i-pod リッピング プレーヤー ソフト 音質 評価 比較 テスト

iPod /PC /リッピングソフト音質比較テスト

2010年の「夏休み」にiPodを購入したのが、私のiPodデビューです。「納得できる音」でなければ音楽を聴きたくない私は「音の悪いiPod」で音楽を聴くことがなかったからです。ところが、買い換えた車のカーステレオで音楽を便利に聞こうと思うと「iPod」しか選択肢が無く、それなら「一番音の良いiPod」を探してみようと思ったのがこのテストのきっかけです。

まず、Nano / Touch / Classicの3台のiPodを購入し、カーステレオに「アナログ接続(iPodのヘッドホン端子とカーステレオのAUX/ミニステレオジャックを接続。ケーブルは市販品の安物)」して音を聞き比べました。TouchとClassicはほとんど同じで、すこしClassicの音がハッキリして低音もしっかりしているように感じました。ところがNanoを繋ぐと音がこもって不明瞭になり、明確に音が悪くなってしまいました。Touchよりもブラインドタッチで操作が可能なClassicを車での操作性の点から選び、とりあえずカーステレオで音楽を聞ける環境が整いました。

新しく購入した車はBMW135i(中古/2008年式)でしたが、2世帯移動用にもう一台所有しているHONDA オデッセイ(2007年式)のカーステレオと比べるとかなり音が悪く納得できません。オデッセイがFM放送だとすると、BMWはAM放送のように解像度が悪く、レンジの狭い音だったのです。気に入らない音を少しでも良くするためにカーステレオの音質調整機能を大幅に変えると音質が劇的に改善し、少なくともCD/FM放送ではオデッセイに勝るとも劣らない音で音楽を楽しめるようになりました。

しかし、残念ながらiPodの音はそれよりも数段劣りました。そこで接続ケーブルを自作し、取り込んでいる音楽ファイルをMP3から非圧縮のWAVEに変えると音質はグンと良くなって、「CD/FM放送よりも細かい音までハッキリと聞こえるよう」になりました。

最初は音の良さに騙されて気に入っていました。しかし、2〜3日経つと「音がうるさくて音楽に集中できなく」なったのです。これは、オーディオマニアが犯しがちな「耳に聞こえる音質を追いかけすぎたのが原因」に違いない」と気づき(音源をMP3からWAVEへ変えたときの改悪が一番大きく感じられた)、テストの場所を条件の悪い「車内」から最良の「3号館」に移して、iPodの音を納得行くまで確かめることにしました。

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使用したPC

Dynabook

XP Home Edition(SP3)

Pentium3
(動作周波数 0.75GHz)

512MB
PC100 SDRAM

20GB (Ultra-ATA)

Gataway 7430JP

XP Home Edition(SP3)

AMD Athlon64 3700+
(動作周波数 2.4GHz)

512MB
PC2700 DDR-SDRAM

80GB (IDE / ATA-5)

HP Mini 5101

XP Professional(SP3)

Atom N280
(1.66 GHz、667MHz FSB)

2GB (2048MB×1)
PC2-6400 DDR2-SDRAM

128GB SSD内蔵

DELL Bostro 3700

XP Professional(SP3)

Core i5-M520
(2コア、2.4 GHz)

2GB (2048MB×1)
DDR3-SDRAM(1066MHz)

320GB (SATA/7200rpm)

テスト環境

iPodのテストには「音源を作る」ためのPCが欠かせませんが、PCでころころ音が変わればテストになりません。そこで、まずPCの音質を検証しました。

・Gataway 7430JP
会社やイベントでの音出しにいつも使っているパソコンで、この音質を標準とします。

・HP Mini 5101
SSD、XP-PROが搭載されている小型のパソコンとして、持ち運び用として購入しました。

・Dynabook SS1600
RATOKのRAL-24196UT1のテスト時にRATOKから借りたPCです。WIN2000時代のPCでかなり古いです。

・DELL Bostro 3700
2コアの最新型CPU Core i-5 M520を搭載するパワフルなモバイル・ワークステーションです。

この4台のパソコンは同時に聞き比べたわけではありません。しかし、これまで何度となくテストに使ったり、イベントに使う間にそれぞれの音質を明確に把握できました。

一番音が良いのは最新&最強のDELL Bostro 3700です。強力なCPUを搭載するのでノイズが大きく、音が悪いかも知れないと思ったのですがそれは間違いでした。音が細かく明瞭で、高域がクリアです。これを100とします。

