LUXMAN - M-10X(ステレオパワーアンプ)ご紹介と試聴
目次
今回のメイン使用機材
■ LUXMAN - M-10X
(ステレオパワーアンプ)
メーカー希望小売価格 1,500,000円(ペア・税別)
M10Xは、ラックスマンのフラッグシップ・パワーアンプとして惜しみない技術と素材を投入して作られています。
あらゆるスピーカーを完全に駆動するため、3段ダーリントン4パラレルプッシュプルの増幅回路をチャンネルあたり2モジュール組み合わせた4×2アウトプット構成の電流増幅段を持ち、定格出力150W+150W(8Ω)から瞬時最大1,200W+1,200W(1Ω)まで「負荷と出力が完全に比例する」絶対的なパワーリニアリティを実現する「AB級」ですが、綿密なバイアス電流設定により「出力12W」までは純A級で動作し、LUXMANらしいきめ細やかで滑らかでありながら、力強い音も両立させています。
フィードバック(負帰還)について
LUXMAN - L-507Zのご紹介にも同じことを書いていますが、アナログ・トランジスターアンプには「フィードバック(負帰還)」をまったく使わない「無帰還アンプ」とフィードバックを使う「帰還アンプ」があります。フィードバックとは「出力部で検出した歪み分を入力に戻す(負帰還)することで、全体的な歪み率を改善する回路」の総称ですが、ではなぜ出力された信号を入力に戻す必要があるのでしょう?
トランジスターという素子は、温度、あるいは出力によって「増幅率」が変化するため、「出力信号と入力信号を比較」し、その「差分を入力信号に戻す」ことによって、増幅率の直線性を補正して「歪み」を減らします。それが「フィードバック回路」です。しかし、入力に戻すための信号(フィードバック信号)を取り出す、終段のパワートランジスターにはスピーカーが繋がっているため、フィードバックされる信号は「アンプの歪み分」だけではなく「スピーカーからの影響(逆起電力など)」も付加されるため、余計な「歪み」を発生する。あるいは出力から入力に「歪み成分が戻るまでの時間差(遅延)」が発生するなどの「悪い影響」をアンプに与えてしまいます。フィードバックを「どれくらいの量使うのか?」、あるいは「どこからどこに戻すのか?」、このあたりが各メーカーや技術者の音作りのノウハウになっています。
「無帰還回路」の場合には、「トランジスターで発生する歪み(回路の中で発生する歪み)」が可能な限り小さくなるように、使う素子や回路構成を工夫することが各メーカーや技術者の音作りのポイントになっています。フィードバックを使うか使わないか?、あるいはそれをどのように使うか?、メーカーや技術者によって様々な考え方があったとしても「フィードバック(負帰還)」が音質を大きく左右することに違いはありません。
「LIFES Version 1.0」を搭載
LUXMANは、アンプの音質の要として「ODNF:Only Distortion Negative Feedback」と呼ぶ「PチャネルJ-FET」に「NPNトランジスター」を組み合わせた、オリジナルの負帰還(フィードバック回路)」を使ってきました。M10Xで始めて使われるフィードバック回路「LIFES:Luxman Integrated Feedback Engine System」は、トランジスターの極性が反転され「NチャネルJ-FET」と「PNPトランジスター」の組合せが使われます。
+と+をかけた答えはプラス。-と-をかけた答えもプラス。ということで、トランジスターの極性を反転させても出てくる答え(信号)は同じです。では、なぜLUXMANはトランジスターの極性を反転させたのでしょう?そこに、LUXMAN/LIFESのこだわりあります。
