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小型高品質デジタル機器でおなじみのNorth Star社からEssensioの後継モデルImpulsoが発売されました。ImpulsoはEssensioのDACチップをDSDに対応するESS社製品に変え、専用のドライバーを付属することでUSB接続でのネイティブDSD再生に対応したモデルです。
Impulsoは現時点で最も高音質(データー量が多い)デジタルフォーマットのDSD(SACDと同じ2.8Mに加えその2倍の情報量を持つ5.6Mまで対応)と最大384kHz/24bitのPCM信号に対応しています。
DSDやハイレゾPCMをUSB接続で再生しようとすると、PCへ専用ドライバーと対応する再生ソフトをインストールしなければなりません。Impulsoでは、専用ドライバーは付属CD-Rから比較的簡単にインストールできます。しかし、再生にはまだDSDのネイティブ再生に対応するフリーソフト(Foober2000)などのダウンロードが必要になります。
Foover2000(本体)のダウンロードは比較的簡単ですが、DSD再生に対応する追加のモジュール組み込みは少し手間がかかります。また、追加モジュールのインストール中に余計なソフトがPCにインストールされてしまうことがあるなど、Foover 2000のインストールには無料なりの問題や危険性は覚悟しなければなりません。そのような危険を避けウイルスやOSにクラッシュによる被害を最小限に抑えるために、オーディオ用パソコンは専用機をご用意なさることをお薦めします。
またFooberはUSBメモリー・インストールも可能ですから、複数のPCで音楽をお聞きになりたいときとお考えならプレーヤーソフトをUSBメモリーにインストールし、音楽ファイルを外付けHDDなどに保存すれば持ち運ぶやパソコン保護に役立つと思います。
North Star Design Impulso メーカー希望小売価格 ¥240,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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音質テスト
Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
テストに使ったPCのOSは「Windows7pro」。
接続にはaudioquestの最高級USBケーブル USB Diamond2を使いました。
接続したプリメインアンプ AIRBOW PM11S3/Ultimateが暖まっていなかった影響もあると思いますが、電源投入直後は音がうわずって軽く低音が足りないと感じました。しかし、ほんの10分もすると中低音に厚みが出てバランスが良くなりました。
DSD(Foober2000)
CDと違いSACDをリップする(データーを抜き出すこと)は法律で禁じられているので、DSDのテストに使える音源はかなり限られます。そこで今回は、雑誌(PC-AUDIO
fan6号)の付録からWAVE96/24、WAVE192/24、DSD/2.8Mの3種類の形式で収録されている大阪ワオンレーベルの「ヘンデル・フルートソナタ」をFoober2000を使って聞き比べてみました。
G.F.ヘンデル
フルートソナタ集 福永吉宏(フルート) Yoshihiro Fukunaga
(flute) 上尾直毅(チェンバロ) Naoki Ueo (harpsichord) : WAONCD-210
WAVE・96kHz/24bit
音のきめが細かく高域も伸びていますが、薄い「靄(ベール)」がかかっているようなイメージがあります。楽器のフォーカス感が少し甘く、シルクトーンの写真を見ている雰囲気です。
フルートとチェンバロの音は美しく魅力的ですが、分離のエッジ感はややソフトです。明瞭度がやや低く感じますが、同価格帯の平均的なCDプレーヤーでCDを聞くよりは、少し音が良いかな?という感じがします
しかし、初期のPCオーディオで問題となった高域の硬さや見通しの悪さ、音が粒子状に聞こえる(音が粉っぽく感じる)悪癖は完全に消えていて、純粋に音楽プレーヤーとして音楽を楽しめる高い水準に達している音質です。
WAVE・192kHz/24bit
