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audio-technicaRatocから発売されたUSBバスパワー方式小型DAC"AT-HA70USB"、ACアダプター方式小型DAC"AT-HA26D"、ACアダプター方式小型ヘッドホンアンプ"AT-HA21"とKingrexから発売されたACアダプター式USBDAC"UD384"、専用充電式外部電源"U Power"の音質テストを行いました。
比較の基準としてPCのヘッドホン出力にSennheiser HD25-1を繋いで音楽を聞いてみました。この時の音質をグラフの基準(5点)とし、それぞれの機器の音質を相対的に数値/グラフ化してみました。
<明るい>
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DELL
Bostro 3700 |
Sennheiser |
再生ソフト Win Amp |
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<音質評価> 今回のテストの評価の指標としてPCのヘッドホン端子に直接Sennheiser HD-25-1(70Ω)を繋ぎ、矢野顕子さんのアルバム「ピヤノ アキコ」から「中央線」を聞いてみました。このソフトは小ホールで演奏されたピアノの弾き語りで録音が非常によいのが特徴で、ピアノとボーカルの音だけでなくホールの間接音(エコー成分)もきちんと収録されています。「生演奏現場の録音」を経験している私にとっては、このソフトは装置の評価を下しやすいソースの一つになっています。 試聴に使った「Sennheiser
HD-25-1」は、レコーディングモニター用に多くのヘッドホンをテストした結果「もっとも生音に近い(もっとも素直な音)」の製品として選んで愛用しているものです。音は良いのですが耳に当たる部分(イヤーパッド)が小さく、耳がつぶされる感じで長時間かけていると耳が痛くなります。 テストに使ったPCはデュアルコアのCPUを搭載したWindows
ベースのPCで、OSはXP Professionalがインストールされています。再生ソフトには、Win-Ampを使いました。 PCが発生するデジタルノイズの影響でボーカルは少し子音が荒れていますが、耳にきつすぎるほどではありませんし小さいノイズなので音楽の細かい表情の変化をそれほど削ぐことはなく、音楽の躍動感やニュアンスはきちんと再現されます。ピアノの音はアタックがしっかりとして、音の変化もリニアで生楽器らしい音質で再現されます。全体的にPC特有のノイズ成分を除けば、再生音は大きな癖もなく素直で広がりも十分に感じられます。ノイズっぽささえ我慢できれば十分音楽再生に耐えるクォリティーを持っています。しかし、エコー成分や爪が鍵盤に触れたときの「チッ」という小さな音はノイズにマスキングされてほとんど聞こえません。音楽的なバランスや再現性は決して悪くないのですが、S/Nにはかなり問題があります。また今回使ったPCの音量調節はアナログではなくデジタル領域(カーネルミキサー)で行われる、音量を絞るに比例して小さな音が聞こえにくくなります。ノイズの量は変わらないので、小音量での音楽鑑賞はちょっときついです。 自宅で使っているNet Bookクラスの小型PCはCPUにAtom、データストレージにSSDを搭載している関係か、ヘッドホン出力のノイズはほとんど気になりません。iPodなどヘッドホン出力もノイズはほとんど気にならないことから、音楽再現用PCはCPUが小さく消費電力が少ないものがノイズの点では確実に有利だと感じます。 |
audio-technica AT-HA21 メーカー希望小売価格 ¥24,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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<総評・PCとaudioquest製ケーブルで接続> |
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PCのボリュームを最大にしてaudioquestのMINI-3をつかってPCヘッドホン出力とAT-HA21のRCA入力をで接続しました。ヘッドホン出力をLINE(RCA)入力に繋げるのは意外かも知れませんが、ほとんどのPCやiPodなどのヘッドホン出力は、ヘッドホンアンプやプリメインアンプなどの「LINE」入力に繋いで使えます。ボリューム最大で音が割れるようなら、PCの音量を出力を少し絞ると良いでしょう。 PCのボリュームを最大にするのは、PCのデジタル音量調節の音質劣化を防ぐためです。音量最大で繋ぐとS/Nが改善し、細かい音が聞こえるようになります。 