本格的な音質テストを行うためソースをCDに変え、トランスポーターにCEC TL3Nをチョイスして音を出そうとしましたが、Weiss
DAC-202と接続したときと同じくまたしても全く音が出ません。HD-7A192のサンプリング周波数の切り替えをオートにしてもマニュアルにしても、ウンともスンともも音が出ないので困りました。
TL3Nの調子が悪いことを疑ってDACを比較のため準備したHegel HD20に繋ぐと問題なく音が出ました。民生機でこのようなトラブルがあるとお客様ともめ事になりかねませんが、業務用は「自己責任」で片付いてしまうのでWeiss
DAC202といいPhasetech HD-7A192といい、業務系のDACは入力信号品質に厳しいのかも知れません。
※今回テストした、TL3Nは生産品に近いプロトタイプでしたが、後日生産品をHD-7A192に接続してテストしたところ、問題なく音が出ることが確認できました。
仕方なくトランスポーターをAIRBOW
UD8004/Specialを接続すると、HD-7A192(サンプリング周波数自動選択モード)からあっけなく音が出ましたので、この組み合わせでCD(同軸デジタル出力)の音質から試聴テストを始めることにしました。
アンプにいつものPM15S2/Masterを選び、スピーカーにはいつもと違うVienna
AcousticsのThe Musicを繋ぎましたが、全部の音が前に出てきて音場が上手くまとまらず、音の感覚が掴みにくかったので、スピーカーをいつものBeethoven
Concert Grand(T3G)に変えました。音の広がりはやや自然になりましたが、音場が前後方向に浅いイメージはまだ残っています。また、音を出したまま部屋の中を移動すると、スピーカーの正面と横側で聞く時の音が大きく違うことに気がつきました。
スピーカーの正面で聞けるのは「スピーカーの直接音=ヘッドホンで聴いているときの音」に近く、スピーカーの横側で聞く音は「間接音成分がほとんど=リスニングルームの影響を受ける」のですが、HD-7A192の音にはそれぞれに明確な違いがありました。生の音なら楽器の正面で聞く時と楽器が見えないところで聞く時に、これほど大きな差は感じられませんから、これはHD-7A192固有の特徴(違和感:癖)と考えられます。
音質比較
HD-7A192
この製品には「K2プロセッサー」が搭載されています。右の大きなつまみを押すとつまみ右上のインジケーターが「赤→緑→消灯」と切り替わります。「赤」では、音が細かくなったように感じますが、何か強い違和感を感じます。「緑」にすると、音が少しおおざっぱになったように感じますが、違和感がやや少なくなります。「消灯」では、一番音が細やかではなくなりますが、違和感も一番小さくなります。消灯が一番自然で、「緑」→「赤」とランプの色が変わると、新聞を虫眼鏡で拡大してみているような「違和感」が強くなります。音の一部を拡大して聞かせている感じです。試聴は一番違和感の少ない「消灯」で行いました。
HD-7Aのテストでは、K2インターフェイス(4倍オーバサンプリングモード)、インジケーター赤色で高域の周波数特性に変化が聞き取れ、高域がより高い周波数まで伸びてゆくました。しかし、中低音がそのままなので全体的な音のバランスが高域よりになって、使わないときよりも音がやや細くなってしまい、K2インターフェイス(4倍オーバサンプリング+20Bitモード)、インジケーター緑色で高域の解像度感や伸びやかさの改善は「4倍オーバサンプリングモード(赤色)」と変わらずに、中低音が適度に膨らてバランスが改善されたことで、何もしないときに比べ明らかに音が良くなるのが聞き取れました。つまりHD-7Aでは、インジケータが緑色がお薦めのポジションでした。これがHD-7A192で「消灯=K2を使わない」方が良く感じられたのは、ソフトとの相性か?もしくは改良されたデジタルインターフェイスのせいかもしれません。
HD-7A192でまず驚かされるのは「音の細やかさ」です。HD-7A192を使用することで耳に聞こえる音の数、音の密度感が大きく上昇し、UD8004/Specialのアナログ出力の音質を大きく凌駕します。
