marantz - MODEL M1 音質チェック(スピーカー:DALI - OBERON1 / OBERON5使用)

20240707-testreport

目次

テストレポート概要

marantzが新発売した「新世代のデザイン(スイッチやツマミのないつるりとした箱形)」のネットワーク対応プリメインアンプ"が、MODEL M1です。
巷では「素晴らしい」「画期的」などと盛り上がっていますが、一体このアンプは何が素晴らしいのでしょう?
今回は、逸品館おすすめのコスパ最高の小型ブックシェルフ型スピーカー「OBERON1」と小型フロア型スピーカー「OBERON5」を組み合わせて実現する「素晴らしい音質」と、なぜそれが実現できるのか?をYouTube試聴動画を交えながら解説しようと思います。

今回のメイン使用機材

■ marantz - MODEL M1/ブラック(MODELM1/FB)
(ワイヤレス・ストリーミング・アンプ)

希望小売価格 140,000円(税別)

幅217mm・高さ84mm・重さ僅か2.2kgのコンパクトな筐体に、こだわり抜いたHi-FiクオリティのハイパワーClass DアンプとHEOS Built-in、HDMI eARCを搭載したワイヤレス・ストリーミング・アンプ「Model M1」。詳細はレポート本文で解説していきます。

その他の使用機材

■スピーカー

■ DALI - OBERON 1
(ペア・ブックシェルフ型スピーカー)

希望小売価格 68,000円(ペア・税別)

DALI OBERON 1は、小型スピーカーの特徴で「音の広がりと立体感の再現」に優れます。キャビネットのサイズはかなり小さいですが見かけよりもずっと低音が出て、外観に似合わないエネルギッシュな表現力を持っています。さらに小音量時でも音が痩せにくいので深夜時間帯のリスニングでは、最高のパフォーマンスを発揮します。
壁掛けにも対応し、仕上げも美しく4色から選べます。

■ DALI - OBERON 5
(1本・フロアスタンドスピーカー)

希望小売価格 150,000円(ペア・税別)

OBERON5は、DALI特許の磁気回路SMCを採用する 5.25インチ(130㎜)口径の ウッドファイバーコーン・ウーハーを2基と、しなやかで透明感溢れる音質を再現する広帯域 29mm超軽量ソフトドーム・ツィーターを搭載するスリムなフロア型スピーカーです。見かけのスリムなサイズからは信じられないような深みのあるしっかりした低域を再生し、クリアな中域、そして広がりのある高域とあいまって、ご自宅でどんな音楽や映画のサウンドでもお楽しみいただけます。
置き場所を選ばないコンパクトでエレガントなフロアスタンディング・スタイルと、驚くべき高音質を実現したこのスピーカーは、DALIラインナップ中での究極パフォーマーと言ってもいいかもしれません。

レポート本文

オーディオマニアの方には「釈迦に説法」ですがオーディオ初心者の方のために、まず「アンプとは何をするのか」ということからご説明します。
音はスピーカーから出ますが、音源となるスマホやTVを直接スピーカーに繋ぐだけでは音は出ません。スピーカーを動かして音を出すために”アンプ”が必要です。

スピーカーとアンプを用意することで、音楽を聞くための準備は整いました。

次は「何を聞くか?」です。"音源(音楽)"が必要です。
古くからのオーディオマニアが愛好したのは、CD(光学ディスク)でした。しかし、今は音楽を「ネットワーク」音源(ストリーミング/ダウンロード)で聴きます。YouTube、amazon Music、LINE Music、Spotifyなどなど、ほとんどの音楽はインターネット(ネット)と接続して聞いています。

ネットワークで音楽を聴くための再生機(プレーヤー)の代表は"スマホ"です。
MODEL M1は、ワイヤレスイヤホンと同じようにBluetoothでスマホとペアリングするだけで、スマホからスピーカーに音を飛ばして音楽を再生できますが、Bluetooth接続はWi-FiやEthernet(有線LAN)接続と比べ、少し音が悪いです。

もっと良い音で音楽を聞きたいとお考えの場合、MODEL M1をWi-FiやEthernet(有線LAN)を使って、直接ネットワークに繋ぎます。通常のアンプならば、本体のスイッチやリモコンから操作することでネットワークに繋ぎますが、本体にボタン類がないMODEL M1をネットワークに繋ぐには、D&Mから無償で配布されている"HEOSアプリ"をスマホにダウンロードする必要があります。また、このアプリを使うことでHDMI音声出力(HDMI/ARC)端子を備えるTVと接続すれば、MODEL M1を完全にTVと連動して使えるようになりますが、それは次の項で説明します。

「HEOS」アプリの導入・使用方法について

MODEL M1から最高の音質を引き出すために、MODEL M1をネットワーク(Wi-Fi / Ethernet等)に接続しましょう。
そのためには、スマホなどのタブレットに製造元のD&Mから無償配布されている「HEOS」というアプリのインストールが必要です。