PCのノイズが乗っているヘッド出力から信号を取ったため、ヘッドホンアンプ側の音量を最大にすれば、まだPCノイズが聞こえます。しかし、その音はかなり小さくなり、音楽を聞いている状態で音を止めてもヘッドホンからはノイズが聞こえなくなりました。 AT-HA70USBではやや硬く、平面的に感じられたピアノの音やボーカルが柔らかく広がるようになります。PC-ヘッドホン/ダイレクト接続では聞こえなかった爪と鍵盤の触れる音も「正しく」再現されます。 ホールのエコー(ホールトーン)もきちんと聞こえるようになり、生演奏をヘッドホンでモニターしている雰囲気に変化したこの音はかなり「良い音」です。 AT-HA70USBで聞く音楽は、細かい破片の集まりのようにどこか「分断されたよう」に感じたのですが、PC+AT-HA21では音が滑らかに繋がり演奏の流れがスムーズになりました。また、AT-HA70USBでは聞こえなかった「ボーカルの息づかい」まで聞こえるようになり、ピアノの音色の変化も生々しく魅力的に変わりました。PCとAT-HA21を組み合わせると、音源がPCとは思えない「良い音」で音楽を聴けるようになりました。 PCのヘッドホン出力は音が悪いと考えられているようですが、私は決してそうは思いません。出来の悪い外付けUSBよりも音が良いことの方が多いと思います。 |
audio-technica AT-HA26D メーカー希望小売価格 ¥34,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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<総評・PCとaudioquest製ケーブルで接続> |
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ケーブルやボリュームなどのセッティングはそのままにして、ヘッドホンアンプだけををAT-HA21からAT-HA26Dに変えて「中央線」を聞きました。 基本的な音調は変わらないのですが、心なしか高域の見通しが良くなり解像度感も増加したように聞こえます。相対的に中低域の厚みや粘りが少し失われたようにも感じます。この音質変化をスピーカーに例えるなら、いわゆるモニター的な音調に変化したと言えそうです。映像に例えるなら、シャープネスを少し上げて、輪郭をすっきりとシャープにしたイメージです。しばらく聞き続けていると、AT-HA21から透明感や明瞭度感は一段とアップしHiFi方向に振られてはいますが、この細かくハッキリした音もかなり魅力的に感じられるようになりました。 ピアノは鍵盤のタッチノイズだけではなくペダルを踏む音まで再現され、ボーカルは唇に唾が絡むようなリップノイズまでしっかり聞こえます。それでいて、すこしも押しつけがましい感じがしません。 AT-HA21とAT-HD26Dは外観が似ていて重量も同じなので、AT-HD26DはAT-HA21にDACが追加されただけのように感じますが、なぜかアナログヘッドホンアンプとしての能力はAT-HD26DがHA21を上回る様に感じました。 この差は、今回テストしたAT-HA21とAT-HA26D個体差やエージングによる以上のものだと思います。AT-HD26Dは、絶対的にもかなり「いい音」のヘッドホンアンプに分類できると思います。 |
audio-technica AT-HA70USB + AT-HA26D メーカー希望小売価格 ¥74,000(税別) |
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PC>USB>AT-HA70USB AT-HA70USB>光デジタル>AT-HA26D PCの出力をAT-HA70USBで光デジタルに変換し、 |
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<柔らかい> - - - - - * - - - <硬い> |
<総評> |
最後にAT-HA70USBをPCにUSB接続し、HA70USBの光デジタル出力をAH-HA26Dに入力して音質をチェックしました。 音が出た瞬間から、ノイズの影響を全く受けない透明で細やかな音場が大きく広がる事に驚かされました。 HA70USBとHA26Dの間を光デジタルで繋ぐことで電源系のデジタルノイズを有効に遮断できると考えてこのテストを行ったのですが、実際に音を聞いてみるまでは、これほど大きな音質改善が実現するとは想像すらしていませんでした。もはや音源がPCとは全く思えない細かく、滑らかで澄み切ったサウンドです。 目の前の生演奏を聴いているように感じるほど、非常に細かな音や空気の動きのようなものまでも感じられるようになります。 AT-HA26DをPCのヘッドホン出力に直接繋いで聞く音もかなり良かったのですが、AT-HA70USBを介して音楽信号をHA26Dにデジタル入力することで、ノイズっぽさが完全に消え、高域の滑らかさと透明感、解像度感は飛躍的に向上します。まだ、少し音のエッジが硬く感じられますが、もしその部分が後わずか柔らかくなれば、ピュアオーディオ製品と比較してもかなり満足度の高い音質で、音楽を楽しめるのではないだろうかと思えます。こんな小さな装置の組み合わせで、これひど良好なサウンドで音楽を楽しめるとは想像していませんでした。 |
