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2012年秋に発売された各社のフラッグシップAVアンプ、DENON AVR4520、YAMAHA RX-A3020、Pioneer SC-LX86、にAIRBOWの新製品SR6007/Specialを加えて「ステレオ」で簡単な音質テストを行いました。ステレオで聞くそれぞれのアンプの傾向はサラウンドにそのまま当てはまりますが、サラウンドでは「音の違い」がステレオよりも大きく現れる傾向があります。
テストは逸品館3号館の「リビング・コンサートルーム」にて実施し、スピーカーにはVieena Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)を使いました。
Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)(63.8万円・ペア税別)
製品仕様の簡単な比較表を作りました。
メーカー | DENON | Pioneer | YAMAHA | AIRBOW |
モデル | AVR-4520 | SC-LX86 | RX-A3020 | SR6007/Special |
定価(税別) | 330,000円 生産完了 |
314,286円 生産完了 |
270,000円 生産完了 |
198,000円 生産完了 |
最大出力 | 150W | 250W | 150W | 110W |
搭載ch | 9ch | 9ch | 9ch | 7ch |
重量(kg) | 16.5 | 17.9 | 19.9 | 11.2 |
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音質テスト
プレーヤーにはAIRBOW UD7007/Specialを用い、audioquest HDMI Chocolateでプレーヤーとアンプを接続しました。POPSのみ、PCのUSB出力にRATOC RAL-2496UT1を接続し、S/PDIFに変換したデジタル信号を同軸デジタル接続でAVアンプに入力しました。
J-POPSのみPCのUSB出力にD-Dコンバーターを接続し、S/PDIF(同軸デジタル入力)で色々聞いてみました。接続ケーブルには、1万円を超えない適当なものを使用しています。色づけのないPCの音で色々なソフトを聞けば録音の善し悪しやプレーヤーの個性に左右されずに、音楽を楽しめる/聴き疲れしないか/聞き飽きないかどうか?を判断できると考えました。
JAZZ/ Come and Away with me | バイオリン/ バッハ無伴奏ソロ | クラシック/新世界 | ジャズ/ Groove Note 2 |
ノラ・ジョーンズ | リザ・フェルシュトマン | 第一楽章〜 | Here's to life /Jacintha |
試聴会や音質テストで良く用いますが、このソフトはあまり録音が良くありません。理想的ではない標準的なソフトに収録されたボーカルや楽器がどのように再現されるか?このソフトが楽しめるならば、ほとんどのJAZZ系の音楽は問題なく聴けることになります。 | AVアンプが苦手とするのが弦の音、特にバイオリンのソロ演奏は従来のAVアンプではまったく面白くない音でしか聴けない代表選手でした。 音が良くなってきたとは言え、バイオリンのソロ演奏が本当にAVアンプで楽しく聴けるのかをチェックしました。 |
大編成の交響曲が自然な空間と共に納められて、音が多くなったときのシステムの処理能力(音を混濁させずにどこまで細やかに再現できるか?)や楽器の音色(色彩感)のコントラストの再現性をチェックしました。このソフトが満足に鳴れば、AVアンプでも本格的なクラシックを楽しめます。 | 録音の良いSACDをHDMI接続で聞いてみました。このソフトは、スタジオで演奏された音楽を入念にミキシングして作られた「高音質」ソフトです。楽器やボーカルの音が耳で聞き取れるよりも細かく収録され、ピアノのペダルの動く音、ボーカルの息づかいまで聞こえます。 AVアンプの限界を探ために最適な一曲ですが、音楽的にも素晴らしく、システムの音楽的表現力も厳しく問われます。 |
DENON AVR-4520 | 音質グラフ | ||
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DENON AVR-4520 総合評価
このアンプはメーカーから拝借してから、一週間連続で聞きました。その間に様々な音楽を聞きたいので、PCのUSB出力をRatoc
RAL-2496UT1でS/PDIFに変換し、クラシック、ジャズ、ポップスなどあらゆる音楽を300曲シャッフルで聞いてみました。
その結果「良くできた音」、「音楽的に満足できる音」という印象を持ちました。どんな曲が鳴っていても不自然ではなく、音が肌に馴染みます。確かにピュアオーディオ製品と比べると「密度感(音の数)」は薄いのですが聞き比べなければ気づかないと思いますし、サラウンド再生ならスピーカーの数に応じて音の数も増えますからそれはまったく気にならなくなると思います。
このアンプの長所は自然で長時間聞き続けても飽きない音質と、時々ハッとするような魅力的な音が出ることです。低音がごりごり出る、高音が切れる、そういう印象は少ないですが、心地よく肌に馴染むという感覚があります。そういう意味では、AVアンプと言うよりも、バランスの良いピュアオーディオの音質とお考えて良さそうです。
音楽のマッチングは、あらゆるジャンルで問題ありません。映画は、しっとりとしたムードのあるシーンによく合いそうです。重厚感たっぷりなそのサウンドは、メリハリの強いスピーカーとの組み合わせや、小音量が中心のシアター環境も無理なくマッチしそうです。
Pioneer SC-LX86 | 音質グラフ | ||
