌を販売しているにもかかわらず、情報源からもお金を取るのは明らかにおかしいと思います。読者から代価を受け取りながら、自社及び関連機関の利益を優先するように情報をねじ曲げて流す。読者に対する明かな背信、裏切り行為です。Musicaのように地道に真面目に商品を作り続けていても、雑誌社にお金を出さない限り決してそれがメジャーになれないと言いたいのです。まともな製品が正しく評価されない。さらに評論家もそれにのっかって、製品評価の代価をメーカーに要求するなどやりたい放題です。こういう「お金にまみれた世界」がオーディオ・メディアの世界です。
逸品館も大手オーディオ誌に広告を入れていますが、その広告費は1ページにつき約30万円前後です。新進のメーカーにとってこの費用は過大です。しかし、幸いにも この状況がインターネットの発達で変わりつつあります。個人が自由に情報を発信できるインターネットでは、「ぐるなび」のように一部で一般人を装って評価を操るような状況がありますから100%は信頼できないのですが、「お金まみれの偽情報で堕落したオーディオ誌」よりは、遙かにもともで公平です。
逸品館は、よい商品を選って販売する信頼できる専門店を目標として設立しました。その逸品館が特別な製品としてご用意したオリジナル製品のAIRBOWは、お客様に恵まれ大きく成長することができました。雑誌や評論家、それに迎合する販売店の力を借りなくても、お客様によい商品をお届けできること、しっかりとしたブランドが樹立できることが証明できたのです。それはなによりも、逸品館がお客様の立場に立って商品をお選びしてきたことをご評価頂いてのことだと感謝しています。
その素晴らしいお客様と逸品館を育むオーディオ業界への恩返しではありませんが、たとえ商売としてはAIRBOWのライバルになったとしても、同じ志を持ってよりよい製品をシッカリ作るメーカーをきちんと紹介したいと考えています。逸品館とAIRBOWがこれからも健やかであるために、自らライバルを認め育てるのはとても大切です。「持ちつ持たれつ(共存共栄)」という考え方は、古くから商都として栄えた大阪商人の教えです。
Musica int60 m メーカー希望小売価格 ¥79,800(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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今回ご紹介するのは、Musicaの新製品小型プリメインアンプ「int60m」です。このアンプは電源から増幅回路に至るまですべて「アナログ回路」が使われていて、流行のデジタルアンプを搭載しません。これは、現場の「温度」を下げずに伝えたいと考えるMusicaの姿勢の表れだと思います。
int60mは3系統のLINE入力を備える出力40Wの小型プリメインアンプです。フロントパネルには6mm厚のアルミが奢られ、つまみもアルミから削り出されています。同じ低価格高性能オーディオ機器を製造しているTriodeは市販のつまみを使うのでこのあたりが違います。
逆にリアパネルやスピーカー出力端子、RCA入力端子などはTriodeよりも華奢な市販品が使われていて、そこでコストのバランスが取られているようです。ラックに入れた場合には、Musica製品の方が見栄えは良さそうですが、ケーブルなどを接続する時の満足度はTriodeが大きいと思います。
音質テスト
AIRBOW SSS-2013 音源はCDをリップしたWAVEファイルをつかいました。
まず、ウォーミングアップをかねてiPodに取り込んだ2000を超える楽曲をAIRBOW NA11S1 Ultimateを使ってランダムに再生してみました。
電源を入れた直後から、元気よく躍動する楽しい音質と十分に量感のある低音に好感を持ちました。少し優しく明るい音からは、音楽を愛好する気持ちがしっかり伝わってきます。しかし、電源投入直後と言うこともあり「音が少し粗い(音のきめが少し粗い、情報量がややすくない)」印象を持ちました。そのまま30分〜1時間と時間が経過すると「荒さ」がとれて、実に気持ちいい音でBeethoven Concert Grandが鳴り出します。このバランス感覚はなかなかのものです。
ここからの本格的な試聴には、WAVEでSSS-2013に取り込んだ音源を使いました。
