今を去ること約20年前のオーディオの最盛期。スピーカーの頂点に立ったエクスクルーシブのトップモデル「2Way大型ウッドホーン型スピーカー 2401、2402」は、当時のオーディオマニアの憧れだった。それ以来心に描く、いつかは大型のウッドホーンを聞いてみたい。マルチチャンネルで大型ホーンスピーカーを駆動してみたい。その「夢」は、変わらない。ウッドホーンが奏でる外観に違わない肉厚な音は、他のスピーカーでは味わえない「特別な何か」を持っているからだ。
しかし、
時代は流れてレコードがCDに変わり、それがSACDになる頃には、あれほど隆盛を誇った大型ホーンスピーカーもその姿を消して行く。それは、デジタルが要求する高域の周波数特性が大型ホーンでは対応できないからである。さらに世界的な木材の欠乏、特にホーンに使えるような良質で大型な木材の減少がそれに拍車をかけ、高級スピーカーは「大型ウッドホーン」という時代は、すでに終わりを迎えつつある。高性能スピーカーのトレンドは、高域が伸び、指向性にも優れる「トールボーイデザイン」というのが時代の要求なのだ。
時代の流れには逆らえず、最近逸品館でお薦めしている高級スピーカーにも「ウッドホーン」はない。しかし、3号館をオープンしたときのメインスピーカーには、JBL S7500に自作のネットワークで低域をカットした後藤ホーンのスーパーツィーターを追加し、それをオール真空管のマルチアンプ駆動(チャンネルデバイダーも真空管を使った)で鳴らしていたほど、私は、根っからの「ホーン好き」なのである。このオール真空管3Wayシステムは、音質も素晴らしく適度にコンパクトだったので、とても気に入っていたが、S7500の生産完了とともに売却せざるを得なくなった。それまでの積み重ねでやっとたどり着いた「最高の音」だっただけに、本当に泣く泣くの別れとなったが、売り物にならない「音」はお聴かせできないから、手放さなければならない。それが、オーディオショップの宿命なのだから。
それを最後に「大型ホーンスピーカー」は、3号館に設置していないが、“それ”への憧憬は、今も連綿と私の中に息づいている。そして古き時代を知るオーディオマニアの中にも、きっと“それ”があるはずだ。ホーンでしか出せない音。ホーンでしか聞けない音。それは確かにある。だからこそ、今でもJBLはホーンにこだわるし、それを好んで買うマニアも多いのだ。しかし、最高に鳴りきったS7500の音を知っている私には、今のJBLの音はそこから退化した安易な音としか感じられない。私のオーディオは、JBLとマッキントッシュから始まっただけに、最近のJBLの変容ぶりは寂寞の念に堪えない。
そんな私に思わぬニュースが飛び込んできた。今年のウインターCESで知り合った海外のバイヤーから、現在は日本に輸入されていないZINGALIを販売してくれないかと依頼されたのである。ZINGALIといえば、世界に名だたる大型ウッドホーンスピーカーのメーカーである。その上、Unison−researchやAMPZILLAを聞いてからというもの私自身、最近イタリア製品にはまっていることもあって、何としても聞いてみたいのは山々だが、輸入業務が滞りなく行われる確証がなければ、高価な製品だけにおいそれとは手が出せないのも事実だ。しかし、今回仲人を務めてくれる彼こそは、過去ハーマングループの頂点に上り詰めたこともある超一流のビジネスマンだから、取引の信頼性には問題がない。さらに逸品館が輸入代理業務を行うわけではなく、代理店を介して輸入することにはなるのだから、大きな問題はないだろう。そう判断した私は、早速YESの返答を伝えた(代理店は、ロッキーインターナショナルに決まりました)。
するとどうだろう!あっという間に1.12(One
Twelve)とFlorenceの2モデルが送られてきた。それも、無償ではなく有償!で。つまり、私は販売を開始する前に、この2つのZINGALIの日本で一番最初のオーナーになってしまったというわけだ。
まず、1.12をワクワクしながら開梱する。思ったよりも軽い!仕上げはSonusfaberに負けないくらい美しい。デザインも良い。比較的コンパクトなのも良い!音を出すまえから、気に入ったが、音を出したらもう!私は、完全にこのスピーカーにやられてしまった。その驚きと、喜びと、興奮をすぐにでもお伝えしようと思ったのだが、一目惚れが間違いないことを確認するため、それから2ヶ月、徹底してこのスピーカーを聞いている。他のスピーカーとの聞き比べや、様々なアンプとの相性を探りながら聞いている。日本で一番最初にこの製品を紹介することになるのだから、間違った評価はしたくないからだ。