次点はGetaway 7430JPとHP Mini 5101です。Mini 5101は128GBのSSDを搭載すること、消費電力の小さい(ノイズが少ないと考えられる)Atomを搭載し、なおかつOSがXP-PROで他機種と共通です。このPCは最も音が良いのでは?と期待して購入したモデルです。しかし、USB出力の音質はGatewayと大差なく、Bostroよりも高域の明瞭度とクリアさが少し劣り80点です。ただしヘッドホン出力の音質は素晴らしく、かなり高価なピュアオーディオプレーヤーとヘッドホンアンプを使っているくらいの音が安物のイヤホンから出ます。時々イヤホンの存在を忘れるほど自然で細かい音で、その点は大変気に入っています。

最も音が悪かったのは、Dynabook SS1600(形式は間違っているかも知れませんが、WIN2000時代のモデル)です。ヘッドホン出力ではなく、USB出力機器として使ったのですが、音はもこもこして濁っている、低域は膨らむ、高音はベールがかかっていると、良いところは全くなく、50-60点です。

以上の結果から、今回の試聴テストにはBostro 3700を使用することにしました。絶対ではないかも知れませんが、PCに関しては最新モデルが最良のようです。ただし、ハードやOSが良い意味で「枯れて」こないと相性問題やドライバー関係のトラブルが多発するので「そこそこ枯れたモデル」、もしくは音響機器として古くから使われてきた「MAC」の最新機種がお薦めです。

iPod ヘッドホン出力音質テスト

iPod Nano (16GB)

iPod Touch (32GB)

iPod Classic (160GB)

※iPodは「シャッフル」を除く3機種を使いました。テストを行ったのが「夏休み」だったため、Nanoは最新モデルではなく、一つ前です。iPod Touchとi Phoneを比べると音がほとんど変わらなかったので、i PhoneはTouchと同じとみなしテストは省略しました。ヘッドホンは、イヤホンタイプと数種類のダイナミック型ヘッドホンを聞き比べ、iPodのヘッドホン出力で使って音が良く、癖も少なかったSennheiser HD25-1-2を使いました。

ヘッドホン

Sennheiser HD25-1-2

まずi-TunesでCDを音質劣化のない「WAVEファイル」で取り込み、それぞれの機器にWAVEファイルのデーターを転送して、それぞれの音質を比較しました。

 Classic

大音量にすると「シャー/ノイズ(暗雑音)」が入る。アンプのS/Nは悪い。再生中画面に触れると「チッ/ノイズ(タッチノイズ)」が入る。ハードウェアの安定性はあまり良くないが、音質は高域がクリアで伸びやか。バランスが良く、3機種中最も気に入った音が出た。

 Touch

ビジュアルが良く、多機能、かっこいい!音の細やかさはClassicとほとんど変わらないが、わずかに高音にベールがかかる。Classicの音を100とすると85-90くらいの感じだろうか。

 Nano

動作は安定してミュージックプレーヤーとして使いやすいが、高域がマスキングされて細かい音が全く聞こえなくなる。Classic、Touchと比べると明らかに音が悪く、音楽再生の音質を第一に求める方にはお薦めできない。

念のため比較対象として、AIRBOWのCDプレーヤー エントリーモデルのCD5004/LC4にCDを入れてヘッドホン出力で音を聞いてみました。

 AIRBOW CD5004/LC4

音の細やかさはClassicとさほど変わらない印象だが、音が重なったときの「自然な分離感(ばらばらに鳴るのではなく、その気になれば別々に音を追うことができる適度な分離感)」の良さ、楽器の表情の豊かさに大きな違いが聞き取れる。さすがに音響専用機器は違う。150-180点くらいの音質だ。

