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Elite CD Player / Elite Integrated Amplifier 音質テスト
Quad Elite CD Player \250,000(税別) / Elite Integrated \280,000(税別)
製品の概要
1999年に発売された、99 Seriesの後継・上級モデルとしてさらに高級なオーディオパーツをセレクトして作られたQuadファミリーのEliteがこのモデルです。
<Elite CD Player> |
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<Elite Integrated Amplifire> |
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<Quad Link による接続> |
<リモコン 左/アンプ・右/CD> |
音質テスト
Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
音質テストはスピーカーにVienna Acoustics Beethoven Concert Grandを使い、Elite CDとAmplifireをセットにしてQuad Link接続で行いました。
Come away with me Norah Jones
ボーカルは中央にびしっと定位しますが、伴奏はふわりと立体的に広がり、それぞれの位置関係も良好です。
全体的な音質感(音のクオリティー)はそれほど高くはありません。ギターやベースの音はリアルですが、少し曇りが感じられます。低音もほどほどにゆったり鳴りますが、周波数レンジの上下が上手く丸められている感じです。解像度感・明瞭度感もほどほどでオーディオ的(HiFi的)には、あまり褒められた音ではありませんが音楽的にはなかなか良くできた音です。
ノラ・ジョーンズの声はとてもチャーミングに聞こえ、ボーカルの表情の細やかさは大変良く再現されます。楽器の輪郭(アタック)があまり鮮烈でなく、楽器との距離感は近くはないのですが、楽器のタッチ(奏者のタッチ)や演奏の雰囲気、乗りはしっかりと伝わります。
それぞれの音の変化の絶対量はさほど大きくないのですが、変化のスケールが驚くほどリニアに仕上げられているので、ソフトの粗や演奏の悪い部分を気にすることなく、心地よく音楽に浸れます。その雰囲気はちょっとTannoyのテイストに似ているかも知れません。
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番、第5番 / アルテュール・グリュミオー
所詮オーディオ機器からは、フルオーケストラのエネルギーの再現はできません。それを理解した上で、限られたリソース、許される範囲内でどれだけ精密に音楽を再構成・再構築できるか?それがオーディオ機器におけるクラシック(特に交響曲)再生のポイントだと考えます。
そういう方向からの視点では、Quad Eliteのセットは実に良くできています。レガートで繋がるバイオリンの音が、弓を返す一瞬に翻り表情をがらりと変える。その瞬間のドキドキ感が、見事に再現されます。絶対量は小さくとも、その変化にメリハリがあるので音楽が力強く躍動します。
モーツァルトらしい滑らかさとモーツァルトらしい快活さが美しく両立し、一歩前に出るコンサートマスターの力強さホールを満たすコントラバスの豊かな響きが見事に対比し、非常に楽しく体が自然と動き出すような躍動感溢れる音質で協奏曲が再現されます。
JAZZで感じた低音不足、高域の丸められた舌足らずな雰囲気は、クラシックではまったく感じられません。クラシックに関しては文句なく抜群です。Quadが奏でるクラシックのテイストは、同じイギリス製のLS-3/5aにとてもよく似ているように感じました。
オーディオ機器の評価にはまず使われる事のないRockを、しかもQuadで鳴らしてみました。それでもヘビーメタルはさすがにQuadでは無理とわかりますから、ちょっと遠慮して知的なブリティッシュRock”Queen”を選びました。使ったのは最近発売されたベスト盤で、音の良いSHM-CDです。
1曲目では、Queenの独特なハーモニーの美しさとデリケートさが引き立ちます。なかなか良い感じですが、フォルテになるとさすがにエネルギー感が不足しパワー感が萎えてしまいます。穏やかなパートの表現は問題なくとも、激しいパートになるとどうしてもフラストレーションが溜まります。やはり、Rockはもっと「ドカーン!」と鳴らしたいものです。
聞くに堪えない音ではありませんが、Rockを聞いて楽しい音でもありませんでした。栄養失調のクイーンが演奏しているようですが、それは最初から想像できたことです。完全なるミスマッチでした。
Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
次に接続を通常のRCAに変えました。使用したインターコネクト・ケーブルはAIRBOW MSUーMightyです。試聴順も入れ替えて、Queenから聞いてみました。 +
一音が出た瞬間、あまりの音に違いに驚きました。最初から音の分離が全く違い、一人一人の声の分離とハーモニーの構造が見えるように思えるほど、一気に解像度が増加しています。その変化は、CDをSACDに変えるよりも大きいほどです。
