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Stirling Broadcast LS-3/6 メーカー希望小売価格 ¥700,000(ペア・税別 / チェリー・ウォールナット仕上げ)
Stirling Broadcast LS-3/6 メーカー希望小売価格 ¥750,000(ペア・税別 / ローズウッド・エボニー・ゼブラノ仕上げ)
逸品館がお薦めする"Stirling Broadcast LS-3/5a V2"は、1972年LS3/5aが誕生してから自社の放送局に導入されたLS3/5aのファンとなって以来20余年LS3/5aを修理してきたDougStirlingさんが、90年代の後半LS3/5aの生産が停止された後に経験を生かし初期のLS3/5aモデルの構造を継承する新たな製品として開発したモデルです。
"Stirling LS3/5a V2"と名付けられたその製品は、薄壁のエンクロージャー、ネジ留めリアバッフルなど、外観は初期モデルと同じ設計を採用しています。さらに搭載されるユニットのSB4424とSB4428も英国放送局内にしか存在していないLS3/5aの最高峰BBC 001/002のユニット(もちろんKEF)の特性をコンピューター解析し、デンマークのScan-SpeakとノルウェーのSeasと共同開発して作り出した001/002のほぼ完全なクローンユニットです。
オリジナルを忠実に模したキャビネットとユニットに、Stirlingが自社開発した"Super-Spec"ネットワークが組み合わせられ、限りなくBBC 001/002に近い音質が得られるのがStirling Broadcast社の"LS-3/5a V2"です。この"新型"は、名実共に名機LS3/5aの名に恥じない製品であり、なおかつ低域の伸びやダイナミックレンジが歴代のLS-3/5aよりも優れているとイギリスでは高い評価を受けています。この評価には、私も全く同じ意見です。
このように"Stirling LS3/5a V2"はBBCからライセンスを受けて生産される正真正銘の現行製品であり、すでに海外の多くのスタジオでは、使い古されたLS3/5aが"Stirling LS3/5a V2"に取り換えられていると聞きます。 すべての完成品はDougStirlingさん自らがテストしてから市場に送り出しています。
逸品館が注目する、そのStirling Broadcast社からLS-3/5aの上位機種、LS-3/6が発売されました。届けられたカタログをちらっと見て3Wayスピーカーと確認しただけで、詳細を見ずとりあえず音を出してみました。3Wayと言うことで「細やかな中域」を期待したのですが、出てきた音は2WayのLS-3/5aとそれほど変わらない音でした。しばらく聞いていると、LS-3/5aよりも高域が良く伸びていることと、サイズなりの低音が出ることが確認できましたが、PMCのように本格的な中域ユニットを奢っている3Wayに比べて中域の「情報量」がかなり少なく、その音質から2Way+スーパーツィーターという構成が感じ取れました。カタログで詳細を調べるとずばりその通りでした。
LS-3/6の構成
LS-3・6はキャビネットの大型化に合わせてウーファーのサイズがLS-3/5aの85mmから220mmへと一気にサイズアップされています。このサイズアップに伴う低域の量感と厚みの改善は、十分感じられます。
高域はLS-3/5aと同じ19mm口径のツィーターのクロスオーバーツィーターを3kHzから一気に13kHzに上げてスーパーツィーターとして使い、新たにLF/3kHz:HF/13kHzを受け持つ27mm口径のドーム型ツィーターが採用されています。
聴感上の音質は、このスペック通りに2Wayにスーパーツィーターが加わった感じ本格的な3Wayスピーカーほど中域は細やかではありませんが、LS-3/5aよりも明らかに中域が細かく、高域がスッキリと伸び、厚みのある低域が再現されます。この期待の新製品、LS-3/6の試聴テストを行いました。
製品の概要
Stirling Broadcast LS-3/6 (この製品のご注文はこちらからどうぞ) メーカー希望小売価格 ¥700,000(ペア・税別 / チェリー・ウォールナット仕上げ) メーカー希望小売価格 ¥750,000(ペア・税別 / ローズウッド・エボニー・ゼブラノ仕上げ) |
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<明るい>
