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2012年秋にPioneerから本格的なHiFi Audio復活の第一弾として、PD70・A70が発売しされました。DENONからは、このクラスの基準とも言えるベストバイ&ロングセラー・モデルDCD-1650REとPMA-2000REが発売されています。この2機種はこのクラス最大の注目モデルです。さらに発売時期は少し古いですが、逸品館がこのクラス一番のバリューモデルと考えるmarantz SA15S2・PM15S2と、日本市場ではまだまだマイナーながら価格を超える品質・音質を逸品館が高く評価しているROTEL RE-1520を加えて、相互につなぎ替えながら音質をチェックする「スクランブル音質テスト」を実施しました。また、PCが接続できるモデルではPCとCDの音質の違いも簡単にチェックしてみました。
今回のテストは3号館の「デジタル・コンサートルーム」にて実施し、TAD E1 をモニタースピーカーとして使いました。そのため、通常のリスニングルームよりも音の違いが大きく出ていると思います。とくに「響きの少ないモデル」は、音質評価が辛めとなっているかも知れませんのでご留意の上評価を参考になさって下さい。
製品仕様の簡単な比較表を作りました。
メーカー | Pioneer | DENON | marantz | ROTEL | |||
モデル | PD70 | A70 | DCD-1650RE | PMA-2000RE | SA-15S2 | PM-15S2 | RA-1520 |
定価(税別) | 89,500円 生産完了 |
168,572円 生産完了 |
180,000円 生産完了 |
180,000円 生産完了 |
150,000円 生産完了 |
150,000円 生産完了 |
140,000円 生産完了 |
iPod接続 | ○ | × | ○ | × | × | × | × |
USB入力 | × | ○ | ○ | × | × | × | × |
出力 | アナログ:RCA デジタル:COX/光 |
65W A+B/2系統 |
アナログ:RCA デジタル:COX/光 |
80W A+B/2系統 |
アナログ:RCA デジタル:COX/光 |
90W 1系統 |
75W A+B/2系統 |
入力 | デジタル:COX/光 | Phono:MC/MM 6系統 |
デジタル:COX/光 | Phono:MC/MM 6系統 |
デジタル:光 | Phono:MC/MM 5系統 |
Phono:なし 6系統 |
重量(kg) | 7.8 | 18.2 | 13.7 | 24.4 | 13.5 | 18.5 | 7.8 |
ご注文へのリンク | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
音質テスト
音量を一定にして、TAD E1でそれぞれの機器を聞き比べました。
J-POP/Superfly | クラシック/新世界 | ジャズ/ Groove Note 2 | J-POP/orange pekoe |
誕生 | 第一楽章〜 | Here's to life /Jacintha | ホット・ミルク |
最近のPopsは内外の録音に関わらずコンプレッサーというエフェクターを多用し、小さい音を大きく、大きい音を小さくして、再生時の平均音量を大きくします。これはCDの販売リサーチで「音が多きソフトがよく売れる」ことがわかっているからです。 確かにコンプレッサーを使って平均音量レベルを上げる(音を大きくする)と、 ダイナミックレンジのそれほど大きくないゼネラルオーディオ機器(携帯プレーヤーのような)では音が良くなります。 しかし、広大なダイナミックレンジを持つ本格的なハイファイオーディオ機器では、「音と音の隙間」が少なくなり再生時に音が混じる、うるさい音になるなどの問題が生じることがあります。 |
ワンポイント・ステレオマイクで録音されたこのソフトは、オーディオマニア・音楽ファンのどちらにも名盤として知られています。 大編成の交響曲が自然な空間と共に納められて、音が多くなったときのシステムの処理能力(音を混濁させずにどこまで細やかに最ガンできるか?)や楽器の音色(色彩感)のコントラストの再現性がテストできます。 このソフトが満足に鳴れば、クラシック系ソフトのほとんどが上手く鳴らせると思います。 |
このソフトは、スタジオで演奏された音楽を入念にミキシングして作られた「高音質」ソフトです(音が良いのにもかかわらず編集時の音切れなどが残された部分があり、そこは不満です)。 楽器やボーカルの音が耳で聞き取れるよりも細かく収録され、ピアノのペダルの動く音、ボーカルの息づかいなど、オーディオならではの「音のイリュージョン」を聞かせてくれます。 オーディオ機器の限界を探るには厳しくも最適な一曲だと思いますが、音楽的にも素晴らしく、音楽的な表現力の富むシステムでこの曲を聴くとJachintha(ジャシンタ)さんの声とピアノの美音が心の奥まで届き、胸がジーンとなります。 |
オレンジペコの10周年記念アルバムです。 CDよりも音が良い「SHM-CD(透明度の高い盤を使用)」が採用され、SACDほどではありませんが優秀な録音です。 ジャンルこそJ-POPですが、Superflyのようにオーバダビングやコンプレッションが多用されず、生楽器伴奏の自然なボーカルとして聞くことができます。 どちらかと言えば、ボサノバやジャズに近い音楽です。 このソフトの再現性で「生楽器の音質がどこまで自然で表情豊かに再現できるか」がチェックできます。 テストソースに選んだ「ホット・ミルク」は最近TVCMで使われていますから、どこかで耳にされたことがあるかも知れません。 |