次にHEOSを使わず、もっと簡単にMODEL M1で音楽を聴く方法をご説明いたします。

MODEL M1には"HDMI/ARC"と書かれた入力端子が備わっています。
この端子を使って、HDMI/ARC(eARC)出力端子が備わっているTVと繋ぐことができます。
方法はとても簡単で、TVのHDMI/ARC出力端子とMODEL M1のHDMI/ARC入力端子を接続するだけです。

HDMIのケーブルには"音声"を伝送するため以外に、リモコン操作のための役割も備わっています。
TVとMODEL M1をHDMI/ARCで接続すると、TV側のリモコン操作でMODEL M1の「電源のON-OFF」「音量操作」が可能になります。
お子様や奥様など、機械に詳しくない方がいらっしゃっても、今まで通りのTVのリモコン操作だけで、外付けしたスピーカーで良い音を聞くことができるようになります。

また、HDMI/ARC出力が備わるTVのほとんどは、TVリモコンの操作で「YouTube」「amazon Music」などの音楽チャンネルを利用できますし、もちろん「Netflix」「U-NEXT」などの映画配信チャンネルの音もMODEL M1で聴けるようになります。

「MODEL M1」は小さな黒い箱ですが、こんなに簡単に音楽番組や映画を良い音で楽しめるようになります。

■ MODEL M1 の魅力

ここからはさらに詳しく本格的に、MODEL M1はなぜそんなに音が良いのか?」を説明しましょう。

MODEL M1はなぜそんなに音が良いのか?

オーディオマニアはよく複雑で大型な機器を好みます。
それは存在感を求めるからでしょうし、大きくて重い装置ほど見栄えも音も良いからです(代表格はMcIntoshでしょう)。
確かにこれまでの技術(アナログ技術)では、軽薄短小な装置から音を出すことはできませんでした。
それを解決したのが「デジタル技術(デジタルアンプ)」です。
その最新のデジタル技術を駆使することで、「軽薄短小」「高コスパ」を実現し、今までのオーディオ製品の流れを覆したのが今回の marantz - MODEL M1 というわけです。だから巷でも、「画期的なオーディオ機器だ」ともてはやされているのです。

MODEL M1の外観は素っ気ない箱型でツマミも最小限電源スイッチすら省かれています。
不必要な付属品はすべて省かれ、リモコンさえ付属しません。
しかしそういう努力があって、メーカー希望小売価格は140,000円(税別)と、本格的な高音質アンプとしては比較的手頃な範囲の価格に収まっています。

逸品館が求めたものが、ついにメーカーでも実現

話は少し逸れますが、このような「マシンミニマム / ミュージックマキシマム」なオーディオ製品の製作は、私のライフワークと言っても過言でなく、実際に逸品館としてのオリジナルブランド「AIRBOW」「FunSounds」で追求を続けてきたジャンルです。

AIRBOW - Little Planetはアナログアンプですが、電源にデジタル(インバーター)方式を採用することで、小型軽量でも遙かに大型で高価なアンプを軽々凌駕する音質を実現していました。https://www.ippinkan.co.jp/airbow/product/purimain_amp/little_planet.html

AIRBOW - Little Planetは100%オリジナル設計のアンプでしたが、再生機能も一体化するため、より効率的に市販品をベースとしたカスタムモデルを「Singing Box」という名称で発売しました。現在は、シリーズ6番目となる「AIRBOW - Singing Box 6」(ベースモデル:marantz - M-CR612)を発売中です。

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さらに小さなオーディオ装置として、逸品館では「FunSounds」製品も作っています。

話を戻しましょう。
とにかく、誰でもが使いやすく、小さく軽くて、価格もそれほど高くない。
それでも素晴らしい音質で音楽を楽しめるオーディオとして、ついにオーディオ専門メーカーであるmarantzが「MODEL M1」を作ってくれたことを、大変嬉しく思います。

■ MODEL M1の特徴

すでにMODEL M1を詳しく紹介するページは多くあると思いますから、ここでは「私が大切だ」と思える部分を抜粋して説明します。

出力100WのBTL(ブリッジ出力アンプ)を搭載することによる、大型パワーアンプ並みのスピーカー駆動制動能力の実現

多くのアンプは「ひとつのチャンネルに1台のアンプ」しか使われていません。
アンプが発生する出力は「プラス側」のみなので、スピーカーユニットは「静止位置から前方向」にしか動きません。
BTLというのは、プラス側とマイナス側にアンプを1台ずつ配置する方法なので、アンプはプラスとマイナスを出力できます。
この場合スピーカーユニットは、静止位置を起点に前後に動くことになります。

「歪み」という方向からこれを見ると、(同一音量の場合)ユニットの移動量が前後半分になるのでスピーカーの歪みが減ります。
さらにBTLでは、スピーカーを強制的に引き戻す(静止位置を超えてマイナス方向にもアンプがユニットを動かせる)ため、スピーカーユニットがより早く元の位置に戻り、不要な動きも減らせます。
同一出力で比較するとBTLはスピーカーの駆動制動力で大きく勝り、それが「MODEL M1はB&W 800Dシリーズを鳴らせる」というメーカーの主張に繋がります。
(ただし、こんな価格のアンプにそんな高額なスピーカーを組み合わせる人はいないので、この宣伝はナンセンスだと思いますが…。)