一口にトランジスターと言っても、工業用からオーディオ用まで様々な種類のものがあります。製品に今ほど限界までのコスト削減を求められなかった時代には、メーカーも「オーディオ用」として少数でも「音の良いパーツ」を作っていました。しかし、それはもう「昔話」で、最近は「数が売れないパーツ」はどんどん淘汰されて消えています。そこでLUXMANは、「より良い音のパーツを安定的に入手するため」トランジスターの極性を反転させたのです。さらに、M10Xに搭載された「LIFES Version 1.0」は、回路全体をシンプルに再構築することで部品数の削減と性能改善を両立させ(時間的遅延も改善)、従来回路比で全体の歪を半分以下に低減、SN比は3dB向上させることに成功しています。
ドライバー段に高性能FET採用
長期安定的な供給が可能な高性能FETを新採用し、FETとトランジスターの組み合わせにおける回路構成を変更。
ODNF(PチャネルJ-FET + NPNトランジスター)
LIFES(NチャネルJ-FET + PNPトランジスター)
ドライバー段に高性能FET採用
▼15V系統の電源については、TI社製の電流源ICとビシェイ社製のツェナーダイオードを組合わせ安定的かつローノイズ化
▼3段ダーリントン4パラレルプッシュプル出力モジュールを組み合わせた4×2アウトプット構成
▼6N導体を使用した内部配線用ワイヤーや用途別に特注したブロックコンデンサー等ふんだんに投入されるカスタムパーツ
こだわりの「ラウンド」100μm厚のラウンドパターン基板
M-10Xのすべてのオーディオ回路には、音質に悪影響を及ぼすレジスト被覆の誘電効果を排除した100μm厚のレジストレス金メッキ・ピールコート基板が採用され、スムーズかつストレスのない信号伝送を実現するラウンドパターン配線が採用されています。
▼M-10Xの内部写真
その他の特徴
その他の詳しい特徴につきましては、LUXMAN公式サイト「M-10X」製品ページをご覧下さい。
その他の使用機材
音源は「AIRBOW - MBN-N54 LTD2」(ノート型ミュージックPC)と「TAD - DA1000TX」(D/Aコンバーター)をUSB接続。そこから距離の関係上、「XLRケーブル」でM-10Xと接続しました。音量調節にはプリアンプを使わず、TAD - D1000TXの「 音量可変出力」で行いました。M-10Xの電源ケーブルには、付属品のJPA-17000を使っています。
ミュージックPC(音源) | AIRBOW - MBN-N54LTD MK2(ノート型ミュージックPC) |
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D/Aコンバーター | TAD - DA1000TX(USB接続 / XLR端子接続にて仕様) |
電源ケーブル (M-10X) | LUXMAN - JPA-17000(付属品) |
スピーカー | B&W - 802D4(フロアスタンド型) |
モニタースピーカーには、より良い音質を求めて、LUXMANが輸入代理業務を行っているフランスのブランド:FOCAL(フォーカル)の「Sopra No.2」から、D&Mホールディングズが輸入業務を行っているイギリスのブランド:B&W(Bowers & Willkins)の「802D4」に変更しました。
使用機材メーカー・ブランド
LUXMAN
(ラックスマン)
TAD
(ティーエーディー)
B&W
(ビーアンドダブリュー)
AIRBOW
(エアボウ)
試聴テスト使用楽曲
試聴テスト本文
LUXMAN - L-507Z / M-10X、Focal Sopra No.2 / B&W - 802D4 聴き比べ・空気録音(逸品館リモート試聴会)
試聴テスト後の感想・総評
レポート 逸品館代表 清原 裕介
作成日時 2022年2月
■LUXMAN - M-10Xを聴いてみて
結論を先に述べると、M-10Xの音にはM07以来久しぶりに感動しました。
逸品館の創業当時、LUXMANのフラッグシップパワーアンプは、「M-07」でした。当時の価格は75万円で出力は純A級で100W(8Ω)。M-10Xは、AB級で150W(8Ω)ですが、12Wまでは純A級で動作します。重量を比較すると、M-07の52kgに対して、M-10Xは48.4kgと僅かに軽くなっています。価格は2倍の150万円ですが、プリメインアンプに比べると「比較的安い!」と感じます。また、他メーカーのパワーアンプに比べても「お買い得」な感じは強く、「大阪安い!」のイメージを継承しています。
