AIRBOW
SR6008 Special
iPod
Touch(第4世代)
audioquest
USB carbon
試聴はAIRBOW
SR6008 SpecialにiPod Touchをaudioquest USB
carbonで接続して行いました。取り込んでいるファイルの形式は非圧縮のWAVEです。
Beethoven
Baby Grand Symphony Edition(T3GB/SE)
イントロのストリングスが艶っぽく、幻想的な世界を醸し出します。中低音にしっかりとした厚みと量感があり、密度の高い音が身体を包み込むように感じられます。
マイケルの声には驚くほど細やかな表現力と躍動感が感じられ、マイケルの思いが心に伝わってきます。またバックで朗々と鳴るストリングスの中央手前にマイケルの声がコンパクトに定位する様がとてもリアルです。
この曲は時折、ド〜ン、ズ〜ンという低音が入りますが、膨らまず力強く鳴るのも魅力的です。
Vienna
Acousticsの音場はクリアでクリーンなイメージが持ち味ですが、今聞いている音にはほんの少しの濁りを感じます。しかし、それは音を曇らせるようなものではなく豊かに響き、音場の密度の向上と音楽の温度感の上昇をサポートします。
欲を言うならば高域にさらなる透明感と切れ味の良さを求めたいところですが、その部分を欲張りすぎるとバランスが崩れやすいことを考えると、この適度なバランス感覚でよいのだと思います。
続けてマイケルを深く尊敬するニーヨを続けて聞いてみました。
音量を上げる(+55.0)と低音が少し膨らみますが、これはT3GBをカーペットに直置きしているためでしょう。人造大理石ボードを使い、さらにMetal
Baseを追加すれば、低音はスッキリと抜けるはずです。しかし、少し音量を下げるだけ(+45.0)でその膨らみはほとんど気にならなくなります。
以前ならカーペットの上にスピーカーやアンプなどを直接置くのは絶対に良くないと思っていました。しかし、3号館で行うイベントではまず「音を出す」ために、機器をカーペットの上に直接置いて聞くことがあります。その後ボードなどを追加するのですが、カーペット直置きは高音が丸くなり低音が膨らむなどの問題はあるものの逆に中音の厚みやボーカルの暖かさの表現には独特の優れたものを持っていることに気づきました。決してHiFiではありませんが、特にボーカルなどが実に聞きやすい暖かい音で鳴るのです。
今鳴っている音は処理が難しい超高音や超低音はほどほどで、必要とされる音だけが上手く出て来る雰囲気です。よく言われるかまぼこ形のバランスなのですが、かまぼこの両端は限りなくフラットに近い印象なので音が丸められてしまうネガティブな印象はありません。
T3GB/SEの最大の魅力は「嫌な音が出ない」ことです。ソフトを選ばず従順に滑らかで艶っぽく鳴る。そういう印象です。
聞いていると心がスッキリするような、楽しく、柔らかく、雰囲気の良い音でニーヨが鳴りました。
若干音場に濁りを感じますが、コーラス隊の人数はきちんと再現されます。教会の奥行きの広さ、天井の高さもきちんと再現され、ストレスのなく音が広がります。セッティングがいい加減にも関わらず、これだけバランス良くなるのは凄いと思います。
女性コーラスに続く男性のパートでは声が太く低くなり、女性と男性の声の違いが綺麗に再現されます。男女の声の質感がきちんと再現されるので混声コーラスの部分では、それぞれの声の質感の違いがきちんと再現され各パートが気持ちよく分離します。
声の大きさに比例して空間サイズが大きくなったり小さくなったりしますが、これは交響曲(間接音のあるホールで演奏される音楽)の再現に不可欠な要素です。空間が広がるときには広がり、凝縮するときには凝縮することで、空間にある音の密度が一定に保たれるからです。
男女混声コーラスがこれだけ綺麗に分離し、美しいハーモニーを奏でるなら、どんな生楽器を再生しても、楽器の良さがきちんと再現されるはずです。
アコースティック楽器の再現性には素晴らしいものがあります。
イントロのハーモニカに厚みがあって、とても暖かい音で鳴ります。ホリーコールの声にも厚みがあり、彼女特有の声の太さが良く出ます。
ピアノは驚くほどの重厚感があり、同時に高次倍音も美しく響きます。中域低域にシッカリウェイトが乗っていますが、高域も綺麗に伸びているからです。
この曲では音量を上げても(65.0)低音は膨らまず力強くなり曲の迫力が増しました。しかし、音量を下げても(55.0)中低音が痩せず、周波数バランスが崩れないのは立派です。