Come Away With Me (Hybr) Norah Jones (3曲目を聞きました)
ウッドベースは響きも良く深みもあるのですが、低音がある帯域から少しずつ消えて行く(聞こえなくなって行く)ため楽器のサイズがやや小さく(チェロよりは少し大きいくらい)感じます。 ピアノはこのサイズのアンプとは思えないほどしっかりとしたアタック感が得られ、響きも非常に美しく秀逸です。ただし、重低音はやはり少し弱く感じられます。
ボーカルは発音がハッキリして、表情もしっかりと伝わります。また、ボーカルが伴奏より一歩前に出てクローズアップされるように鳴る聞こえ方も心地よいものです。 楽器とボーカルの分離感や、前後方向の立体感もキチンと出ます。音楽をきちんとステージ上で演奏しているように聞かせるその能力は、国産アンプと言うよりもヨーロッパ-メイドのアンプに近いイメージです。
出だし部分のシンセサイザーの高音の響きが心地よく立体的に広がります。低音は塊感や力感はやや控え目ですが、楽曲を躍動させるのに十分なパワーが感じられます。
int60mの美点は音そのものと響きが美しいこと、分離感に優れ音が立体的に広がる事です。この特徴はAIRBOWにもそのまま通じます。音楽を音楽らしく鳴らすためには、音が重なったときの分離感と立体感をきちんと再現できなければなりません。int60mは、十分合格点を差し上げられる立体的なイメージで音楽を再生します。
Violin Concertos (Hybr) (Ms) Hilary Hahn, Bach, Laco, Kahane
int60mの低音が少し弱いのを承知で、交響曲を聞いてみました。
意外に低音は良く出ますが、力感が伴わず広がる感じです。しかし、この曲を聴くには十分です。バイオリンは分離も良くさわやかで明るくなります。低音楽器が後方に展開する立体的なイメージもきちんと再現されます。清流が流れるイメージで、バッハが流麗に美しく鳴りました。
試聴後感想
int60mのメーカー希望小売価格は、\79,800(税別)です。割引した実売価格はAIRBOWのエントリープリメインアンプ PM5004/LC4にかなり近くなります。機能は量産効果で安くなっているmarantz製品をカスタマイズしたAIRBOWが圧倒的です。
低音もPM5004/LC4がint60mを上回るでしょう。しかし、int60mの音の美しさ、中でも高音の響きの良さはこのクラスのアンプの水準を大きく超え、AIRBOWに匹敵するものを感じます。int60mとPM5004/LC4の音楽再現能力は、かなり拮抗しているように感じます。 しかし、PM5004/LC4は6万円を切る価格でも、3号館に設置している数百万円を超えるスピーカーでも駆動するように音決めされていますから低音の量感や表現力などを含め、スピーカーに対する適応力はint60mを確実に上回ります。
10万円以下でプリメインアンプを選ぼうとすると、選択肢が多岐にわたり悩まれると思います。逸品館がお薦めするのは「音質が逸品館の規定に達する製品」です。今回テストしたint60mは、十分その規定をクリアします。そればかりか、この価格帯の大手メーカー国産品は無論、良い音と評価される海外製品に匹敵、あるいは凌駕する音質に達しています。
低域が僅かに薄いという欠点を除けば、その攻撃性のない大人しい外観や優しく明るい音質はお気に召すと思います。響きの良い音楽的に正しい音が出せるスピーカーと組み合わせることで、int60mはお客様の期待を大きく超える満足感を与えてくれると思います。
Musica iris25 pow メーカー希望小売価格 ¥150,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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iris25は小型の真空管パワーアンプです。
入出力もRCA/スピーカー各1とシンプルです。仕上げもint60mと同じで前側が綺麗で、後側はそれなりです。
入力はプリアンプを使わず、フェーダーで接続しました。
接続ケーブルは、AIRBOW MSU-Mightyを使いました。
音質テスト
Come Away With Me (Hybr) Norah Jones (3曲目を聞きました)
