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Musical Fidelity (ミュージカル・フィディリティー) M3Scd、M3Si、M6Scd、M6Si 音質試聴
Musical Fidelityは、出力20Wの純A級プリメインアンプ「A-1」がその代表作として知られている、イギリスのオーディオメーカーです。「A1」は、当時の高級アンプとして手の届きやすい、12.8万円という低価格が設定されていたことや、ハイエンド・オーディオ誌の「ステレオサウンド誌」が、おすすめアンプとして本格的に取り上げたことなどから、Musical Fidelityの名前を国内に知らしめる大ヒットとなりました。発熱の多い「純A級」回路を採用する「副作用」で、故障の多い製品でしたが、修理が難しくなった今でも、「A1」は大切に使われているようです。 「A-1」は、その後、ハイパワーモデルの「A-100」や電源別置きモデルの「A-1.20SL」へと展開され、そしてハイエンドモデル「A-1000」でシリーズを終えます。その後発売されたのが「Mシリーズ」です。この「Mシリーズ」からは、プリメインアンプだけではなく同じデザインの「CDプレーヤー」もラインナップされるようになりました。 「A1」が大ヒットを納めた頃の輸入代理業務は「audio-technica」が行っていましたが、その後audio-technicaの輸入業務縮小に伴い「ハインツ&カンパニー」が輸入代理権を獲得し、国内でMusical Fidelityの拡販につとめました。しかし、10年ほど前から「ハインツ&カンパニー」の企業売却に伴うオーディオ業務縮小により、日本国内への本格的な輸入業務が滞り、アマゾンのショッピングサイトやヤフーなどで、並行輸入品が細々と売られているような状態が続いていました。 Musical Fidelityは、逸品館がオーディオショップを始る時に取り扱いを開始したメーカーであり、また「逸品館チューニングのMusical Fidelityモデル」を発売するほど、気に入っていたことなどから、私はMusical Fidelityの正規モデルが日本で入手できなくなったこの状態を憂い、懇意にしている輸入代理店「ロッキーインターナショナル」に、Musical Fidelity製品の輸入代理業務を開始するように働きかけた結果、Musical Fidelityとロッキーインターナショナルの協議が成立し、2016年より「ロッキーインターナショナル」がMusical Fidelityの日本国内輸入業務を開始する運びとなりました。 今回テストしたのは、日本国内の商業電圧に合わせた「100V仕様のトランスを搭載するロッキーインターナショナル正規輸入品」のプリメインアンプ「M6Si」と「M3si」、CDプレーヤーの「M6Scd」と「M3Scd」の4モデルです。 メーカー希望小売価格 \266,000(税別) 高さ約10cmの薄型のボディーを持つCD専用プレーヤーです。CDは、スロットインではなく引き出し式トレーで出し入れします。 384kHz/24bitのDACを搭載し、96kHz/24bitに対応するUSB入力、192kHz/24bitに対応するRCA同軸/TOS光のデジタル入力が各1系統備わります。 ヘッドホン出力は、備わりません。 サイズと重量は幅440×高さ100×奥行380o・6.05kgで、シルバーとブラックの2種類の仕上げからお選びいただけます。 メーカー希望小売価格 \266,000(税別) M3Scdと同じ高さ約10cmの薄型のボディーを持つプリメインアンプ、M3Siは、AB級回路の採用で、過大な発熱なしに最大出力85W×2(8Ω)を発揮します。 3系統のLINEレベルRCA入力と、バックパネルのスイッチで通常入力とボリュームをバイパスできるプリアンプ入力(Theater入力)が1系統備わり、さらにMMに対応するフォノ入力、96kHz/24bitに対応するUSB入力も装備されています。 スピーカー出力は1系統で、ヘッドホン出力は備わりません。 サイズと重量は幅440×高さ100×奥行400o・9.2kgで、シルバーとブラックの2種類の仕上げからお選びいただけます。 メーカー希望小売価格 \526,000(税別) M3Scdの上級モデル、M6Scdは高さが2.5cm高くなり、約12.5cmになりますが、それでもこのクラスのCDプレーヤーとしては、薄めなので、高さに余裕のないラックにもぎりぎり収まりそうです。 DACチップは、M3Scdtの24bitからランクアップされた、384kHz/32bitのDACを搭載し、96kHz/24bitに対応するUSB入力が1系統と、192kHz/24bitに対応するRCA同軸/TOS光のデジタル入力が各2系統備わります。 ヘッドホン出力は、備わりません。 サイズと重量は幅440×高さ125×奥行385o11.2で、シルバーとブラックの2種類の仕上げからお選びいただけます。 メーカー希望小売価格 \526,000(税別) M6Scdと同じ高さ約12.5cmのボディーを持つプリメインアンプ、M6Siは、AB級回路の採用で、過大な発熱なしに最大出力220W×2(8Ω)を発揮します。 3系統のLINEレベルRCA入力と、バックパネルのスイッチで通常入力とボリュームをバイパスできるプリアンプ入力(Theater入力)が1系統備わる他、M3Siには装備されないXLRバランス入力が1系統備わります。 フォノ入力もMM/MC切り替え式(背面パネルのスイッチで切り替え)にアップグレードされ、96kHz/24bitに対応するUSB入力が1系統装備されています。 スピーカー出力は1系統で、ヘッドホン出力は備わりません。 サイズと重量は幅440×高さ125×奥行400o・16.6kgで、シルバーとブラックの2種類の仕上げからお選びいただけます。 外観の印象 各部の工作精度、組み付け精度ともに高く、すっきりと高品質に仕上がっています。
