“Debut”
シンセシスの主張通り、反応が早く軽快なサウンドだ。エッジが立ち歯切れの良いやや硬質な音は、明るい雰囲気を持っている。ピアノはやや金属的。ギターはなかなか上手く鳴る。ボーカルは、さっぱりとしたてさわやかな鳴り方。全体のバランスは少し高域よりで、からっとした明るく元気な音は仕上げの美しさを裏切らないが、深みやコクはやや少ない。あっさり味のスピーカーだ。
メタルコーンを採用したウーファーの反応の早さ、ハードドームを採用したツィーターのアタックの強さが、このソフトにはよく合っている。ステージはスピーカーよりも前に展開し、ハッキリとエネルギッシュにクラプトンが鳴る。メタルコーンで懸念される、音色の単調さもほとんど感じられずハーモニーの分離も美しい。このソフトでは、ギターの響きの美しさが際立った。
バイオリンの弦が少し硬い。まだ、エイジング(鳴らし込み)が足りないように感じられる。紙を使ったユニットに比べ金属ユニットは音が馴染むまでに時間がかかる。その影響で弦が少し硬く、前号方向への音の広がりがやや不足する。しかし、サイズを考えると低音は十分豊だし、細かい音もきちんと再現される。室内楽やバロックにマッチしそうな雰囲気の音だ。
まとめ
シンセシスは真空管アンプを得意とするメーカーだ。そのためだろう、Debutは真空管アンプと相性が良さそうなクッキリとした音を出す。もし今の音が少しまったり過ぎる、エッジが丸くて物足りないと感じられるなら、Debutの良さが上手く発揮されるだろう。Seasの高級ユニットを搭載し、仕上げが美しく、音のまとまりや性能もなかなかのこのスピーカーがこの価格なのは、驚きのバーゲンだ。
“Club”
ウーファーがペーパ−、ツィーターがテキスタイルに変わったことで、音の滑らかさや温かさが向上する。ギターの音には厚みがあり、響きは美しい。ボーカルは生々しく、艶っぽい。ベースはサイズを疑う豊かさで鳴る。音のバランスやまとまりの良い。とても10万円を切って購入できるスピーカーから出ている音とは思えない。そしてSonus
FaberのAmatorを連想させる美しい仕上げ。ハッキリお買い得だと断言できる。
ボーカルに厚みと力があり、説得力のある音が出る。ハーモニー部分の分離にも優れ、Seasの高級ユニットと強度の高いキャビネットを使った良さが感じられる。かなり高級なスピーカーと比べても、聞き劣らないのではないだろうかと思える質の高い音が出る。明るく、少し高域にエネルギーバランスが寄っているのはDebutと同じだが、全体的な音のまとまりはDebutを上回って感じられる。
何度も価格の話をして恐縮だけれど、この価格でこれだけの仕上がりを持つスピーカーが「新品」で入手できるのは驚異的だ。買って見ればわかるし、買わなければわからない。決算処分とは言え、本当に安いと思う。
低音と高音のバランスに優れ、エネルギーバランスが偏らない。明るく闊達な音でヒラリーハンが元気良くなる。ユニットの良さが生きるのだろう、かなり細かい音まで綺麗に再現されている。キャビネットの共鳴も少なく、かなり本格的な音が出る。ブランドイメージが十分に確立されていれば、こんな価格で処分されることはあり得ない。ブランドのバッチをSonus
Faberに変えてもそのまま通用しそうな音質に仕上がっている。
まとめ
金属ユニットを使ったDebutは、音が少し硬くあっさりとしていた。Clubはそれよりもずっと柔らかいが、高域にメリハリがあり、明るい音で音楽を鳴らすのは共通する。やはり、イタリアの血は争えないのだろう。また、ユニットにSeasを採用しているところや、木目の美しいキャビネット、バッフルに貼り付けられた合成皮革、仕上げの丁寧さなどから、Sonus
Faberを強く意識して作られた製品であることが伝わってくる。音質もSonus
Faberに似ている。今回の生産完了処分特価は、驚くほどお値打ちだと思われる。
“Melody”
Melodyと比べて更に音が軽く、演奏が軽快だ。ノラ・ジョーンズの声は明るくキュートで魅力的だ。ベースはさすがに少しボリュームダウンするが、サイズを考えれば十分な量感を持つ。高域にほんの少し荒れた感じがあって、子音がざらつくことがあるが、十分に許容範囲内。逆にそのざらつきがドラムのブラシワークやギターの音を際立たせて鳴らす。コストを十分に掛けて丁重に作られたスピーカーだとわかる音が鳴る。
Melodyの持つ明るさと歯切れの良さが、クラプトンには実に良くマッチする。前に出る音はきちんと前に出て、出てはいけない音は控え目に鳴る。音の広がり感やハーモニーの厚み、価格やサイズを考慮しなくても十分いい音でクラプトンが聞ける。特にギターの音が良い。歯切れが良く響きが透明で美しい。ベースやドラムも量感こそ少ないが、前に出る力やリズムを司る強さは十分に感じられる。Melodyに足りなかったのは、ブランドというイメージだけだろう。だから、ブランドにあやかって売れている中途半端な製品より遙かにお薦めの音質だ。実に安いのがうれしい誤算だ。
交響曲を鳴らすとさすがに低音が少し不足する。しかし、ヒラリー・ハーンの奏でるバイオリンの甘く切ない感じは実に上手く出る。このあたりの音にSeasのユニットを使った良さと、12Kgという重量級のキャビネットを使った良さ、そして人工皮革をバッフルに貼り付けて余計な反射を抑えた良さが、強く感じられる。6割引というバーゲンになっているが、元々の20万円強という価格も決して高いものではない。もう少し編成の少ない室内楽なら、たぶん一切の不満なく綺麗に鳴らしてくれると思われる。ちょっと贅沢なセカンドシステムとして、あるいは高級オーディオへの入門として、Melodyを自信を持ってお薦めしたい。
まとめ
ClubはSonus
Faberの“Amator”、Melodyは“Minima”に相当する。さすがに音質まで同じだとは言わないが、その美しい仕上がりやSeasの良さを十分に生かした解像度の高い音は、十分にクラスの水準に達している。しかし、それが6割引という価格になっているから、お買い得感は非常に強い。何と言っても、一本の値段で「ペア」が買えてしまうのだから!