ルート66
Beethoven Concert Grand(T3G)との組み合わせでは、中低音の厚みや量感は「ほどほど」といった感じで、スピーカーのサイズなりの低音を出してきます。
高音は癖がなく、とてもさっぱりしていますが、楽器の表情の変化はしっかり再現され、このソフトでは「Live会場の雰囲気や人の動き」などがきちんと伝わってきます。中音の厚みはまずまず。全体的に突出するところのない、フラットな音です。
しばらく聞いていると「どこかで聞いたことがある音だ」と気付き、それが「ShureのMMカートリッジの音」に似ていると思い当たりました。
虚飾を持たない、ストレートでさっぱりした鳴り方。もうすこし色艶の付け足しがある方が、個人的な好みですが、そうするとその音は「ortofon」のようになってしまいます。
Myryadで鳴らすジャズは「女性ボーカル」ではなく「器楽曲」が似合います。汗のにおいを感じさせない、しゃれたフレーズでルート66が鳴りました。
アセット
このソフトには、様々な要素の音が詰め込まれています。鋭い音、持続する柔らかい音。大きな音、小さな音。激しい音、静かな音。テラークらしく、やや実験的な感覚さえ覚えるほど「対局する音」が自在に組み合わされています。
Myryadは、そのすべてを「フラット」に再現します。どこと言って特長がない音なのですが、それは「褒め言葉」です。あらゆる音が、ストレートかつ精密なスケールで再現されます。
プラスアルファーの要素を持たない、虚飾を廃した清潔な音ですが、色即是空の反対語、空即是色の感覚があります。薄味ですが、味わいのグラデーションが非常に細やかかかつ正確に再現され、またそれぞれが混じることがありません。非常に薄い音のベールが何層にも重なって、音楽が再現されるイメージです。
力感や押し出しの強さ。高音の艶や響き。そういうサービスはあまり感じませんが、幽玄に通じるような虚飾を廃した魅力と、色気のある音でアセントが鳴りました。なかなか、大人の味わいがあります。
誕生
この曲は爆発するような激しさが魅力ですが、Myryadの音は冷静です。けれど、その冷静さの中に、静かな熱気を秘めています。
伴奏とボーカルのバランスは50:50で、どちらかが前に出すぎることはありません。ベースとリードギター、ドラムのバランスも、50:50。メロディーが変わっても、それぞれの音の大きさや音色は大きく変わることはありません。「薄味」ですがMそれぞれの「スケール」が精密なので演奏者の「攻守交代」は、ストレートに伝わってきます。
アメリカなどでは、もっと派手でこれ見よがしな音が好まれるのでしょうけれど、Myryadはあえて大きな音の変化を抑えることで、小さな変化を引き立てているような鳴り方をします。知的な、いかにも「イギリス」らしい音です。その佇まい正しい音には、「気品」を感じます。
知的で静かな雰囲気を持つ音ですが、醸し出される「気品ある音」は、決してつまらないだけのものではなく、その中に「静かな暑さ」が秘められています。
外人が最近よく使う褒め言葉「クール」な音で誕生が鳴りました。
総合評価
Myryad(ミリヤド)は、比較的軽量でシンプルな形状のコンポです。イギリスには、このクラスの製品が非常に多く、Musical
FidelityやCambridge、Aura Designなど数多くの製品が日本に入っています。今回試聴したMyryadの音質は、Cambridgeより鮮やかでAura
Designによく似た傾向です。
外観や重量を考えれば、価格は少し高めに感じます。外観の質感もプリメインアンプとCDプレーヤーのセットで45万円という価格を考えると、やや物足りません。けれど工作精度が高いので、廉価モデルにはない佇まいの良さがあるので「安物」という感じはありません。
Myryadをイギリスブランドに例えるなら、バーバリーのトレンチコートが思い当たります。時代を経ても変わらぬ魅力、時代に流されない魅力を持ち、使い込めば使い込むほど魅力がにじみ出てくる。そんなイメージです。音の表面だけを聞くのであれば、音の表面だけを聞きたいのであれば、他社の製品でも良いと思います。けれど音楽の内面や、演奏構造の正確さから、音楽の真意に迫りたいと考えて音楽を聞こうとするなら、Myryadはなかなか良い仕事をしてくれると思います。違いのわかる、渋い大人のムードを持っています。