話は少し脇道にそれるが、今年入荷したお気に入りスピーカーの一つに、やはりイタリア製のSonusfaber“elipsa”がある。発売直後に届いた“elipsa”の仕上げの美しさ、暖かく体を包み込むような音を知って、このスピーカーこそ自宅に置きたいと考え、自家用に安くして貰えないか?と輸入代理店に尋ねたほど、こいつにも一目惚れしてしまっていたのだが、それから2週間もしないうちに届いたZINGALI 1.12を聞いて私の気持ちは一瞬にして変わってしまった。私は、それほど“浮気者”ではないと思うのだが、それくらい1.12が、私にはマッチしたのだろう。
“elipsa”は、どちらかといえばクラシック向きである。スピーカーを中心に音が広がり、音像の定位はやや甘い。他のSonusfaber製品同様の味付けである。しかし、私がプライベートで聞く音楽は歌謡曲が多いから、その味は逆効果になることがある。しかし、1.12はどうだ!ホーンの持ち味は、ドーム型やリング型のツィーターとは、一線を画する歯切れが良く、明快なサウンド。楽器と声が綺麗に分離しながら音楽がまっすぐに体の中に突き刺さってくる。スピーカーは遠くにあるのに音は近く、まるで耳から頭の中へ直接音をたたき込まれているように鮮烈だ。大型2Wayスピーカーの特色でクロスオーバーが800Hzと十分に低く、人間が最も敏感な帯域にネットワークがない。マルチWayスピーカーと比べると、確かに周波数の暴れはあるが「位相」のズレがない!だから、ボーカルを聞くときの心地よさったらない!
小型の外観からは想像できないほど、リッチで地をはうように伸びる低音。仕様の再生可能最低周波数よりも、遙かに低いところまで低音が伸びているように感じられる。確かに“elipsa”も素晴らしいけれど、ボーカルを聞くときの1.12の魔力はどうだ!やはり大型のホーンスピーカーは、ひと味違う。手を伸ばせば、触れることが出来そうなほど明確な固まりとなって音源が定位する。立ち上がりが早く、ピアノの打鍵感、ギターやベースの弦をリリースした瞬間のアタック、ボーカルの濡れた唇の触れる音。アタックの瞬間の切れ味の表現においてホーンは、その他の方式のユニットの及ぶところではない。それは、音源がホーンで囲まれてエネルギーが拡散せずリスナーの耳へまっすぐ届くからだ。ホーンでは、音が空気のフィルターで劣化せずにハッキリとした形のままで耳まで届く。だからこそホーンの音の細やかさは、ユニットの音を直接聞いている「ヘッドホン」のそれと同じくらい鮮烈なのだ。
この鮮烈さ(アタックの再現性の忠実度)を求めて作ったAIRBOWの波動ツィーターは、通常のスピーカーの音をホーン型に「近づける」。しかし、1.12を聞くとやはり残念ながら「本物」には敵わないことを思い知らされる。でも忘れてはいけないのが音の広がり(指向性の緩やかさ)だ。ホーンは、周囲を囲んで音をとばすというその性質上、中心部分と周辺部分で音質が大きく変化してしまう事が避けられない。波動ツィーターは、指向性を持たないため「音の広がり(立体感)」を大きく改善するという効果もあるからだ。
1.12が素晴らしいのは、そのホーンの欠点さえ克服しているところにある。このスピーカーは、ホーンの中心線上でこそ一番素晴らしい音が聞けるが、中心を外れても極端に音が悪くなると言うことがない。それどころか、レーザーセッターなどを使わないで、適当に設置しても違和感のない音の広がりが得られるのだ。この設置の簡便さは、同じホーンでもTANNOYやJBLにはない長所だ。この1.12の穏やかな性格は、良く計算されそして吟味されたウッドホーンの形状に秘密がある。私は波動ツィーターの開発や様々なスピーカーを研究したこれまでの経験から人間は、直接音とそれからほんの少しだけ遅れて届く一次反射の関係から音の方向や広がりを判断していると考えている。それを利用してツィーターの近くに反射板を設置し、早めにコントロールされた一時反射を起こすことで、スピーカーの指向性を弱め、設置条件にかかわらず良好な音の広がりと、正確な定位を確立する方法を知っている。