高音はすっきりの柔らかく伸び、低音もずしんと響きます。ノラジョーンズの声の細やかな表現、ギターの残響部分の演奏者の左手によるコントロールの細やかさ、音が重なったときのそれぞれの分離感は抜群です。時々ハッとするほど生々しい音が出ますが、わずかに「オーディオで音楽を聴いている」という感覚が残るのは、多分過剰に音が細かいためでしょう。
写真を例に説明しましょう。ポートレートの撮影では「ぼけ」が重要ですが、それは背後をわざとぼかすことで「主役(人物)」を引き立てるためです。ボーカル系のソフトもポートレートと同じで、「背後がぼける=楽器の音が適度にぼける」事がボーカルを際立たせるために非常に重要です。伴奏は聞こうとすれば細かく聞こえても、ボーカルの邪魔になってはいけないのです。このバランスが、HD-7A192では、「やや背後がハッキリしすぎる(伴奏まで主役になっている)」ように思えました。
全体的な音は細やかで柔らかい感じです。ノラージョンズの声には、やや肉が付き脂っこい感じです。ギターの音は、直接音の輪郭が強く指が弦とすれて「キュッ」という細かい音までハッキリと聞き取れます。しかし、弦を弾いたときの「圧迫感(アタック)」はそれほど強くありません。そのためか、音の輪郭だけを少し強調したような感じがします。間接音、楽器のエコーの部分は非常に細やかに聞こえます。ギタリストの左手の弦を抑える強さやチョーキングによる音程の揺らぎがハッキリと分かります。楽器の質も高く、高価な(音の良い)楽器で演奏が行われている事が伝わってきます。ドラムのブラシワークやシンバルの音もリアルでハッキリしていますが、ギターで感じたのと同じように圧力感(アタックの力強さ)は、切れ味よりは弱く感じます。
これが音は細かくても、どこかオーディオ的に感じる原因でしょう。つまり、これほど細かい音であれば楽器のエネルギー感がもっと強く伝わってきても良いはずなのに、それが弱いために(音が必要以上にハッキリしすぎている)逆に生音との違和感が大きくなっているように思います。輪郭は強いけど中身が薄いと表現すればよいのでしょうか?オーディオ的に偏ったややアンバランスな音質です。この傾向が、HD-7A192の好き嫌いを分けるでしょう。また、使いこなしでは音の良さを追求しすぎず、バランスを重視した方向性がポイントのように思いますが、思い切って音質を刹那的に追求するのも面白いかも知れません。その時には、10MHzの外部クロック入力が威力を発揮しそうです。
しかし、この傾向は「音質を重視するお客様」には、堪えられない魅力になると思います。同時に音質評価が下しやすい、音の良さがわかりやすいとも言えるでしょう。
HD20
音が出た瞬間に「ほっと」します。音のエッジはややぼけてしまうのですが、音の圧力感、力強さが大きく拡大し、出てくる音が生で聞く音楽のバランスに近づくからです。
複数の楽器が鳴っているところでは、音が混じり合って渾然としますがそれは悪いことではありません。生演奏を聞く方ならおわかりになるはずですが、生演奏の現場で各々の楽器の音が濁らずに分離して明確に聞こえるなどと言うことは絶対にありません。音が混じってしまうから、ミュージシャンはステージに「自分の音を聞くためのモニター」を設置しますし、イヤホンを耳に入れて自分の音を聞きます。オーディオの様に音がきれいに分離するならそんなことをする必要はありません。もちろん、生演奏は音量が遙かに大きいので条件は違いますが、それぞれの音が適度に混じっているのは自然なことです。
HD-7A192に比べると、ベースの音はやや膨らみますし、ギターの音も少しぼけています。しかし、ボーカルの表情がストレートに伝わり、声の大小、声色の調子が実に自然に伝わります。CDの再生が、生の雰囲気により近いのは間違いなくHD20です。しかし、HD-7A192で耳を奪われた「音の細やかさ」が消えてしまうため、クォリティーが明らかにダウンしたように感じられます。価格がかなり違うので、これは仕方がありません。