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<柔らかい> - - * - - - - - - <硬い> |
LS3/6とLS3/5aのサイズの違い- |
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試聴テスト
最初音が少し硬く低音も出にくかったのですが、連続で100時間ほど鳴らし続けると中域の音が細かくなり、高域が柔らかくなりました。低域もかなり良く出るようになって、音の広がりも格段に改善されました。テストは、この「初期エイジングが完了したと考えられる状態」で行いました。
Mariah
Carey / マライヤ・キャリー "1's"
スパーツィーターが追加されたにも関わらず高音が出過ぎず、まろやかに広がるのが印象的です。かといって、切れ味のない丸い音かと言えば、そうではなく芯の強さと透明感、切れ味が兼ね備わっています。
ボーカルは現代の水準のスピーカーを基準にすると、とても柔らかくニュアンスが細かく深く抜群の説得力が感じられます。音場はスピーカーを取り囲むようにまろやかに広がります。LS-3/6の音質は故郷を同じイギリスに持つ、逸品館ベストセラースピーカーのハーベス"HL-5"に似ていますがそれよりも中域が濃く、高域が滑らかでマイルドです。低音はHL-5と同じくらいか、少し少ない程度です。
HL-5の良さは2Wayならではの繋がりの良い滑らかで自然な音質を持ち、聞き疲れしないことでした。LS-3/6はそれに非常に近いイメージでマライヤ・キャリーを鳴らしますが、HL-5より中域が濃くニュアンスが細かいことと、高域の切れ味が少し弱くアタックがマイルドに感じる点が違います。相対的にLS-3/6は、HL-5よりも周波数エネルギーバランスの「かまぼこ形」の山が高く、耳当たりの良い「音楽の美味しいところがより濃く再現される」エネルギーバランスに仕上げられているようです。直前にVienna Acoustics The Music(240万円/ペア・税別)という高価なスピーカーで同じアルバムを聴いていたのですが、LS-3/6に切り替えた途端に色気がグッと増したことに驚かされました。
オーディオ全盛期には、スピーカーの音質をJAZZ向きのカラリとした「アメリカンサンド」と、クラッシック向きの柔らかい「ヨーロピアンサウンド」に二分していたことがありましたが、LS-3/6は当時の代表的な「ヨーロピアンサウンド」に仕上がっています。
決して押しつけがましくはないのですが、「音楽はこうして聞くんだ」、「音楽を聞くには、スピーカーはこうあるべきだ」、LS-3/6は私にそう訴えているように聞こえます。歴史が育んだ素晴らしい音楽スピーカーLS-3/6は、肩肘張らずに毎日音楽を聞き続けられる懐の深い音でマライヤ・キャリーを情緒深く鳴らしました。
Come
away with me Norah Jones
( ネットなしで再生したノラ・ジョーンズを動画で聞く ・ ネット付きで再生したノラ・ジョーンズを動画で聞く )
※この動画の再生には、Quick Time Player が必要です。
新品のLS-3/6でノラ・ジョーンズを鳴らしたときは完全に低域が不足し、この音ならLS-3/5aで十分だと感じられました。しかし、100時間ほど鳴らし込むとLS-3/6の低域はかなり分厚くなり、中域の表現力や高域の解像度もグンと良くなってきました。
ギターやシンバルの切れ味は、高域が13kHzで2分割され新たにユニットが追加されたことでLS-3/5aを確実に上回り、アタックもしっかりしています。音の細やかさ(解像度)も明確増え、LS-3/5aでは聞こえなかった「奏者のタッチノイズ」までハッキリと聞き取れるようになっています。強化された高域の音質に合わせて中域にしっかりとした厚みが加えられ、高音を薄っぺらく感じさせないのはさすがです。この厚みと色気のある中域を支えるように、膨らみすぎない程度の響きが演出されたふくよかな低域が加わりLS-3/6の音は作られています。
初期エイジングが終わったと考えられる状態でも、LS3/6の低域はキャビネットサイズを考えれば再生周波数帯域下限はそれほど低くないのですが、人間が低音を豊に感じるボリュームゾーンの100kHz近辺が少し持ち上げられているような感じがあって、スピーカーから出た低音がふわりとした響きを少し残しながらすっと消えて行く様は現代的なスピーカーとは違う心地よさを感じさせます。