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Pioneer SC-LX86 総合評価
少し前まで逸品館はPioneerのAVアンプをお薦めしていませんでした。音が硬く平面的で映画の効果音はともかく、音楽を楽しめる音ではなかったからです。
前作のSC-LX85でこの印象ががらりと変わります。滑らかで自然、聴き疲れを感じない音は、へたなピュアオーディオ機器の音質よりも好感が持てるようになったからです。最新作のSC-LX86はLX85の良さを受け継ぎながら小音量時の分解能力が向上し、それに伴って音の密度感が大きく増加しています。買い換えるほどではないかも知れませんが、LX85と比べると確実にワンクラス上級な音質に仕上がっています。硬さが抑えられた高音と、厚みのある中音。癖のない自然な音は、あらゆるジャンルの音楽や映画、あらゆるシステムにベストマッチすると思います。
YAMAHA RX-A3020 | 音質グラフ | ||
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YAMAHA RX-A3020 総合評価
今回テストしたAIRBOWを除く3モデルの中では、YAMAHAが間違いなく一歩高音質です。その差は組み合わせるシステムや音楽のジャンルによっては逆転しうる範囲内かも知れませんが、YAMAHARX-A3020は他の3モデルよりも明らかに高音がスッキリと伸びています。しかし、逆に高域が伸びすぎているスピーカーの組み合わせではこの長所が逆に欠点となることがあるかも知れません。価格が少し安いのもプラスポイントですが、A3020はあまりにも多機能なので普通に音を出そうとしたときに最も「使いにくい」という印象がありました。
音質面、機能面で一歩先を行くRX-A3020は魅力と欠点を合わせ持つ製品です。そういう意味で、マニアック度が一番高いモデルだと言えるでしょう。
AIRBOW SR6007/Special | 音質グラフ | ||
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AIRBOW SR6007/Special 総合評価
先ず最初に、AIRBOWは逸品館の発売するオリジナルカスタムモデルなので評価は「番外」とさせていただきたいと思います。
AIRBOWの魅力は、中域〜高域にかけての音の細かさと透明感の高さ、そして表現力の深さに集約されます。小音量、あるいは静かな時間に染み入るような深みのある音で音楽を聞く。あるいは、情緒深い映画を見る。きっと、はまり込んでしまうと思います。逆に少し音量を上げて弾けるようなリズムを楽しみたいとき、音楽に合わせた体を動かしたくなったときにも抜群のリズム感と躍動感でそれに答えます。時には底抜けに明るく、時には涙が出そうになるほど感動的に、音楽を最も色鮮やかに再現してくれました。リスナーの期待に期待以上の音で応えられる、そういうポテンシャルを感じます。
総合評価
10年前のAVアンプでは音楽は聴けたものではありませんでした。その当時と比べると、今のアンプはまったく別物です。簡単な音楽や映画の効果音は無論、交響曲のような複雑で本格的な音楽もさらりと鳴らす実力を身につけました。そういう意味ではDENON/Pioneer/YAMAHAのどのアンプをお選びになられても、納得していただけるだろうと思います。
それでは、各社の印象を書いてみます。
DENON AVR-4520
長所を伸ばすと言うよりも欠点を出さない感じの派手さの少ないコントロールされた重厚なサウンドは、組み合わせるスピーカーやシステムを選びません。その味わいは口に入れてすぐにわかるものではなく、咀嚼を続けるとじわじわとわき出してくる「するめ」のようです。年齢層は比較的高い方にもお使いいただけると思います。使い勝手も悪くありません。
Pioneer SC-LX86
こちらは口に入れた瞬間に「美味しい!」と感じる音です。低音は少し膨らみますが存在感があり、中音は滑らかで聞きやすく、高音はきめ細かく聞き取れます。しかし、全体的にオブラートで包まれたような感じが残るのは、出力素子にデジタルアンプを使っているためだろうと思います。デザインも現代的で、インターフェイスも洗練され、オーディオ機器とスマートフォン、あるいは家電的な要素が上手くミックスされています。年齢層はDENONよりも若くなると思います。
YAMAHA RX-A3020
今回テストしたアンプの中で使い勝手が最も馴染まなかったのがこのモデルです。メニュー画面に「ピアノの画像」が填め込まれるなど、細部に凝った作りがこのアンプの性格を物語ります。音はよいですが、多機能すぎて使いにくさ?を感じさせるなど、かなりマニア向けという印象です。その部分が、RX-A3020の好き嫌いの分け目になりそうです。あれこれ弄って楽しみたいお客様にお薦めです。
AIRBOW
SR6007/Special
ベースモデルが他の3機種よりも低価格なので機能が限られますが、それでも十分多機能なので逆に「余計なものがなくて使いやすい」と感じます。音が細かく音色が多彩で、音楽のデリケートな表現を深く再現する能力に長けています。SACDなどの高音質盤を再生したときの音は、高級オーディオセットに匹敵するほどです。さらに音質をアップグレードしたくなられた時には、単体AVプリアンプを超えるほど高音質なプリアウトを利用して、外付けパワーアンプをお使いいただくとさらに音質を向上させられます。PCのような複雑な機能をお望みではなく、使いやすい高音質をお望みのお客様にお薦めの、最も「オーディオ機器」に近い性質のAVアンプがこのモデルです。
2012年12月 逸品館代表 清原 裕介
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