ノラジョーンズの声は、細かさを失いますがバランスが自然です。HD-7A192の音はノラジョーンズの声が細かく聞こえすぎ、口元に耳を寄せて聞くような声でした(もしろん、それほど異常な違和感はありませんが)。HD20は少し離れたところで歌っているノラジョーンスを聞いているような自然な感覚です。母音と子音のバランスも適切で発音が聞き取りやすくなります。ドラムはやや曇っていますが、リズムを刻む感覚が肌に伝わります。ギターはややぼけて楽器の質感も低くなりますが、演奏者の存在や雰囲気が伝わります。
オーディオ的にはHD-7A192よりも明らかにクオリティーは低いのですが、音楽的なバランスはHD20がHD-7A192を上回ります。この傾向が、HD20の好き嫌いを決めるでしょう。舞台の袖やステージの上で聞ける音に近い(マイクが捉えた音そのものに近い)のがPhaseteck
HD-7A192で、観客席で聞く音に近いのがHegel HD20です。好みの差で選べば良いのだと思いますが、HD-7A192の音を聞いてからHD20を聞くと、HD-7A192に戻りたくなるのも事実なので悩ましい選択になりそうです。HD20の使いこなしでは「インシュレータ−、電源ケーブル、接続ケーブル」などで音の細かさを向上させるのがポイントになりそうです。
音楽が心地よく伝わればよいとお考えのお客様にはHegel
HD20を、ディスクに収録された音をより細かい部分まできちんと再現したいとお考えのお客様には、Phaseteck
HD-7A192がお薦めのようです。
次にトランスポーターをPCに変えCDから取り込んだWAVEファイルをUSB経由で再生して聞き比べました。USBケーブルにはaudioquestのCarbonを使っています。
プレーヤー:DELL Vostro
3700、Windows XP、WIN-AMP
OS |
Windows(R)
XP Professional Service Pack 3 |
CPU |
Intel CORE
i5-460M (動作周波数 2.53GHz) |
メインメモリ |
DDR-SDRAM 3GB |
サウンドシステム |
AC'97 Audio |
ハードディスクドライブ |
320GB (SATA /
7200回転) |
HD-7A192
ドライバーをインストールせずにHD-7A192を繋ぎましたが、PCに認識されませんでした。しかたなく付属のドライバーをインストールしようとしましたが、説明画面は英語しか表示されず、警告画面が何度か表示されました。付属の説明通りにドライバーをインストールしましたが、あまりすっきりしませんでした。30万円を超える「オーディオ製品」でこういう部分をないがしろにしているのは、感心できません。オーディオ専用PCならまだしも、汎用PCにこのような未完成ドライバーをインストールするのは心理的に強い抵抗があるからです。
ドライバーの出来が悪いという先入観があったせいか、出てきた音は同軸デジタル接続よりも明らかにクオリティーが低く、CDを同軸デジタルで聞くHegel
HD20には遠く及びませんでした。
しばらく聞いていると耳が慣れてきてクオリティーダウンは、それほど気にならなくなりますが、明らかに濁りや曇りが感じられ価格相応とは思えない音でした。PC接続の音が同軸デジタル接続よりもこれほど悪いならば、わざわざ高音質を求めてPCに192kHz/24bitの音源を取り込み、それをUSB経由でHD-7A192で聞く必要はなさそうです。なぜならば、そんなことをしなくてもUD8004/SpecialでCDを再生し、同軸デジタルで入力すればPCで聞くよりも遙かに簡単で、しかもずっと良い音が聞けるからです。
また、UD8004/SpecialでSACDやDVD/Audio、BD/Audioを再生すれば、PC-USB経由で192kHz/24bit音源を再生するよりも遙かによい音で音楽が聴けるはずです。ハイビット、ハイサンプリングファイルを使い、高音質を狙うためにPCとHD-7A192を組み合わせるのは、あまりメリットがないかも知れません。
HD20
DACをHD20に変えました。やはりUD8004/Specialから同軸デジタルで入力するよりも音質はダウンしますが、その差はHD-7A192ほど大きくはありません。