すべての音がスラーで繋げられたようにシームレスに繋がり、なおかつ高い密度感と重量感を持ちます。これだけ充実した中低域はなかなか聞けません。超高域のレンジこそ僅かにスポイルされていますが、それがソフトの粗を出さない魅力になっています。
T3GB/SEも素晴らしいのですが、AIRBOW SR6008 SpecialをiPod Touchと組み合わせているだけなのに、高級CDプレーヤー並みの細やかな表現力とセパレートアンプ並の中低音の厚みが出ることに驚きます。
近くで聞いていた友人が、MOSの音だ!と言ってくれましたが、確かにこのまろやかで暖かい独特の雰囲気はMOS-FETのアンプの特長によく似ています。上手く例えたものだと感心しました。
ウクレレだけで奏でられる、ジェイク島袋さんのこの曲は長く愛される名曲になる価値があると思います。この曲を始めて聞いたのは通勤中の車のFMでしたが、急に涙が出て前が見えなくなったのをはっきりと覚えています。
その時の素晴らしい感動が、まざまざと蘇ります。
チャーミングで優しくそしてどこかもの悲しいウクレレが奏でる「Cross
to You」からは、すべての人は抱きしめられるために、愛されるために生まれてきたんだよ。生きていると辛いことも苦しいこともある。歯を食いしばって頑張っていても、ときには力を抜いて甘えても良いんだよ。時には立ち止まって、深呼吸しても良いんだよ。そんな風に聞こえるJake
のウクレレの音色に心の底から癒されます。その優しさに触れられたとき、涙が止まらなくなるのです。
私はこういう音を聞く度にこう思います。「ハッキリ言ってシステムなんてどうでも良いだ。感動できる音が聞ければ」と。
やれハイレゾだのDSDだの、そんなことはかまやしません。たとえ音源がiPod
Touchであろうと、アンプがAVアンプであろうと、情熱を込めて鳴らせば奏者の心が、リスナーの琴線に触れる瞬間があるからです。
今目の前で鳴っている音、流れてくる音楽はそういう音です。
曲が終わって流れるハワイの波の音を、ずっと聞いていたくなりました。
Beethoven
Concert Grand(T3G)
イントロのストリングスの音の厚みと深みが一枚上手です。
気になっていた空間の濁りもほとんど消えましたが、これはBeethoven
Concert Grand(T3G)にレーザーセッターを使った精密セッティングを施している効果でしょう。セッティングの差を除いて考えるなら、T3GBとBeethoven
Concert Grand(T3G)の中高域は肉薄していると思えます。
マイケルのボーカルにはよりゆとりが出て、時間がじっくりそしてゆっくりと流れます。音楽自体の深みが増すと同時に、演奏がより上質なイメージに変化します。
低音の量感はそれほど変わらないのですが、ウーファーが一つ増えてキャビネットが大きくなった効果で「音にならない空気の動き」のような部分まで再現されるようになりました。前後方向への立体感の深さは、T3GB/SEがBeethoven
Concert Grand(T3G)を上回っていたように感じますが、それもセッティングの違いが原因していると思います。
セッティングで左右される部分を除き音だけの違いを評価するならば、Beethoven
Concert Grand(T3G)はT3GBよりもさらに繊細で音の広がりも大きく感じられます。ウーファーが増え低音がより低い部分までで出せるようになったことが、演奏のスケールをより大きし、表現をよりく深く変化させました。
部屋のサイズが8畳以上で予算に余裕があれば、Beethoven
Concert Grand(T3G)の方がよいと思います。しかし、部屋が8畳よりも小さいか、音量を少し大きめで聞けるのであれば、T3GBとBeethoven
Concert Grand(T3G)の差はほとんど感じられないとも思えます。
価格もそれほど離れていませんが、音質もそれほど大きな差がありません。どちらも完成度の高いスピーカーです。
ニーヨの声が軽くなり、ゆとりが出ました。英語の子音の荒れはT3GB/SEより強く感じられますが、それはT3GB/SE:カーペット直置き
vs Beethoven Concert Grand(T3G):ウォルナットボード+Wood Boyの差だと思います。実際の両者の高音の音色には、たぶんそれほど大きな違いはないでしょう。
オーバーダビングで作られるハーモニーの分離感もBeethoven