もこもこと力がなかった低音もグンと力強くなります。しかしそれは「低音が改善した」からではありません。ティンパニーと和太鼓は、構造の似ている楽器ですが出てくる音は全く違います。前者は、ふわりと柔らかく、後者は引き締まった爆発的な音を出します。それは「ばち」が違うからです。ティンパニーの「ばち」には柔らかいフェルトが巻かれています。これは、太鼓の皮から「硬い音=衝撃力のある高音」を発生させないためです。これに対し和太鼓の「ばち」は、堅い木でできています。これは、太鼓の皮から「硬い音=衝撃力のある高音」を発生させ、低音にしっかりとした隈取り(輪郭成分)を付けるためです。拍手をするときに手のひらを柔らかく打つと「柔らかい音=ティンパニーに近い音」が出せて、手のひらを硬くするとそれが「ハッキリした明瞭な音=和太鼓に近い音」に変化するのと同じでです。Eliteの低音は、Quad Link接続では高音が柔らかくティンパニーの雰囲気です(だからクラシックと良くマッチします)。ケーブルを変えると高音がクッキリとして、低音が和太鼓のようにハッキリとしたパワフルな音に変化します。Quad Linkで丸かった高域がスッキリ伸びて低音の隈取りがきちんとできたからです。
時々「低音が上手く鳴らないから、低音に強いアンプに買い換えたい」という相談を受けることがあります。その実現に必要なのは、低音よりも「明確な高音」を出せるアンプです。マルチチャンネル・アンプでスピーカーを鳴らされている場合にも、低音の改善には「高域の改善」が有効です。人間は、低音部、中音部、高音部を分けて聞くことができません。それぞれの質感とそれぞれの音のタイミング(オーディオ的に言うなら、速度や位相)、が非常に重要です。
接続ケーブルを変えた事で、ふわふわとした力のない低音にしっかりとした輪郭が付き、低音の力強さ実在感が大きく改善しました。それでも最低音部・重低音部は少し丸くなっていますが、それを感じるのはフォルテッシモの部分だけで、その他のパートで低音不足やエネルギー不足を感じることはありませんでした。ボーカルの分離感や明瞭度感もまったく別物、エネルギー感も伴ってきてこの音質ならRockも十分に楽しめます。また、Quad Linkで高く評価した「立体感の良さ」は、RCA接続でも引き継がれています。2曲目のベースもぐんぐんと前に出ました。素晴らしい音です!
ケーブル一本でこれほど音が変わるケースも珍しいと思いますが、Quad Linkの音作りが巧みなのでしょう。
素晴らしく改善したRockに比べると、クラシックは少し感じが違います。音は良くなりましたが、絶妙な「混じり具合」が後退したからです。
バイオリンの音は冴えましたが、弓の切り返し部分の鮮やかさが少し後退しています。コントラバスの音もQuad Linkではホールに響いて背後まで回り込むように聞こえたのですが、RCA接続ではステージから前に押し出されて聞こえるように変化しました。
Quad Link接続とAIRBOW MSU-MightyによるRCA接続の違いは、「座席位置の違い」に相当します。MSU-Mightyはステージにかなり近い部分、もしくはベランダ席や2階席の最前方で聴いているときの音にそっくりです。Quad Linkは、一階席中央少し前よりの、いわゆるSS席で聞くコンサートの音にそっくりです。Rockには前者、クラシックには後者がマッチします。
幸いにも、Quad Linkと通常のRCA接続はスイッチの切り替えで共用できますから、両方接続しておけばアンプのセレクターを切り替えるだけで「ステージ袖」と「SS席」のどちらの音も楽しむことができます。注意しなければいけないのはQuad LinkとRCA接続では音量がかなり違うことで、Quad Linkの音量は通常のRCA接続に比べかなり小さく、Quad LinkからRCA接続に切り替えた場合には、アンプのメモリで4程度音量を下げる必要があります。
Come away with me Norah Jones
接続ケーブルを変えるだけで、それまでは聞こえなかったあるいは耳に付くことのなかったピアノの鍵盤に爪が当たるような小さなノイズや、ギターの弦に指が触れたノイズなどがハッキリと聞き取れるようになります。ケーブルの交換で解像度とレンジ感が大幅に改善し、音質が一気に現代的HiFiになりました。
しかし、それが音楽性の向上に必要なのか?と問われると諸手を挙げて”YES”とは返答できません。
音質は大幅に改善したのですが、Quad Link接続時の濃密なイメージが後退します。小さなライブハウスで奏者の息吹まで感じられるほどの濃さが薄まり、通常サイズのライブハウスで演奏を聴いているというイメージに変化します。
Quad Linkでは聞こえるべき音と、聞こえるべきではない音が見事に取捨選択されました。RCA接続ではすべての音がハッキリと聞き取れます。双方の音質は明らかに異なりますからどちらが優れているというのではなく、音楽のジャンルやディスクの録音状態、音のお好みなどに応じて「使い分けて頂く」ことがベストだと思います。
試聴後感想
Quad Eliteは小型でデザインや色合いも主張が弱く、存在感が希薄なコンポです。Quad Linkで得られる音質もそれに違わず控え目です。しかし、見かけの頼りなさとは正反対に音楽をまとめる力は非常に高く、クラシックやアコースティック系のソフトを実に「美味しく」鳴らしてくれます。
Quad Linkが持つこのテイストは「イギリス製品に共通する持ち味」だと思います。アンプやCDではMusical FidelityやAura Design、スピーカーではTannoyやRogers、そしてSpendorなどのイギリス製コンポはそれぞれの味わいこそ異なりますが、音楽を調和させて鳴らすことに長ける部分は共通しているように感じるからです。
Quad Elite Seriesは、Quad Linkでその味わいが非常に濃く、存在の控え目なことと相まって「音楽に最も近く、オーディオから最も遠い」というイメージそのものの音を出します。RCA接続を使えばその印象はがらりと変わり、小型高性能の現代コンポへと変身しました一台で二つのテイストを持つコンポ、それがQuad Elite Seriesです。
2012年 5月 逸品館代表 清原裕介
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