例えば、AIRBOWのImage11/kai2などは、この考え方を積極的に導入して良好な音の広がりを実現した製品だ。スピーカー用アクセサリーのSweet−Ringも若干だが、同様の働きを持っている。ひるがえって他メーカーの製品を見ると、ボストンアコースティックも同様の考え方を取り入れていて、ツィーターの前に小さな反射板をつけている。その結果、独特の良好な音の広がりと定位を実現している。
さらにこのツィーターの前に反射板を設置するという方法は、副次的に「音の輪郭が劣化しにくい」という大きなメリットを生むことがある。Image11/kai2やボストンアコースティック製品が透明で、非常に明瞭なサウンドを持つのはその効果のおかげなのだ。PMCも若干ではあるが、この効果を取り入れていると考えている。ツィーターが少し奥まっていたり、スコーカーの周囲に非常に短いホーン形状のリングが設置されているのは、音の濁りを抑え、解像度感を上げるためだろうと考えている。ZINGALIの製品は、積極的にその効果を求めてすべての製品にホーンを採用してると考えられる。
このツィーターの前に反射板を置くという方法には、一つだけ大きな問題がある。それは、反射板の響きが「材質の音」となって、盛大に感じ取れてしまうことだ。前述したS7500は、アクリル削りだしという特別な方法を使って、ほとんど鳴かない(共振しない)ホーンを作ってこの問題を回避した。波動ツィーターは、カーボンという材質によりそれを回避した。初期のJBLのホーンは鉄製の物が多いが(いわゆる蜂の巣ホーン)、決して嫌な音ではない。これに対しプラスティックのホーンは、良くない物が多い。音がなまってしまったり、密度感が損なわれたり、逸品館おすすめのKlipschなど一部の製品を除いて、安っぽい音になってしまっていることが多い。
ZINGALIは、ホーンが抱えるこれらの問題に対してほぼ「完璧」といえる答えを出している。まず、ホーンによる反射を均一化し音を滑らかにするために「円形」のホーンを採用している。この形状により、指向性が穏やかで音色が統一された癖のない音が生み出されていることは明らかだ。次に、良質な木を使ってホーンを作っている。これにより、ホーンの響きは木質的になり、ともすると金属的できつくなりがちなホーンの癖を吸収するのに成功している。最後に高い精度を持つ工作機器を使ってホーンを正確に削りだしていること。その結果、完全に意図的にコントロールされた一時反射が得られている。これらの工夫により、ZINGALIはホーンスピーカーとしては、例外的に指向性が穏やかで広がりが豊かだ。最初に1.12を聞いたとき、レーザーセッターのような器具は何も使わずに、適当に設置したにもかかわらず驚くほど良好な音の広がりが得られたのは、それが素晴らしくうまく機能しているからだと考えている。外観は何のことはなくとも、ホーンに精通したZINGALIだけにその構造は他に類を見ないほど非常に巧みなノウハウが駆使されている。それだからこそ、この音が出せるのだ。
ZINGALIの工夫は、ホーンだけに留まらない。1.12の底面は厚い木の板で構成されるが、それは「箱の底」ではない。そこから伸びる(生える)短い3本の足が「箱の底(エンクロージャーのそこ)」を支えるような構造になっている。つまり、1.12には専用のオーディオボートとインシュレーターがすでに備わっている勘定になる。設置は文字通り「置くだけ」で完了する。難しい工夫は何もなくて良い。初期のJBLは、音は良かったがその音を出すのが難しく、それ故にオーディオマニアに好まれた節もあるが、1.12はセッティングフリーだ。同じイタリアの車で有名なスポーツカーの「フェラーリ」が、その性能を損なわずにどんどん「乗りやすく」なっているのと方向性が似ているのがおもしろい。
とにかく、ZINGALIは、隙がなく非常に高度に完成されたスピーカーであることは疑う余地がない。もちろん、そのデザインも含めてだ。
さて、長すぎる前置きはこれくらいにして、1.12の音をご紹介しよう。
アンプには、同じイタリア製のAMPZILLA
2000とAMBROSIAを選び、プレーヤーはお気に入りのAIRBOW UX1SEを組み合わせた。
COME
AWAY WITH ME / NORAH JONES / CD / 7243 5 32088 2 0
