QUAD伝統のコンデンサー型スピーカーは、2つの固定電極の間に数千ボルトの高電圧を印加した薄膜状のダイアフラムを配置、そのダイヤフラムに交流のオーディオ信号を供給し、固定電極と振動膜に生じる電位差から生じる電気的排斥、引力により、振動膜を駆動し音を発生します。
この原理は、STAXのイヤースピーカー(コンデンサーヘッドホン)とまったく同じです。原理を逆に利用して「振動を電気信号に変換」する装置が「コンデンサー、マイクロフォン」です。
コンデンサースピーカーは、振動板全体が均一に(一点に力が集中することなく全面が同時に)駆動されるため、振動板に剛性は求められません。そのため振動板(振動膜)を薄くして質量(慣性質量)をきわめて小さくできるので、入力信号に対するダイナミックな反応(良好な過渡特性)が得られ、さらにユニットを分割しなくても(フルレンジユニット)で広帯域の再生周波数が実現できるという大きな特徴があります。
このようなコンデンサー型スピーカー独自の音楽信号を帯域分割せず一つの面から発生させ、さらに不要な共鳴を発生する「エンクロージャー(箱)」を持たず、アンプの音を歪ませる主因となる「逆起電力」も発生しないという特徴が、ダイナミック型スピーカーにはない独特の魅力ある音となり、それが根強い人気の源泉となっています。
コンデンサースピーカーの発売から、70周年を記念して発売された、新型ESLは、電極を含む振動ユニットは従来モデルのものを使ってはいますが、すでに説明したように「フレームの強化」に並々ならぬ努力の跡が見られ、従来機にはなかった様々なアイデアが取り入れられています。わかりやすいのが、4枚(ESL2805)、あるいは6枚(ESL2905)の振動ユニットをマウントするアルミフレームと本体エレクトロニクス部を内蔵するベース部分をつないでいる「翼面形状のステー」でQUADによると、このステーにより音のスピード感が向上し非常に抜けのよい低域再生が実現したとされています。
私は本来「前説」は、よけいな先入観の原因となりかねないので「販売価格」も含めて試聴前によけいな情報は耳に入れませんが、音を出してすぐに「これは今までのESLとはまったく違う」ことが感じ取れました。
まず、従来モデルでは「あり得なかった」がぐんぐん前に出る「力のある低音」。この音を聞けば、もはや「コンデンサー型だから低音が弱い」という「迷信」は、新型ESL−2805にはまったく通用しないのがわかります。もし、ブラインドで2805を聞かされたなら、これがコンデンサー型、しかもQUAD のESLの血族であることを言い当てられる人は誰もいないと思います。それくらいダイナミックで力感があり、芯のある!低音が出ます。
従来モデルよりも「音の広がり、音像の定位」が非常にシッカリし、この点に関してもダイナミック型スピーカーとほぼ遜色がなくなっています。これらの改善により、新型ESLはコンデンサー型でありながら「ROCK、JAZZ、POPS」などの低音にリズムセクションのある音楽を「積極的に楽しめる」製品に仕上がっています。
しかし、ダイナミック型と決定的に違うのは「透明度が非常に高い」ことで、これは「エンクロージャー」+「逆起電力」というダイナミック型スピーカーに不可避の「歪みの原因となる諸悪」からESL−2805が完全に解き放たれている証拠でしょう。
不要なノイズを発生するエンクロージャーがなく、アンプの出力を歪ませる逆起電力も発生しないESL−2805が奏でる「生音」の冴えと透明感は、ダイナミック型では類を見ない種類のものです。さらに、従来は苦手であった「低音」を克服し、さらに「芯のある高域(金属の音が金属に聞こえる!)」まで獲得した新型ESL−2805は、まさに万能のスーパースピーカー!だと言いたいところなのですが、実はよいことばかりではありませんでした。
従来モデルのESLとは、比較にならないしっかりした低音、芯のある高音が再生されたのと引き替えに「ESL独特の繊細さ」が失われた気がするのです。その変化は、真空管アンプがトランジスターアンプになった!という表現がまさにピッタリだと思います。
実は、QUADの説明を聞くまでは「振動膜の厚みが増したのでは?」と考えていたほどなのです。しかし、説明では「発音部分」は従来を踏襲ということなので、スピーカーの構造が強化されただけでこんなにも音が変わってしまうのだろうか?という疑問が消えません。それくらい、あの独特の「柔らかさ」、「空気感」、「表情の深さ」が面影を失っています。
もしかして「ウォーミングアップ不足?」と疑って、約1時間以上連続でならしてみましたが、気になる部分は緩和されても解消しませんでした。残念ながら、今回は、試聴機返却の時間が迫っていたためそれ以上の試聴は出来ませんでしたので、現時点では今回のモデルチェンジは「改善」と「喪失」のトレード関係にあると結論づけざるを得ません。
しかし、振動膜が同じなら「以前と同じ音」も出せるはずですから、次回はESL−2905をじっくりテストして、アンプやCDプレーヤーとの相性も探りながら、今回のリベンジなるかどうか!じっくりテストしたいと思います。
ESL−2905との比較テストはこちら