まとめ

iPodの音の違いは、当初予想したよりもかなり大きく感じられました。今回は「アナログ出力」の音質をテストしましたが、AIRBOW NA7004の開発で「デジタル出力(USB接続)」の音質をテストしたところ、結果が逆転し、個体メモリーを搭載するNano / Touch / Phoneの音質がほぼ同じで100、Classicは高音が濁って70程度の音質に劣化しました。

サイズや使い勝手がiPod選びには重要なポイントですが、音質を一番に求められるならアナログ/デジタルの両方の音が良い「Touch」がお薦めです(2010年末発売のNanoは未テストです)。

リッピング 音質テスト

CDに記録されているデジタルデーターをPCに取り込む(リッピング、リップ)ソフトの代表的は、PCに付属するWindows Media PlayerやiPodと連携するi-Tunesでしょう。これらのソフトでCDをリップする場合にはファイルを非圧縮のWAVEとして取り込む以外に、WMA/MP3/AAC/FLACなど様々な圧縮ファイルに変換して取り込むこともできます。

圧縮(エンコード)と展開(デコード)が行われるならば、ソフトによって音が変わることが考えられますし、非圧縮のWAVEで取り込むときにも、取り込みソフトで音が変わると言われています。さらには、取り込みに使うドライブでも音が変わると言われています。

そこで実際に音がどれくらい変わるのか?WAVEファイルの取り込みで音質を比べてみました。

事前にBostro 3700とiPod Classicで同じファイルを聞き比べ、音質テスト結果がほぼ同じになることを確認し、音質検証には「DELL Bostro 3700とヘッドホンの組み合わせ」を使いました。これならファイルをiPodに転送する手間を省け、テストがスムースに進みます。

ハードウェア 音質テスト

まず、GatewayとDELLの2台のパソコンを使い同じソフト(Windows Media Player)でCDを取り込みましたが、取り込んだPCによる「有意義な音質差」は感じられませんでした。

一部のマニアは、CDのデーターを取り込むとき、使用するドライブや外付けドライブの場合は接続ケーブルで音が変わると言いますが、私の今までの経験では、顕著に音が変わったという記憶はありません。少なくとも今回テストしたClassicとTouchのヘッドホン出力の音質差の方がずっと大きいように思います。

市販の低価格ポータブルCDプレーヤーから光デジタル出力でデーターを取り出してもCDのデータが損なわれないというテスト結果報告もありますから、個人的には取り込みのハードウェアに関してはさほど神経質になる必要はないと考えます。

USBケーブルは、PCと外付けDACの間では音質に大きな影響を与えます。しかし、PCとドライブの接続に使った場合、音質に大きな影響はないと感じています。高音質USBケーブルはDACだけに使っても、十分な効果を発揮します。

ソフトウェア 音質テスト

続いてリッピングするための「ソフトウェア」を検証しました。取り込みはWAVEファイルで、取り込み方法は「最も高音質になるように、ソフトを設定して」行いました。再生ソフトはWin-Ampに統一し、再生ソフトによる音質変化を排除しています。

・i-Tunes
細かい音は良く聞こえるが、中低音がややぼけている。濁りがあり、立体感にも乏しい。

・Windows Media Player
ちょっとだけ透明感が上がったように聞こえる?

・Win-Amp
更に透明感が上がったように聞こえる?

・Foober 2000
i-Tunesと同じ印象。

・EAC(Exact Audio Copy)
少しメリハリが強くなってノイズが少ない感じ?S/Nが良くなったように感じる。

まとめ

ハードウェアと同じく取り込みソフトウェアーによる音の違いも、iPodと3種類のヘッドホン出力の差よりも遙かに小さく、ほとんど有意義な差はないと思われます。

取り込み速度やエラー訂正設定のあるなしでも音はほとんど変わらず、使い勝手の良いソフトでCDをリッピングすれば十分な音質でデーターが取り込めると考えられます。

ソフトを比べると取り込み速度はFoober 2000が早かったのですが、デフォルトの設定ではCD情報がデーターベースから取り込みにくいなどの問題がありました。音はEACが良かったように思われますが、精神衛生上満足できるくらいの小さな違いでしかありません。