ノラ・ジョーンズ
ノラの声は、少し乾いて聞こえるが、色彩感が非常に豊かで色っぽい。ノラ・ジョーンズ本人が目の前で歌っているように、まっすぐに音が耳に飛び込んでくるのが心地よい。ピアノは重々しい厚みを伴って、なおかつ良質な色彩感を伴う音色で響く。この演奏にグランドピアノが使われたかどうかは不明だが、良質なフルサイズのグランドピアノを聞いているような、重厚感が感じられる。ギターは、弦の持つ音色がよくわかるほど克明な音色で再現される。スチールゲージの金属的で鋭い響きの音色と、ガットゲージの柔らかで響かな響き。楽器の音が特徴的に聞き分けられるのも凄いが、それ以上にそれぞれが明確なパートを受け持って音楽を奏でているさまがありありとわかるのがそれよりも凄い。
低音は、図太く、ずしんと腹に響く(こんなに低音が出たら、床が弱い部屋に設置するときには注意が必要だ)。すべての音のクォリティーが非常に高い。明瞭で透明感が高いが、同時に厚みと柔らかさを兼ね備えている。相反する音の要素がうまく混じり合って、高められている。
ウッドベースの音は、その太さと厚みを十分に感じられるが、同時に弦の表面の分割共振による「乾いた切れ味(リリースしたときの切れる音)と弦の空音の響き)」もきちんと伝わってくる。こんなに正確で生々しいベースの音は聞いたことがない。すばらしい表現力だ。
高域は、十分に伸びてはいるが大型ホーンを採用する2wayスピーカーの限界か。超高域は徐々にロールオフして行くようだ。しかし、それが逆に味となって「デジタル臭さ」のような高域の違和感をうまく消してくれるので、CDがアナログっぽい滑らかで暖かく、厚みのある音になる。これがZINGALIの狙いだとすれば、素直に舌を巻くしかない。いたずらに周波数特性を追って、小型のホーンを付け加えたJBLとは好対照だ。ZINGALIで聞くこのアルバムは、今までどのスピーカーで聞いたよりも聴き応えがあった。
J.S.BACH
/ VIOLIN CONCERTOS / HAHN . LOS ANGELES CHAMBER ORCHESTRA / CD /UCCG-1161
ヒラリー・ハーン
バイオリンを初めとする、弦楽器の音が清々しい。弦によけいな付帯音が一切つかないから、バイオリンと、チェロ、コントラバスが見事に分離して聞こえる。すべての音が見事に分離し、それが再び重なって美しいハーモニーを形成する。まるで、蕩々と流れる清流を見ているようだ。
そして、さらに素晴らしいのがその色彩感!真空管アンプを使ったときのように、やや過剰に鮮やかな色彩で描かれるのではなく、本当に生演奏を聴いているときのような「楽器の持つ自然な色彩感」が見事に表現される。素晴らしい音色!これがスピーカーから出ている音だとは、にわかに信じがたいほどだ。
音場の広がりや定位も素晴らしい。ホーン型と聞いて危惧される音の広がりの狭さや、前後の浅さはまったく感じられないどころか、良くできた小型スピーカーのように一糸乱れない空間がみごとに再現される。これほどまでの明確さと広がりが得られるなら、サラウンドは要らないとさえ感じるほどだ。
チェンバロの響きを伴わない金属弦の響きが、絃楽器の豊かな響きにアクセントとなって彩りをさらに豊かにする。コンサートマスターが要となって、そこからホールの隅々まで音楽が美しく展開して行く。なんて美しい、なんて素晴らしい演奏なんだろう。デリケートでダイナミック。理性と感性が見事にバランスされている。美しい楽音の構造美。見事な芸術美。バッハという音楽の持ち味が、ストレートに表現される。ホールの緊張感がそのまま伝わってきて、思わず体に力が入った。
このセットは、金額も凄いけれど、音楽表現力も桁外れに素晴らしい。さすがに最高峰の製品の組み合わせだけのことはある。1.12は、JAZZだけではなくクラシックもそれ以上に素晴らしい音で鳴らしてくれた。
HITS!
/ BOZ SCAGGS / CD / 82876 86714 2
ボズ・スキャッグス
ホーンといえば、やはりアップテンポな曲がふさわしい。選んだのは、ボズ・スキャッグス。
“JOJO”。いきなりドラムが凄い!リズムが宙を舞い、ボーカルが耳に突き刺さる。ドラムは腹に響き、ベースは熱く心を揺さぶる!バックボーカルの女性のハーモニーがなんと色っぽいことか!
