|
音質試聴テスト
2012年秋に発売されたSonus Faberの新製品"Venere"にウッド仕上げと新たなモデルが追加されました。
新製品のVenere 3.0/ウッド仕上げを輸入代理店のノアから拝借できたので、早速試聴を行いました。
・最近発売されるトールボーイスピーカーには、転倒防止のための「ベース」が付属するようになりました。Venere3.0はベースを取り付けて試聴しました。
底板には木ねじを取り付ける穴が空いています。右は付属するベースです。
黒い板は「強化ガラス」、スパイクは「アルミ」でできています。ガラスに空いている穴から木ねじを本体底部の穴に入れてねじ込み、ベースを固定します。
sonusfaberの伝統的な「リュート型(楽器の胴の形)」のボディー。入力はバイワイヤリングに対応します。今回は付属のジャンパーのまま試聴しました。
ショートホーンのような形状に仕上げられたツィーター周りと金属のフェイズプラグが付くウーファーで構成された、特徴的なユニット。
音質テスト
代理店から届けられたVenere 3.0を開梱し、まず付属ベースの「ある・なし」の音質を比較しました。ベースを付けないと高音が靄付いて低音の切れも悪くなるためベースとスパイクは取り付けました。次にカーペットの上に直置きするか、人造大理石ボードを下に敷くかを比較したところ、意外や意外「直置き」の方が音がしっとりして好印象だったため、Venere3.0をスパイクを付けた状態で「カーペットの上に直置き」して試聴しました。
Venere 3.0の簡単な使いこなしのチェックと設置を終えた後、アンプを試聴機として届けられた新発売のプリメインアンプ「Rotel RA-1570」と繋いで出た音を聞いた瞬間!絶句しました。高音は伸びず、低音はもこもこして、まるでラジカセのような音しかでなかったからです。しかし、ものの10分も鳴らしていると、見違えるように音が良くなりました。どうやらスピーカーもアンプもほぼ新品で「エイジング(鳴らし込み)」が不足していたようです。
スピーカーの購入直後に「思っていた音と違っていた」と言うご相談を受けることがあります。ほとんどは「セッティング」がきちんとできていないためと、「エージング」が足りないせいでスピーカーが上手く鳴っていないのが原因です。Venere3.0のように「集成材(高密度パーティクルボードやMDF)+突き板」で仕上げられているトールボーイ型のスピーカーは、比較的早期にエイジングが完了しよい音が出ますが、Tannoy Vintage Seriesのように「無垢板」もしくは「集成材の上に厚みのある無垢板」が使われたエンクロージャーの「響き」を生かして良い音を出すスピーカーが、エンクロージャーの響きが「楽器」のようにこなれるまで良い音が出ません。毎日聞いていても、半年くらいはエイジングが必要になることさえあります。オーディオ機器は購入直後の音で機器を判断せず、じっくり腰を据えて判断することが大切です。
そうとは言え試聴前のウォーミングアップにCDプレーヤーを使っていたときは、ディスクの交換をサボり「同じ曲何度も繰り返し聞く」事が苦痛で、試聴前に製品を十分に鳴らし込めなかったり、ある種の先入観を持ってしまうことがありました。しかし最近、3号館に設置しているPC/ネットワークプレーヤーの音質が著しく向上しCDと変わらなくなったので、HDDに収録した数千を超える楽曲をシャッフルしながらウォーミングアップと事前試聴を行えるようになりました。またインターネットラジオの音質もかなりCDに近い音質に向上したので、リポートの作成までに短くて24時間、普段は数日間連続して様々な音楽を聞くことができるようになりました。その結果、リポートの精度も上げられたと思います。
今回は、sonusfaber Venere3.0にRotel RA-1570を組み合わせた状態でAIRBOW SSS-2013をSA11S3/UltimateにUSB接続し、最近よく聞いているインターネットラジオ局の「I Love k Pop」を3日間連続で聞いてみました。この組み合わせのままでまったく不満を感じない良い音でK-POPが鳴りましたが、出ている音が「ファンがが想像するSonusFaberの音か?」と問われるとそれは違うように感じます。出てくる音は確かに良い音なのですが、中域にウェイトがある「手作りの味わいを感じさせる、響きの豊かなSonusFaber」の音ではなかったからです。Venere3.0は、ワイドレンジで歪み感の少ないスッキリしたB&Wのような最新スピーカーの澱みがなくレンジの広さを感じさせる最新の高音質です。
それでも、そのVenere3.0のさわやかな高音質が最新のkPopにマッチするので気に入って聞いていましたが、発売直後で皆さまに馴染みのないRotel RA-1570を使って試聴レポートを書いても参考にならないと思い、アンプを普段から試聴テストに使っているAIRBOW PM15S2/Masterに変えてリポートを書くことにしました。
Sonus Faber Venere 3.0 | ||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||
ROTEL RA-1570 | ||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||