M-07の音は、純A級らしい「濃密さ」の強い音でしたが、低域は明らかに「緩い」感じがしたことを覚えています。また、内蔵されているファンが回ることはありませんでしたが、発熱もすごかったです。
LUXMANは伝統的に「低インピーダンスでの出力」にこだわりがあるようで、M-07では2Ω、M-10Xでは1Ωまでリニアに出力が増大します。その実現には「強力な電源システム」が必要とされますが、結果としてそれが小出力時の「優れたリニアリティ(余裕)」を引き出す元になっているように思います。
M-10Xを聴いて感じるのは「情報量がすごい」ことです。低音から高音まで非常にきめ細やかで、不自然な癖はまったく感じられません。12Wまで「純A級領域」で動作していることも良い結果を生んでいるのでしょう。とにかく「大型アンプの粗さ」はまったく感じさせません。PASS Labの純A級パワーアンプのように、滑らかできめ細やか。そして暖かい音質です。
人間の耳というのは、小音量時の変化には極めて敏感で、静かな環境では小さな音まで聴き取れます。しかし、「大音量時の変化」には以外に鈍感で、駅の雑踏の中で個別の音を聴き分けるのは困難です。つまり、アンプは「小出力時(小音量時)」に、きめ細やかなな音を出し(極力歪みを小さく)、細かな音を聴き取りにくい大音量時にはA級動作よりも僅かに歪みが大きいAB級動作でもそれほど音は変わらないのではないだろうか。M-10Xの音を聴いていると、なんとなくそんなことを思いつきました。それくらい、すべての音量で「完璧に細やかな音」を聴かせてくれます。
また、今回組み合わせたモニタースピーカー「B&W - 802D4」ですが、伝統的に「膨らみがち」なB&Wの「低音」がクリアに引き締まって鳴ったことにも驚きました。ユニットを素早く駆動するだけではなく、まるでBTLアンプのようにユニットに無駄な動きをさせず、ピタリと止めている感じです。こんな低音は、今までLUXMANのアンプで聴いたことはありません。かなり大型のハイパワーアンプの風格です。802D4のウーファーをこれほど軽々とコントロールできるのならば、たいていのスピーカーを鳴らし切ることができるでしょう。とにかく「スピーカーのユニットを無駄に動かさない」という点では、素晴らしい性能を感じさせてくれました。もし、M-10Xを「BTL」で動作させたら、一体どれくらいの音が出るのか?わくわくします。
M-10Xは、「名器」です。しかも、価格は驚くほど高くありません。少なくとも、私が知る国産アンプでは「最良のサウンド」をこの価格で聴かせてくれました。
M-10XはBTLへの発展性を備える発展し、LUXMANらしい美しい仕上げ、見ていて楽しいアナログパワーメーターの採用など、オーディオマニアのこだわりにきちんと答えてくれるはずです。「あがり」のパワーアンプとしても、折り紙を付けて推薦できます。
■補足
今回の試聴では、M-10Xの「素の音」を聴きたくてあえて余計な「プリアンプ」を使っていません。それでもこれだけの音が出たのは「TAD - D1000TX」の素晴らしさも大きく影響しています。さらにD1000TXは「音量固定出力」だと、さらに音が良いことがわかっています。モデルチェンジ3回目ということで、なんとなく「地味」なイメージのある「D1000」ですが、ピックアップメカニズムとすべての抵抗が刷新されたTXのMark2からの進化幅はすごく大きく、すでにGrandioso K1XやTAD D600すら部分的には凌駕するほどの音質を実現しています。M10X同様に、D1000TXも今年注目のコンポーネントです。
TAD - D1000TX / DA1000TX試聴動画
■逸品館リモート試聴会
「TAD - D1000TX / DA1000TX」のご紹介(1)
■逸品館リモート試聴会
「TAD - D1000TX / DA1000TX」のご紹介(2)
■逸品館リモート試聴会
「TAD - D1000TX / DA1000TX」のご紹介(3)