audio-technica 新製品テストの総評
逸品館は設立当初より「スピーカーを除くオーディオ機器では、一桁の価格差は音質的に優位ではない」と主張しています。なぜなら、オーディオ機器の多くは量産することで価格が非常に安くなるからです。オリジナルのパーツや回路を使うと開発コストが売価に跳ね返るため、価格は高くなります。オーディオマニアは「専用パーツ」をありがたがりますが、わずかなテストしか行えずに作り出されている「専用パーツ」を私は信用しません。それより、高い品質を維持しながら量産で厳しくコストダウンされている「汎用パーツ」に「専用パーツ」よりもよいパーツが見つかることがあるからです。
デジタルオーディオ関連の製品は、特に量産によるコストダウンが著しい分野です。また「プラスティック成形部品」が多用される製品も量産で「型代の償却コストが無視できるほど小さくなる」ため、数を作れば作るほど高品質の製品を低価格で生産できるようになります。PCで音楽を聞いていらっしゃる多くのお客様はヘッドホンを愛用されていると思いますが、ヘッドホンも量産効果により価格が下がりやすい製品なので価格と音質が比例しない商品(特にカナル型)の一つに上げられます。「音質は価格に比例する」と主張するのは、メーカーと共存関係にある雑誌社や評論家、あるいは高いものを購入している一部のユーザーであることが多く、オーディオ製品を統計的に見た場合、「音質が価格に比例する」という考え方は通用せず、「価格は生産量に比例する」という考え方がより適切に当てはまるように思います。量産品にも「良い物」は見つけられますし、高額品が量産品より劣ることもまれではありません。
しかし、逆に量産してもコストが下がらない箇所もオーディオ機器には存在します。例えば電源回路は材料費がコストに占める割合が大きいため、量産してもあまり価格が下がりません。アナログ増幅回路も価格がこなれ、性能の高いICが容易く入手できるため量産によるコストダウンが期待できません。つまり価格を下げるためには、良質な電源回路やアナログ回路は採用できないのです。この現象はPCにもっとも良く当てはまります。オーディオ機器に比べPCが優位なのは「デジタル回路」に限られます。電源回路を含むアナログ回路は、オーディオ製品と比べるとあまりにも貧弱で劣悪です。今回のテストのように、PCをデジタルの「送り機(トランスポーター)」として有効に活用し、電源回路を含むアナログ回路やDAC部を外部に変更すれば、PCの音質を飛躍的に改善できます。
AT-HA70USBはPCよりも高性能なDACを搭載していますが、アナログ回路や電源(USBバスパワー)が貧弱なため、PCのヘッドホン出力の音質を大きく超えることが出来ませんでした。AT-HA21はPCの欠点であるデジタル・ボリュームによる音質劣化を改善し、外部電源を使うアナログ増幅回路によるヘッドホン駆動により、PCのダイレクト出力に比べよりよい音でヘッドホンを鳴らしました。AT-HA26Dはヘッドホンアンプとして使った場合も、AT-HA21を超える良好な音質が実現しました。
AT-HA70USBとAT-HA26Dを組み合わせる事でAT-HA70USBの長所とAT-HA26Dの長所が上手く組み合わさり、今回のテストでもっとも良い音質を得られました。
Cambridge Audio製品、Wireworldケーブルなどの取り扱いを行っている、輸入代理店Naspecが台湾の新進オーディオメーカーKingRex社製品の取り扱いを開始しました、Kingrex社は1980年代後半に台湾(台北市)に設立され、PDA(携帯端末)用バッテリー、メモリ、モジュール、ゲーム機用のオーディオアンプ回路の設計やディスプレイモジュールなど、さまざまな機器を開発してきました。これらの経験と技術を生かして2006年末にオーディオマニアの欲求を満たすためにPCハイファイとミニオーディオアンプとDACの製品開発を開始し、現在に至ります。
DELL
Bostro 3700 |
Sennheiser |
再生ソフト Win Amp |
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<総評・PCとヘッドホンを直接接続> |
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試聴曲(CDリッピング): I