試聴環境 Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G) (現金で購入)・(カードで購入)・(中古で探す) 試聴は、スピーカーにVienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)を組み合わせて行いました。 Musical Fidelity M3Scd/M3Si 音質評価
せせらぎが流れているその場の「空気感」に一瞬で包まれてしまう気がするほどの細やかな音が出る。 バッハ無伴奏 バイオリンソナタ バイオリンの「G線、E線」の太くて甘い響きがきちんと再現されるが、ビオラのように太すぎる音にはならない。「E線」の鋭い音もきちんと鋭く再現される。 ギターの音は木質的で暖かい。胴鳴りは少し膨らむ傾向にあるが、アンプというよりはスピーカーの個性が強いように感じられる。 こういう小編成の「バラード」こそ、M3Sのセットがその真価を最も大きく発揮できる曲に違いない。 ピアノ伴奏の抑揚の出方が素晴らしい。ボーカルがなくても、この曲の意味が伝わるような、語りかけてくるような饒舌な鳴り方をする。それは、M3Sのセットで聞くと楽器の細やかな「音色の変化」がはっきりと伝わるからだが、この「音色の再現性の高さ」こそ、「A1」が輸入された当時(1970-1980年頃)の国産高級アンプと、その半額以下の「A1」との最も大きな違いだった。 当時の国産高級アンプでは、「淡々と歌っているように聞こえる曲」を「A1」で聞くと、「ありったけの情熱を込めて歌っている」ように聞こえた。同じ曲を聞き比べたとき、特に女性ボーカルを聞き比べたとき、その「色っぽさ」、「訴える力」は全く違っていた。「音」ではなく「表現力」の違い。それこそが、「A1」が日本国中のオーディオファンに与えた最も大きな衝撃だった。 今は、国産高級アンプもかなり音が良くなり、M3と比べても「国産品が悪い」とは感じない。けれど、M3Sのセットでボーカル曲を聞くと「国産アンプではまだここまでの音は出ない」と感じさせられる。 望郷の思いを込め、ピアノ伴奏とボーカルが完全に一体となって、500Milesを奏でている様子がしっかり伝わった。 M3Sが描く「新世界」は、未知の危険な土地ではなく、暖かい希望に満ちている。 それが正しいのかどうかは別として、やや牧歌的でリラックスした鳴り方をするのは間違いがない。この演奏の2楽章にどういう意味が込められたのかは知らないが、懐が深く静かで雄大なイメージで鳴る。 バランスが良く、癖がないから「どれかの楽器が強調される」ことがない。指揮者と奏者が「どのように原曲を描いているか?」それだけが伝わってくる。 音楽を聞く、演奏を味わうためのコンポとしては、最良の資質をM3Sは持っている。 Musical Fidelity M6Scd/M6Si 音質評価
暖かく滑らかな水の音。優しく明るい鳥の声。北国に訪れる春のように、一斉にすべてが色づき、躍動を始めるような、生命感に満ちあふれた音。Musical Fidelity最大の魅力は、発せられる音が色彩にあふれていることだろう。 音の広がりやスケール感も十分大きく、この点では「A-1」からの大きな進歩が感じられる。 M3Sとの違いは、テイストではない。耳で聞き取れる音数もそれほど大きな差は感じられない。だから、ぱっと聞いた感じでは、それほどの差があるようには思えないかもしれない。けれど、M6Sはスケール感と密度感でM3Sを確実に上回り、M6S聞いた後ではM3Sの音が頼りなく感じられるだろう。 不思議なのは、とても良い雰囲気で「せせらぎ」が鳴っているのだが、「清流の前に立って流れに耳を傾けている」ように感じるのではなく、「暖かい日差しが注がれている植物園の中のせせらぎ」を聞いているような、温度感の高さを感じる事だ。Musical Fidelityが持つ独特な高い温度感と、潤い感がそう感じさせるのだろう。 音はよい。表現力も抜群。私は嫌いではないが、このソフトでは、Musical Fidelityの独特な「エモーション(リッチな音色)」を「暑苦しい」と感じるかどうかで、若干の好き嫌いが生じるかも知れない。 バッハ無伴奏 バイオリンソナタ 無音から最初の音が立ち上がるときの「間」、そしてその音が消えて行く時の「余韻」、その変化のデリケートさ、音の細やかさに、M3Sとの違いがある。また、M6Sで聞くこの曲の前後左右への空間の広がりはM3Sよりも確実に大きく、バイオリニストが体を揺らしながら楽器を奏でる、その動きもM3Sよりダイナミックに感じられる。 耳に聞こえる音には大差がないが、同じ曲がより意味深く、味わい深く聞こえることは、この曲も「せせらぎ」と同じだった。