もともとHD-7A192ほど音質に頼らずに音楽をバランス良く再現したHD20の良さがUSBで際立ってきます。音の輪郭の曖昧さが増すなど確かに音質はダウンするのですが、楽器の音色の鮮やかさやエネルギー感の強さなど本来HD20の持っている良さがUSBでも全く損なわれないからです。そのためHD-7A192のようにPCの音の悪さを感じることなく、自然体で音楽を聴いていられます。
トランスポーターをPCに変えたことによるダメージはHD-7A192が大きく、HD20は軽微でした。しかし・・・、音質はUD8004/Specialとの組み合わせが断然優れており、なぜPCをトランスポーターとして使わなければならないのか?強い疑問を感じました。この疑問は最近特に良く感じるのですが、PCからそれなりの音が出せるという「熱病」が冷めてしまうと、急速にPCオーディオへの興味が削がれて行くように思います。今のところオーディオは、オーディオ専用機で聞くのが一番のようです。
このテストに先立って3日間聞いていたiPod(MP3/320bps)+NA7004/Specialからの同軸出力の音質がかなり好印象だったため、最後にPCからのWAVE→USB出力と音質を比較することにしました。
+
AIRBOW
NA7004/Special + iPod Touch(MP3/320bps)
接続ケーブルは、iPod付属品
HD-7A192
やはりというか、PC+WAVEより明らかに心地よい音が出ます。
ノラジョーンスは語りかけてくるように歌っていますし、楽器の音色もきちんと再現されます。音の粒子がやや粗くなり、空間の密度が下がったように感じられますが、逆に音のバランスは向上します。音楽を聴いている雰囲気は、遙かにこちらの方が心地よく音楽を気軽に楽しめます。少なくとも、iPodで圧縮音声を聞いているというネガティブなイメージは全く感じられません。
私はこの音で十分です。というか、この音がハッキリ好みです。PC+WAVEの音をバランスの悪いMCカートリッジの音に例えるなら、iPod+NA7004/Specialの音は、バランスの良いMMカートリッジです。どちらの方が音楽をより深く自然に楽しめるかは、レコードをよく知っている方にならおわかりいただけると思います。料理に例えるなら、PCの音は調味料(ソースの味)効きすぎて、素材本来の味が消えてしまったフランス料理。iPod+NA7004/Specialの音は、さっぱりと仕上げられたセンスの良いイタリア料理のようなイメージでした。
HD20
HD-7A192と比べると、音のエッジが不明瞭になり、音質が若干低下します。
iPod+NA7004/Specialとの組み合わせでは、HD-7A192の「輪郭がクッキリする傾向」が上手くマッチし、圧縮による曖昧さを緩和してくれていたようです。しかし、低音部にしっかりとウェイトがあり力強いHD20の音は、決して不愉快に感じることはありません。ピアノは重厚でボーカルには「力のため」が感じられます。ドラムも力強くリズムを刻み、しばらく聞いていると音楽に自然と引き込まれます。UD8004/Specialとの組み合わせと同じく、これでもう少し音質が良かったら・・・という思いは残ります。この部分をケーブルやインシュレーターなどで補ってやれば、HD20は存分にその性能を発揮しそうです。
iPod+NA7004/Special
最後にHD-7A192やHD20を使わないでNA7004/Specialのアナログ出力の音を聞いてみることにしました。HD20を使う場合と比べると、さらに若干音質がダウンします。低音が重量感がやや軽くなり、ボーカルと楽器の分離感も若干低下します。しかし、聞き耳を立てなければ、あるいはHD20と聞き比べなければこれでも十分な音質です。
今回は、PCとNA7004/Specialを接続することはありませんでしたが、ハイエンドショウのデモンストレーションで音源をiPodからPC(WAVE)→USBに変えたことによる明確な音質向上を考えれば、NA7004/Specialでも音楽を聴くために十分な音質が得られることが容易に想像できます。インターネットラジオチューナーの搭載、iPodダイレクト再生の対応、DLNAの搭載などその多様な機能を考えれば、NA7004/Specialもかなり魅力的に感じられました。