Remember You / AI 組み合わせているヘッドホンが優秀なので低音はかなりよく出ます。音の広がりは普通ですが、全体的にやや乾いた感じのする明るい音です。リズムセクションは弾んでパワーがあり、ボーカルのニュアンスはきちんと出ます。伴奏とボーカルのバランスは、少し伴奏が強く感じられるかもしれません。ギターなどの超高域部は、少し聞き取りにくい感じがあります。全体的には聞いていて楽しい音ですが、あまり高性能なヘッドホンを使うと高音のざらつきなどが気になって、聞き疲れる事があるかも知れません。PCのヘッドホン端子の音質は、それほど悪いものではありません。 |
Kingrex UD384 メーカー希望小売価格 OPEN (生産完了モデル) |
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<総評・PCとKingrex UD384を付属USBケーブルで接続> |
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試聴曲(CDリッピング): I
Remember You / AI 音のきめが細かくなって、滑らかさが出ます。高域の見通しが向上し、堅さやざらつきが取れて高域がすっきりします。ボーカルと伴奏の分離が向上し、声と伴奏がかぶらなくなります。しかし、ボーカルのニュアンスは単調で、演奏を楽しめません。DACの出力は向上していますが、搭載されるアナログ回路の品質が伴わないイメージです。音質は向上していますが、J-POPを聞く限りではPCのヘッドホン出力でも十分だと感じました。 |
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<総評・PCとKingrex UD384をWireworld StarlightUSB 2.0 USBケーブルで接続> |
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試聴曲(CDリッピング): I
Remember You / AI PCのダイレクト出力の良さとU384の良さが両方出てくる感じです。しかし、ケーブルとDACにかかった金額分良くなったか?と問われると、ちょっと答えに戸惑います。変化はありますが、その絶対量が小さく感じられるからです。ケーブル以外のどこかにボトルネックがあって、そこで音質がセーブされている感じです。 |
Kingrex U Power メーカー希望小売価格 OPEN (生産完了モデル) |
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<総評・PCとヘッドホンを直接接続> |
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試聴曲(192kHz/24bit): 2Lサンプル曲/Kingrex
UD384に付属・2L50SACD_tr01_stereo_192kHz.flac 初めてPCで音楽を聴いてから数年が経過しましたが、PCの音はCDプレーヤーなどのディスクメディアに比べると響きが少なくさっぱり感じられる傾向が強いことがわかってきました。最初は物珍しさも手伝って「よい音」に聞こえたPCの音ですが、このような理由から最近では理知的すぎるように感じています。 アナログレコードがCDに変わったときに音楽ファンから指摘されたのと同じような変化が、ディスクメディアからシリコンメディアへの変遷で感じられます。いい意味でも悪い意味でも、PCの音はデジタルサウンドの範囲を脱していません。 PCのヘッドホン出力からダイレクトに出す音は、質的には満足できるよい音ですが響きと潤いが少なく感じられました。逆に言うならPC外付けのオーディオ機器には、PCダイレクト出力で不足する響きと潤いが求められるべきでしょう。 |
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<総評・PCとKingrex UD384を付属USBケーブルで接続し、外部電源として Kingrex U Powerを使用> |
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試聴曲(192kHz/24bit): 2Lサンプル曲/Kingrex
UD384に付属・2L50SACD_tr01_stereo_192kHz.flac 練習用の音の堅い楽器が、コンサート用の上質な楽器になったような変化が感じられます。外部電源をつないだ、この音であれば合格だと私には感じられました。 |
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<総評・PCとKingrex UD384をWireworld StarlightUSB 2.0 USBケーブルで接続し、外部電源として Kingrex U Powerを使用> |