PD70+A70 | CD音質グラフ | SACD音質グラフ | |
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PC | PD70(PCを接続) | PC音質グラフ | |
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PD70+RA-1520 | CD音質グラフ | SACD音質グラフ | |
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PD70・A70 総合評価
PD70とA70のセットは、価格を大きく超えるHiFiの世界をSACDのみで見せてくれます。しかし、それと引き替えに通常のCDの再現性はあまり褒められたものではありません。再生するソフトや組み合わせるスピーカーを「確実に選ぶ」というPionnerの上級ブランドTADの製品にも通じるその明快な性質は、誤解されることもあると思います。使いこなしが難しく、ソフトやジャンルを選ぶ傾向は強いですが「ここ一発の音」の凄さは、他メーカーのコンポとは一線を画しているのも事実です。瞬間芸の切れ味!それは誰にも負けないのが、PD70・A70の組み合わせです。
DCD-1650RE+PMA-2000RE | CD音質グラフ | SACD音質グラフ | |
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PC | PD70(PCを接続) | PC音質グラフ | |
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PD70+RA-1520 | CD音質グラフ | SACD音質グラフ | |
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DCD-1650RE・PMA-2000RE 総合評価
DENON
HiFi高級モデルのエントリーとして約10万円からスタートとした1650/2000
Seriesも遂にその2倍近い18万円(税別)という価格に達しました。価格はその重量に反映されて筐体は随分と立派になり、もはやエントリーとは呼べないクラスにまでアップグレードしています。
DENONらしい真面目さが反映された音質は中低音が厚く、スピーカーがしっかりと大地を踏みしめたイメージで鳴ります。重心が低く安定したこの音質を好まれる方は少なくないと思います。しかし、その反面高域の倍音が硬く、金属的な質感が絡むのは、初代から続く独特の癖です。この高音の癖を許せるか?許せないか?それが、このセットの評価の分かれ目になりそうです。
SA-15S2+PM-15S2 | CD音質グラフ | SACD音質グラフ | |
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SA-15S2+RA-1520 | CD音質グラフ | SACD音質グラフ | |
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SA-15S2・PM-15S2 総合評価
このセットを最新モデル2機種と比較すると「オーディオの進歩」って何だろう?と感じます。なぜならパソコンなどでは、新しい製品の性能が必ず旧モデルを上回るのに、オーディオ機器は必ずしもそうでないと感じるからです。
今回のテストでも、発売が最も古く「割引率が最も高い=お買い得」な、marantzの製品が他機種を圧倒しました。圧倒したという言い方が悪いのならば、圧倒的に「好き」だと言い換えても構いませんが、音楽を聞くときにしっくりと体に馴染み、なおかつ心にしみる音を出してくれました。外観も美しく、価格も安く、比べるならば、SA-15S2・PM-15S2の価値が圧倒的に高いと思います。
総合評価
すでにお気づきだと思いますが、私が気に入ったのは「SA-15S2・PM-15S2」です。ROTEL 「RA-1520」は、CDの再生でPM-15S2を凌ぎますが、ジャンルやソフト全般の対応性を考えると、やはり「SA-15S2・PM-15S2」が最も気に入りました。
Pioneer PD-70・A-70は、TADブランドの血を引く超絶HiFiサウンドが、魅力です。スィートスポットは狭いですがその音質の素晴らしさと、なかなか頂点に到達できないもどかしさが、このコンポの価値を高めます。HiFiという言葉に引かれ、常により良い音を目指す方にお薦めの製品です。そういう使い方をなさるならば、過去のどのような製品よりも「とんがっている」ことが魅力的に感じられると思います。
DENON DCD-1650RE・PMA-2000REは、従来のDENONサウンドを引き継ぐ正常進化モデルです。重厚な外観に違わない厚みのある安定した音は、スピーカーのサイズやメーカーを選ばないと思います。中庸と言えばそれまでかも知れませんが、枠をはみ出さない安心感をお求めなら、その中庸さが大きな意味を持つと思います。
いずれにしましても、メーカーの個性が薄くなったと感じられることが少なくないオーディオ製品の中で「これほど個性的な3モデル」に出会えたことは興味深くもあり、素直に嬉しく感じました。今回テストした製品は、確実にオーディオの悩みの深さと楽しさを広げてくれるはずです。
2012年12月 逸品館代表 清原 裕介
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