ギターが甘く優しい音色で鳴る。ボーカルは女性的な魅力に溢れ、ギターとボーカルの絡みはとても密接で、優しいイメージだ。 このソフトでのM3SとM6Sの違いは、Vienna Acousticsの特徴、演奏されている曲の特徴は全く変化させることなく、Beethoven Concert Grandを上級モデルのLisztのように聞かせることだ。また、M3Sは「彼女」がモナリザを歌うように、M6Sはそれを「母親」が歌う子守歌のように、優しく抱かれてそのまま眠りにつきたくなるような暖かく優しい音でモナリザを鳴らす。 Musical
Fidelityは、意図的にM3SとM6Sのどちらにも捨てがたいきちんとしたキャラクターを与えているが、そのチューニングは、実に見事だ。 価格帯が違うので比較するのはフェアじゃないが、この曲でM3Sとの違いは低音の厚みに顕著に表れる。M6Sの奏でるグランドピアノには、M3Sでは感じられなかった、さらなる「重厚感」が感じられるのだ。左手と右手の「両端の音」はほどよくロールオフして、「中音のウエイト」がごく僅かに強くなるバランス。ピアノの不要な高域のピーク感が抑えられ、アタックで耳が痛くならない。 ボーカルは中音域が力強く、グングンと前に出てきて説得力がある。声も力強く、M3S:普通の歌手・M6S:オペラ歌手のような、歌い手の「筋力」の差が感じられた。 イントロ部分での「低音」、「中音」、「高音」のハーモニーの構造がよくわかり、それぞれの楽器の質感の違も細やかに再現される。
弦楽器は後方でしっとり、ゆっくりと響いている様が心地よく、最良の座席で生演奏を聞いているような感覚になる。 試聴後感想 「A-1」の音は、角が少し丸くて再生周波数帯域の両端がややロールオフした、いわゆる「かまぼこ形」のエネルギーバランスで、トランジスターアンプらしくない「甘い余韻」が魅力的だったように記憶しています。当時は高級海外製品でなければ味わえなかった、そういう「濃密さ」を12.8万円という低価格で実現したからこそ「A-1」は爆発的にヒットし、日本に多くのMusical Fidelityファンを根付かせたのです。しかし、同時に初代の「A-1」は、発熱の多い純A級回路を採用するが故に、手で触れないほどボディーが熱くなり、故障も多いという問題を抱えていました。 この発熱と故障の問題を解決するためAB級増幅回路に切り替えられたMシリーズは、解像度感や低音の膨らみ感の解消と引き替えにMusical Fidelityらしさも失われたように思いましたが、それは純A級からAB級に音が変わった「戸惑い」が余計にそう感じさせたのかも知れません。 最新モデルはどんな音がするのだろう?「様々な思い」を抱きつつ届けられた試聴機から「M3Si」と「M3Scd」をチョイスし、聞き慣れたVienna Acoustics「Beethoven Concert Grand(T3G)」に繋いで聞き始めることにしました。 一音が出たその瞬間、「A-1」を彷彿とさせる、Musical Fidelityらしい音の出方に安堵しました。この音なら、この10年間Musical Fidelity製品の安定した国内販売を待っていた、ファンの期待を裏切ることはないでしょう。 ウォーミングアップ中はディスクを頻繁に入れ替える手間を省くため、M3/M6Scdに備わるUSB入力を使って、AIRBOWのミュージックコンピューター「MSS-i3 MsHD」を繋いで様々な音楽を聞きました。ウォーミングアップが進んでも、第一印象で感じた空間の透明感と立体感の豊かさ、滑らかで上品な艶のあるMusical Fidelityらしい音質は変わりません。 確かに最新のAB級回路を持ってしても、初期の「純A級のAシリーズ」より中域の厚みは若干薄くなっています。けれどそれと引き替えに過大な発熱が解消し、解像度感と透明感(濁りの少なさ)の向上、「Aシリーズ」の癖だった低域の膨らみや遅れも完全に解消したことを考えれば、これは確実な進歩です。少なくとも、歴史の継承と時代の要求のせめぎ合いの落としどころとしては、絶妙だと思います。なによりうれしく感じたのは、M初代Mシリーズで感じた「温度感の低下」が解消し、Musical Fidelityらしい艶やかな音、繊細な表現力の深さが完全に復活していることでした。 M3SをM6Sに変えると、サウンドテイストは一切変わらないまま音の密度が増加し、低音はより深く、高音はより伸びやかに鳴り、あたかもスピーカーをワンランク上げた様な変化が感じられました。 久しぶりに会った「思い出の君」が、昔と変わらぬ美しさを保っていた驚きに、試聴レポートがやや甘くなったかも知れません。けれど、最新のM3S/M6Sは、「濃密さ」と「厚みのある響き」で音楽をより豊かに聞かせながらも、決して本来の演奏を「作り替える」ことはないMusical Fidelityの神髄を確実に継承しています。 新たに仕切り直された輸入代理店と共に、これからもMusical Fidelityは、日本国内にそのファンを増やし続けてゆくことでしょう。 2016年9月 逸品館代表 清原裕介 |
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