96kHz/24bitで気になっていた高域のベールが取れて、空が晴れ上がるように高域の見通しが良くなります。高音がスッキリと抜け、空気が乾いた感じがします。
フルートとチェンバロの分離感も向上し、より生演奏を聴いている雰囲気に近づきます。音にならないフルートの細かいビブラートや、96kHz/24bitでは聞こえなかったチェンバロの共鳴箱の中の音まで分離して聞こえますが、その分離感は非常に自然でオーディオ的に拡大して聞かせる嫌らしさは一切感じられません。
フルーティストのブレスやタギングなどの細かい楽器の操作が感じられるようになり、演奏家との距離感、音楽との距離感が一段と近づきました。もちろん、96kHz/24bitと192kHz/24bitのこの音の差を再現するにはかなり高度に洗練されたシステムが必要と思いますが、ソースの段階でImpulsoはその差をきちんと再現します。
DSD/2.8M
192kHz/24bitの高音質にさらに音色の良さや滑らかさが加わります。またPCM特有の「線の細さ」が消えて、中低音にシッカリ肉の付いた厚みのある音に変化します。
切れ味を優先するPOPSやROCKあるいはリズミカルなJAZZなどでは、DSDの持つ暖かさや柔らかさが必ずしもプラスに働かないかも知れませんが、この楽曲に関してはDSDの「アナログ的味わい」がとてもマッチします。
ここで少し「DSD」に付いて説明します。
私達が聞いてきたCDは、PCMという方法でデジタル化された音源です。PCMはアナログ波形を方眼紙に乗せて、最も近いグラフの交点をデジタル情報として記録します。これに対しDSDは、連続するアナログ波形の「増分」や「減分」、つまり「変化した部分」をデジタル情報として記録します。
絶対的な「波形の位置」を記録するPCMに対し、「相対的な波形の位置のみ記録する(時間情報/タイムコードを持たない)DSD」は同じデジタル音声でもその記録方式が大きく異なります。アナログ波形を基本として考えた場合、それをグラフ上の点に分解し、点を直線で繋いで復元するPCMに比べ、波形を滑らかな線の形のまま記録するDSDがよりアナログに近い音と言われていますが、実際に聴いた感じでもそういう印象です。なぜDSDが録音の主流にならないのでしょう?
一般的なソフトは、複数のトラック(音源)をミキシング(混ぜ合わせ編集)して作られていますが、それはミキシングによって自由に音を作り変えられるからです。編集ができないと、音を変えるにはもう一度演奏からやり直さなければならないので、編集ができないDSDは録音に適していないのです。しかし、時間情報(タイムコード)をデーターに持たないDSDのデジタル編集は非常に難しく、この問題を解決するためにDSDで録音した音源を一度PCMに変更し編集するか、もしくはPCMで録音し編集した音源を最終段階でDSDにコンバートするなどの方法でDSD(SACD)音源が作られます。
本来ならば録音からマスタリング終了段階まですべてをDSDで行われている音質テストで度々使うSACD「Last Time at DUG」の様なソフトでなければDSDのメリットは最大に発揮されません。そこでこの音源の所有者である「ワオンレコード」に録音の状態を尋ねてみました。今回聞かせて頂けた「ヘンデル・フルートソナタ」は、DSDで録音しPCMで編集し、DSDに変換されていました。しかし、それでもDSD特有の滑らかさや暖かさは十分に感じられました。言い換えれば耳の超えた私を「その気」にさせるほど、ImpulsoとDSDの組み合わせはPCMよりも良かったと言うことです。
ここでDSDを離れ、CDをリップした一般的な音源での音質チェックのためプレーヤーソフトをWIN-AMPに、データーをCDをリップした44.1kHz/16bitのWAVEに変えて音質をチェックしました。
月の光、シシリエンヌ・ヴァリエ~ハープ・リサイタル 吉野直子 / 月の光
高域は美しいですが、少し曇っています。滑らかさと柔らかさは十分ですが、切れ味や厳しさが不足しています。
ハープの弦を弾いた瞬間の「ドライな音(断弦される瞬間のアタック)」が聞こえないので、流麗ですが音が弱く抑揚がハッキリしません。
まだ、若干高周波ノイズやジッターなどの影響で高域が濁っているようです。
それでも楽器の音色の変化はきちんと再現されますし、変な癖も感じられないので、音楽は十分に伝わります。
バッハ:ゴールドベルク変奏曲 グールド(グレン) DSDマスタリング