演奏は派手目だが、リズムは緩やか。そのゆったりした流れの中にちりばめられた「仕掛け」がすべて見えてくる。録音的には、決して優れているとはいえないはずのソフトだが、それでも各々の楽器と音が見事に分離して、それぞれがこれ以上は分解できないと思えるほど細かく表現される。音楽は、一度原子に分解され、そして見事に組み立てられる。まるで、楽音がちりばめられた万華鏡を見ているかのようだ!美しいメロディーとセンテンス。それぞれに意味があり、隙がなく、完成されている。気分が高揚してきたので、もっとアップテンポな曲に変える。
LISTEN
TO THE MUSIC . THE VERY BEST OF THE DOOBIE BROTHERS / CD / 9548-31094-2
ドゥービー・ブラザーズ
ボリュームを一気に上げる。アンプジラのインジケーターは−20dBを差す。1.12には、まだまだ余裕の音量だ。
“LONG TRAIN RUNNIN’”。ボリュームを上げると低音はやや響きが多くなるけれど、過剰ではない。低音が左右に散らず、まっすぐにリスナーの体に向かってくるからリズムに乗れる。
ギターは、鮮やかな音色で耳に突き刺さる。往年のフェンダーの甘い音。アンプは、ツインリバーブなのだろうか?最新のエレキギターからは決して出ない、ビンテッジならではの甘い響き。あっという間に一曲が終わってしまう。もっと聞いていたいけれど、さらにアップテンポな曲にソフトを変える。
A
GREATEST HITS COLLECTION / STEVIE WONDER / CD /530 757-2
スティービー・ワンダー
“MASTER BLASTER”。出だしの太鼓の音が凄い!部屋の壁が響き、まるでコンサート会場にいるようだ。
音量は、すでに−15dB。体を突き抜けた音が、背後から回り込んでくる。スネアの音がはじけ飛ぶ。ホーンでなければ、この音の堅さ、芯の強さは絶対に出まい!ましてや、ここまでの音量でも音像が全く崩れないのは、良くできたホーン型スピーカーだけにできる芸当だ。
小さな音量でも、このスピーカーは問題なく本領を発揮するが、音量を上げたときにもその良さは全く変わらず、音像は少しも肥大せず、エネルギーだけが大きくなる。大型のPAでコンサートを聴いているようだ。この曲はレコードでも持っているが、大音量ならCDが良い!ハウリングを気にせず、どこまでも音量を上げることができるからだ。
“LATELY”。音量を再び−20dBに落とす。この曲は、Unison−researchの真空管アンプ、SINFONIAで聞くのが好きだが、AMPZILLAでは、それよりも乾いた音色になる。トランジスターだから、音量は上げられるがもう少し透明感を伴う色彩が欲しい。このあたり、トランジスターアンプの限界か?贅沢な悩みは尽きない。
次々とソフトを聞きたくなるが切りが付かなくなるから、それは、いつか自宅にこのスピーカーを導入したときに取っておくとして、最後の曲を選ぶ。
GETZ
& GILBERTO / STAN GETZ , JOAO GILBERTO / SACD /UCGU-7006
スタン・ゲッツ & ジョアン・ジルベルト
1963年録音のマスターをSACDに焼き直したソフトだが、その録音はとても素晴らしい。最高のアナログ・レコードに勝るとも劣らないと感じるほどだ。最高のスピーカーには、最高のソースがふさわしい。だから、このSACDをどうしても聞いておきたくなったのだ。
実は、このレポートを書くために私は、休日出勤をしている。休日なら、邪魔が入らずレポート書きに集中できるからだ。レポート入力用のノートパソコンのキーボードを照らす、小さな白熱灯電球を残して、部屋の明かりをすべて落とす。音楽を聞くときには、蛍光灯のノイズがとてもじゃまになる。特に、繊細な音は蛍光灯のノイズにかき消されてしまうからだ。
窓の外はすでにとっぷり暮れている。お気に入りのシステムで、お気に入りの一曲を聴きながらレポートを書く。この仕事を選んで良かったと、心から思える一瞬だ。
音量は、生演奏と同じくらいの−30dBにする。音楽は、最適な音量(生演奏やコンサートと同じ音量)で聞くのが一番。音の関係が完全に再現されるからだ。
ガットギターの音が心地よい。オーガスチンよりはサバレスに近い乾いた音の弦。
乾いたガットギターの中にアストラット・ジルベルトの甘く切ない、オンマイクの声が乗ってくる。思わずギュッと抱きしめたくなるほどの色っぽい声。ピアノはバックでポロポロ鳴っている。楽器を吹くときに使う「タギング」のような、ボーカルの子音の使い方が心地よい。想像は、どこまでも膨らんで行く・・・。
ZINGALIもAMPZILLAも生まれは、イタリアのシチリア。明るい太陽が差し込む国の音だ。人生を最大に謳歌するようなその音。でも、この組み合わせは、知的な一面を失わない。情があるのに、流れない。不思議な音。人生の喜びも悲しみも、光も陰もきちんと伝えてくるその音は、生きることを知り尽くした底抜けの明るさと、どん底の悲しみからも立ち上がれるしたたかな強さを感じさせる。
音楽を通じて、スピーカーを通じて、いくつもの人生を知ることができる。大人の音楽ファンにこそ、使って欲しい素晴らしいスピーカー。それがZINGALIの1.12(One Twelve)だ!