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試聴曲(192kHz/24bit): 2Lサンプル曲/Kingrex UD384に付属・2L50SACD_tr01_stereo_192kHz.flac 音が明るくなってくっきりします。付属のUSBケーブルと比べると、音の強弱やテンポの緩急がよりはっきりして、演奏の魅力が増しています。それぞれの楽器の音色の違いもより明確に聞き取れます。響きは依然少ないのですが、ステージの上で奏者の音を直接聞いているような質が高く表現力のある音質です。ヘッドホンを使っているという違和感がほとんどなく、目の前の生演奏を聴いているような感覚です。PCの良さである「色づけの少なさ(癖のなさ)」も手伝って、本物を聞いているようなリアルさがあります。 UD384単体ではそれほど顕著でなかったUSBケーブルによる音質の違いが、付属電源を使っているときには無視できない大きい変化をもたらします。今聞いている音は、いい意味でモニター的という表現が当てはまりますが、この音はよい音です。演奏家が自分の演奏をプレイバックして聞きたい時や、演奏の記録を原音に近く再現したいとお考えの場合には、最適な選択になるのではないでしょうか?この正確なサウンドが、この価格で実現するのは「悪くない」と思います。 UD384へのU
Powerの追加とWireworld Stirlight USB2.0の使用で、音質はPCダイレクト出力とは次元の異なるレベルに昇華しました。 |
試聴テスト後感想
audio-technica製品とKingRex製品のテストを行った日時は違いますが、印象は大きく変わりません。二つのテストからは共通の答えが導き出されました。一つはPCのヘッドホン出力は、それなりにかなり優秀であるということ。もう一つは、PC用外付けオーディオ機器は、慎重に選ばなければならないということです。
PCから出力される「デジタルデーター」はかなり優秀です。なぜならばPCは度重なる技術革新によって、デジタル情報機器としてはCDプレーヤーが発売された当時とは次元の異なる高性能が実現しているからです。しかも、価格はうんと安くなっています。それに比べるとCDプレーヤーのメカニズムデジタル信号読み取り技術は当時から、画期的には進歩していません。記録されたデジタルデーターの読み出し装置としてPCは、間違いなく現在のCDメカニズムよりも安価で高性能です。問題は、アナログ領域の音質です。なぜならば、どれほど優秀なデジタルデーターも「優秀なアナログ信号」に復調できなければ、宝の持ち腐れになり高音質を発揮できないからです。
世の中のPCオーディオ関係の情報を見ていると、デジタルには強いようですが「アナログ技術」に疎い(というかほとんど知らない)ようで、デジタルデーターが細かく正確(エラーがない)であれば、出力される音質も優れると短絡して考えるケースが多いようです。例えば、USBケーブルを変えることで明確に音は変わりますが、机上でそれを説明できないからといって音が変わるのがおかしいと主張するのは明らかに間違っています。デジタル技術だけではなくアナログ技術、そして何よりも機器設計の現場を知っていれば、USBケーブルで音が変わることを技術的かつ論理的に説明するのはそれほど難しいことではありません。
また、測定できないから音が変わっていないという主張も間違いです。人間は測定器では計測できないわずかな音の変化を敏感に聞き分けます。それは「脳」という、優れた情報処理装置があるお陰です。しかし逆に、耳の感度を上げるために「脳(記憶を含む)」を最大に活用する関係で「錯覚(勘違いや思い込み)」を起こしやすいのも事実です。
音質の良否はオーディオを始めたばかりの初心者に分かるほど簡単なものではありません。また、演奏現場や音楽のなんたるかを知らない技術者に理解できるほど、易しいものでもありません。音質とは料理の味わいにも似て、奥が深く好みの差も大きいのです。それを理解せずに、持論を主張するのは愚かなことだと私も最近になって気付くことができました。
PCオーディオは「音の変化」を楽しむための入り口としては、価格も安く取っつきも良いので適していると思います。しかし逆に、バリエーションが多すぎるため「音楽を楽しむための良好な音質が得られにくい」という問題点も抱えているように思います。音楽を楽しむためのオーディオと、音の変化を楽しむためのオーディオは、似ているようで違いも大きいと思います。もちろん、それはピュアオーディオ製品にも通じることです。
2012年1月 逸品館代表 清原裕介
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