Concert Grand(T3G)がT3GB/SEを上回り、より精緻に聞こえます。また、細かなビブラート、僅かな表情の変化もより克明に再現されます。マイクの近くでボーカルが録音された雰囲気です。
しかし、上端が僅かに丸かったT3GBのウェルバランスも懐かしく、音楽を聞くという意味では両者甲乙付けがたい感じです。あえて例えるならば、コンデンサーマイクとダイナミック型マイク、あるいはMCカートリッジとMMカートリッジの違いのようにも感じられます。
雰囲気には好き嫌いがあるとして絶対的に違うのは、低音の量感です。それも50Hzよりもずっと低い音として感じられない部分の低音感が違うのは明らかです。ふわりと空気が動くような、自然で深みのある低音。こればかりは、サイズの大きなBeethoven
Concert Grand(T3G)でなければ出ない音です。
スピーカーをBeethoven
Concert
Grand(T3G)に変えたことで、明らかに女性ボーカルの人数が増えました。また、ボーカルの直接音と教会の反射音(エコー)の違いも、明確に聞き取れるようになりました。他のソフトでも感じたように、Beethoven
Concert Grand(T3G)はT3GB/SEよりも音が精緻でHiFi的なイメージが少し強くなります。Beethoven
Concert Grand(T3G)は低音がしっかり出るので、教会のホール感や音場の透明感でT3GB/SEを上回ります。
しかし、ライブ的/HiFi的という雰囲気も違いも、空間の透明感の違いも、スピーカーセッティングで十分コントロールできる範囲です。上手く鳴らしたT3GB/SEは下手に鳴らされたBeethoven
Concert Grand(T3G)を確実に超える音を出せるでしょう。スピーカーの差は、その程度だと言うことです。
しかし、セッティングではどうにもできない違いを感じる部分もあります。例えば超高域の密度感や情報量はT3GB/SEがBeethoven
Concert Grand(T3G)を上回る様に感じますが、それはSEが搭載する新型ツィーターの効果でしょう。トータル的にはBeethoven
Concert Grand(T3G)はT3GB/SEを上回ります。しかし、後発で改良されたT3GB/SEは部分的(改良点)にBeethoven
Concert Grand(T3G)を上回るところを持っているようです。
ハーモニカの音だけではなく、ハーモニカを通過する息の強弱まで手に取るようにわかります。
ホリーコールの声はより太くなりましたが、濁らずに透明感はさらに増しています。響きの厚み(膨らみ)は若干薄くなりましたが、Beethoven
Concert
Grand(T3G)で聞く「このホリーコールの声」の方が、たぶん録音されたそのままに近いと思います。
しかし、T3GBが醸し出したあの「暖かさ」にも大きな魅力がありました。真空管アンプでレコードをきいているような、暖かさと充実感。あれはあれで良かったのだと思います。
音質は明らかに改善しました。しかし、その改善に伴って音質が若干モニター的になり、音は近くなったが、音楽はやや遠くなった。という感じがしました。
でも、Beethoven
Concert Grand(T3G)で聞いたピアノの音は美しかったなぁ。
ウクレレが高価な楽器になりました。
きめ細かく透明で、弦を弾く強弱も、より明確です。一音、一音をとても大切に奏でている様子がひしひしと伝わります。しかし、ちょっと開放感が薄れてスタジオで演奏しているように聞こえました。もちろん、この曲はスタジオで録音されたはずですからそれで良いのですが、T3GB/SEをカーペットの上に直接置いて聞いたあの「中域の濃さ」が薄くなったのはこの曲に関しては残念です。好き嫌いで言うなら、T3GB/SEで鳴らすこの曲が断然好きです。
もちろん、この程度の「差」はスピーカーのセッティングで自由に変えられますから、Beethoven
Concert Grand(T3G)をさっきT3GBで聞いた音に合わせることは容易いことでしょう。
度々お客様からどんなスピーカーを買ったらいいですか?どんな機械を揃えればいいですか?と問われます。もちろん、高価で長く使う製品ですから、そのお悩みは十分に分かります。
でも、結局どんな音を出すのか?どんな音が出せるのか?は、お客様次第なのです。「思うようにいかない」ことが、オーディオの面白さであり、奥深さです。「回り道」を楽しむ余裕が、到達する高さを高め、その喜びを深めます。