ここでアンプをRotel RA-1570に変えましたが、AIRBOW SA11S3/UltimateとPM15S2/Master、そしてVenere3.0のあまりに素晴らしい音を聞いた後なので、同じ曲を「ガチンコ」でかけることはあえて避け、違う曲を聴くことにしました。 ヒラリー・ハーン デビュー! バッハ:シャコンヌ ヒラリー・ハーン 試聴を始める前はRotel RA-1570とVenere 3.0の組み合わせで再現される音の世界を「素晴らしい」と思っていたのに、アンプをAIRBOW PM15S2/Masterに変えて試聴を始めた途端、RA-1570に不足している部分ばかりが耳に付くようになってしまいました。ソフトを変えることでそれを回避しようとしましたが、一度旨い音を聞いてしまった耳はそれほど容易くリセットできません。 しかし、アンプを変えてもVenere3.0の中高域の透明感と、硬くなりすぎない芯の強さ、明るい音楽表現はまったく損なわれません。弦楽器の音などが若干「安く」なったように感じますが、音質に重要なパーツがコストにかかわらず最適化されたAIRBOWと通常市販品の違いがこういう細部に出るのだと思います。癖がなく音楽をフェアに奏でるRA-1570は、Rotelらしく非常に良くできているアンプだと思います。 コンサートマスター(ヒラリー・ハーン)と伴奏のバイオリンの音色の違いがやや近くなっていますが、良好な音の広がりとハーモニーの美しく正しい関係はきちんと保たれています。音の広がりはやや小さめですが、空間が広がりにくく楽器の音も分離しにくいこのソフトをここまで鳴らせたら十分でしょう。 低域や高域の出方は「普通」、つまり多くの少なくもないと思いますが、RA-1570の長所は癖が少なく音が素直なことと、価格を十分に超える音の細かさを持っていることだと思います。出来の悪いプリメインアンプは多いですから、こういう「素直な音」にほっとする人は少なくないと思います。インターネットラジオを聞いているときも「ピアノの音美しさ」には、ハットさせられることがありました。 AIRBOWと比べるとRA-1570は、「楽器の音色の違いが若干小さく、色彩感が薄くなる」という傾向が感じられました。逆に言えば、AIRBOWが「濃い」と言うのが正解だと思います。 ラスト・ライブ・アット・ダグ グレース・マーヤ / モナリザ イントロ部分のギターの音色は少し乾いていますが、芯がしっかりして「弦を弾く指の強さ」がシッカリ伝わります。 ボーカルのニュアンスは細かく深く、声には艶があります。中高域の透明感、明瞭度感、見通しの良さは抜群です。 RA-1570の音は癖がなく控え目ですが、音楽の大事な部分のニュアンスは細かくそして深く再現されます。外観はかなり素っ気なく、高級感に富むとは言い難い部分を感じますが、その音質は同価格帯の最も良くできた海外製品に勝るとも劣らないと思います。少なくとも量産される国産プリメインアンプとは一線を画する癖のないフラットなその音色はHEGELに近いように感じます。 アンプをRA-1570に変えたことで若干エネルギー感の低下を感じ、後もう少し高音のエネルギー感と低音の力感があればと感じますが、それは確実に「電源ケーブルや電源タップ」で実現するはずです。 癖のない透明で美しく、さりげない艶を感じる音。Venere 3.0も良くできていると思いますが、RA-1570も決してそれに負けない良品だと思います。 |
試聴後感想
Venere2.0を先に聞いていましたから、今回の試聴にはそれほど「期待」していませんでした。なぜならVenere
3.0は2.0の延長で良くできた現代的な「良い音」が出ると容易く想像できたからです。 しかし、AIRBOWとの組み合わせでVenere3.0を聞いたことでその印象は一変します。 これも良いな。が、これでないと!に変わったからです。 Venere
3.0の実売価格は、逸品館お薦めのVienna Acustics Beethoven Concert
Grand(T3G)よりもワンランク安いですが、その音は決してそれに劣りません。 Beethoven
Concert Grand(T3G)の良さは、僅かにビンテッジの香りを感じさせるふくよかな優しい滋味のある音質です。Venere
3.0は、それよりもフレッシュで鮮やかです。ソフトドームの弱点である「芯の弱さ」は、ツィーター周囲のリングとスコーカーのフェイズプラグの効果で見事に消し去られています。 その高域の芯の強さと端切れ良さはFocal
826eにも通じますが、金属ドームを使う826eよりもソフトドームを使うVenere
3.0の方が弱音が繊細に再現されルノが魅力です。 Beethoven
Concert Grand(T3G)をリフレッシュするならこんな音が良い!
Venere 3.0は、そう感じさせてくれる程の素晴らしい音でした。 もちろん、すでにBeethoven
Concert Grand(T3G)をお使いならば、スピーカーをVenere 3.0に買い換える必要はありませんが、これからペア50万円程度の実売価格でスピーカーの購入をお考えなら、Beethoven
Concert Grand(T3G)に加えてVenere 3.0を是非その俎上に上して下さい。この二つのスピーカーからお選びになるだけで、50万円クラスのスピーカーから間違いのないお買い物をして頂けると思います。
2013年7月 逸品館代表 清原 裕介
|