グールドのピアノも吉野直子さんのハープ同様に「アタック」が不明瞭です。ピアノのハンマーが弦に当たった瞬間の衝撃音が弱く、演奏のメリハリが効きません。
ピアノの音色の美しさや余韻は心地よいのですが、パワー感や躍動感は控え目です。
しかし、この曲自体がそういう「眠くなる」流暢な流れなので、音楽的にはそれほど気になりませんでした。
2楽章を聞きました。冒頭のバイオリンソロの音は、高域のざらついたバイオリンらしい感じがシッカリでます。ハープとピアノの音が丸かったのでバイオリンにも期待していなかったのですが、予想を大きく覆すハッキリした力強い音が出ました。
コントラバス、チェロのパートとバイオリンの分離も見事です。ファゴットのリードが震える音がこれほどハッキリ聞こえたこともありませんでした。
中低音の充実感、音の広がり感、あらゆる表現がスケール豊かで交響曲が縦横無尽に部屋の中で躍動します。アンプやスピーカーとの相性も良いのだと思いますが、かなり本格的な音質です。
ただし、耳には聞こえない高域のノイズの影響?なのか、テンポがやや遅く感じられ、楽器一つずつの音の品位や演奏者の力量も少し控え目に感じられました。
BIGBANGSpecial Edition - Still Alive (ランダムバージョン) ・(韓国盤)BIGBANG (ビッグ・バン) / MONSTER
出だし部分のムードは非常に良く出ます。ピアノの音は美しく響き、ボーカルは艶があって魅力的です。
リズムが早くなっても心地よい音です。スローな部分、アップテンポな部分、この曲ではどちらもまったく問題なく楽しく豊かな表現力で鳴ります。
この曲は主旋律の裏側で、沖縄的な(南国的な)伴奏がずっと鳴っています。その伴奏の高域の引っかかり感が独特なムードを醸し出すのですが、Implusoはやはりその「引っかかり」が丸くなってしまいます。色彩感は鮮やかで、柔らかく滑らかな楽しめる音ですが薄いシャツの上から背中を掻いているような「若干のもどかしさ」を感じます。
また、今回の試聴に使っているスピーカーとアンプのどちらもが「高域は穏やかな方向」なので、Implusoの柔らかい傾向が助長されてしまうようです。
金属ドームのハードな音のツィーターを搭載するスピーカーや高域の切れ味が優れるアンプ(高域がきつめのアンプ)との組み合わせなら、もっと素晴らしい音になったと思います。
SWING FOR JOY EGO-WRAPPIN’, 森雅樹, 中納良恵 / A Love Song
Implusoの滑らかで暖かく、優しい感じがこの曲にはとても良くマッチします。ボーカルは表情が豊かで、伴奏のニュアンスも十分です。ボーカルの中納良恵さんの声には独特の甘さがあるのですが、Implusoはそれを実に上手く醸し出し、切ないラブソングの雰囲気がとても良く伝わります。
こういう少しアンニュイな曲がImplusoに最もマッチしそうです。
試聴後感想
最後に試聴記事を書く前、3日間連続で外付けHDDに収納しているCDのリッピングデーターをランダムに再生して聞いたImpulsoの印象をお伝えしましょう。
過去に同様のテストを行ったTEAC Reference501 Seriesと比べると圧倒的に音が細やかで滑らかに感じましたす。出てくる音の質や品位にTEAC UD501との2倍の価格の差がきちんと反映されています。また、UD501で非常に気になった「高域のマスキング感」は、Implusoにも僅かに残っていますが、UD501の高域のベールとImplusoのそれを比べるとその厚みが1/10くらいに薄くなっています。これはUD501が搭載するBurrBrownとImplusoが搭載するESSのDACチップメーカーの違いも反映されているのだと思います。
同じようにImplusoよりも高額なLuxman
DA-06と比べても音の厚みや滑らかさでImpulsoが劣るようには感じられません。さらにDSDの再生音に問題が感じられたUD501とDA-06に比べてImplusoのDSDサウンドは比較にならない程優れているように感じました。
DSDを良い音で聴きたいとお考えなら、USB DACにはNorth Star
DesignのImplusoがお薦めです。
2013年6月28日 逸品館代表 清原 裕介
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