読み込んだCDの楽曲情報を後から手動で入力するのは大変手間がかかりますから、デフォルトでもCDの楽曲情報を自動的に取り込んでくれる、Windows Media Audioやi-TunesなどのソフトでCDをリッピングすればそれが便利だと思われます。

ファイル形式 音質テスト

CDをPCに取り込む(リッピング、リップ)ソフトでは、音質は大きく変わらないことが分かりました。また、音質テストに最適なPCも選べました。これで安心して今回の目的である「ファイル形式と音質の関係」のテストに臨めます。

ファイル形式と音質の関係を明確にするため、取り込みソフトのみを変えて再生ソフトは「Win-Amp」で固定して試聴を行いました。取り込みファイル形式はそれぞれのソフトで「使われるであろうファイル形式」を適当に選んで音質テストを行いましたが、それでも同じ音源を数十回以上聞くことになり、結構大変なテストになりました。

・i-Tunes

○MP3/320Kbps (ファイルサイズ:11548KB)
自然な感じで聞きやすい。ファイルサイズは1/4に減少しているが、情報量は大きく減った感じがしない。聞こえなくてもよい音が適度に整理されて聞きやすく、音の広がりも良い。

△WAVE (ファイルサイズ:50904KB)
音がハッキリするが、それぞれの音がばらばらに分解されている。
響きも少なく音がドライで、広がらない感じ。

△AAC/320Kbps (ファイルサイズ:11811KB)
全体的に見通しが悪く音が濁っている。同じ圧縮でもMP3の方が良い。

・Windows Media Player

○MP3/320Kbps (ファイルサイズ:11537KB)
i-Tunesと比べると音が少し硬い。高音が強くなった。
エネルギー感があり、良い感じで音楽が聴ける。

△WAVE (ファイルサイズ:50904KB)
音が少し細くなるが、なぜか見通しが悪くなり音が濁る感じ。
一つ一つの音の質は高まるがばらばらに鳴っている感じで、全体のまとまりに欠ける。

◎WMA(可変ビットレート) (ファイルサイズ:10833KB)
音が明るく、開放的。音の強弱もハッキリする。S/Nも向上する。
ボーカルは表情が豊かで聞きやすい。納得の音質だ。

○WMA(ロスレス) (ファイルサイズ:21229KB)
可変ビットレート圧縮に比べがクッキリする。高音の解像度は高くなるが、雰囲気の変化が乏しく音が硬くなる。可変ビットレートの方が聞きやすく音が自然だった。

・CDダイレクト
CDをHDDに取り込まずCDドライブで直接再生して聞いてみた。音が細かく、広がりも豊かで安心して聞ける音が出る。普段CDで聞いている音に最も近い。

・Win-Amp

○FLAC (ファイルサイズ:21550KB)
強弱がハッキリして、リズム感が出る。音も細かく、雰囲気も悪くないが、演奏が少し雑な感じに聞こえる。

△WAVE (ファイルサイズ:50904KB)
FLACよりも音が細かく、音の粒子の一つ一つがハッキリする。でも、やはり個々の音がばらばらで一斉に突っ込んできてうるさい。デリカシーが感じられない。オンマイクな音で聞き疲れる。

・EAC(Exact Audio Copy)

◎FLAC (ファイルサイズ:21637KB)
音は少し細かいところが聞き取れなくなるが、それはソフトの粗を暴かないという意味でよい方向の変化だ。WAVEのようにオンマイク(マイクに近い)にならず、楽器とマイクの位置関係が遠くなり、直接音(楽器の音)と間接音(響き)のバランスが自然になる。生演奏を聴いているように適度に音が混ざり、自然で聞きやすい。全体のベストかも知れない。