ともかく、小型軽量でも50万円を大きく超えるアナログパワーアンプを凌駕するほどのスピーカー駆動制動力を持つのは、BTL方式の採用によるものです。
この内容につきましては、逸品館 YouTube ch.【逸品館オーディオ情報】で詳しく説明しています。
ちなみに先にご紹介した「AIRBOW SingingBox6」もBTL方式を採用しています。

低音の入ったソフトをMODEL M1とDALI OBERON 5で聞いてみた。
Titanic Sound Track
「Never An Absolution」
DOUBLE
「Stranger」

クラスDのアンプには、デジタル信号が入力される

クラスDのアンプとは、その通り「デジタル」で動きます。
スイッチングアンプとも言われますが、スピーカーを動かすエネルギーを連続曲線的に出力するアナログアンプとは違い、エネルギーは「ON/OFF」で断続的に出力されます。電源にもスイッチング方式(いわゆるインバーター)を使うためエネルギー効率が高く、発熱が小さいデジタルアンプは熱くならないので放熱機構(大型フィンなど)が簡略・省略化できます。さらに効率の高いインバーター電源を組み合わせれば、ビックリするくらい軽く小さく作れます。それがMODEL M1の2.2kgという軽さと信じられないほどの力強さの秘密です。

しかし、アナログ信号をそのまま増幅すれば良いだけのアナログアンプと違って、デジタルアンプでは音声信号を「デジタル」に変換してアンプに入力する必要があります。MODEL M1が搭載するデジタルアンプの動作方式は、DACで言うところの"1bit"(ワンビット)方式に近いものですが、アンプを動作させるためにはアナログを"1bitデジタル信号"に変換しなければなりません。

アナログをデジタルに変換するためには「アルゴリズム」という数式が使われます。そしてこの「変換(A/D変換)」に使うアルゴリズム(数式)は音質の大きく影響します。ほとんどのオーディメーカーは、デジタルアンプに使われるアルゴリズムをデジタルアンプ・モジュールメーカーが用意するものをそのまま使っていますが、古くからPhilips(フィリップス)との技術交流があるマランツは、MODEL M1というデジタルアンプのために必要な1bit変換アルゴリズム(数式プログラム)の内製化に成功しました。

このように、marantzオリジナルのアルゴリズムを採用するMODEL M1は、一般的な市販デジタルパワーモジュールを使うモデルよりも"marantzが目標とする音"を効率的に出せるようになっています。
この内容につきましても、逸品館 YouTube ch.【逸品館オーディオ情報】で詳しく説明しています。

ここまででMODEL M1の技術的なトピックに触れてきましたが、より重要なのはその"音質"ではないかと思います。
結論を先に述べるなら、MODEL M1の音質は"歪みが少なく清潔な感触"です。
maranzが得意とするHDAM(低歪み化されたマランツ独自の高速アンプモジュール)のように複雑なアナログ回路を使わないM1は、入力されたソースの音を色づけせずに再現します。スピーカーからの逆起電力の影響も受けにくいんで、スピーカーユニットを正確に動かす能力は抜群です。

しかし、個人的には"やや艶が少ない"と感じました。

B&W(特に800D4シリーズ以前)のような、モニター傾向の強いスピーカとの組み合わせだとその傾向が強くなると思います。パーソナルな使い方で、音楽性よりも音質を求めるならばそれも良いと思います。けれどリビングなどでファミリーユースされることを考えると、DALI製品のような音楽性="艶感の強い"スピーカーとの組み合わせがおすすめです。あるいは、Polk Audioの低価格モデル(MXTシリーズ)のような"響き成分"の多いスピーカーとの組み合わせも良いと思います。
試してはいませんが、TANNOYのビンテージモデルのような響き成分と艶の強いスピーカーとの組み合わせも良いかも知れません。

気をつけていただきたいのは、様々なメディアが持ち上げるように「MODEL M1は、魔法のように音が良いアンプではない」 と言う点です。

確かに、B&W 800Dシリーズで"膨らみや緩みない低音"を出力できるのは事実ですが、"音の細やかさ"や"品位"では800Dシリーズを鳴らすアンプとして遠く及びません。
つまり、M1は800Dシリーズを鳴らせますが、心地よい音は引き出せません。くれぐれも高価すぎるスピーカーとの組み合わせはご注意下さい。
おすすめするのは、DALIやPolk Audioなどのコスパの高いスピーカーで、価格帯上限は30~50万円(ペア)程度までが良いと思います。

実際の音質は、逸品館 YouTube ch.【逸品館オーディオ情報】でじっくりご確認いただけます。

レポート  逸品館代表 清原 裕介
作成日時           2024年5月