BBCの基準に沿って音楽を色づけなく再生するために作り上げられたLS-3/6の3ユニットが奏でるハーモニーは素晴らしいバランスです。何の抵抗もなく音楽が心にすっと入ってきます。熟練の手によって練り上げられた生演奏との違和感を全く感じさせない老練なサウンドは、オーディオの一つの到達点だと確信します。
From The New World / Neumann , Czech Philharmonic orchestra
( ネット付きで再生した新世界を動画で聞く ・ ネット付きで再生したハンガリアンダンス/Lakatosを動画で聞く )
※この動画の再生には、Quick Time Player が必要です。
クラシック、中でも交響曲を鳴らすとLS-3/6は全く別のスピーカーの表情を見せ始めます。
あの小さなLS-3/5aですら交響曲を聴くとサブウーファーの必要性を感じないほど豊かな「低音感」が得られることに驚かされましたが、サイズがより大きいLS-3/6は確実にそれを凌駕します。マライヤ・キャリーやノラ・ジョーンズを聞いているときは、低音がやや不足気味なために「素晴らしく自然だけれど、スピーカーが作り出した心地よい仮想現実を聞かされている」という感覚があり、心のどこかにスピーカーで音楽を聞いている感覚が残っていたように思います。ところがソースを交響曲に変えた途端その感覚が完全に消え、まるで現実のコンサート会場に放り込まれたように感じます。
ピアニッシモからフォルトに移行するときの一気呵成な盛り上がり感、透明で見通しの良い空間に弦の繊細な音が漂う感覚、コントラバスが生み出す圧力感、それらが非常に生々しく現実的な音質で再現され、目の前で鳴っているのはリアルなコンサートとしか感じられません。
LS-3/5aが再現する交響曲は、ホールサイズを100-200人規模にやや縮小した「ミニチュアライク」な演奏でした。LS-3/6が再現するホールサイズは500-1000人規模に拡大され、LS-3/5aで避けられなかった縮尺感覚が完全に消えたリニアなサイズで交響曲を楽しめます。
今までにかなりの数のスピーカーを聞いてきましたが、交響曲を鳴らすことにかけてはLS-3/6の右に出るスピーカーはそれほど多くありません。また、交響曲に関してLS-3/6は、ハーベス
HL-5を遙かに超えています。LS-3/6は素晴らしく完成度の高い、高度にチューニングされた「楽器」。この音には、心の底から敬服します。
<総評>
BBCモニター LS-3/5aを製作したスピーカーメーカーは、Rogers、KEF、Spendor、Harbethの4社です。この中でRogersは一度倒産し、技術の継承がなされていません。KEFは新しいデザインの製品に移行することで生き残りを図りました。残されたSpendorとHarbethの2社だけが、現在も当時の流れを引くスピーカーを作り続けています。最初にご紹介しましたようにStirling
Broadcast社は、1990年代に新しく作られたメーカーで当時のRogers社とは関連がありません。しかし、設計者のDougStirlingさんがLS-3/5aを完璧に修理できると言うことは、彼がLS-3/5aを作り出せると言う証明です。
BBSモニターLS-3/5aの完璧な復元という挑戦から生まれたStirling
Broadcast LS-3/5a V2に私はすでに最高級の評価を与えています。しかし、オークションでは未だに「音の劣化したオリジナルLS-3/5aが考えられない高価な価格」で落札されています。「コレクション」という趣味を持たない私には、劣化した古い個体が「それより新しい個体よりも価格が高い」ことが理解できません。オークションにかけられる多くのビンテッジ製品は、当時の面影を留めないほど状態の悪いものが多いか、巧妙に修復された個体が多いにも関わらず、異常な高値で落札されることが少なくありません。昔名声の高かった製品を「一度で良いから聞いてみたい」という考えは理解できますが、工業製品である限り経年変化による劣化は避けられないことを忘れないように頂ければと願います。
正統派の復刻モデルLS-3/6は、前回試聴したLS-3/5aに違わず素晴らしい音質でした。音楽、特にクラシックを深く理解するお客様にお薦めしたい、素晴らしいスピーカーです。
2012年1月 逸品館 代表取締役 清原 裕介 |
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