△WAVE (ファイルサイズ:50904KB)
音が細かくクッキリしているが、音のバラバラ感は一番大きい。気のせい程度かも知れないが、高音は一番ハッキリしているように聞こえるし、マイクと音源の距離も一番近く感じられる。音はよいが、音楽はバラバラ。しかし、最初に述べたようにその差は「再生機器(iPod)」による音の差よりも遙かに小さい。再生時の音の作りを阻害するほどではなく、無視してよいと思えるほどの差でしかない。

まとめ

最後に確認のため、iPod Classicに音源ファイルを転送し、ヘッドホンと「アナログ出力を3号館のシステムに繋ぎスピーカーから音を出して」聞き比べましが、試聴の結果は、PC+ヘッドホンの音質チェックとほぼ完全に一致しました。

今回のテストはPCに特殊な設定をせずに行っています。Windows XPでは「カーネルミキサー」が悪者にされてますが、少なくとも「音量を最大(音を小さくするとデジタル領域で音質劣化が起きる)」にして聞く限り、音は変わりますが大きな悪影響はないと判断しています。

また、カーネルミキサーをバイパスする/しないと、ファイルを圧縮する/しないの音質変化の傾向はよく似ていて、どちらも「理論的に音の純度を上げる=データの純度を上げる」ほど、「音がバラバラに分解されて、聞き疲れる傾向が強く」感じられました。

ファイルサイズを掲載しているのは、ファイルを圧縮した場合同じ形式(MP3/320Kbps)でもソフトによって取り込んだデーターの「ファイルサイズ」が違うからです。つまり、ソフトによって「異なる圧縮プロセス」が使われているということです。逆にWAVEファイルはサイズが完全に一致しています。しかし、WAVEファイルの場合「再生時間=ファイルサイズ」と考えれば、ファイルサイズが同じだから取り込まれたデーターが同じとは限らないかも知れません(細かく調べていないので間違っているかも)。

また、同じ音源を圧縮ファイルに複数回取り込んだとき、ファイルサイズが同じになるかどうか?あるいは、PCが変われば圧縮後のファイルサイズが変わるのか?などの検証は忘れました。同じなのが当然ですが、もし変わったら面白いですね。興味があれば、簡単にできるのでやってみて下さい。

全体のまとめ

PC(ディスクレス)オーディオの最大の誤解は「データーが同じなら音質は変わらない」という間違いにあります。データーが同じなら「音が変わらない」という主張は、CDプレーヤーが発売された初期に「デジタルだから高級品も低価格品も音が変わらない」と主張されたことの繰り返しのように思います。

今でこそ「CDプレーヤー」や「接続ケーブルで音が変わる」のは周知ですが、未だに「音が変わるはずがない」との主張を耳にすることがあります。まず「音が変わる」という事実を謙虚に受け入れ、それから「しかるべき理由を推測する」のが本当の意味での科学的考察だと思いますが、知り得た理論や技術で「音が変わる説明ができない」から、「音が変わることを否定」する少数派も存在するようです。

とはいえ「音が変わる原因」について、ある程度の説明は欲しいところです。私が考えた原因はいくつかありますが、間違いないのは「デジタルデーターの形式変換(D-D変換)を行うハードウェアー」で音が変わると言うことです。

marantz NA7004にはUSBメモリーを直接挿入できるUSBコネクターが前面に設けられています。このコネクターに音源が入ったUSBメモリーを直接挿入して音を出す場合と、USB端子のあるルーターにUSBメモリー(同じもの)を挿入して、LAN経由(DLNA機能)で音を出した場合でデーターは全く変わらないはずにもかかわらず、音質は圧倒的に後者が優れています。ルーターを経由させることで解像度や高域の明瞭度は比べものにならないほど向上します。理由は定かではありませんが、USBメモリー内部のデーターを一気にアナログ音声に変換するのではなく、一度LANを通すことで通信状況が好転しアナログ変換がスムースになるのかも知れません。

とにかく「D-D変換では信号品質は変化しない」というのは明かな間違いです。元データは絶対に変わっていないはずですが、デジタルデーターをアナログ化した場合「音(映像も)」影響を受けるのです。アナログ信号品質を変える原因はノイズなのか?あるいはジッターなのか?明確には分かりませんが、とにかく「デジタル信号の経路にあるIC(回路)やケーブル」は、確実に再生品質に影響を与えるのは事実です。