int60mに比べると中域に厚みがある印象ですが、int60mがトランジスター、iris25が真空管という方式の違いをそれほど意識させられることがありません。これは、トランジスター・真空管を問わずMusicaがアナログ回路の音決めにシッカリしたノウハウと技術力を持っている証です。
音調は、int60mよりも暖かく響きもまろやかです。しかし、ピアノのアタック(打鍵)音は、比較的強く伝わってきます。音の分離と混ざり具合の自然さは、iris25がint60mを凌駕します。int60mの音が冷えたミネラルウォーターならiris25は、その温度が人肌に温度感が上昇します。
共通する長所は、音が自然で音楽をきちんとステージに乗せて再現することです。弱点も共通で、音の数(音の密度)がやや少ないことです。
しかし、いくら物理特性が優れていても(音が細かくても)、それらがバランスしていなければ音楽として鳴りません。音楽が鳴らない高性能アンプ(デジタルアンプにありがち)と、音楽が鳴る低性能アンプ(int60mやiris25は決して低性能ではありませんが)なら、絶対に後者の方が音楽を聞くには適しています。
ノラジョーンズをiris25で聞いたのと印象はほぼ同じです。中音に厚みがあり暖かい音です。分離感はint60mが勝りますが、ステージ上の空気感の濃さはiris25がint60mを凌駕します。
ガガの声に少し肉が付いて、グラマラスなガガらしい声になります。声が重なった部分でも、それぞれのパートの声の表情の違いがiris25のほうが良く出ます。低音は真空管アンプらしく、少し遅いですが音楽的には、それがタメになって重厚なイメージを生み出します。シンセサイザーの伸びやかさはint60mがiris25を超えますが、音色の鮮やかさや音の滑らかさはiris25がint60mを超えます。
納得できる良い音です。では特徴は何?と着替えると答えに詰まるかもしれませんが、そういうアンプの個性を控えた鳴り方の良い音でガガが鳴りました。
Violin Concertos (Hybr) (Ms) Hilary Hahn, Bach, Laco, Kahane
真空管の響きのせいでしょうか?音場が少し曇って(濁って)感じられます。弦の音は滑らかで心地よい質感ですが、最高域の抜けや輝きが若干もの足りません。
ベースとなる低音弦楽器のボリュームもやや少なく感じます。また、音が重なった部分も若干分離感が不足し、それらが原因となり楽団員の数が少なく、編成の小さなオーケストラに感じられます。もちろん音自体は心地よく楽しく鳴りますから、その部分を気にしなければまったく問題なく納得して頂けると思います。
試聴後感想
iris25を聞いた後、アンプをAIRBOW PM15S2 Masterに変えてヒラリーハーンを聞いてみました。聞こえなかった低音部のユニゾンが明確になり、ステージの床の上に楽器がきちんと並んでいるのが見える感じがします。また、楽譜に書かれた各パートが「読める」ように楽器が完全に鳴り分けられます。音の密度も大きく上昇し、価格以上の実力の違いを感じました。しかし、それはAIRBOWが完璧を追求し続けるからこそ到達した一つの境地だと思いますし、自分自身が作るからこそ自分が最も納得できる音に仕上がっているのは当然です。
int60mもiris25も良くできたアンプだと思います。少なくとも音楽を好きな人間が、しっかりと聞いて作っている感じは強く伝わります。AIRBOWとの違いは、音楽の深みやスケール感です。私は幸いにも指揮者と出会い、クラシックという最高峰の音楽を知ることができました。交響曲ではなぜ100を超える楽器が必要なのか?100を超える楽器でなければ再現できない音楽とは一体何であるか?例え片鱗であったとしても、それを知ることができて幸いでした。音楽に対する理解の深さの違い、それがAIRBOWとMusicaの違いに思えます。逆にint60mやiris25なら、AIRBOWよりも気軽に音楽を楽しませてくれるでしょう。
常に音楽家が全力投球しているように音を出すAIRBOWにはない、POPな若い感覚で音楽をお聞きになりたいならMusicaはよい選択です。Musicaが描く若々しく、ポップな感覚は悪くないと思います。内外の高級品でMusicaよりもつまらない音しか出せない製品を私は知っています。Musicaは、国内でもっと高く評価されて良いと思います。
2013年5月13日 逸品館代表 清原 裕介
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