形を見た瞬間、昔のYAMAHAのアンプを思い出した。それもインバーター?特殊な電源を搭載しているところまで同じだと記憶していたので気になって、手元の資料を調べるとB−6というモデルが見つかった。1980年発売で29cm正方形の底辺に頂上部分を切り取った形状のピラミッド型デザインを採用していた。重量はたった9.0Kgで200W+200W(8オーム)の大出力パワーアンプだった。やはり電源もコンパクトで大出力を取り出せる、特徴のあるX電源を採用していた。もちろん、PSAと因果関係はまったくないだろうがコンセプトは非常に近い。
新しい、1号館の試聴室は家庭のリビングを想定し、3号館の試聴室やや1号館のシアターのように外観をはばからない吸音や音響調整を施していないためにかなりライブで残響が多い。
残響の多い環境は、音楽を楽しむためには決して悪くはないが、残響成分(エコー)によって製品の実力以上の音と勘違いするなど、本来の音質が把握しにくくアンプなどの評価をするには適さないことがある。
特殊なアンプだし、NAGRAの製品と言うこともあり評価を誤りたくないので、私は試聴場所を1号館店頭に移し、聞き慣れたPMCのスピーカーを使ってこのアンプを試してみた。
プリアンプには、最初私の推薦品であるTRIGON SNOW−WHITEを使ってきいた。
確かに癖のない音で聞きやすいのだが、まだ生魚になっていない「ハマチ」の刺身を食っているような感じで、脂っ気?のようなものが感じられない。高音の伸びも、低音の力感も、価格とブランドを考えると不十分だ。嫌な音は出ないが、心を打たない。一緒に聞いていた仲嶋が、新試聴室ではこんな音じゃなかった!と言うのでプリアンプをAYRA K−1Xに変えてみたが、印象はほとんど変わらなかった。仲嶋も首をひねっていた。
たぶん、新試聴室で発生する残響成分(エコー)がアンプの音を色づけし、たりなかった「色彩感」や「躍動感」を補って、脂っ気を出してくれたのだろう。サラダや、カルパッチョに「オイル(油)」を掛けると食べやすくおいしくなるのと理屈は似ているのかもしれない。実際の使用環境に則した判断という意味では、仲嶋の方がこのアンプを正当に評価しているのかも知れない。
しかし、個人の趣味ではなく販売を目的として厳しく製品をチェックする立場からすれば、メーカー(輸入代理店)の広告にあるような特別な凄さはこのアンプには感じられないと思う。周波数レンジの広さレンジも普通だし、ダイナミックレンジも100万円近いアンプとしては不十分で、こぢんまりとまとまっている感じが強い。デッドな環境では、プラスαの何かが不足するような感じで、音楽の躍動感、息吹が伝わってこない。
癖のない優しい音はFMアコースティックに似ていなくはないが、エネルギー感という部分で大差がある。色彩感の濃さ多彩さもFMには及ばない。たしかにFMアコースティックもいい音だ!と思えるのは中級クラス以上だから、それを考えればこの音でも通用するのかも知れないが、逸品館が求める水準、私が求める水準はさらに上にあると感じる。
このアンプを想像するときには、作り込みは悪くない。音質は、癖がなく聴きやすい。情報量はこの価格としては普通かちょっと少ない。デザインは、好き嫌いがあるかも知れないが秀逸。そんなイメージを描くと厳しすぎることはあっても落胆することはないと思う。