NAGARA PSA
音質評価 テストリポート

NAGARA(ナグラ)

メーカーWEBへのリンク

PSA: 希望小売価格 940,000円 (税抜価格)

入出力端子部 電源スイッチ部

1950年にフランス放送局によってヒマラヤ登山隊取材に採用によって一躍その名を高めたナグラは、発展をし続け、今や従業員1000人を超すハイテク企業となっています。特に、プロフェッショナル産業によって熱烈に支持され、現場録音に貢献した企業ということで、アカデミー賞2回、エミー賞1回、グラミー賞2回受賞といった輝かしい歴史を持っています。そんな大企業でも、オーディオ機器に関しては大量生産とは全く無関係に、スイスローザンヌで手作業によって丁寧に組み立てられています。独特のピラミッド型構造は、アルミ材キャストによるベースにパワートランジスタを装備して、最適な放熱を維持するために50度の角度をヒートシンクに持たせ、振動に強く機械的強度を高めた構造で、内部の回路をしっかりとサポートするよう考えられた完璧なフォルムです。

回路は、伝統的なプッシュプル構成で、オーディオテストによって重要な部品を決定しました。たとえば、パワートランジスタはエキシコンによるMOSFETです。完全なコンプリメンタリー回路構成を満足させるために、完璧なマッチングを取りました。そのマッチングをしたエンジニアはサインをして責任の所在をはっきりさせる社内システムです。

アンプは強力なパワーサプライによって支えられていますが、現在の状況を考えると、電源事情は昔に比べて、より混濁した状態にあります。この問題を大きく取り上げ、スイッチモードパワーサプライを搭載しました。スイッチング電源は使い方によっては非常に優れた強力な電源となります。ナグラはPL-L, PL-P, MPAに採用し、そのノウハウを蓄積しています。伝統的なパワートランスとコンデンサーパワーサプライに比較して、効率的、スピードもある、しかも直流に限りなく近い波形を供給する優れたパワーサプライです。電流を供給する前に電圧、電流の位相を完全に同相にして、電流をクリーニングするというPFC,パワーファクターコレクターを装備し、完璧を期しています。ナグラのパテント技術のモジュールは安定した電圧を供給し、完璧なサイン波電流を形成、外部の電気的環境変化によっても動じない優れたものです。いってみれば、電力のエネルギー貯蔵庫といえますが、アンプ回路が要求する電流を光のスピードで供給します。

試聴リポート(仲嶋)

独創的なピラミッド型デザインで奇抜な印象がしますが、音質は非常にニュートラル。癖を感じさせるところが殆ど無く、
あくまでも自然な音質です。

本体を持ち上げると、定価940,000円があれれ、と思う程軽いのですが音質にはそんな事を感じさせるところは
微塵もなく、安定感のある低域に倍音がスーッと伸びる伸びやかさを感じます。

同じスイスのFMアコースティック社のアンプと似た印象の音質で超高価なFMアコースティックには手が出せない方が大半だと思いますが、このPSAなら(決して安くはありませんが)お薦め出来ます。

試聴リポート(清原)

形を見た瞬間、昔のYAMAHAのアンプを思い出した。それもインバーター?特殊な電源を搭載しているところまで同じだと記憶していたので気になって、手元の資料を調べるとB−6というモデルが見つかった。1980年発売で29cm正方形の底辺に頂上部分を切り取った形状のピラミッド型デザインを採用していた。重量はたった9.0Kgで200W+200W(8オーム)の大出力パワーアンプだった。やはり電源もコンパクトで大出力を取り出せる、特徴のあるX電源を採用していた。もちろん、PSAと因果関係はまったくないだろうがコンセプトは非常に近い。

新しい、1号館の試聴室は家庭のリビングを想定し、3号館の試聴室やや1号館のシアターのように外観をはばからない吸音や音響調整を施していないためにかなりライブで残響が多い。

残響の多い環境は、音楽を楽しむためには決して悪くはないが、残響成分(エコー)によって製品の実力以上の音と勘違いするなど、本来の音質が把握しにくくアンプなどの評価をするには適さないことがある。

特殊なアンプだし、NAGRAの製品と言うこともあり評価を誤りたくないので、私は試聴場所を1号館店頭に移し、聞き慣れたPMCのスピーカーを使ってこのアンプを試してみた。

プリアンプには、最初私の推薦品であるTRIGON SNOW−WHITEを使ってきいた。

確かに癖のない音で聞きやすいのだが、まだ生魚になっていない「ハマチ」の刺身を食っているような感じで、脂っ気?のようなものが感じられない。高音の伸びも、低音の力感も、価格とブランドを考えると不十分だ。嫌な音は出ないが、心を打たない。一緒に聞いていた仲嶋が、新試聴室ではこんな音じゃなかった!と言うのでプリアンプをAYRA K−1Xに変えてみたが、印象はほとんど変わらなかった。仲嶋も首をひねっていた。

たぶん、新試聴室で発生する残響成分(エコー)がアンプの音を色づけし、たりなかった「色彩感」や「躍動感」を補って、脂っ気を出してくれたのだろう。サラダや、カルパッチョに「オイル(油)」を掛けると食べやすくおいしくなるのと理屈は似ているのかもしれない。実際の使用環境に則した判断という意味では、仲嶋の方がこのアンプを正当に評価しているのかも知れない。

しかし、個人の趣味ではなく販売を目的として厳しく製品をチェックする立場からすれば、メーカー(輸入代理店)の広告にあるような特別な凄さはこのアンプには感じられないと思う。周波数レンジの広さレンジも普通だし、ダイナミックレンジも100万円近いアンプとしては不十分で、こぢんまりとまとまっている感じが強い。デッドな環境では、プラスαの何かが不足するような感じで、音楽の躍動感、息吹が伝わってこない。

癖のない優しい音はFMアコースティックに似ていなくはないが、エネルギー感という部分で大差がある。色彩感の濃さ多彩さもFMには及ばない。たしかにFMアコースティックもいい音だ!と思えるのは中級クラス以上だから、それを考えればこの音でも通用するのかも知れないが、逸品館が求める水準、私が求める水準はさらに上にあると感じる。

このアンプを想像するときには、作り込みは悪くない。音質は、癖がなく聴きやすい。情報量はこの価格としては普通かちょっと少ない。デザインは、好き嫌いがあるかも知れないが秀逸。そんなイメージを描くと厳しすぎることはあっても落胆することはないと思う。

2006年3月