誤解や短絡を避けるために少し補足を加えます。CDに記録されたPCM信号は16bit(桁)の0/1で記録されているわけではありません。EFM変調という特殊な方法で暗号化され数%以上のビットの読み取りミスが発生しても、エラー訂正なしで「完全に元の信号に復調できる」ように配慮されています。

CDに記録された「デジタル信号」は、読み取り素子で「違う形で復調」され、さらに「異なる形式のデジタル信号に変換」されて伝送されます。HDDに記録される形式も、USB経由で伝達される信号も、LAN経由で伝達される信号も「PCMの元データー」は同じですが、それぞれの仕組みにあった形に「再構成」され、異なる形式で伝送されています。

このように音楽が変換されたPCM信号は、伝達時に何度も「違う形変換」され、最終的にDACに入力できる信号(多くの場合はI2S)に変換されて、アナログ化されます。この複雑なデジタルtoデジタル変換(D-D変換)時に、データーではなく「音質が変化する」のです。今回のテストではそういう「デジタル領域での音質変化」の影響で、本来高音質であるはずの「WAVE」よりも圧縮された「MP3やWMA、FLAC」の音が良く聞こえたのだと思います。ただし今回のテスト結果が通用するのは、2010年段階のiPodや汎用ノートPCに限定されます。より本格的なPCオーディオ機器や、技術が進む未来には結果が変わることは十分あり得ます。

例えば、最近行ったNA7004でのテストではUSB/iPod経由では「MP3/320Kbps、圧縮音声」が高音質でしたが、DLNA経由でWAVEとMP3を比べると圧倒的にWAVEの音が良く、理論通りの音質が得られました。これは、通信速度や通信素子が良好になったため、音質と理論が一致した結果でしょう。

デジタルはアナログよりも音が良い、デジタルなら音が変わらないと考えられていますが、それは大きな間違いです。音をマイクで電気信号に変換すると「連続曲線」が出力されます。それをデジタル化して、再びアナログ化したときに得られるのは、マイクが出力したのとは似ても似つかない「階段状のぎざぎざ線」です。アナログをデジタルに変換し再びアナログに戻すと、滑らかな曲線が階段状のぎざぎざの線になるのです。この二つの線を重ねた時に「重ならない部分(丸く膨らんで直線からはみ出した部分)を「量子化誤差」と呼んでいます。量子化誤差は、アナログをデジタルにしたときに避けられない「歪み」です。

デジタル信号をアナログに戻すとき「量子化誤差」で失われた部分をどのようにして元に近い形に戻すか?デジタル領域の演算でもそれは可能ですし、アナログ領域のフィルターでもそれは可能です。しかし、いずれにしても「近似値」であり、完全に元には戻らないのです。そういう意味で、理論的には「理想のデジタル」は「理想のアナログ」に敵わないのです。

しかし、現実にはアナログ領域でも「歪み」が発生し、信号品質が損なわれます。さらに、再現された電気信号をスピーカーに入力し、再び「音(空気振動)」に変換するときにも「大きな歪み(この歪みが最も大きい)」が発生します。このように録音−再生というメカニズム全般を考えると、発生する歪みは数割にも及び、言い換えるなら「録音再生時には、数割ものデーターが失われている」のです。オーディオの音を良くしようと取り組むなら、スピーカーでの歪みと部屋の影響(ルームアコースティック)を整えるのが最も効果的なのは、そこで発生する歪みが「最も大きい」からです。

録音−再生プロセスの全体像を見渡してみると、「生演奏と錯覚するほどのいい音」を出せるのが奇蹟のように思えてきます。それは間違いではありません。逆に考えるなら「そういういたらない音でも生演奏のように聞こえてしまう」のは、人間に素晴らしい「脳(想像力)」があるからです。どうせならその「脳」を喜ばしてあげましょう。オーディオにはその力と楽しみがあるのですから。脳の存在、人間の存在を否定したら、オーディオはつまらなくなるだけだと思うのです。

2010年12月 清原 裕介